2007.11.30

SF研読書会 『クリムゾンの迷宮』(貴志祐介)  by 二一型


1 著者&作品について


著者:貴志祐介

1959年大阪府生まれのホラー作家。京都大学経済学部卒業。生命保険会社勤務後作家に転向。1996年、『十三番目の人格 ?ISOLA-』で第三回日本ホラー小説大賞長編賞佳作受賞。
97年には『黒い家』で同賞大賞を受賞。 他著として『天使の囀り』、『青の炎』など。全七作品のうち三作品が映画化されている。(下記参照) 本年11月に講談社より『新世界より』が刊行。(角川書店以外では初の刊行となる)   
映画化作品
『黒い家』・・・1999年 主演:内野聖陽  韓国でも『ブラック・ハウス』として映画化(R18指定!)
『ISOLA 多重人格少女』・・・2000年 主演:木村佳乃
『青い炎』・・・2002年 主演:二宮和也

2 登場人物


藤木芳彦

元大手証券会社社員。バブル崩壊に伴い失職、一時はホームレスにまで落ちぶれる。職を求めテレビ制作会社のアルバイトなるものに応募するが、昏睡させられ拉致される。 目覚めれば‘火星’。 北(情報)ルート選択。

大友藍

ゲーム開始直後にゲーム機を破損し、藤木とパートナーに。数々の助言で藤木を勝者に導く。 ゲーム主催者側の関係者と思われる。 北ルート選択。

野呂田栄介

元セールスマン。ゲームマスター? 東(護身用アイテム)ルート選択。

加藤高道

元中学校教師、ワンゲル部顧問。 東ルート選択。

妹尾純一

多重債務者。二メートル近い巨漢。 西(サバイバルアイテム)ルート選択。

船岡茂

小物。パシリ。弁当。 西ルート選択。

安部芙美子

異常に懐疑的。悲惨な最期を遂げる。(まあ全員悲惨だが・・・) 南(食料)ルート選択。

鶴見克哉

元出稼ぎ労働者。 “地雷”ルート選択でグールに成り果てる。 南ルート選択。

楢本真樹

ラスボス。 鶴見同様、グールに。「大事な肉が、腐ってしまう・・・・・・」
“腹ごしらえ”しちゃってる人。  南ルート選択。


3 あらすじ


北ルートのチェックポイント毎に物語を追っていく。

・~第1CP

9人が揃い、本格的にゲームスタート。藍の進言で藤木グループは北(情報)ルートを選択する。 重要アイテムの新カセットを入手。評価つきアイテム表や食料の解説などの多くの情報を得る。他グループが各第2CPで得たアイテムを少なからず隠している事を知り、藤木たちも新たに得た情報を隠匿することを決意。  図らずも主催者側の意図する行動をとってしまうことになる。
ここから、最初に選択したルートでグループ毎に別れ、ゲームを進行することに。

・~第3CP

第2CPを経由し第3CPへ。 このCPの情報としては食料入手方法の詳細を、 そしてアイテムとしてこのゲーム攻略の最大のカギとなる、ゲームブック「火星の迷宮」を入手。 また実際に罠を仕掛け、動物を捕食。意外と順応してる藤木サン。

<生存 9>


※ゲームブックについて
日本では80年代に流行。TRPG普及の起爆剤ともなった。ドラクエ等、コンピュータゲーム派生のゲームブックも多数登場。その後紙媒体からゲーム機へとその形態は移ってゆき、ブーム自体は90年代前には衰えた。 『かまいたちの夜』や『弟切草』などのSN、ひいてはVNの構造的な原型と言える。

・~第4CP

藍の進言及びゲームブックの記述により、早々に第3CPを離れる。 道中、東(護身用アイテム)ルート選択の妹尾たちと遭遇。 食料と武器を交換する。 第4CPでは危険な動物についての情報を入手。 (伏線となる、危険度No.1毒蛇のタイパンなど)   雨により数日間ここで足止めを食う。 

