アットウィキロゴ

悪魔が来たりて……  ◆HQRzDweJVY




東京・品川区。
22キロ平方メートルの土地に40万人近い人口を押し込んだこの土地にも人数の偏りというものは当然あり、
メシア教教会は比較的人口密度の低い高級住宅街の中に立地されていた。
そのため日の落ちた今、教会の礼拝堂もまた静寂に包まれていた。
今晩は前述の理由に加え、"ある事情"により定例のミサが中止になり、シスターたちは早々に宿舎の方へ戻ってしまっているのだ。

だが礼拝堂には最低限ながらも明かりが点っている。
かすかな光に照らされた、メシア教のシンボルである十字架。
その前に一人の青年が跪き、ただ静かに祈りを捧げている。

彼は周りの人間からは"牧師様"と呼ばれている。
とはいえ教会から正式に認可を受けた、いわゆる職業としての牧師ではない。
だが敬虔な祈りを捧げるその姿を見れば、そのような呼び方をされているのも納得できるだろう。
そんな彼だから部外者にもかかわらず、『人がいない間、一人で祈らせてもらえないか』という無茶な願いにも、シスターたちは笑顔で許可を出してくれたのだ。
そして今、彼……ロウヒーローは食事も取らずにただ祈りを捧げている。
いや、祈るというのはポーズにすぎない。
今、彼の心を埋め尽くすのは信仰心ではなくある記憶だ。
ロウヒーローは思い返す。
自分の目の前で消えた男の、最後の言葉を。


『せっかく――――いい夢を見ていたというのに』



意味の分からない、うわ言のような言葉。
だが腹の底から絞りだすようなその声は、いつまでもロウヒーローの中を反響していた。

(……一体、彼に何があったのでしょうか)

あれだけの傷を負ったということは別の主従と戦ったのだろう。
そこで神のごとく強大な力を持つサーヴァントに倒されたのか。
それとも悪魔のごとき智謀を持つマスターに敗れたのか。

……いや、どちらにしても彼があんな表情を浮かべる理由にはならない。
彼が力によって敗れたとしたら、浮かべるのは怒りと渇望を混ぜたような表情だろう。
だが露わになった素顔に浮かんでいたのは、悔恨の色。
後悔と絶望に彩られた、虚ろな表情。
身体よりも、何より心に死に至るの傷を刻まれたような顔。
彼のそんな顔をロウヒーローは見たことがなかった。
だが彼の心をそれほどまでに揺さぶる人物について、たった一人だけ心当たりがある。

(……まさか。それこそありえない)

脳裏に浮かんだその答えを頭を振って否定する。

この東京にはマスターもサーヴァントも何らかの"願い"を持つものが集められているという。
それは自分を含め、きっとどうしようもない願いを聖杯に託している人々だ。
だが"彼"は秩序におもねることも、混沌に依ることもなかった。
だからきっと聖杯などという奇跡にすがることなく歩めるはずだ。
それに……例え"彼"が立ち塞がったとしても、混沌の英雄はあんな表情はしないのではないかと思った。
確証はない……だが、それはロウヒーローの中で確信に近いものとしてあった。
何故ならばかつて自分と彼は同じ境遇であったからだ。
かつて理性たる秩序の偽救世主である自分が"彼"に倒された瞬間に得たのは"納得"であった。
それならば感情たる混沌の偽救世主であるカオスヒーローが得たのはきっと……"親愛"に近いものではないのだろうか。
だがそれならば尚更わからない。
何故彼はあんな顔をして――

「……マスター、そのへんにしとけよ」

自分に投げかけられるため息交じりの声。
その声は自分の傍に降り立った美しい少年のもの。
その背中には純白の翼が生えている。

「気が済むまでやらせようと思ったが、やめだ。
 祈るのはいいけど食べるもんも食べなきゃ倒れるぞ」
「……大げさですよ」
「大げさなもんか。あれから何時間経ってると思ってんだ」

促されるままに時計を見てロウヒーローは驚く。
自分にしてみればものの数十分のように感じていたが、相当な時間が経過していた。
そんなロウヒーローの姿を見て、刹那は呆れたような表情を浮かべる。

