おもいでエマノン(1983/3)徳間書店 (2000/9)徳間デュアル文庫

著者 梶尾真治


1947年12月24日生まれ。山羊座のA型。
熊本県出身。福岡大学経済学部卒業。熊本在住。

1971、SFマガジン3月号短編「未亜へ送る真珠」にて商業紙デビュー。

代表作「時尼に関する覚え書」「サラマンダー殲滅」「黄泉がえり」など。

2003「黄泉がえり」映画化。

2005年秋には、『クロノス・ジョウンターの伝説』も映画化が予定されている(映画のタイトルは『この胸いっぱいの愛を』)。

『高機動幻想ガンパレード・マーチ』の開発チームに娘夫婦が参加しており、2001年の星雲賞を親子で受賞している(このときの受賞作はエマノンシリーズの『あしびきデイドリーム』)。

イラスト 鶴田謙二


代表作「アベノ橋魔法☆商店街」

 2000年(第31回)、2001年(第32回)の星雲賞アート部門受賞。



登場人物


  • エマノン

 昭和二十五年生まれ。十七歳。直系の先祖より記憶を受け継ぐ。最古の記憶は三十億年前。子を産むと母は一切の記憶を失い、子に引き継がれる。

「生命全体の思い出」-エマノン

「人類の潜在遺伝子の引き金」-「おもいでエマノン」青年

「時代の女性の権化」-「ゆきずりアムネジア」老人



あらすじ


「おもいでエマノン」


 1967年、失恋した青年が乗り込んだ船でエマノンと名乗る少女に出会う。SF好きの青年は三十億年の記憶を持つという彼女の話に引きこまれ、エマノンの存在について考えをめぐらせるが、結論を出したところですべてフィクションだったと打ち明けられる。その後二人の話はもりあがり、話し終えた後も二人で一緒に眠る。しかし青年が目を覚ますとエマノンはおらず、一枚の紙切れだけが残されていた。十三年後、青年は再び彼女と出会う。しかし彼女は青年を覚えておらず、彼を落胆させる。そんな彼に、エマノンらしき女性の娘が彼を覚えているという。その少女がエマノンであった。



「さかしまエングラム」


 精神科医である田口は、交通事故に遭いうつ病に似た症状になった晶一を治療することになった。晶一の症状は生前の記憶に悩まされるというものであり、ダイアネティックス派の信奉者たる田口は彼に催眠療法を施す。晶一が催眠で記憶をたどっていくと、生まれる前の記憶へたどり着き、さらに古い記憶へと遡ってゆく。

 少年に血を与えたのはエマノンであった。交通事故で彼に輸血をしたエマノンは、血の影響が気になり彼を探す。

 晶一はさらに記憶を遡り、遡及が百五十万年前になったころから身体にも影響が表れる。哺乳類、両生類(原文にて爬虫類の記述なし)、魚類と逆進化していく彼に田口は催眠をやめようとしない。ついには原生生物にまでなった晶一は田口を吸収してしまい、さらに退行をつづけた。エマノンが彼の元へたどり着くと、既に小宇宙にまでなっていた晶一は宇宙へと還っていった。

cf) エングラム―動物の脳内に学習によって蓄えられていると仮定される記憶の痕跡(こんせき)。



「ゆきずりアムネジア」


 老人に妻のことを訊かれ、良三は回想を始める。昭和48年(1973)、仕事で行った阿蘇山中で良三は記憶を失った少女と出会い、彼女に荏麻と名づける。二人は共同生活を始め、彼は少女に惹かれていく。ある日、荏麻が竜の夢を見たことをきっかけに、良三は彼女の記憶に興味を持ち、催眠によって記憶をたどっていく。彼は事実を知るが、荏麻には告げられない。そのうちに荏麻は妊娠、出産し、催眠術で知ったとおりに記憶を失う。荏麻は以前とは変わってしまうものの、良三と荏衣子を育てていく。ある日、泥酔した良三は荏衣子が荏麻の記憶を持っていることを知っていると打ち明けてしまう。翌朝良三が目を覚ますと既に荏衣子は出奔したあとであった。残された二人は生活を続けていくが荏麻は癌に侵されてしまう。死の直前に荏麻は記憶を取り戻し、その夜半に逝ってしまう。

