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人間(ひと)の手がまだ触れない  ◆HQRzDweJVY





ホールに響き渡る歓声と音楽。
天から降り注ぐスポットライト。
見渡す限りに揺れるサイリウムの光。

――それは島村卯月がずっと夢見ていた世界だ。

アイドルとファンが一体になって作り上げる幻想空間。
たくさんの夢が詰まった、灰かぶり姫達のステージ。
その舞台の上で卯月は歌い、踊る。二人の少女と一緒に。

彼女たちの名前は"本田未央"。そして"渋谷凛"。
卯月にとって仲間であり、ライバルでもあり、そして何より友達である大切な二人。
そんな彼女たちといつの日か共に憧れの舞台へ立つ。
そう思いながら日々のレッスンをこなしていたのだ。
そして今、その成果を舞台の上で遺憾なく発揮している。

何時になく身体が軽い。喉の調子もいい。
ファンのコールも盛り上がっている。
ああ、なんて楽しい、なんて幸せな時間だろう。

島村卯月の絵描く、幸せな世界の姿。
だが突如として、その至福の時間は終わりを告げた。
大音量でスピーカーから卯月の知らない曲が流れ始める。

――それは、頌歌(キャロル)だった。

綺麗な旋律に載せられたのは透き通った、美しい歌声。
だがその歌は同時に何か不吉な響きを帯びていた。
美しいが、それ故に聞くものの内面を揺らすような何かを持っていた。
自身の内側からせり上がってくる不吉な予感に対し、助けを求めるように背後を振り返る。
そこには頼りになる友人の、本田未央の姿があるはずだった。

だがそこに彼女の姿はなかった。
代わりにあったのは『赤色の水たまり』と『ばらばらになった■■の手足』。
そしてその中心で、歪んだ笑みを浮かべる白塗りの男。

気付けば周囲にあったはずの客席の光は消え、歓声は苦痛を訴える悲鳴に変わっている。
一瞬で様変わりしてしまった世界。
でもその中で凛だけはいつもどおりの渋谷凛としてそこにいた。
けれどそれは何故か風前の灯のように卯月には感じられた。

(――凛ちゃん!)

不安に背中を押されるまま、必死に駆け寄って手を伸ばそうとする。
けれども伸ばした手の先で、渋谷凛の顔はぐにゃりと歪み、パァンとはじけ飛んだ。
瞬間、卯月の耳がとらえたのは音楽を掻き消けすほどの大きな音。
それが自分の叫び声だと気づいたのは、喉の痛みを自覚してからだった。



――そんな無様な姿を見て、誰かが嗤った気がした。



  ■  ■  ■



「……スター。目をさましてください、マスター」

ぼんやりとした視界に映り込む赤色。
それが自分を心配そうに見下ろす少年の髪の色だと気づくまで数秒の時間を要した。

「ライ、ダーさん……?」

青年の背後に映る照明に、卯月は自分が横になっているのだと気づく。
しかもその照明の色形には見覚えがあった。

「……安心していい。ここはマスターの部屋だ」

ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。
壁にはられたポスター、使い込まれた机、窓辺に並べられたぬいぐるみ。
そのどれもが見覚えのあるものだ。
確かにマーズの言うとおり、ここは自分の部屋だ。

「私……何で……」

けれどもここに至るまでの記憶が曖昧だ。
確か自分は別の場所にいたはずだ。
そう、昼ごろに本田未央の葬儀に向かおうとして――



           『サプラァァーーーイズ…………パァーティィイー!!! 』




その瞬間、卯月の脳裏に甲高い声が反響する。
その声が引き金となり、次々と光景がフラッシュバックする。
血に染まった僧衣/白面の道化が笑う/耳をつんざく銃声/楽しげに笑う声/悲鳴/硝煙の匂い/血の匂い。
そして、――次々とはじけ飛ぶ■■。

「――!!」

瞬間、口を抑えながらトイレに駆け込んだ。
そして必死の思いでたどり着いた瞬間、堰を切ったように胃の中の物を吐き出した。
胃酸が喉を焼く。呼吸が阻害され、涙がぽろぽろと流れ出す。
それでも背筋を這い上がる悪寒は卯月の胃を無理やり動かし続けた。
そしてえづきながら、胃が空っぽになるまで戻し続け、その場にへたり込んだ。

