SF研究会読書会レジュメ著者解説編11月21日
テッド・チャン
1. 経歴
1967年10月20日、ニューヨーク州ポートジェファーソンに生まれる。両親は中国からの移民の一世。(つまり、テッド・チャンは二世。)中国名、姜峯楠(Chiang Feng-nan)。子どものころは中国語が話せた。科学者を志して大学では最初、物理学とコンピューターサイエンスを専攻するも、途中で物理学を捨てている。1989年にロードアイランド州ブラウン大学を卒業。この年に伝統と実績を誇るSF創作講座クラリオン・ワークショップに参加している。この翌年に作家デビュー。現在はワシントン州シアトル近郊在住。フリーランスのテクニカルライターのかたわら
創作活動に従事する。2003年夏現在、新作の情報なし。
2. 作品履歴
①「バビロンの塔」
デビュー作。1990年。ネビュラ賞受賞。ヒューゴー賞三位。ローカス賞四位。<SFクロニクル>読者賞第二位、年間SF傑作選収録。
②「理解」
1991年。ヒューゴー賞第五位。<アシモフ>読者賞受賞。星雲賞候補。<SFマガジン>読者賞受賞。
③「ゼロで割る」
1991年。ローカス賞第七位。
④「あなたの人生の物語」
1998年。ネビュラ賞受賞。ヒューゴー賞第三位。ローカス賞第十位。スタージョン賞受賞。ティプトリ―賞候補。ホーマー賞候補。星雲賞受賞。<SFマガジン>読者賞受賞。二種類の年間SF傑作選に収録。
⑤「七十二文字」
2000年。ヒューゴー賞第五位。ローカス賞第四位。世界幻想文学大賞候補。スタージョン賞候補。サイドワイズ賞受賞。星雲賞候補。<SFマガジン>読者賞受賞。年間SF傑作選収録。
⑥「人類科学の進化」
2000年。
⑦「地獄と神の不在なり」
2001年。ネビュラ賞受賞。ヒューゴー賞受賞。ローカス賞受賞。スタージョン賞候補。2種類の年間ファンタジー傑作選に収録。
⑧「顔の美醜について~ドキュメンタリー~」
2002年。ローカス賞第二位。スタージョン賞候補。年間SF傑作選収録。
まとめ
ネビュラ賞三回受賞。ヒューゴー賞一回受賞。ローカス賞一回受賞。スタージョン賞一回受賞。サイドワイズ賞一回受賞。<SFマガジン>読者賞三回受賞。<アシモフ>読者賞一回受賞。星雲賞一回受賞。
備考
1992年に最優秀新人賞であるジョン・W・キャンベル賞を受賞。2002年に短編集「
あなたの人生の物語」でローカス賞短編集部門を受賞している。
テッド・チャン「理解」「あなたの人生の物語」
まずは「理解」のほうから。
1. 登場人物とあらすじ
①レオン・グレコ・・・・・・・・本編の主人公。レオン・ホログラフィックスという会社を個人で営んでいた(おそらく)。会社の業務は映像の編集作業(たぶん)。氷の中に落ち、1時間近く水中にいて脳にひどい損傷を受け、植物状態になる。しかし、ホルモンK療法により驚異的な回復を見せる。そして、病院退院後の定期検査で一般人とはかけ離れた能力を示す。その後のホルモンK注射によって、さらに能力を高めて、真のゲシュタルト(統一的全体像)を求め、心とコンピューターをつなぐという計画を思いつく。世界はわたしの目的の付随物だと考える。
②ジュリー・・・・・・・・・・・グレコの友人。映画を一緒に見ないかと誘いに電話してきた。
③フーパー医師・・・・・・・・・・・ボストンの病院のグレコの担当医。グレコの異常に最初に気づいた人。
④シー博士・・・・・・・・・・・同病院の神経科部長。業績を稼ぎにグレコの担当になった。グレコの異常を促進した人。
⑤クラウゼン医師・・・・・・・・・同病院の客員医師。政府に雇われた心理学者。CIAとも関係がある。グレコの逃亡を間接的に促すことになる人。
⑥レイノルズ・・・・・・・・・・グレコとほぼ同じ経歴を持つ男。普通人にとっていいことをしようとしている。
あらすじ
- 植物状態にあったレオン・グレコがホルモンK投与(都合2回)により回復する。さらにレオン・グレコは驚異的な知能を手に入れる。
- ホルモンKと知能の関係について調べるためにレオン・グレコに3回目のホルモンK投与。レオン・グレコさらにパワーアップ。