「まさかその様子だと気づいてなかったのか?
 確かに友達が倒されたのはショックだろうけどな、気を確かに持てよ。
 まだ聖杯戦争は始まったばかりなんだからな」

注意を促すだけの刹那の軽い言葉。
だがその中に含まれていた言葉を思わず反復してしまう。

「……"友達"、ですか……」
「何だよ、はっきりしない言い方だな。
 あいつはマスターの友達じゃないのかよ?」

怪訝な表情の刹那にロウヒーローはぎこちない笑みを返す。

「……どう、なのでしょうね。
 ただ……かつての僕たちは道を違え、敵対した。
 それどころか神の名のもとに殺そうとすら思っていた。
 そんな彼を友達と呼ぶ資格があるのか……」

かつて自分は秩序の側に立ち、彼は混沌の側に立った。
最後は天使の糸に絡め取られたとはいえ、最初にその道を選んだのは自分だ。

それに自分たちは僅かな道中を共にしただけの仲だとも言える。
自分と彼、そして"彼"。
奇妙な運命の中でのみ出会い、そして分かたれた三人。
友達と呼ぶ資格どころか自分たちは結局のところ赤の他人なのかもしれない。

「……すまんマスター。先に謝っとくぞ」

何のことだろう、と思う間もなく頭に響く衝撃と痛み。
数秒経ってやっと頭を思い切り殴られたのだと気づく。

「馬ッッ鹿じゃねぇの、お前!」

拳を握りしめたままの刹那は、呆れと怒りを混ぜこぜにしたような表情を浮かべている。

「友達ってのは"これをしたから友達"だとか、そういう資格がいるもんじゃないだろ!
 それどころか喧嘩ですら無い、苛立ちのぶつけ合いやってた仲だって、ちょっとしたきっかけで友人になることがある……そんなもんだろ」

何かを懐かしむような眼差し。
ここではないどこかを見るような視線の先にはきっとロウヒーローの知らない誰かがいるのだろう。
『それに』と刹那は言葉を続ける。

「……一度や二度殺しあったからなんだってんだ。
 友達は友達だ。そこに運命だのなんだの……そんなややこしい物があろうとなかろうと簡単に変わるもんじゃないだろ?」

そういって、刹那は笑う。
その笑顔はとても尊いもののようにロウヒーローには感じられた。

「それにな、マスターは相手が"友達じゃない"って言ったらそこで綺麗に切り替えられるのかよ」
「それは……」

言葉に詰まるロウヒーロー。
確かに、それは難しいことだ。
それにその考え方は――

「そうだ。それは結局誰かの言いなりになってるってことだ。
 今のマスターは違う道を――自分の意志で進める道を探しているんだろ?
 だったらそういう決断からも逃げちゃいけない。
 最終的に決めるのは俺でもない。あのダッジャールでもない。ましてや神様でもない」

ロウヒーローの目に映るのは、自分を指差す天使の姿。

「――アンタだ、マスター。アンタが決めて、アンタが背負うんだ」

目の前の少年にもかつてきっと多くの選択と、それに伴う後悔があったのだろう。
だがそれでもそれを否定しないと言っているのだ。
歩んできた道を、自身の選択を肯定するのだと。

「……そう、ですね。
 そう……決めることから逃げてはいけない……」

おぼろげな過去の記憶に思いを馳せる。

悪魔の現れる東京、金剛神界、変わり果てた街……
家族や恋人とも生き別れ、襲いかかる悪魔と戦い続けた旅路だった。
幾度と無く意見は食い違い、喧嘩したことも一度や二度ではない。
そして最終的には道は別れ、互いに殺し合った。
だが。
だが、それでも――。

「……ああ、そうですね。彼は僕の"友達"……だったんですね」

短い旅路の中でも笑い合うことは何度もあった。
そうだ、彼らと一緒にいることが、嫌ではなかったのだ。
それは否定してはならないことだったのだ。

「ありがとうございます刹那君。………貴方が僕のサーヴァントで本当によかった」
「よせよ。そういうのは願いを叶えた時に言ってくれ
 ……ま、安心しろよ。
 少なくとも俺の目から見たら、アンタたちは友達以外の何物でもなかったからさ」

