1.著者紹介 神林長平
本名は高柳清。1953年7月10日,新潟県新潟市生まれ。
1979年第5回ハヤカワ・SFコンテストに「狐と踊れ」が佳作入選しデビューを果たす。以降1983年「言葉使い師」で第14回星雲賞日本短編部門を受賞。
1984年 「敵は海賊・海賊版」で 第15回星雲賞日本長編部門と「スーパー・フェニックス」で日本短編部門を受賞(ダブル受賞は初)。1985年 「
戦闘妖精・雪風」で 第16回星雲賞日本長編部門,1987年 「プリズム」で 第18回星雲賞日本長編部門,1995年「言壺」で 第16回日本SF大賞,1998年「敵は海賊・A級の敵」で 第29回星雲賞日本長編部門,2000年「グッドラック 戦闘妖精・雪風」で 第31回星雲賞日本長編部門を受賞。
2001年から二年間,日本SF作家クラブ会長(11代目)をつとめる。
代表作品
火星三部作『あなたの魂に安らぎあれ』『帝王の殻』『膚の下』
「敵は海賊」シリーズ
『敵は海賊・海賊版』 『敵は海賊・猫たちの饗宴』
『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』 『敵は海賊・不敵な休暇』
『敵は海賊・海賊課の一日』 『敵は海賊・A級の敵』
『敵は海賊・正義の眼』 『敵は海賊・短篇版』
「戦闘妖精・雪風」シリーズ
『
戦闘妖精・雪風』 『グッドラック ― 戦闘妖精・雪風』
『戦闘妖精・雪風(改)』 『アンブロークンアロー ― 戦闘妖精・雪風』
『七胴落とし』 『宇宙探査機 迷惑一番』 『太陽の汗』 『蒼いくちづけ』
『機械たちの時間』 『ルナティカン』 『親切がいっぱい』
『猶予の月』 『天国にそっくりな星』 『永久帰還装置』
『プリズム』 『今宵、銀河を杯にして』 『過負荷都市』
『Uの世界』『狐と踊れ』『麦撃機の飛ぶ空』『言葉使い師』 ほか多数
「敵は海賊・猫たちの饗宴」は1989年にアニメ化され,
「戦闘妖精・雪風」もアニメ化・OVA化・コミカライズされている。
……以上wikiより。
2.登場人物
- 降旗勝(ふるはたまさる) 情報少尉。30歳。長野県松本市出身。
- 知念翔起(ちねんしょうき) 情報軍曹。36歳。祖父の代までは新潟で僧職をしていた。
- 大黒桂(だいこくかつら) 一等情報士。おはぎ。
- 斉藤進(さいとうすすむ) 元都知事。 病死。 壊れた都庁にぶら下がっていたところを降旗たちに助けられ、完全に死後の世界へ。
- メッセンジャー(金井) チャネリング・ヘッドの開発に携わるが,そのため情報軍にメッセンジャーとして目をつけられ殺される。 大黒生還後の世界では,軍の研究員となり病死している。
- 重柳(しげやなぎ) 情報軍中佐。八〇一開発技研隊の技術将校。降旗少尉ほか2名をマタタビ作戦に送り込む。
- オットー アメリカ大統領から首相に贈られた猫。三つ子。脳に重要な情報を埋め込まれており,死ぬときにその情報をすべて発信する。死後,人間の干渉をのがれようと死後の世界を飛び回る。
- *神林作品にはオットーをはじめ,『敵は海賊』シリーズのアプロなど猫が多く登場する。神林長平自身もゲンマイとビタニャという猫を飼っていたり,猫コラムを信濃毎日新聞(シンマイ!)に載せたりしていて愛猫家みたい。SFファンは猫ずきが多いのはほんとなのかも。ロリではないよ。
3.あらすじ
一日目
ネコさがし部隊はオットーを発見し,マタタビ装置を起動させた。瞬間,彼らは別世界へと飛ばされる。ゴミの山に埋もれた信州,松本市。降旗少尉は「自分たちは死んでおり,ここは死後の世界である」と発表。降旗の考えでは,死とはコミュニケーションがまったく不可能になることであり,情報軍本部と連絡がとれず,周りの世界も今までとは連続性のないという彼らの状態はまさしく死である。
知念は哨戒中に夢の中の降旗と会話する。マタタビ装置は脳が死の直前に発する情報をインターセプトして再生する機械なのだろうか?
二日目
降旗と大黒は周囲を探査に行く。人間がいるが,コミュニケーションは成立しない。
帰り道,突如降ってきた都庁ビルにぶら下がっている死体を発見。ザイルを切る。その夜,死体は秋月を訪れる。今降旗たちがいる世界は,三途の川のほとりなのかもしれない。これは知念の夢? 夢と現実が入り混じる。
オットーの反応をとらえるが逃げられる。月へ。
月面基地
死刑囚の男と会う。彼は軍のメッセンジャーとして,ノイズの少ない月面基地で殺され送り込まれた。
メッセージの内容「オットーを捜せ。われわれは死を正常なものにしなくてはならない」____個体の死と同時に,意識を含むその全情報はあの世(??)へ向かって発信される。しかしオットーのせいか,情報は正常にあの世へ行かず,インターセプトされてこの世で再生を繰り返される。そのため,今の現世では生きている人間はだれもおらず,すべてインターセプトされた意識の再現である。ネコさがし小隊は死んでいるが,完全に死んだわけではない。オットーを捕まえることで任務も終わり,生死ははっきりする。
知念はチャネリング・ヘッドでメッセンジャーの記憶世界を見る。重柳との会話……仮想空間で仮想の死者を再現し,コミュニケーションをとることができるチャネリング・ヘッドは,インターセプトされた死者の意識が再現される現実の世界のモデル。インターセプトしているのは神か?