- その知能の上昇ぶりにCIAが目をつけ、エージェント・クラウゼンを送り込む。レオン・グレコはそれに気づいて、逃走を決意。
- レオン・グレコはその直後、タイミングよくホルモンKのアンプル入手。CIAに対して数々の捜査妨害工作を施す。
- CIAはしびれを切らして、レオン・グレコをおびき出すためにレオン・グレコの元カノを逮捕するように仕向ける。しかし、CIAエージェントの居場所を簡単に探られ(しかも無線の周波数、変調アルゴリズムまで)、かつCIA長官の弱みを握られて失敗。
- レオン・グレコは逃亡中まず競馬である程度儲け(どうやったのだろう?競馬の展開まで見えるの?)、後は証券市場での投資で儲けて安定した暮らし。
- レオン・グレコ新言語開発しようとする。すべてを一度に表せる象形文字。思考内では自在に使えるが、実用性にかける。結局挫折。プラトー状態(進歩足踏み状態)に。
- その欲求不満から、4回目のホルモンK投与を実行。(もう薬物中毒患者みたいだね。)レオン・グレコは更なる高みへたどり着く。上昇志向が止まらなくなっていき、自らの心のさらなる発展のためにコンピューターと心を直結する計画を思いつく。
- そこに同じ能力を持った善人超人レイノルズが現れ、レオン・グレコを挑発。
- そして、悪人超人レオン・グレコは善人超人レイノルズに敗れ、散った。勧善懲悪の結末でした。
2. グレコの変化について
この作品の眼目はなんと言っても、グレコの驚異的な知能の上昇とそれに伴う認識能力の変化である。その変遷を追うために、作中でのグレコのホルモンK投与による三段変化をたどってみる。
① 1、2回目のホルモンK投与後
記憶力の向上・2つの事柄への同時集中能力・読書速度と理解力の向上・知能検査の成績上昇という症状が見られる。まだ、この段階ではグレコは単に頭が良くなった(秀才になった)だけである。グレコの世界認識能力は一般人と変わらない。
② 3回目のホルモンK投与後
この後から、グレコの世界認識能力に変化が生じる。あらゆるもののゲシュタルト(統一的全体像)が見え始める。そして、事柄の理解の仕方も全体の動きを把握していけば個々の段階も理解できるというものに変わっている。それに加えて、少しの訓練で細かい身体の制御ができるようになった。つまり、筋肉の協調能力(どれだけ上手く筋肉が使えるか)の向上やバイオフィードバック・テクニックの効果的な活用が容易に可能になっているのである。また、感情という点でも一般人より細かな分類ができるようになっている。この段階にいたるとグレコの世界の見方はもう一般人と異なるものになっている。しかし、まだ、グレコの一つ一つの能力を取ってみれば、意識下の行動・思考の精度を上げているに過ぎない。その点では、グレコはまだこの段階では人間の最上位に立っているかもしれないが、人間の地平を抜け出せていないのである。(捉え方の問題かもしれない。断念はするが、新たな言語を考え出しているし。)
③ 4回目のホルモンK投与後
この後から、グレコは人間の地平を大きく飛び立つことになる。自分の思考の完璧な把握を可能にする思考言語の確立、無意識の支配、超人的な筋肉調整能力、体内の不随意運動の感知、思考過程の中の神経伝達物質が果たしている役割の把握、他人の身体放射物の把握、自らの身体放射物のコントロールなどからも明らかである。そして、グレコは心の更なる発展を求めて、コンピューターと心の直結する(マインドコンピューターリンク)技術の開発を目論む。もはや、グレコにとって、社会は相関関係式のマトリックス(行列)でしかなくなる。
3. レイノルズとの攻防
この短編の最後を飾るのはグレコとレイノルズの攻防であるが、少々わかりにくいので簡潔に言ってみよう。
- グレコがまず自らの身体放射物を調整し、相手の体の中に二つの強化ループ(相手の不随意器官の働きを強めるものか?)を作る。一つが単純に血圧を急激に上げるフェイクのループ。もう一つが神経伝達物質の過剰放出を促し、脳の活動停止を狙う必殺のループ。
- レイノルズの反撃。自己破壊コマンドの実行。方法は自分で作った高密度情報音楽を相手に聞かせることと三日前の食料品店でのイメージを意識させることの二つを行った後で「理解」と人差し指を挙げて、唱えればよい。この中にコマンドが入っていた。