『説教なんて柄じゃないんだよ』と照れたように顔を背ける、天使だがどこまでも人間的なサーヴァント。
聖杯戦争が開始してまだ一日も経っていないが、それでも確信する。
彼が自分のサーヴァントで本当に良かった、と。

その時だった。
礼拝堂のドアを叩く音が聞こえたのは。
刹那は瞬時に霊体化し、礼拝堂には再びロウヒーローの姿だけが残される。

普通に考えるならばドアをノックしたのはシスターや教会に務める誰かだろう。
もういい時間だ。礼拝堂を施錠する時間であってもおかしくない。
だが、何故かそうではないという予感があった。

「――どうぞ」

ロウヒーローの声に応えるように、重いドアが開く。
そして、その向こうからひょっこりと顔を出したのは小さな少年だった。

「こんばんは、牧師様」
「ええ、こんばんは。一郎くん」

少年の名は松下一郎。
このメシア教会で生活する少年だ。
大手電機メーカーの御曹司だという彼が、どうしてこの教会に預けられることになったのか。
その詳しい経緯について、ロウヒーローは知る由もない。
だがその目を見れば何となく予想はできる。そのすべてを見通すような目を見れば。

「こんな夜分にどうしたのですか?」
「ええ、今日はいろいろあったので、寝る前に祈りを捧げておこうかと思いまして」

そう言って西の空へと視線を向ける。
その先にある事故現場に思いを馳せているのだろう。
正午ごろ、新宿区で起こった謎の爆発事故、あるいは爆破テロ。
数時間たった今でも情報が錯綜しており、実際どちらであったのか未だはっきりしない。
だがどちらにしろ確かなのは、多くの犠牲者が出てしまったということだ。

「では共に祈りましょう。彼らの魂の安らぎのために」
「ええ。それでは僕は彼らの魂の安らぎと――平和なる千年王国のために」

二人並んで黙祷をささげる。
長いようでもあり、短いようでもある静謐な時間。
それを破ったのは少年のほうだった。

「……牧師様。一つだけ質問してもいいでしょうか」
「ええ、僕に答えられることならば」
「牧師様は魂があるとお思いなのですね?」

それは奇妙な質問だった。
魂の実在。それはメシア教徒である以上肯定するしか無いものだ。
聡明な少年にそのことがわからないはずはない。
つまり、そんな質問をした意味とは――

「ええ、霊魂なんて、目の前に空気があるように"あるにきまっている"のです。
 千年以上の歴史の中でそれは既に実証されていると言っても過言じゃない。
 僕が言っているのは"彼らにも魂があるか"――そういった類の話ですよ」

――NPCの魂の有無について。
そのことに彼が言及した意味は一つしかない。
暗に自分が彼らとは異なる存在……つまり聖杯戦争のマスターだと告げてきたのだ。
警戒し戦闘態勢に入ろうとするエンジェル。
だがそんな彼をロウヒーローは手で制する。
あえて明言しないのは、宣戦布告などではないという意思表示なのだろう。
そうであればこちらも敵対することはない。
ただ問いかけに答えるまでだ。
……心の、望むままに。

「……ええ。一郎くんの言うとおり、僕は彼らにも魂があるのではないかと疑っています。
 正確に言えば"魂に至る何か"、ですが」
「ほう。それは興味深い答えですね」

一郎少年は身を乗り出す。
真っ直ぐな鋭い視線がロウヒーローを見つめている。
その瞳の奥にかつての友人のような強烈な意志が渦巻いているのをロウヒーローは感じた。

「魂とは物体の記録であり、世界側からの記憶体、肉体に依存しない存在証明だと言われています。
 では――極めて高密度な情報体は魂と見分けがつくのでしょうか?」

この教会に務めるシスターや、言葉をかわすメシア教徒の人々。
買い出しに行くスーパーの店員やすれ違っただけの通行人。
ロウヒーローはこの"東京"で目覚めてから、様々な人々をつぶさに観察してきた。
だが正直な所、まるで見分けがつかなかった。
NPCと呼ばれる彼らはいずれも自らの意志で行動しているように見えたのだ。
それが極めて高度なAIだと言ってしまえばそれまでだ。
だがそれを言えば科学的に見れば人間の思考とて、脳の生み出す電気信号にすぎない。