「大丈夫かい、マスター?」

マーズの言葉にも返事を返せない。
今もせり上がってくる吐き気を我慢するだけで精一杯だ。

「うっ、あっ………」

ギーグによって、超常の力によって弄ばれた人間の体。
それは島村卯月が想像したこともない死に方だった。
残酷で、無残で、凄惨で――人間としての尊厳を陵辱し尽くされた死体。
さっきまで動いていた人間が、動かない"モノ"に――いや、"モノ"ですらない何かに変えられる。
それは島村卯月という普通の少女には、あまりにも衝撃的な死の形だった。

身体にうまく力が入らない。
立ち上がろうとして、ふらつき、壁へと倒れこみそうになる。
だがその身体はすんでのところでマーズに抱きとめられる。

「無理をしてはいけない。……少しだけ、失礼します」
「あ……」

そのまま抱きかかえられ、自分の部屋へと運ばれる。
マーズは卯月の細い体を優しくベッドに寝かせつけた。

「この水で口をゆすぐといい」

言われるままに差し出された水で口の中をゆすぎ、タオルで口の周りを拭う。
たったそれだけで人間というものは大分落ち着くものらしい。
口の中に広がっていた苦味が消えると、徐々にだがゆっくりと息ができるようになった。

「ありがとう……ございます……」
「……礼は言わないでください。
 マスターを守ると言っておきながらこんな有様です。……サーヴァント失格ですね」

そんなことはない、と卯月はフォローする。
事実、彼女の身体にはかすり傷一つない。

「いえ、僕の宝具である<軍神よ、光の力を振るえ(ガイアー)>は強力だが、その分消耗も激しい。
 バーサーカーに対抗するためとはいえ、強い精神的ショックを受けていたマスターに負担を強いてしまったのは事実です」

そう言ってマーズは不意に視線を窓の外へと向けた。
その先に見える町並みは夕暮れに沈み、ポツポツと明かりが灯っている。
今何時だろう、と視線を時計へと向ければ、すでに針は一直線に並ぼうとしている。
あれからもう6時間も経っているのだ。
だからあの場所で何があったとしても今更出来ることなどない。
もしあの場所で取り返しの付かないことが起こっていたら――それを確かめるのが怖い。
けれど確かめないといけないことがある。

「その……凛ちゃんは……凛ちゃんはどうなったんです……?」
「……彼女は無事です。
 貴方が倒れた後、彼女のサーヴァントが宝具を展開し、バーサーカーを退けました」

最悪の事態は避けられたことを知り、大きく安堵の吐息を漏らす卯月。
だが一方でその端的な言葉の中に聞き逃せないものがあったことにも気づき、再び体をこわばらせる。

「……ライダーさん。その、……"彼女"のサーヴァントって……」
「……ええ。マスターの友人は間違いなく聖杯戦争のマスターだ。
 クラスは恐らく槍兵(ランサー)……マスターも見た、あの軍服の男です」

その返答に卯月は思わず息を呑む。
マーズが実体化した時の凛の顔を思い出す。
驚きと悲しみの入り混じった顔。
きっと今の自分もそんな顔をしているのだろう。

「……そ、う……ですか」

そう、口にだすのがやっとだった。
凛もこの聖杯戦争に巻き込まれていたのだ。
いや、卯月だってあの時にわかっていたのだ。
そのことを口にすれば認めなくてはないけないようで口にしたくなかっただけなのだ。
でもそのことを認めなくてはどこにも歩き出せない。

「……それで……その、今、凛ちゃんは、どこに……」
「詳しくはわかりません。バーサーカーを退けた後、彼女も気を失い、サーヴァントと共に何処かへ消えました」

正直なところを言えば引き止めて欲しかった。
けれど気絶していた自分の安全を再優先にしてくれたのだろう、と考えると言葉に出せるはずもない。
それにあえて前向きに考えるならば、マスターの中に確実に信頼できる相手ができたということでもあるのだ。

「マスター、これから先のことを考えましょう。
 彼女たちに対して、どのように対処するか決めなくてはいけません」

だがマーズは表情を変えずに、淡々とそう言い放った。
卯月は、何故そんなことを今更確認するのだろうか、と不思議に思った。
そんなのは決まりきっているのに。
凛と協力して、ここから帰るのだ。
だがそんな卯月の答えにマーズは首を横に振った。

