SF研読書会 「贈る物語 Wonder 少しふしぎの驚きをあなたに」   by ちゃあしう

「これから30分間、あなたの体はあなたの目を離れて、この不思議な時間の中に入ってゆくのです」
――ウルトラQ (CV:石坂浩二)

といいつつこれもオリジナルがあるよね (「アウターリミッツ」)

1 編者紹介


瀬名秀明 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%AC%E5%90%8D%E7%A7%80%E6%98%8E
瀬名秀明の博物館 http://www.senahideaki.com/
瀬名秀明がゆく!東北大学工学部機械系 http://www.mech.tohoku.ac.jp/sena/
瀬名秀明講義blog http://senahideaki.cocolog-nifty.com/lecture/
瀬名news http://news.senahideaki.com/
瀬名秀明の時空の旅 http://senahideaki.cocolog-nifty.com/
 まぁ、あまり細かい説明は必要ないでしょう。現在、東北大工学部SF機械工学企画担当特任教授です。

2 作品リスト


まぁ、なるべく手短に

第一章 愛の驚き



 夏の日のひとつの出来事、そのことを忘れるために「現場」へやってきた男の前を葬列が通りかかる。
ただの戦時物とは一味違う展開とひねった結末。幼さと残酷さ。ちょっとした無知と狂気。そういう夏へといつしか帰っていく時間。


 古い書類机の中に見つけた隠し。その中の恋文を目にした主人公は、返事を出そうと決意する。
ファンタジー的な時間もの。フィニイは「古き良きアメリカ」への懐古と郷愁をよくテーマにしていてこれもそのひとつ。ノスタルジックな雰囲気はSFとは別と見なされるかもしれないが、これもまたいっこうかと。


 英文学の宿題でポーを読まされる「ぼく」の前にお喋りな一羽の「鴉」が現れる。そんな中で恋に落ちた「ぼく」に「鴉」はひとつの奇跡を起こしてみせる。だが・・・
本歌取りなのでそれを知っているかにも寄るかもしれない。まぁ、こういう御喋りキャラは好みですが。SF・ホラー・ファンタジー、そして昔の人の感性の違いというものに注目しているところも面白いところ。この作品のセレクトもある意味で「瀬名氏の」SFへの意見表明のひとつか?


 純文学よりの収録。ボーイミーツガール、LEVEL UPという解釈・・・じゃダメか。


第二章 みじかい驚き



 星新一によるショートショートコンテスト優秀賞受賞作。何気ない、そしてまったく人物たちが気がついていない恐怖、が一番読者にとって怖いのです。

 「漠然とした終末観」っていろいろあったように思う。

  • 「絵の贈り物 画家から作家へ」
       皆川博子 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%86%E5%B7%9D%E5%8D%9A%E5%AD%90
       眉村卓 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%89%E6%9D%91%E5%8D%93
       佐藤愛子 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E8%97%A4%E6%84%9B%E5%AD%90_%28%E4%BD%9C%E5%AE%B6%29
       河野典生 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E9%87%8E%E5%85%B8%E7%94%9F
       赤江瀑 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E6%B1%9F%E7%80%91

 絵と超ショートショートのコラボ群。そのなかでもすこし「毒」を含んだものが集められている。
通常と逆の創作過程がこうも「奇妙な味」を生み出すのは興味深いところ。


 マンガから唯一の収録。雪の結晶を自由に形作る技術は大金を一時もたらしたかに見えたが・・・
なんでもコマーシャルに使いたがるのは人間の性。SFだと月や軌道にロゴを書こうとした話もありますな。
一番作らなければならなかった形を最後に作った、というのがミソ。

第三章 おかしな驚き



 ニュース番組に必ず映りこむ謎の男。そして気がつくと身の回りを例の男が出現するようになる。つまり、今度は自分たちがニュースになるというのか??!!
英語のことわざには“No news is a good news”なんてものもあります。ドラマ(『世にも奇妙な物語』版)のラストは違うのだが、描写からするとおじさんの能力は「デッド・ゾーン」の主人公と同じ系列のものか?