もう一度,今度は降旗がチャネリング・ヘッドをかぶる。メッセンジャーの日常生活。チャネリング・ヘッドの開発場面から。ノイズ・キャンセラー能力をつけたチャネリング・ヘッドを試すが現実と仮想がないまぜになっていく。メッセンジャーはチャネリング・ヘッドのノイズ・キャンセラーのデザインに携わったことで軍に逮捕される。「現実の」身体感覚情報をキャンセルするという機能は,実際は仮想現実除去機能であり,自分が意識している自己意識はだれかが生じさせた仮想のものであり,人間の意識世界は実は仮想空間だった。
再び松本
メッセンジャーはいつのまにかいなくなり,三人はとりあえずマタタビ装置を調べてみる。床のパネルが開いた瞬間,マタタビ装置内にいたオットーの兄弟がとび出し,秋月は再び一九九一年八月三日の松本市にやってくる。ネコさがし小隊はオットーを発見,追跡。降旗の生家の旅館で祖父母と会い,マタタビ装置と一体化したオットーをつかまえる。
元の世界へ
マタタビ装置を作動すると,秋月は情報軍の格納庫へ戻り,本部とも通信が可能になる。しかし,本部からは三人は死体に見えるらしい。議員会館前でマタタビ装置を作動させて以来,秋月はずっと情報軍の基地にいたという。マタタビ装置からの情報転送が終われば三人は完全に死ぬことになる。知念と大黒は,転送中に秋月を降りる。降旗は知念に日誌を手渡して秋月に残り,正常な死を迎える。
秋月を降りた大黒は生きかえったが,知念は死んでいた。大黒は鎮静剤を打たれて入院し,重柳と会う。マタタビ作戦はやはり軍の実験だったが,今までの話しとはくい違っている。大黒は死んだはずの母親に会う。今起きていることが現実かどうかわからなくなり,大黒は自殺を図るが未遂で終わり,生まれ変わった知念に会う。知念は降旗の日誌を持っていた。降旗は死に,大黒と知念を元の世界に帰すことで,ふたりの持っている任務中の情報(死後の情報)をエラーとする世界に変化させて軍による死のコントロールを防いだのだ。
- 電子戦闘情報車(秋月) 情報軍最新鋭の戦車。マイクロバスほどの大きさで,強力な対電磁シールドを持つ。内部は外の世界と完全に独立し,電磁暗室のようになっている。マタタビ装置が組み込まれている。
- マタタビ装置 有機生態システムの一種。オットーの兄弟たちの脳が埋め込まれており,オットーと同じ意識を持つ。秋月内部と情報軍とに2つある。オットーの脳が発する電磁波を受信し,情報を引き出すものと説明されている。オットーに限らず,死につつある脳には自己を現実空間(あの世)へ発信する機能があり,それをインターセプトして再生する機械。ネコさがし小隊は彼らの意識をマタタビ装置に捕えられている。
- マタタビ作戦 大鳥井首相の猫,オットーを見つけだすか,オットーが死の直前に放出する情報をキャッチするためのもの。しかし,実際は死後の世界との通信実験だった。そのため,ネコさがし小隊に課せられた任務は「死んでも通信手段をとれ」。
- ネコさがし 降旗,知念,大黒のマタタビ作戦に従事する小隊のコード名。
- オットー 大鳥井首相の飼っていた猫。重要な情報を頭につめられ,情報猫としてアメリカ大統領から送られた。オットーの持っている情報……「聖書」,世の終わりは近い
- 首都圏情報防衛軍団 情報収集・探査・通信確保を使命とする。具体的には放送波の攪乱,偽情報発信,敵の暗号波の解析,通信手段の確保など。
- 八〇一開発技研隊 「人間の脳は高度な通信機である」という考えをもとに,マタタビ作戦をおこし死後の世界との双方向通信を図る。
- メッセンジャー 軍の送り込んだメッセンジャー。非言語情報を入力され,チャネリング・ヘッドの形でネコさがし小隊に伝えた。
- バーチャルヘッド 仮想空間と脳とのインターフェイス・マシン。ビジネスの世界で広く使われている。
- 霊界通信機 仮想現実とのチャネリング・ヘッド。メッセンジャーの男がデザインした。死者のデータ・ソフトを入力し,仮想現実の世界で死者とコミュニケートすることができる。(→脳自体がチャネリング・ヘッドであり,この世は仮想空間?) 仮想現実をよりリアルに体験するため,身体感覚情報をノイズとしてキャンセルするという,電磁暗室のような機能を持つ。(→ノイズが(仮想の)現実を生じさせているなら,霊界通信機は「現実を見せる」機械,仮想現実除去機能)
最終更新:2009年11月30日 21:06