「……マスター、無礼を承知で忠告します。
 彼女たちと協力するのは――いえ、これ以上接触するのはやめたほうがいい。
 彼女自身には何の問題がなくとも、あのサーヴァントは危険過ぎる」
「……!!」

歴史に詳しくない卯月だって、ランサーの顔には見覚えがあった。
世界史の教科書にも乗っていたその顔。それは決して肯定的な意味合いではない。
いや、そうでなくともあのランサーが正しい意味での英雄だとは思えない。

だって笑っていたのだ。
銃で撃ち殺される人々を見て、楽しそうに――まるでお笑い番組を見るかのような気安さで笑っていたのだ。
『もしかしたら伝え聞く人物像とは違うのかもしれない』。
そんな幻想を打ち砕くような、悪意だけで形作られたような嘲笑。
それは卯月の知る"笑顔"とは正反対の、人を貶め、汚す笑顔だった。
初対面の人に悪感情を懐くことは少ない卯月でさえ、嫌悪感を感じる笑みだった。

「でも……! だったら余計に凛ちゃんを助けないと……!」
「サーヴァントとマスターは魔術的なパスで繋がっています。
 サーヴァントが健在な以上、互いの場所や状況はある程度筒抜けになってしまうので、物理的に離すことにさほど意味はありません。
 かといってあの槍兵を排除すれば、彼女もまたこの世界から排除されてしまうでしょう」

サーヴァントを倒せばマスターである凛も死ぬ。
前にも聞いた聖杯戦争のルールを改めて告げられ、卯月は黙りこんでしまう。

「それに、もしかしたら彼女はマスターの知る彼女ではないかもしれません」
「え……?」

かつてマーズから受けた説明は卯月にとってわかりにくいことだらけだったが、それでもマスターは再現されたNPCとは違うという説明は覚えている。
それはつまり彼女は自分の知る"渋谷凛"その人だということだと思っていたのだが、違うのだろうか。

「マスターはパラレルワールド、というものを知っていますか?」

耳になじみの無い言葉だ。
マーズは少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。

「そうですね……"もしも"の世界と考えてくれればいい」
「もしも……ですか?」
「ええ。"もしもマスターが別のプロダクションに入っていたら"……そもそも"もしもマスターがアイドルを目指していなかったら"。 そういう"もしも"の世界……それがパラレルワールド。
 平行世界と呼ばれる、限りなく近く、極めて遠い世界です」

卯月にも想像した覚えがある。
"こうしていたら"、"こうしていなかったら"の世界。
そういう世界が実際に存在するのだとマーズは言っているのだ。

「例えば彼女は……そう、"トップアイドルになった"世界から来たのかもしれない。
 いえ、彼女がその状況を受け入れていたということは、その可能性のほうが高いとすら僕は思います。
 つまり……彼女はマスターの知る"彼女"ではないかもしれないんです」

人間という種は状況によって悪鬼にすら変貌する。
そのことをマーズは痛いほどに知っている。
だからこそ忠告する。外見が同じでも周囲を取り巻く環境が異なれば、全く異なる性格をしているかもしれないのだ、と。

「……ううん、あれは間違いなく凛ちゃんです。凛ちゃんなんです」

だが島村卯月はそう、断言した。

「だって……凛ちゃん、悲しそうな顔をしてたんです……」

その視線は机の上においてある写真立てへと向けられている。
そこにはジャージ姿の彼女たちの姿があった。
肩を寄せ合い笑い合う卯月と凛と、未央の姿。

賢い彼女のことだ。
NPCという存在のことを自分よりも正しく理解していただろう。
それでも未央の死を悲しんでいた。
傷ついた自分を慰めようとしてくれた。
そしてあの惨劇を前にして、自分に逃げろと言ってくれた。
だから信じられる。
たとえ自分の知らない世界から来たのだとしても、彼女は間違いなく"渋谷凛"なのだと。

「だから……私は凛ちゃんに会いたいんです。
 私に何が出来るかなんてわからないけど……それでも……」
「それがどれだけ危険な行為だと理解した上で……ですか?」

こちらを試すようなマーズの言葉。
そう、あのランサーだけじゃない。
この東京(まち)にはまだ見ぬマスターとサーヴァントがいる。
それがあのピエロのような殺人犯である可能性はあるのだ。