4. レイノルズとグレコのスタンスの違い
どちらもスーパークリティカル(臨界超越者)であるがその思考には明確な違いが存在する。レイノルズは人間性を愛し、最終的には普通人すべてが分かり合えるようなれる、世界に繁栄をもたらすためのグローバルな感化ネットワークを作ることを計画している。一方、グレコは自己の興味に忠実に生き、世界は自分の目的の付随物に過ぎないと思っている。つまり、レイノルズは知能を人類発達の手段と捉え、グレコは知能をそれ自体を目的と見る。この二人の違いはどこから来たか。おそらく、スーパークリティカルになった後、いかに社会を研究したかの違いだろう。いや、結局は個人の資質の違いなのかもしれないが。ただ、レイノルズがグレコに勝ったから、すべてが解決するわけでもなく、究極のところ、世界を救った後彼はどうするのかというグレコの疑問が問題になるに違いない。高みに上り詰めた者の孤独を感じさせる。高みに上り詰めた者にとって、結局最後は自分のことだけが問題になるような気がするのだが。グレコのように。
5. ホルモンK
すべての前提となる中枢神経系のニューロン再生を促進する合成ホルモン。開発企業はソレンセン・ファーマスティカル。副作用はなし。酸素欠乏状態の動物を使った動物実験(イヌとヒヒ)で完全な投薬試験結果を残す。脳の損傷部分を補うように代替ニューロンを成長させる。ただし、健康な動物に投与した場合は何の変化も起こさない。人体臨床実験でも副作用なしの完全回復の結果を残す。さらに人間の場合は脳の損傷の度合いが大きい人間ほど、ホルモンKを使って回復した後の知能が向上するという副次的作用がある。新しいシナプスを人間の場合はすべて使いこなすことができるかららしい。動物の場合はだめだという。(臨界量のアナロジーだとか言っているが、この点はかなり怪しい。)ただし、損傷を受けた神経が大量に再生した後、脳がその状況に適応するために悪夢や幻覚を見ることがある。脳の損傷が大きい人が何回も繰り返しホルモンKを使うとさらにひどくなる。しかも、その人は再生したニューロンの数が多いために脳の必要とする栄養量が増える。さらに、増えたニューロンの分だけ脳の資源を酷使することになり、しばしば、脳の限界を感じることになる。このことはグレコにマインド・コンピューター・リンク計画の必要性を痛感させた。
6.「理解」のテーマと感想
人間の知能がどんどん上昇していったら、どんな世界が見え、どんなことを考えるようになるのか。これがテーマだと思う。この「理解」という作品においては、最終的にグレコとレイノルズという二人を対立的に提示して、その答えを示した。その結末の妥当性はともかくとして、このテーマは面白いと思う。確かに人間一度は自分が大天才だったらどうするだろうというバカげたことを考えるものだが、それを真面目に考えたテッド・チャンはすごい。この作品は私の人間の認識能力というものについてのイメージを一新してくれた。短編でこれほど衝撃を与えることを可能にした、テッド・チャンの着想の良さに脱帽である。
それでは「あなたの人生の物語」をいってみよう。
1. 登場人物とあらすじ
① ルイーズ・バンクス博士・・・・・・・・・・・・本作品の主人公。言語学者。「あなた」の母親。
② ゲーリー・ドネリー博士・・・・・・・・・・・・物理学者。「あなた」の最初の父親。
③ ウェーバー大佐・・・・・・・・・・・・・・・・アメリカ軍人。
④ ネルソン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「あなた」の2番目の父親。
⑤ ホスナー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・国務省の担当官。
⑥ シスネロス・・・・・・・・・・・・・・・・・・マサチューセッツ担当の言語学者。
⑦ バーグハート・・・・・・・・・・・・・・・・・フォートワース担当の言語学者。
