SF研 2009.5.12短編部会
地球の静止する日 byハリー・ベイツ他
レジュメ担当:掘江弘己


書籍紹介

 昨年映画化された表題作を含む、9つの短編を収録。これらは一度映像化されたという異例の経歴を持ち、脚本家による作品も多い。編纂者曰く、『レアなSFを集めてみた』とのことだが、下記によるように絶版はおろか、ほぼ本邦初登場の作家までいる。関連性は後述するが、トレッキー必読の一冊。「Twilight zone」や「The outer limits」の脚本が目立つ。

著者紹介

 1900-1981。現在まで刊行中の雑誌「アスタウンディング」(現・アナログ)の初代編集長を務める。作家や編集者である傍ら、俳優業も行っていたようだ。
 Wikiのみならず、gooやAmazonでもまともな情報が得られなかった。国内では表題作「地球の静止する日」以外は知名度ゼロのようである。
 他の著者についてはあとがきを参照のこと。エリスンは「世界の中心で愛を叫んだけもの」、ブラウンは「天の光は全て星」で有名だが、シマック(銀背が2冊)、サーリング(河出)、メルキオー(角川、講談社など)、ソール(銀背が2冊)の作品は現在全て絶版。ヴェナブルに至っては単行本が翻訳されていない(ミステリマガジン2004/8に短編が一つ載ったのみ)。

各短編紹介

  • 地球の静止する日;原題「Farewell to the Master」Don’t worry, take a good journey
 困ったことに映画版2作(’51、’08)とも違う。51年版ではクラートゥが主人公であるが、08年版では生物学者が主人公になっている。この小説版ではカメラマンだ。
 カメラマンのクリフは、謎に満ちたロボットや宇宙船の動向を何としても捉えるべく、連日張り付いてカメラを向けていた。
 クラートゥ亡き後、まるで銅像のごとく固まってしまったロボット、グナット。何が何でも決定的瞬間を収めたいクリフは、こっそりと博物館の中で息を潜める。しかし、そこに現れたのは、凶暴なゴリラ……!?

  • デス・レース(イブ・メルキオー);原題「The Racer」
 ウィリーとハンクはレーサーと整備士。大陸横断人間轢殺レースの記録を更新して10万ドル(当時。現在価格はもっと凄いことになってる)を獲得するため、彼は過酷な戦いに出発した。
 しかし、途中に立ちはだかった女性が、ウィリーの「レースのためなら誰を轢いても構わない」という考えに影を差すことになる。

  • 廃墟(リン・A・ヴェナブル);原題「Time enough at Last」(終焉に相応しい時)
 本短編集の中でも一番の短編。ヘンリーは多忙に過ぎて本というものが読めなかった。しかし、街が戦争で灰燼に帰し、廃墟と化した図書館でついにヘンリーは本を読むことができるのだが……

  • 幻の砂丘(ロッド・サーリング);原題「Beyond the Rim」(縁の向こう側)
 ホーンはゴールドラッシュの直前、幌馬車を率いて西を目指していた。水を求めるために砂丘を超えると、そこは100年以上先の世界。時代がかったタイムトラベルだが、逆に妙味を感じる一品。

  • アンテオン遊星への道(ジェリイ・ソール);原題「Counterweight」(平衡勢力)
 長距離宇宙航行にはトラブルがつきもの。トップクラスのメンバーを連れて行ったにも関わらず、長い航海の最中でやはりいざこざが起きてしまう。
 しかし、キース・エラスンが乗ったこの便では、それを避けるための大きなギミックを用意していた。
 ……ところでなんでソールだけ2編入ってるんだろうか。

  • 異星獣を追え!(クリフォード・D・シマック);原題「Good Night, Mr. James」
 人類の脅威、最悪の猛獣プードリイが逃げ出した。ジェイムズは記憶を失った姿で土手に倒れこんでいた。少しずつ記憶が戻り、プードリイを射殺するが、今際の際にプードリイが言った言葉によって、ジェイムズは自己の存在に疑問を持ち始める。
 落ちが救えない一品。

