東北大SF研 読書部会
「宇宙のランデヴー」 アーサー・C・クラーク
著者紹介
アーサー・C・クラーク(Arthur Charles Clarke)
ハインラインやアシモフと並んでSF界においてビッグ・スリーとされる大御所。1917年イギリス・サマセット州にて生。第二次世界大戦中には空軍にてレーダーの開発に従事。その後人工衛星のリレー通信のアイデアを論文として寄稿。これは現在の衛星通信の構想を初めて示したものである。1946年に商業誌デビューし、代表作は『
幼年期の終わり』、『
2001年宇宙の旅』、『都市と星』、『宇宙のランデヴー』など。1956年からはスリランカに移住しており、亡くなった時もスリランカに埋葬された。
あらすじ
太陽系外からやってきたある小惑星は観測の結果、明らかな人工物の巨大な円筒であることが分かった。ラーマと名付けられたこの物体には調査隊として、ノートン率いるエンデヴァー号が派遣された。はじめは異星の墳墓か廃墟と思われたが、太陽への接近に伴う気象現象やバイオット達の出現から、この物体がまだ“活きている”ことが判明する。調査を進め、ラーマ人の文化品や科学機器類のデータを収めたホログラムを発見するに至るが、太陽への接近とラーマの軌道変更によってやむなく撤退する。その後、ラーマは太陽からエネルギーと物資を回収し、謎を残したまま太陽系外へと去って行った。
解説
ラーマのデザインはまんま皆が想像するようなスペースコロニーである。
物理学者ジェラルド・オニールが提唱したシリンダー型という大きな鏡によって太陽光を内部に取り入れるタイプが有名だが、ラーマは内軸に人工的な“太陽”を持ち、窓のないいわゆる密閉型である。(つまりガンダムでいうところのサイド3コロニーである)
名前の由来はインドの叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公。妻シータを羅刹の王ラーバナに誘拐されるが、神猿ハヌマーンと猿の軍団の支援で取り返す。“シンプ”が出てくるのはここらへんが元ネタか?
ハワイ諸島の発見、史上初めて壊血病を出さずに成し遂げた世界周航などで有名。第1回航海は英国軍艦エンデヴァー号の指揮官として、金星の日面通過の観測のため南太平洋に派遣された。第2,3航海ではレゾリューション号の指揮を執った。もう少しで南極大陸を発見するところであったが、南方大陸の探索は断念した。
所感
クラークの作品といえば、進化の先にある超越的な存在や、科学的な描写をしながらも壮大で神秘的な情景が特徴であるが、本作でもそれは十分に感じられる。ラーマの圧倒的なスケール(大きさと時間両方の意味で)と人間世界の様式とは異なる、なんためにあるのか分からないシステム。他の作品では異存在の動機なり行動原理なり目的なりが多少は明らかにされているが、本作では局所的なシステムの設計目的は明らかになっても、ラーマは誰に何のために作られたのか、どこから来てどこへ向かうのかといった大局的な謎は一切明らかにされないため、むしろ異存在への畏怖やその超常性が強調されている。
またこの作品は冒険小説チックな面も魅力としてある。ラーマに初めに突入する場面はただエアロックをくぐっていくだけなのにとてもワクワクさせられる。いやもはやラーマが初めて探知されたところから既に、未知の世界へとこれから踏み出していくのだという高揚感がある。ラーマ内部は読み進める―探索していく―ごとに様々な発見があり、読者の好奇心をドライヴさせていく。最終的に謎は回収されないわけだが、それでもセンスオブワンダー!!と叫びたくなる。そして最後の有名な一文「ラーマ人はなにごとも、3つひと組にしないと気がすまない。」は最高の余韻とワクワク感をもたらしてくれる。
ジャンルとしては、ラーマ人は地球には全く興味がなく、ただ燃料補給に寄っただけという、片思い的なファーストコンタクトものである(人類はラーマそのものにも、ラーマ内のバイオットたちにも基本無視される)とともに、円筒海が物語上重要な役割を果たしており海洋SF的な側面もあり(こじつけ)、クラークの二大柱宇宙と海洋どちらも楽しめる作品となっている。
最終更新:2019年11月06日 18:11