6/17(金) All You Need Is Kill
著者:桜坂 洋(さくらざか ひろし)
著書の著者紹介でなにやらアホなことをやっている人。
第2回スーパーダッシュ小説新人賞最終選考作「よくわかる現代魔法」で2003年12月にデビュー。精緻な情景描写や抑えた心理描写を得意とし、PC系、ヲタ系への深い造詣を持つ(らしい)。
著書紹介
「よくわかる現代魔法」1~5(集英社スーパーダッシュ文庫)
「さいたまチェーンソー少女」1,2(SFマガジン)
「スラムオンライン」(ハヤカワ文庫JA)
画:安部 吉俊(あべ よしとし)
登場人物紹介
キリヤ・ケイジ(KIRIYA Keiji)・・・主人公
「人生は石に刻むものだ。何度でも書きなおせる紙に書いたって意味はない」
失恋から軍隊に逃げ込んだ、へたれの初年兵だったが、激戦の一日が繰り返すという時のループに巻き込まれ、死にまくっているうちに人格が改造され、冷静沈着なキリング・マシーンに変貌した。死は人をここまで変えるのか。(Cf,『終わりなき戦い』)
リタ・ヴラタスキ(Rita Vrataski)・・・正ヒロイン
「すすす、すっぱくなんかないぞ」
戦場の雌犬、戦女神の化身、基地外リタ電波スキーなどのふたつ名で呼ばれるUS特殊部隊所属の精鋭。男言葉で話し、一見冷静な人物に見えるが、実は負けず嫌いな一面も持つ。(Cf,『エンダーのゲーム』)
バルトロメ・フェレウ(Bartolome Ferrell)・・・師匠
「いまの若い者はボクデンもしらねえか」
ケイジの居る小隊の最先任軍曹。話のわかる上役。トレーニングハイの筋肉頭。彼がいなければケイジは何回死んでも強くはなれなかっただろう。日本大好き。(Cf,『宇宙の戦士』)
ヨナバル・ジン(YONABARU jin)・・・ ザ・脇役
「ケイジ、あの小説の犯人は……もずくが…お……食いたい」
ケイジの気のいい先輩。おしゃべりで、ミステリー小説の犯人をばらす癖がある。上記のセリフは彼の遺言である。なんまいだ。
シャスタ・レイル(Shasta Raylle )・・・メガネ&どじっ娘
「いじわるしないでくださいよう」
ラノベのお約束(?)、萌えキャラ。カプセルトイの蒐集家。これでもMITを主席で卒業した才媛。中尉。機動ジャケットの整備主任で、リタ専属の技術者。
レイチェル・キサラギ(Rachel Kisaragi)・・・哀れな人
「バカ!くたばっちまえ!」
第二食堂で働く美人栄養士。前線基地の人気者。フラグが立ったが、ケイジがリタルートのTrue
Endへ向かったため、彼女はあえなくKIA。合掌。
あらすじ
主人公キリヤ・ケイジは訓練校をでたばかりの初年兵。宇宙からやってきた謎の敵(ギタイ)と地球の覇権を争っている統合防疫軍の一兵士である。初陣で致命傷を負い、死んでいくところを『戦場の雌犬』リタ・ヴラタスキに看取られることになる。この際、死なば諸ともと一体のギタイを道ずれにするが、運悪くこれがきっかけで同じ一日を無限に繰り返す時のループに巻き込まれることになる。
戦死。戦死。戦死…。なんど繰り返しても殺され、また一日の始まりに戻ってしまうという無限のループ地獄から抜け出すため、戦場で生き残ることのできる技術を手に入れることを決意したケイジは自分の上官である軍曹(バルトロメ・フェレウ)に訓練の手ほどきを頼み込む。こうして、なんども殺されながらも一心不乱に訓練を繰り返した結果、ケイジの実力は飛躍的に伸びていった。
そしてループが百五十八回を数えたとき、彼は戦場でかつて自らの死を看取った女性と再会する…。
実はリタが以前より時のループの中にいることを知ったケイジは、彼女にループからの抜け出し方を教わるが、何故かうまくいかない。その理由とは? そして、すべてのギタイを倒すことを心に誓った二人が迎える結末とは…?
考察
まず、納得いかないことが一つ。ループをとめる方法は下記にある通り。
1、アンテナとしてのギタイを破壊。
2、アンテナのバックアップ用のギタイを残らず殺戮。
3、過去への通信が完全にできなくなってからギタイ・サーバを倒す。
これを踏まえた上で、リタとケイジはバックアップ・アンテナになっていることを考えると、この二人の一方でも生きている限りループは続くと思うのだが……。というか、リタがループをしていない理由がわからない。桜坂さん、そのへんどうよ?
この作品は著者がゲームから思いついた話らしい。つまり、物語の出撃&戦死はゲームのロード&リセットのことなのである。成果は才能ではなく、費やした時間によって実るのだ。
作品の題名はビートルズの『All You Need Is Love』から。ちなみに、Killはしとめた獲物という意味である。これは、物語のラストを正確に表していると思う。そう、彼にはもうそれしか残っていないのだ。
一秒を切り刻め、というセリフがでてくるが、ガンパレにもでてくるセリフらしい。
冒頭でもう少し出撃前の緊張感を描写してもよかったと思う。ループのなかで自らが死ぬことさえルーチンワークになっていく様がうまく描写されていない。また、ケイジがリタと仲良くなってからたった二日では、ケイジがあそこまでリタにいれこんでいる感情が理解しづらい。軽快なテンポはいいが、このあたりが逆に浅くなってしまっていて勿体なかった。しかし、それでもラストは十分に感動的であった。あえていうなれば、青は目立たないと思うなぁ。
蛇足だが、各キャラの役割について少々。ヨナバルは普通の人の象徴であり、ラストでケイジは
誰にも理解されないところに行き着いたことを表すための鍵となっている。また、マードックやレイチェルは戦場のだけではなく日常の知り合いさえも傷ついていく戦争の臨場感をしめすための道具である。
最後に神林長平氏に一言。これは、ハッピーエンドじゃないだろう。
タイム・ループもの…『うる星やつら2』、『恋はデジャ・ブ』、『ターン』など(見たことはないが)。個人的には、高畑京一郎の『
タイム・リープ』あたりがお勧め。
最終更新:2019年03月26日 00:07