SF研読書会 『ソラリスの陽のもとに』(スタニスワフ・レム) byちゃあしう
1 作者紹介
(wikipediaより)
スタニスワフ・レム(Stanis?aw Lem, 1921年9月12日 - 2006年3月27日)
ポーランドの小説家、SF作家、思想家。ポーランドSFの第一人者であるとともに、現代SF史上最高の作家の一人とされる。1921年、ポーランドのルヴフ(現ウクライナのリヴィウ)に生まれる。ギムナジウム時代に知能指数が180であることが分かり、当時の南ポーランドでは最も頭のいい子供だったという。
1951年、『金星応答なし』で本格的にSF作家としてデビュー。1955年に金十字功労賞受賞。1957年、クラクフ市文学賞受賞。1959年、ポーランド復興十字勲章受章。1965年、ポーランド文化芸術大臣賞第二席。1969年、外務省から外国でのポーランド文学普及に対して表彰状を受ける。1970年代になると、研究書『SFと未来学』や、メタフィクション『完全な真空』『虚数』などを発表。1979年、ポーランド復興上級十字勲章受章。1976年文化芸術大臣賞第一席。2006年3月27日、ヤギェウォ大学病院にて死去。享年84。
主な著作
- ファーストコンタクト三部作 『エデン』『ソラリスの陽のもとに』『砂漠の惑星』そして『天の声』
- 連作シリーズ SFホラ話の『泰平ヨン』『ロボット』や『宇宙飛行士ピルクス』シリーズなど
- メタフィクション(仮想文学) 『虚数』(書評) 『完全な真空』(まえがき)
- ミステリー(?) 『捜査』 『枯草熱』 その他評論(『高い城・文学エッセイ』)なども多い
2 あらすじ
二重星系をめぐる一面を海に覆われた惑星ソラリス。しかしそれは自身の軌道をコントロールする能力を持った「生命体」であった。その観測基地に一人の心理学者・ケルビンが観測ステーションに派遣されてくる。しかし基地は荒れ果てており、駐在の科学者のうち一人は自殺、あとの二人も様子がおかしい。いったい何が起こったのか。そんな彼の前に現れたのは、自殺したはずのかつての恋人だった・・・
3 翻訳の違い
『ソラリス』(国書刊行会)
沼野充義 ポーランド語からの翻訳
『ソラリスの陽のもとに』(早川文庫)
飯田規和 ロシア語版からの翻訳
ソ連政府の検閲による削除部分あり。
具体的には『「怪物たち」の章の p.197 12 行目から p.202 7 行目 (原稿用紙12枚分・p231の4行目後)、p.202 15 行目からp.204 5 行目 (4 枚分ほど・P231の12行目後)。「思想家たち」の章だと、p.284 11 行目から p. 294 まで 20 枚分強(p323の13行目後)。「夢」の章ではp.299 最後から 2 行目から、p.301 の12 行目まで(p329の13行目後)』(アマゾンレビューより)
1)ソラリスの原形質の生み出す現象(対称体)について
2)同上 非対称体について
3)ソラリス物質の分離例とその後、後半の化が進んだソラリス学について
4)クリスの心象について
分かりやすい表現が多い飯田訳に対してちょっと硬めな印象を受けるが、ソラリス学の部分に関しては完訳版のほうが充実している。
ちなみに共産主義化のポーランドでは現在コンピューター社会の根幹を成す「サイバネティクス」は資本主義陣営の生み出した反共産主義的「疑似科学」とみなされていたそうな。そのことも関係がありそうだ。
4 登場人物
クリス・ケルビン 心理学者
スナウト サイバネティクス学者
ギバリャン 物理学者 自殺
サルトリウス 異星生物学者
「黒人の女」 ギバリャンの「お客」?