だが、それでも卯月の答えは変わらない。
震えながら、マーズの赤銅色の瞳を正面から見つめ返した。

「ならば一つだけ聞かせて欲しい。マスターは怖くないのか?」
「怖い――です」

怖くないわけがない。
先ほどの惨劇は卯月の中にあった死のイメージを、ぼんやりとしたものから生々しい実態を伴ったものに変容させた。
だからありありと想像できてしまう。
自分が"ああ"なってしまう光景を。
一瞬で、訳もわからないまま、ヒトとしての形を保てない何かに変えさせられる光景を。

それは卯月にとって未知の恐怖だった。
残酷な何かに作り変えられてしまうこと。
自分が自分でなくなってしまうこと。
それはきっと普通に死ぬよりも何倍も怖いことだと思う。
けれど、

「……でも凛ちゃんが、その、し、死ぬのは……もっと……怖い、です」

凛が死ぬ。
口にするとその光景をより生々しく想像できてしまう。
前衛的なオブジェのようになった彼女の姿。
悪夢の中のような死に方を想像し、思わず口元に手をやる。

――ああ、今更だが理解してしまった。
"死体がない"、という未央の両親の言葉の意味を。
彼らの仕業かどうかは分からないが、きっと"そういうこと"なのだ。

そう、この世界の未央は死んだ。
少なくとも数日間、この東京で共に過ごしてきた彼女は死んだのだ。
けれど未だ彼女の死を受け止めきれていない。
それはきっと突然過ぎて、そしてその気持ちに区切りをつける機会も奪われたせいだろう。
ただ、胸にポッカリと穴が空いたような感覚があるだけだ。

けれど凛の場合は違う。
彼女はまだ生きている。そして彼女に危機が迫っていることを既に知っているのだ。
それでも動かなかったら。
あんな、残酷な"何か"になってしまったという知らせを受けたら。
……それは卯月にとって自身の死と同じぐらいに恐ろしいことだった。

その時、卯月の震える肩に手が置かれた。
その手の主であるマーズはまっすぐに卯月を見つめている。

「……試すような言い方になってすみませんでした。
 前にも言ったけれど、君に従うのが僕の使命だ。
 マスターの願いどおり、ランサーのマスターを探そう。すべてはそこから決めていけばいい」
「あ、……ありがとうございます! ……じゃあ、早速探しに……あ、あれ?」

だが立ち上がろうとした卯月はふらりと体勢を崩した。
ベッドから落ちそうになった身体をマーズが支えた。

「……ただし一つ条件があります。
 マスターは今、想像している以上に疲労しています。
 彼女を探すのは、せめて動けるようになってからにしましょう」

その言葉で引きづられるように強烈な睡魔が卯月を襲った。
身体が、まぶたが、鉛で出来ているかのように重くなる。

「今は眠るんだ、マスター。貴方には休息が必要だ」

マーズの優しい言葉。
けれどその言葉に必死に抵抗する自分がいる。
それは恐怖からだ。
あの悪夢の中に戻ることへの恐怖が、卯月の意識を保っていた
だが睡魔は最早嵐のようで、卯月の意識を容赦なく削り取っていく。
しかしその時、ふいに記憶もおぼろげな昔に、母親にしてもらったことを思い出した。

「ライダーさん、お願いがあるんです……」
「僕に出来る事なら、何でも」
「……手を……手を、握っててもらえますか?」

マーズは無言で手を差し出し、卯月はそれに触れる。
男の人特有のすこしゴツゴツした手。
けれどその手は見た目よりもずっと柔らかく、暖かかった。
その温もりにすがりつくように、卯月はその手を握りしめる。
何もかもが不安定な世界で、ただその暖かさだけが卯月をつなぎ留めてくれそうな気がした。



  ■  ■  ■




眠りについた卯月の寝顔を見る。
その顔は安らかで、規則正しい寝息を立てている。

だが目覚める直前、彼女はうなされていた。
――恐らくはあの惨劇を夢に見ていたのだろう。
あの事件によって彼女は心に深い傷を負った。
もはや夢の中でさえ、彼女にとって安息の地にならないのかもしれない。

「……すまない」

その謝罪は先ほどの自分の言動に対してだ。
彼女は深く傷ついていた。そんな彼女に対し、理由はどうあれ『親友に近づくな』と言ったのだ。
さらに彼女を問い詰めるような言い方までしてしまった。
自身のさっきの言動は無駄に彼女の不安を煽っただけだ。
更には平行世界の存在などという不確定な情報を与え、思考を誘導するなど自身の目的にも反している。
では何故自分はそんなことをしたのだろうか。