「そして僕たちは超高密度の情報から構築された魂、その実例を目にしている」
「なるほど。サーヴァントとは、言わば無限情報サーキットたるムーンセルが観測した英雄たちの情報を元に構築された霊子生命体。――それは最早一種の魂とも呼べるのかもしれないですね。
 事実、調停者(ルーラー)とやらはサーヴァントと使い魔、NPCを明確に区別していますし」

流石に理解が早い。
『一を聞いて十を知る』という言葉を体現するかのような少年の頭脳に感心しながら、ロウヒーローは話を続ける。

「流石に彼らにサーヴァントほどの情報密度はないでしょう。
 ……ですが決して"0"ではない。
 故に僕は考えるのです。ルーラーがNPCと呼ぶ人々にも魂やそれに準ずるものがあるのではないか、と。
 だから彼らにもきっと神の身元へ行くことが出来ると信じ、祈りを捧げるのです」

0と1に還元される無機質なデータだけではないと。
その生には意味があったのだと。
そう、ロウヒーローは考えている

「……なるほど、それは面白い考え方ですね。
 ですがそれが真実だとすると、本来の聖杯戦争とは無関係なことが起きているということになる」
「ええ、ですからこれは単なる僕自身の妄想に近い。
 結局は亡くなった彼らにも魂があって欲しいという、身勝手なエゴなのかもしれません。
 ですが……」

ロウヒーローは一度言葉を切り、一郎の瞳を正面から覗き込む。

「……ですが、そうでなかったとしても正直な所……この聖杯戦争がただの願望機の奪い合いとは……思えない。
 確固たる証拠はありません。
 ですが、どこかに誰かの意図が垣間見えるような気がするんです。
 ……それもとても危険な"誰か"の意図が」

この聖杯戦争の裏側には何者かがいる。
それも世界の危機のような、極めて危険な何者かが。
己のサーヴァントである刹那が、救世使(エンジェル)が呼ばれたことはその証左なのではないか。
いや、そうでなくともかつての自分の背後に天使がいたように――或いはかつての彼の後ろに悪魔がいたように――何者かが見えない糸を引いている……そんな想像が頭の何処かに消えてくれないのだ。
そんなロウヒーローの言葉を聞いた一郎は、少し考えこんだ後、口を開いた。

「……牧師様、一つお願いがあります。僕の使徒になっていただけませんか?」
「使徒?」
「ええ。僕の理想とする、つまらない争いのない千年王国。
 その世界を築きあげるための同士となってほしいのです。
 あなたはかつて自分のことを贄だといった。
 ですが今のあなたはきっと……真剣に世界と向き合える人だ」

その言葉は、かつて聞いた天使たちの言葉によく似ていた。
だが目の前の少年は祭り上げるのではなく、『共に』と言った。
それに瞳には苛烈な意思だけではない。
ある種の誠実さと本気で人間という種の未来に対する憂いがあった。
現代の価値観を破壊する革命児。
その有り様は混沌(ケイオス)であり、メシア教徒よりもむしろガイア教徒に近いと言える。
だがその眼に宿った確固たる何かが、無軌道なガイア教徒とは一線を画していると感じられる。
真の救世主とは彼のような人間のことを言うのだろう。
彼ならば或いは真の救世を成せるのかもしれない。
だが――

「……いえ、遠慮しておきます。
 僕には僕のやるべきことがある。……少なくとも、今は」
「そうですか。残念です」

傍から見れば意外なほどにあっさりと引き下がる一郎。

「牧師様はそう答えるような気がしていました。
 それに……貴方の眼には未だ迷いがある」

やはり見透かされている。
そう思い、ロウヒーローは苦笑する。

「ええ。正直な所、今の僕は未だ確かな僕である自信がない。
 未だに確かな自分を取り戻していないような感覚がある。
 それでもかつてと違う道を、自分の意志で選ばなくてはいけない。
 今の君のように」
「……ふふ、やっぱりあなたは面白い人だ」