ハリー ケルビンの「お客」 数年前に自殺
(※ソダーバーグ版では「小さな子供」が誰かのお客として登場している また、別調査隊のバートン[ベルトン]が見た赤ん坊も言ってみればお客の一形態とみなせるかも。)
5 構造
ありがたいことにあとがきでレム自身が説明してくれている→
・アメリカSF的ファーストコンタクト像への批判⇒人間形態主義(アントロポモルフィズム)・人間的理解への批判
「宇宙戦争」を高く評価、ただし目的がハッキリしていることに対する批判、そしてその後のSFの異星人と遭遇、平和的に事が進む/異星人と遭遇、戦争が起きてどちらかが勝ち、どちらかが負けると二元展開への批判
⇒厳密には「目的が分からない」話は結構あるが、完全に行動原理が分からないわけではない
「分からない」ことが目的であり、メインテーマから外れるから、ではない
(例:
戦闘妖精・雪風 終わりなき戦い など)
しかし、人間の『知性』とかを無駄とは考えていない(それだと純粋だから子供がコンタクトできるんだとかそーゆー方向に行ってしまうはず。そういう作品は別に存在するが)
他者との対峙をやめることはない⇒ラストの主人公(恋人の復活・地球への帰還による安泰が欲しいわけではない ここが映画版ではスッポリ抜けているところ)
他人ですら理解し会えないのに・・・」という「逃げ」もない様子。
・レムの主題のひとつ:コミュニケーションの「失敗」 コンタクト可能=人間的レベル ではない
レムの認識三部作 ソラリスと二作品 意味を人間が持たせることへの不満?
『砂漠の惑星』 機械生命体の究極進化体たる群体生物
『エデン』労働部分と思考部分に分離されるよう支配階級に改造された生物
→遭遇した「それ」に感情移入して人間的解決策を図るのが果たして正しいのか?
『天の声』でも異星人の通信に人間が意味づけを行うことに関する議論が行われる。(登場するゲル状物質「カエルの卵」はソラリスの原形質にそっくり)
・「不完全な神」・・・?
あくまで限定された能力 そして認識
・永遠の別れを味わったはずの相手とのラブストーリー・・・あくまで表面的なもの?
ラブストーリーとして失敗している、ではなく「失敗した」ラブストーリー(過程)⇒「失敗した」ファーストコンタクトとの関連?
ボーイミーツガールを一種のファーストコンタクトとして扱う(もしくはそのもの)作品は多いが、その過程は?
未知なだけでは見えない・分からない・想像できない存在を具体的に描化なくてはいけない過程で「発生」させたもの
「夢の中の彼女」(脳内の彼女)のコピー≠彼女
中では「ミモイド」という表現も使われているが、ずばりミーム(模倣子)の実体化版 (ミモイド自身はミームの影響で命すら捨てる行動に実際に出る人のこと 自爆テロ犯など)
コピー自身の苦悩⇒現代もよくテーマに(他人の空似、アンドロイド、ホムンクルスetc)⇒やっぱりSF読みは「泣き」に弱い?
・本当か??⇒「受け取り方は複数ある、作品自身が読者を映す「鏡」である」
レム自身は鏡としてのソラリスを否定したいらしい
⇒これも人間本位の考えだから?
6 映画について
1972年『惑星ソラリス』 アンドレイ・タルコフスキー 2時間30分の「超」大作
意図的に観客に分かりにくいよう出来ているという。「2001年」と並び称されることが多い。
→特徴:「水」「大地」「自然」のモチーフ クリスの父親の存在
台詞:「我々に必要なのは『鏡』だ」・・・未知探求の否定
レム:「これはSFではなくて『罪と罰』だ。(以下罵詈雑言)」
2003年『ソラリス』 スティーブン・ソダーバーグ 99分
ジョージ・クルーニー主演 キャメロンも一部協力(?) 収入はあまり大きくなかったとか。
レム:「これは知性よりも感情の物語である まぁ、ハリウッド受けは難しいかもな・・・(以下映画に取り入られなかった作品のテーマについて)」
その他、テレビドラマ版(ロシア)や演劇『孤独の惑星』(日本)が存在する。
7 追記
- 4章のテスト計算について 「なぜこんなことで自分が正気か分かるのか?」
これが夢もしくは幻(つまり、頭の中で起きている何かの産物)であるならばその中の計算機がまともな計算結果を弾き出せるはずがない、という予測に基づく。しかし外部の世界に属するはずの衛星のデータも計算機も両方幻ならば「無意識の影響」(おそらくここまで計算が合ってるはず、という思い込み)により失敗する可能性は高いようにも思う。おそらくソラリスが脳内イメージから物質を構成していることに対比させている?
通信や計算の度に真空管を温めるシーンがある。これはしょうがない (砂漠の惑星もそうだったしあの宙道士コンビもけっこうアナクロな部品の塊)。
ニュートリノでできたF物質という一説も今では少し苦しくなってきている。これはソダーバーグ版ではいちおう最新理論に近い形で解釈しなおされている。
参考URL
部会メモ
最終更新:2019年03月18日 23:41