<生存 9>

・~第5CP

連呼される「殺せ」の文字。藤木はこのゲームがゼロ和であることを確信する。 第5CPで入手した情報は「Vの字に注意」。 

<生存 9>

・~第6CP

他グループに警戒しつつ第6CPを目指す。途中で変わり果てた南(食料)ルート選択の船岡、楢本と遭遇。 ゲームブックに従い、辛くも危機を逃れる。一時的に第6CPに向かうことを避け、楢本たちから遠ざかる進路を取ることに。 その途中、南グループの安部の死骸を発見。楢本らが安部を殺害し、その屍を喰っていたことが判明する。 その後再び第6CPを目指し、他グループに遭遇することなく到着。 第6CPの情報で、藤木はゲーム機に盗聴器が仕掛けられていたことに気づき、受信機の使用法を知る。  

<生存 8>

・~第7CP

最終である第7CPに到着。ここで楢本らが変貌した理由を聞かされる。また、他のプレイヤー全員を排除しなければゲームは終了しないことを改めて知る。 ここで藤木はゲームブックに従い、意を決して受信機を作動することにする。 これにより船岡が楢本らに寝返り、妹尾殺害を計画していることを知る。 

<生存 8>

・~妹尾死亡

楢本たちから遠ざかることに。途中手負いの野呂田に遭遇、合流する。 野呂田から、楢本らに襲われ、加藤は死亡したことを聞く。その後、受信機で楢本らにより、計画通り妹尾が殺害されたことを確認する。

<生存 6>

・~鶴見死亡

妹尾が死亡し、楢本らの標的は藤木たちに。 野呂田が楢本たちに居場所を知らせるような不可解な行動をとり戦闘に。 藤木は追い詰められるも、トラップにより鶴見を仕留める。

<生存 3>

・~楢本死亡

藤木はゲームを放棄しバングル・バングルの外に出た。 しかし楢本は追撃の手を緩めない。 途中、民間人に遭遇し助けられるが、主催者側は通報を恐れこの民間人を殺してしまう。
いよいよ藤木とグールとのデッドヒートに。 なぜか楢本は藤木たちの後を獣のように正確に追跡し、ついに毒蛇のV字谷に追い詰める。危機一髪で、楢本は薬物によって凶暴化したタイパンに噛み殺される。 だが、V字谷脱出の途中で藤木もタイパンに噛まれ意識を失った・・・。

・~END

藤木は自分が連れ去られた温泉街に来ていた。ゲームを振り返り、自分が藍によって誘導され、最後は助けられたのではと推測する。また、このゲームとスナッフビデオの関係について調査を試みる。 藤木は真実を暴くことを固く決意した。

※スナッフビデオについて
かつてはスナッフフィルム(Snuff film)とも。作中にもあるように娯楽目的で殺人の様子を収めた映像。基本的に都市伝説の域を出ない。 (実在するならば、すでにインターネットを通じて表面化しているだろう)  殺人に至らなくとも、娯楽目的で暴力行為を撮影したものは出回っているようだ)


4 感想


 ゲームブックの内容そのままに展開する物語。RPG感覚で一気に読めてしまった人も多かったかも。 ゲーム性そのままに、貴志ホラー導入作として娯楽的に読んでしまって構わないだろう。随所にある恐怖心をくすぐる記述がなんとも言えずツボ。特に序盤に食料組の危険性を匂わせておいて、その後恐怖に陥れたり、受信機を通しての惨状の提示など。 ラストはやや消化不良か。    本作と同じゼロサムであり、多くのメディア展開で有名となった『バトルロワイアル』という作品があるが、両作を読んだ方はどう感じただろうか? 自分としては“追うもの”が人間であって人間でない、と言う点で本作により大きな恐怖を感じた。(やはりカニバリズムは本能的な嫌悪・恐怖を抱かせるようだ)
 得体の知れないものに追われるという設定はホラーではありきたりなのだろうが、斬新な舞台・人物設定により、それを補って余りある恐怖が提供されたことは、驚きであり、また新鮮だった。

5 その他


 より深い貴志ホラーとしておすすめなのが『天使の囀り』。バイオ・パニック的なホラー&ミステリ。(同じ角川ホラー文庫でバイオモノに『パラサイトイヴ』など) 個人的には貴志氏の代名詞的作品とされている『黒い家』も含めて、もっとも洗練されたものだと思われる。貴志氏は寡作なのが残念なところだが、ホラーは“ハズレ”なく読めるのでおススメ。





部会メモ





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なお、内容は執筆当時を反映し古い情報・元執筆者の偏見に基づいていることがあります by ちゃあしう
最終更新:2019年03月24日 14:44
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