そう言って一郎は微笑む。
笑い慣れていないせいか、それは些か不気味では合ったが心の底からの笑みだった。
何せ元の世界では同世代の子どもたちはもちろんのこと、世の大人たちも自分と真正面から向き合おうとはしなかった。
両親ですら自分の姿から目を背け、見ようとはしなかった。
だが目の前の青年は"松下一郎"をまっすぐに見つめている。
恐れるでもなく、馬鹿にするでもなく、ただまっすぐに見つめようとしている。
だからこの"牧師様"と呼ばれる青年は一郎の興味を引いた。
それは自分が呼び出したものしか信用しない"悪魔くん"にとっては非常に珍しい事だった。

「……あなたの出す答え、僕も興味があります。
 もしも答えが出た際はぜひ聞かせてくださいね」
「ええ、僕も一郎くんに聞いて欲しいと思っていましたから」

悪魔くんの笑みに合わせるようにロウヒーローもその顔に微笑みを浮かべる。
礼拝堂に広がる奇妙な沈黙。
だがそれは決して不快なものではなかった。
不意にロウヒーローが口を開く。

「……それにしても君によく似た人を知っています。
 顔も、性格も、そのどれも似ていませんが、その意志の強そうな目が。混沌すら乗り越えそうなその目が」
「へえ。それは珍しいことがあったものだ。
 もしかしてお友達ですか?」
「ええ、僕の……友人です」
 それだけじゃない、きっとあの男にも――」

ロウヒーローの言葉が途切れる。

「あの男?」
「ああ、その……ここで話すにはふさわしくない名前だったので」

そう言ってロウヒーローは苦笑する。
礼拝堂、メシア教のお膝元で話せない名前といえば一つしか無い。
すなわち、"悪魔"に関することだ。

「ふふ、いいことを教えてさし上げましょう。
 ぼくは同級生から"悪魔くん"と呼ばれていたのです。
 ここに住んでいてこういうことを言うのも何ですが、ぼく以上にここにふさわしくない人物はいないと自負していますよ。
 ですから牧師様がその人の名前とやらをごまかしたところで今更なんですよ」

それは彼なりのユーモアだったのだろう。
少年に気を使わせてしまったことを恥じ、口を開く。
その男を見たのは救世主として祭り上げられた際に見たデータの中だった。
ガイア教の幹部にして、その正体は唯一神に歯向かった明けの明星。
その名は……

「ルシファー。仮の名前は確か――ルイ・サイファー、と」



  ■  ■  ■  



「……まったく、無茶をする」

部屋に戻ってきた主を見てザインは大きくため息をついた。
マスターは自分を部屋に待機させたまま、丸腰で敵陣に一人乗り込んでいったのだ。
普通に考えれば自殺行為だ。
だというのにこの少年は汗一つかいていない。
それどころか機嫌が良さそうですらある。

「無茶ではないよ。彼は敵ではないからね。
 むしろ僕達の求める千年王国に住まうべき善良な人間だ」

無傷で帰ってきている以上その言葉は真実だろう。
だがザインは主を戒めるように口を開く。

「………だが、彼も何かの願いがあってこの聖杯戦争に参加したのだろう。
 それが僕達の目的と違う可能性は――」
「ああ、わかっているって。
 もし僕達の前に立ち塞がることを選んだ時は容赦はしないよ。
 僕達には成し遂げるべき使命があるのだから」

誰もが幸せに暮らせる千年王国。
幾多の聖者が夢に見て、ついに到達できなかった幸福な世界。
それに手が届くであろう聖杯戦争という舞台は松下一郎にとって千載一遇のチャンスだ。
みすみす逃すつもりはない。
……例えそれが何者かの思惑通りであったとしても。

「……それにしても僕をこの東京へと誘った悪魔が君たちの世界の悪魔だったとはね。
 ぼくらが魔界と呼ぶ場所は、案外君たちの世界に通じているのかもしれない」

しかし何にせよ、あまりよろしくない事態だ。
この聖杯戦争は少なくとも悪魔の干渉を受けている。
ならば自分がまだ知らないだけで他にも外部から干渉を受けていると考えるのが妥当だろう。
果たして裁定者(ルーラー)はこのことを知っているのだろうか。