⑧ ヘプタポッド(ラズベリーとフラッパーなど)・・1個の樽が7本の肢に支えられて宙に持ち上げられているように見える宇宙人。放射相称の形態。肢は いずれもが腕としても脚としても用いることができる。その肢に明瞭な間接部はない。胴体の頂部にまぶたのない眼が7つ取り巻くように配置されている。胴体の上面部には発話及び呼吸のための開口部があり、胴体の下面部には摂食及び排泄のための開口部がある。
⑨ 「あなた」・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルイーズとゲーリーの娘。
~あらすじ~
- 地球軌道に船の群れが現れ、あちこちの草原におかしな人工物が出現。世界中に112個、合衆国内には9個。
- それぞれに言語学者と物理学者を含む科学者チームが割り当てられた。そして、異星人(ヘプタポッド)とのコンタクトを開始する。
- やがて、ヘプタポッドたちがヘプタポッドAとBと便宜的に名づけられた発話言語と書記体系を持つことが分かる。
- そして、ルイーズはヘプタポッドの世界認識が人類とまったく異なっていることに気づく。
2. ヘプタポッドの世界観と人類の世界観の違いについて
つまりこの作品の中心の話題はこれである。そして、これは単純明快である。ヘプタポッドは同時的認識様式、人類は逐次的認識様式をもつ。ここから、すべてを説明できる。ヘプタポッドはあらゆる事象を同時に体験し、その根源にひそむ目的(最小化もしくは最大化)を知覚する。人類は事象をある順序で経験し、因果関係としてそれを知覚する。ヘプタポッドの行動は歴史の事象に一致する。さらにヘプタポッドの動機もまた、歴史の目的と一致する。ヘプタポッドは未来を創出するため、年代記を実演するために、行動する。これはヘプタポッドに自由がないことを意味しないし、ヘプタポッドが強制されていることもまた意味しない。自由や強制は人類の逐次的認識様式の中で意味を持つ。これは文脈が異なっているに過ぎない。人類から見れば、ヘプタポッドは自らの未来を知っており、そこで自由意志を持って行動するならば矛盾が生じるだろうと考えてしまうが、未来を知ることと自由意志を持つことは両立しない。そのためにヘプタポッドの発話言語は遂行文であり、書記体系は同時的認識様式に導かれたものであるといえる。だからこそ、国務省のホフナーはヘプタポッドが逐次的認識能力をもち、人類のことを段階的に解析しようとしてくるのではないかという不安を消せなかった。さらに、ウェーバー大佐はヘプタポッドと贈答の駆け引き(つまり、因果律の駆け引き)ができると考えた。また、国務省もヘプタポッドの贈り物が人類が与えた情報だったと知って、激怒することになる。国務省やホフナー、そして、ウェーバー大佐はまさに人類の逐次的認識様式の代表として作品中に登場している。
3.「あなた」について
この作品をややこしくしているのがこの途中途中に挿入される「あなた」に関するルイーズの言及である。結局、これはルイーズがヘプタポッドの言語に感化されて出来るようになった同時的認識の産物である。秩序だっていなくて、断片的にでは有るが自分が死ぬところまで分かったとルイーズは言っている。(50年間の期間の記憶だとか。)さて、「あなた」について(面倒だが)まとめてみよう。
① ルイーズとゲーリーの結婚2年後、ルイーズは「あなた」を妊娠。このとき二人は三十代。
② 「あなた」が生まれてきた日。ルイーズは「あなた」との絆を確認し、実感している。
③ 「あなた」が生後ひと月のとき。ルイーズは「あなた」が泣き喚く姿に感嘆し、「あなた」にとっては『今』しかなく、現在時制だけを生きている「あなた」をうらやましく思っている。
④ 「あなた」が歩くことを覚えた頃。ルイーズは「あなた」との関係が一方通行であることに気づく。同時にルイーズは「あなた」の笑い声に感動を覚える。この上なく素敵なその声に。
⑤ 「あなた」が3歳のとき。ルイーズは自分の大切な存在が自分の苦痛の種に変わっていくジレンマを体験する。それは結局自分がなりたくなかった自分の母親と同じように自分の娘に接していることに気づくことでもあった。「あなた」は3歳のとき、サラダボウルにあたって、額を一針縫う怪我を負う。