(――動揺しているのか? 僕は……)

人の悪性を煮詰めたようなバーサーカーのマスターと人の心を笑顔で踏み躙るランサーのサーヴァント。
彼らとの会話を思い出すだけでも、心がざわつくのを感じる。
マスターの方針に従うと決めた今、そのうちの一体とはいずれ再会することになるだろう。
そう、あの魔槍を振るうあの男とは。

「……あの男は一体何なんだ」

その真名は知っている。
ランサーのサーヴァント、アドルフ・ヒトラー
生前、人類を知るために読んだ歴史書にも乗っていた悪名高き第三帝国の総統。
彼ほどの知名度があれば史実体系の反英雄として呼ばれる可能性は十分にあるだろう。

――だが、"あれ"はなんだ。

ランサーの振るった魔槍。
直視するだけで精神を苛む忌むべき"何か"。
あんなおぞましい、触れてはならないものを振るう近代英雄だと?

そんなものはありえない。あってはならない。
あれが真に"アドルフ・ヒトラー"だというのなら。
あれが真に"人類史に刻まれた史実系の英雄"だというのなら。
人類そのものをもう一度試すまでも無い。
たった一人でこの世全ての悪を体現するかのようなその有り様は、人の本質が悪だということの証明そのものではないか。

『目の前の道化師は人間だ……ならば、全ての人間は道化師の可能性を持っておる。
 我と我が相対者すら見抜けぬ人間の本質を、貴様ごときが見抜けると思い上がるでないぞ』

去り際に聞こえたランサーの言葉。
あの男の言うことなど真っ向から否定すればいい。
ジョーカーだけが特別だと。人類の中に生まれた特異点(イレギュラー)だと否定すればいい。
だが何故だ。
何故あの男の言葉はこれほどまでに心に残る?
アドルフ・ヒトラーが底知れぬ異様なサーヴァントだからか。
いや、それ以上に、

「僕は……恐れているのか……?」

かつてマーズは互いに争う獣たちの姿を見た。
だがそれすらまだ"浅い"のだとあの槍兵は言外に告げているのだ。
奪い、殺し、己の望みのために他者を踏みにじる醜い獣。
そんなものは序の口だと。人類の本性などではなく只の仮面の一つだと。
あの日マーズを支配した絶望には更なる深淵があると槍兵は言っているのだ。

マーズが知りたいと願ったのは人類の本質が"卑しい獣"と"救うべき知性体"のどちらかという二択であったはずだ。
だがあのサーヴァントは提示してきたのだ。
"獣ですらない邪悪"という可能性を。
"希望"でも"諦観"でもない、更なる"絶望"という第三の選択肢を。

「ん……」

ピクリと、握りしめた小さな手が動く。
彼女らしい、柔らかい手。
だが人類はその小さな手でも赤子の首を締めることが出来る。
目の前の心優しい少女にも仮面(ペルソナ)の下には、あの道化の如き悪意があるというのだろうか。

――天秤の支柱が、定めていた筈の心が揺れる。
それを支えていたはずの絶望が、より深い絶望に徐々に侵食されていく。

「……僕は……」

続く言葉はない。
ただ、手のひらの温もりにすがりつくように少しだけ力を込めて握り返した。



【B-3/卯月の自宅/1日目 夕方】
【島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]睡眠中。精神的にひどく動揺。
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]手持ちは高校生のおこづかい程度。
[思考・状況]
基本行動方針:何もわからない。
1:気絶中。
2:ひどく動揺しています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
ジョーカー&バーサーカー組の情報と容姿を把握しました。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿を把握しました。


【ライダー(マーズ)@マーズ】
[状態] 健康。精神的に動揺。
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:人間を見定める。
1:ヒトラーとジョーカーへの強い嫌悪感。
2:ギーグの悪を刺激する有り様と、月に吠えるもののおぞましさを目撃し、無自覚に動揺しています。
[備考]
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の容姿と情報を把握しました。
※渋谷凛をマスターとして認識し、ヒトラーの容姿とスキル『月に吠えるもの』を認識しました。
※<検閲済み>





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最終更新:2016年02月13日 02:01