「やれやれ、困ったことになったなあ。
 まったく仮にも調停者(ルーラー)と名乗ってるんだから、管理ぐらいちゃんとしてくれないと困るよ」

一郎はそのままベッドに寝転がり、目を閉じる。

「マスター、眠るのか?」
「まさか。ちょっと明日以降のことを考えなきゃいけないから集中するだけさ」

億劫ではあるが呆けていて事態が好転することはないのだ。
明日は何かしら行動を起こさねば。
しかし盤面は一日目にして複雑怪奇なものになっている。

(さあて、どう動くべきかな……)

教会の一室で深く、静かに悪魔的頭脳は回転を始める。
それはある種の冒涜的な魔術めいていて――。


【B-4/品川・メシア教教会/1日目 夜】

【ロウヒーロー@真・女神転生Ⅰ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一人暮らしの学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:人として抱いた願いをまずは取り戻す
1.ジョーカーや夢といったかつてを思わせる状況を追うことで、今に至る自分自身を追い見つめなおす。
2.ジョーカーをどうするのかは自分の意思で決める。
3.救世主であり、友であった“彼”と“彼女”が二人でいられたのかが知りたい。
4.松下一郎は気がかりではあるが、今の自分は自分から彼の敵に回るつもりはない。
[備考]
※サンダルフォンの夢を何らかの予兆として捉えています。
 サンダルフォン@天使禁猟区についてエンジェルより情報を得ました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターだと確信しました。
※カオスヒーロー及びザ・ヒーローの真名を忘却しています。
※NPCと呼ばれる人々にも魂があるのではないかと考えています。


【エンジェル(無道刹那)@天使禁猟区 】
[状態]健康
[装備]なし(宝具は実体化させていない)
[道具]なし
[所持金]逃避行開始時の先輩からの選別込の所持金程度
[思考・状況]
基本行動方針:ロウヒーローの仲間として、彼が自分の生き方をできるよう共に戦う。
0.ルシファー、か……
1.ロウヒーローとともにジョーカーを追う。
2.ロウヒーローが予兆として捉えた夢について警戒。
 ロウヒーローが再び生贄の道を辿ろうものなら何としてでも止める。
3.様々な符号からこの聖杯戦争の裏に、自分たちに知らされている以上の何かや何者かがいるのではと懐疑的。
4.松下一郎をザフィケルと重ね、現状敵でないにしてもその策謀やいずれには警戒。
[備考]
※聖杯戦争に介入者がいる事を疑っています。しかし、今のところ手掛かりはありません。
※ジョーカー討伐クエストの詳細及びジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※松下一郎を聖杯戦争に参加しているマスターだと確信しました。


【松下一郎@悪魔くん 千年王国(全)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:ザインの宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:なぜ竜が目覚めた……?
3:ジョーカーの討伐報酬は魅力的に感じています。
4:ルイ・サイファーは何故僕を東京に送り込んだ?
5.ロウヒーローを使徒の一人として迎えたいと思っています。
[備考]
※『封印されし半身<セト>』が反応を示しました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと確信しました。


【ライダー(ザイン)@真・女神転生Ⅱ】
[状態] 健康
[装備] テンプルナイトとしての装備
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、千年王国を完成させる。
1:自身の宝具である『封印されし半身<セト>』を目覚めさせる。
2:竜の目覚めの兆しを感じ取り、高揚状態。
3:今の自分ではジョーカー討伐は難しいと考えています。
4:ロウヒーローに対して、複雑な感情を抱いています。
[備考]
※『封印されし半身<セト>』が反応を示しました。
※ジョーカー討伐クエストの詳細を把握しました。
※ジョーカー&バーサーカー組の情報を把握しました。
※ロウヒーローを聖杯戦争に参加しているマスターと確信しました。





BACK NEXT
025:人間(ひと)の手がまだ触れない 投下順 026: 
025:人間(ひと)の手がまだ触れない 時系列順 : 

BACK 登場キャラ NEXT
024:名前のない怪物(後編) ロウ・ヒーロー&エンジェル(無道刹那 : 
松下一郎(悪魔くん)&ライダー(ザイン  

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年02月13日 01:59