 侵略SFというテーマをずばり江戸の歌舞伎の演目としてパロディとしたもの。やはり江戸時代って違いますねぇ。妖怪やからくり人形はおろか南米の神から火星人まで来ているのですから、という冗談はおいといてとりあえず元ネタ
 初代・・・・「宇宙戦争」とそれ以後のいわゆる円盤襲来もの(「地球が静止する日」など)
 二代目・・・「狙われた街」にほのぼの遭遇物が混じっている感がある
 三代目・・・「エイリアン」 寄生・腹を食い破る・「宇宙船の中から出ない」
 四代目・・・「E.T.」 すぐ逃げる宇宙人 満月の前を横切る大八車  ・・・まんまですな
 土蜘蛛・・・「スター・ウォーズ」 巨大な宇宙船 人物名
 五代目・・・「アルマゲドン」 

第四章 こわい驚き



 ありとあらゆるレンズ、そして鏡に取り付かれた光学マニア。そんな男が最後に至った境地とは。
 お亡くなりになった実相寺監督もオムニバス「乱歩地獄」で鏡地獄をやっているそうな。(内容はぜんぜん違うそうですが)
しかし、今のコンピューターなら視点と光源を中央に配置した理想的状態で透過性の顔をしこんでシミュレートできるのではないか? え?夢がない? と思っていたら本当にやっていた人がいました 「水滴の拷問」と同じく本当に狂えるのかは知りませんが。



 眠らない、そして食わないことを売りにする一人の芸人。彼に自分の「正常性」を証明することを求められた主人公は不可思議な彼の過去を知ることになる。
今回は活躍しないけど首里が主人公の作品はほかにもあるとのこと。檻・釜・繭・手鞠・檻と繰り返される閉鎖的モチーフと猟奇的感覚が恐怖感をいやおうなしに煽っている。誰ですか首里=イリーなんていう人は。

第五章 未来の驚き 「私」の驚き



 シークエンスとしてはエニセイ等の記述から旧西対東陣営?第一次統合戦争(注:可変戦闘機は登場しません)下での海洋サイボーグ兵器達の壮絶な、そして悲しい戦い。
潜水艦の戦闘というのはいちばん相手を認識しにくい静かな戦いというわけで、その特異性からよく使用される。ラストは機械化されているがゆえに求めてしまう人間的温もりのもたらす残酷さで戦場の狂気を強調している。世は脳コンピューター・インターフェイス(BMI)の実用化への準備段階に入っているそうですがロシア語(ドイツ語?)の勉強をする前に考えておくことはいろいろとありそうです。


 日本のショートショートで絶対欠かせない星新一の短編。けっこうベストに上げている人は多い。
つまらない装置のつまらない行動、そして人間のつまらない習性とそれがもたらしたつまらない結末。
人間社会のあらゆる面に通ずる批判がこめられている。最後の言葉が別れの言葉であったのがせめてもの救いか。


 太陽系第三惑星・地球へ急行する一隻の巨大な宇宙船。その目的は人類の救出だった。太陽の新星化による地球消滅まであとわずか。救難隊隊員たちは何を見るのか?
 人間の文明を違う価値観で見ること、ただそれだけが目的かと思わせておいて最後の一言の破壊力。いまだにクラークのベストに上げる人が多いので本人は困っているらしい。。

3 傾向


SFってこんなに幅が広いんだというものを一般に読まない人にアピールする分にも、普段読みまくっている人にも十分満足していただける収録作ではないかと。わざと真ん中は外したといっていて事実、御三家は西洋だとクラーク、日本なら星新一しか入ってない。瀬名氏の源流は藤子・F・不二夫らしいがセレクトを見ればそれもうなずける。(本当は一編ぐらい入れたかったことだろう) そうさ、Wonderはどこにでもある!という考え方も閉鎖的になりがちなSF屋という集団にはよい薬ではないでしょうか。まぁ、クラーク作品に持っていたという先入観は私には「違和感」ですが(それを「毒されている」とも俗に言う)
しかし、マンガに挿絵に欲張り放題。文庫化されてもちゃんと入っているのは凄いものです。これでいまどき1000円切るならお得じゃなくてなんと言おう。印刷関係者の皆さんもご苦労様です。

部会メモ




(ちゃあしう)



2019.02.24 Yahoo!ジオシティーズより移行
http://www.geocities.jp/tohoku_sf/dokushokai/wonder.html
なお、内容は執筆当時を反映し古い情報・元執筆者の偏見に基づいていることがあります by ちゃあしう
最終更新:2019年03月24日 15:05
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