⑥ 「あなた」が5歳のとき。「あなた」はメイド・オブ・オナーの意味を取り違えて覚えてきた。ルイーズはそれをお気に入りの言語学習の資料の逸話にする。
⑦ 「あなた」が6歳のとき。ゲーリーのハワイ出張についていくことになって、「あなた」は何週間も前から興奮して、旅行の支度をする。そして、期待感ばかり高まって、今すぐハワイへいくといってぐずりだす。ルイーズは待つほうがいいこともあると「あなた」を諭す。
⑧ 「あなた」が12歳のとき。ルイーズは「あなた」に掃除機をかけるように命令する。「あなた」はそれを渋々引き受けながら、自分の生まれについて、冗談を言う。
⑨ 「あなた」が14歳のとき。ルイーズはこのときにはゲーリーと離婚している。「あなた」はなにかにつけて、離婚の事を持ち出してくるようになっていた。このときは宿題の学校のレポート。ゲーリーが知っていたノンゼロサムゲームという単語。ルイーズは「あなた」にゲーリーに電話をかけて調べるように頼まれて、困った。「あなた」もお父さん(ゲーリー)に直接聞くのは嫌だった。結局ルイーズが思い出して事なきを得たけれど。
⑩ 「あなた」が15歳のとき。週末をたまたまお父さん(ゲーリー)のところで過ごした後、「あなた」はゲーリーが世の常識からあまりにかけ離れたことを聞いてきたことをひとつひとつ並べたてる。(「あなた」はゲーリーに「あなた」が付き合うボーイフレンドたちについてさんざん聞かれた。)ルイーズはゲーリーをかばうように「あなた」をさとす。しかし、「あなた」は反発するだけ。
⑪ 「あなた」が16歳の夏。ルイーズとネルソンのデート。「あなた」は友達のロクシーと一緒にそのデートを冷やかしに言った。もちろん「あなた」は将来、パパになるかもしれない男を見ておきたかったのでしょうけど。そして、合格点を出した。ルイーズと上手くいくことをジョークで表していた。
⑫ 「あなた」が大学卒業をする日。ルイーズは自分の娘の成長に改めて驚くことになる。「あなた」は金融アナリストになる。「あなた」はお金に魅了されている。ルイーズは「あなた」との価値観の違いを痛感し、それを認める。このころまでにネルソンとルイーズは再婚している。
⑬ 「あなた」が25歳のとき。「あなた」は趣味のロッククライミングの最中に誤って崖から転落して、死亡する。ルイーズはそれを山岳救助隊からの電話で知り、ゲーリーにも電話をかけて、死体保管所へ「あなた」を確認しに行く。それはまぎれもない「あなた」。
⑭ ルイーズについて。ゲーリーとの結婚2年後「あなた」を生む。エリス・アベニューの家に住んでいる。「あなた」が生まれた2年後その家を売って、ベルモントストリートの家に引っ越す。「あなた」が死んだ直後、その家も売り、農場家へ引っ越す。ルイーズの職業については判断が難しい。教授であるうえにハイスクールの英語教師をやっているのか?記述はあいまい。
⑮ ゲーリーについて。ルイーズと離婚した後、何とかという女性と一緒に暮らす。
4.感想
「理解」との関連で言えば、ヘプタポッドの書記体系はレオン・グレコの考えた新言語とほぼ一致する。レオン・グレコは未来まで見ることはできなかったが、かなりヘプタポッドと近い認識能力を持っていたと推測される。この作品も「理解」と同じように世界の認識様式の転換という発想をベースに持っている。本当にその着想はすごいと思う。この作品の中のヘプタポッドの認識様式と人類の認識様式の違いを明確化していく過程は見事。欲を言えば、「あなた」の物語についてもう少し語ってもいい気がする。作品の題名が『あなたの人生の物語』なんだから。物理学に疎いわたしにとってはフェルマーの原理についてもびっくりした。光の屈折に関してああいう考え方ができるとは思いもしなかった。自分の発想の貧困さを痛感した。また、未来を知ることのジレンマもこういう風に解決できるのかと感動した。(当たり前といえば当たり前の解決方法だが。)テッド・チャンすごし。
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最終更新:2019年02月24日 11:57