  • 見えざる敵(ジェリイ・ソール);落ちが「World Destruction」に似てる
 ヒアデス星団のとある惑星。調査団が次々と謎の失踪を遂げ、第四の調査は軍人によって行われることになった。最新鋭のコンピューターを積んで、アリスンは解析に挑む。
 だが、四方に配置した分隊はことごとく姿を消してしまう。彼らを弔うために葬儀の場を用意するが、そこでアリスンは端と気付いたことがあった……

  • 38世紀から来た兵士(ハーラン・エリスン);原題「Soldier」(兵士)
 クァーロは第七次大戦の最中、マイナスイオン(笑)の海に流されて過去へと飛んでしまった。地下鉄、警察、拳銃、見たこともないものや拷問に怯え、名前と階級、認証番号をただひたすら唱え続けるクァーロに、言語学者の出した結論は。

  • 闘技場(フレドリック・ブラウン)
 地球とプレアデスの絶え間ない戦争。消耗戦に陥っている中、カースンと「回転体」は時の止まった世界で、情報統合思念体『永遠不滅の単一生命』の言葉を受け、それぞれの運命を賭けて戦う。負ければ即ち、人類の滅亡。ジアースにも乗れず素手で戦うことになったカースンだが、知力と体力の限界まで闘う。

寸評

 時間を掛けて編纂しただけあって、ピリッと味の利いたものばかりだ。「未来→現在」という時間ものも興味深い。宇宙モノが多かったのも個人的にプラス。一番面白かったのは最後の「闘技場」、次いで「見えざる敵」。知恵を振り絞る展開、上司の無能さが起こす悲劇と生き残る主人公、どちらも好みの展開だ。
 創元版は読んでいないが、角川版もまた負けず劣らずマニアックな代物が詰まっている。銀背時代のファンは垂涎ものだろう。


おまけ

 ソールの長編は、翻訳刊行されたもの全てが部室に置いてある。50年代を代表するSF作家の一人で、レイ・ブラッドベリやリチャード・マシスン(地球最後の男)などと交友があった。サーリングを中心とし、「カリフォルニアの魔術師たち」と呼ばれていた──ようだが、日本語に輸入されたのは2007.5のSFマガジンでクリストファー・コンロンがエッセイに書いたのが初出の模様。サーリングのWikiにすら載っていない用語なんですが。
 過去「半数染色体」(Haploids)、「時間溶解機」(The time dissolver)、「異次元への冒険」(Costigan’s needle、『コスティガン博士の針』)が刊行されている。
 他の未訳長編に「Altered ego」(代替人格)、「Point ultimate」(特異点)、「Mars monopoly」(火星独占)などなど。医学、生化学を書かせたら右に出る者はいない。サスペンスを織り込ませるのも得意で、訳の分からぬ状況に置かれた主人公が、少しずつ謎を解明していく過程で解明される未知の科学技術──という手法が非常に面白い。
 ただ、個人的に一番と思われる「時間溶解機」は困ったことに若干文語体。新字だけど。マーケットプレイスだとやたら高騰してるのでよろしければ是非どうぞ。ちなみに没後すぐの2003年、『Filet of Sohl』がアメリカで刊行された。早く翻訳して下さい。
 ……という経緯から、ソールの医学SFが入ってなかったのは若干残念だったりする。だが「スタートレック」(宇宙大作戦、カリフォルニアの魔術師たちは結構書いていた)の脚本を書いていたことを併せると、この人の宇宙SFも中々に行ける。本短編集でどちらかを選べといわれると、上記の通り「見えざる敵」。最後に大尉が見せた配慮が泣ける。

 さてさて、諸氏はどの短編を気に入っただろうか。ヴェナブル以外は基本的に古本屋やマーケットプレイスを回っていれば手に入るので、読んでみるのもいいだろう。新品で手に入る作品がほとんどないのはもはや残念以外の何物でもない。


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最終更新:2009年05月14日 22:24