 回想を聞き終えて老人は自分が荏麻の父だと打ち明け、二人は同じ記憶をもつ女性について語り合った。



「とまどいマクトゥーグ」


 1988年。エマノンを知るという少年、神月潮一郎があらわれる。彼は自分を人類よりも進化した存在だといい、進化の最先端にあり続けるエマノンと結ばれなくてはならない、それが自分の使命(マクトゥーグ)だという。エマノンは彼を不快に感じ別れるが、その間際に神月は彼女に再び出会うであろうことを告げる。

 94年、アメリカ。旅を続けるエマノンの前にツチノコが現れ、神月の作った都市、I・I・D・Cへとつれてゆく。再開した神月は再びエマノンにプロポーズし、自分の栄華を誇る。しかし使命のために結婚をせまる態度にエマノンはそっけなく、神月の成功に対して冷ややかであった。そんな中テロリストが侵入、神月を射殺しようとするが異常な再生能力を持つ神月を殺すことはできない。それも自分の能力であると告げる神月に、エマノンは未だ生理的嫌悪を消すことができない。いつまでも待つという神月にエマノンはさよならを告げる。

 四ヵ月後、再びエマノンの前にツチノコが現れる。彼は神月が死にかけているのだといい、エマノンを神月の元へつれてゆく。神月は癌に侵され、既に手の施しようがなくなっていた。意識を失っていた神月だが、エマノンが声をかけると目を覚まし、自分の使命を見失ってしまったという。しかし、最後にエマノンに会おうとしたのは彼女に好きだと伝えたかったからであった。自分の存在した意義を見出せぬまま神月は死ぬ。しかしその直後に神月の細胞から癌の特効薬が発見され、エマノンはこれこそが神月のマクトゥーグだったのだと悟った。



考察など


 記憶の伝達については遺伝によって記憶が伝わるというのはなかなか考えづらいので、どちらかというと超能力を遺伝する家系で、自分の直系の祖先に関する事項をアカシックレコードあたりからひきだせると考えたほうが楽かもしれません。この作品の中には他にも多くの超能力者たちがでて来ますのでその可能性もありうるといえるでしょう。まあ、臓器移植で記憶も移植されるという話もあるので遺伝してもいいのかもしれませんが。晶一は輸血で記憶を得たようなので、血によって記憶、能力を受け継ぐのかも。(ex.魔女の宅急便)

 エマノンは進化の最先端であり続けたと神月は言いましたが、それはどうでしょうか?少なくともティラノサウルスに襲われた記憶があるので、常に食物連鎖の頂点にあり続けたわけではありません。現在まで存在し続けたことは確かですが、常に進化の頂点にいたわけでなく、ただ現在は頂点らしい生き物である人間であるというだけです。エマノン以外にも記憶を伝え続ける存在はあるわけですし(しおかぜエヴォリューション)、同じような存在が多数あり、現在人間であるのがエマノンであるだけなのかもしれません。

 関連して、エマノンの選ぶ相手は大して優れた相手でないようです(少なくとも個々数回は)。そんな人たちが進化の最先端にいるのか、それはだれにもわからないのでしょうが。

 エングラムにてエマノンの記憶を辿った晶一でしたが、最後はエマノンの最古の記憶である30億年よりも更に遡り、宇宙にまでなります。ならば、エマノンという存在は記憶というもののない非生物の状態で既に存在したと考えられます。そんな不思議な存在が偶然生命のいる星にやってきたのか、そのような存在は稀ではないのか、エマノンがただそれを知ることができるだけなのか、それはわかりませんが。エマノンは自分を人類や生命のおもいでであると言っていますが、宇宙のおもいでであるのかもしれません。


2019.02.24 Yahoo!ジオシティーズより移行
http://www.geocities.jp/tohoku_sf/dokushokai/emanon.html
なお、内容は執筆当時を反映し古い情報・元執筆者の偏見に基づいていることがあります by ちゃあしう
最終更新:2019年03月26日 00:06