『造られたスキャンダル』
作者・大魔女グランディーヌ
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第三埠頭***
深夜のコンテナターミナルの中を、
何かから逃げるように必死に走りぬける一つの影。
黒ずくめの衣装にレオタード姿。首と腰には赤いマフラーを巻き、
そして顔には奇妙なメイクが施されている―――
―――主に諜報活動等を任務とするショッカーの女戦闘員である。
やがて数発の銃声とその弾丸が
女戦闘員を捕捉した。
女戦闘員「くっ…!」
木暮「そこまでだ! Gショッカーの女戦闘員!
大人しく我々と一緒に来てもらおうか」
重武装した一団が最新鋭の銃を向けつつ
女戦闘員を取り囲む。しかし女戦闘員はニヤリと笑い、
奥歯に仕込んであった何かを噛み砕いた。
女戦闘員「ヒヒヒヒ…ぐぶっ!!」
女戦闘員は地面に倒れこむと、
瞬く間に泡を吹いて身体が溶け、蒸発してしまった。
千恵「木暮さん!?」
木暮「しまった! 自決されたかっ」
そこへタイミングよく、どこからか黒塗りの車が近づいてきて、
重武装した一団のリーダーらしき男――木暮精一郎の前で停車する。
その車の後部座席から降りてきたのは、あの南雅彦である。
南「ご苦労だった、アンチショッカー同盟の諸君。
我々が提供した武器の火力は大したものだろう。
して首尾は?」
木暮「残念ながら捕獲前に自決されました」
南「死んだか。まあいい。その方がかえって手間が省ける」
千恵「南さん、いったい何を企んでいるんですか?」
木暮を補佐している女――石神千恵が訝しそうに尋ねる。
南「君たちは余計な事は考えなくてもいい。
それよりもこの女戦闘員の顔写真はあらかじめ
撮ってあるな?」
木暮「はい、それは確かに…」
南「よろしい。それだけ用意できれば充分だ。
君らも疲れただろう。今日はもう帰って休みたまえ」
それだけ言うと南雅彦は再び車に乗り込み、
すぐにいずこかへと去って行った。
千恵「木暮さん…」
木暮「言うな! もう私たちは後戻りできない所まで
きているんだ」
千恵「でも…いくらGショッカーと戦うためとはいえ、
地球至上主義者たちと手を組むなんて…」
木暮「確かに我々は奴らに駒として利用されているだろう。
しかし我々もまた奴らの力を利用しているんだ。
仮面ライダーと違い、本来戦う力のない我々には
これしかGショッカーと戦う方法がない。わかってくれ千恵さん」
千恵「………」
木暮「それに一度はゲルショッカーのナメクジキノコに
奪われたこの命だ。どうなろうと悔いはない」
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白河尚純邸***
白河「ようこそいらっしゃいました。
岸田長官、それに佐竹参謀。本日はお二人のために
ささやかな晩餐の宴を用意させていただきました」
白河尚純は、岸田長官と佐竹参謀の二人を
GUYS JAPAN赴任を祝うためと称して晩餐に招いていた。
勿論その目的はこの二人を
ロゴス側へと懐柔するためである。
岸田「白河さん、せっかくのお招きで恐縮だが、
我々はのんびり飯など食っているほど暇ではないのだ。
作戦が控えているので、すぐにでも失礼したいのだが?」
白河「まあそう仰らずに…フフフ」
佐竹「ところでこの絵は何です?」
佐竹参謀は、ダイニングルームに掲げられた、
何やら天使や怪物らしき姿が多く描かれた
巨大な壁画について指摘した。
白河「ああこの絵ですか。フフフ…。
よろしい、ご解説しましょう。この世界が生まれた時、
そこには絶対神であるテオスだけがいました」
佐竹「…テオス?」
白河「テオスは、光と闇とを分け、昼と夜とを分けます。
さらに天と地とを分け、陸と海を分けました。
こうして世界は創られたのです」
岸田「………」
白河「やがて孤独を寂しく感じたテオスは次に、
側近であるエルロードを創り、さらにマラークを創りました。
そのマラークを模って動物たちを創り、自分に似せて人間を
創り出しました。そして、世界は楽園となったのです」
岸田「フン。まあ、世界のどこにでもよくある神話だな」
そこへ白河の秘書がやってくる。
秘書「先生、警視庁の南さんからお電話です。
例の手筈が調ったので、至急お越し願いたいと…」
白河「わかった。――岸田長官、それに佐竹参謀、申し訳ない。
急用が出来たので私は席を外させていただきます。
お二人はどうぞそのまま食事をお続けください」
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都内の某高級ホテル***
三輪「白河代議士め、一体何のようじゃ。
ワシをこんなところへ呼びつけおってからに」
地球連邦軍極東支部長官・三輪防人准将は、
白河尚純と南雅彦の二人に急に呼びだされ、
お忍びでここのホテルを訪れていた。
三輪「この部屋か……」
三輪長官が客室の中へ入ると、なんと内閣総理大臣・剣桃太郎が
女性とふたり、全裸でベットの上で如何わしいことをしていたのだ!
三輪「な、なにーっ!?」
いきなりの光景を目の当たりにし驚愕する三輪長官。
カメラマンA「違う! 目線はそっちじゃない!!」
カメラマンB「もっとお互いなまめかしく見つめ合って!!」
監督「よーし、OK! じゃあ次バックから本番いってみよう!!」
三輪「こ、これは一体……!?」
白河「驚かれましたかな? 三輪長官」
三輪「せ、説明しろ白河先生。なぜ総理がこんなところで
女と乳繰り合っておるのだ? あれは間違いなく総理自身だぞ!」
南「いえ、あれは役者です。整形手術と特殊メイクアップを施し、
本物そっくりに似せてありますが」
三輪「役者…? つまりあれは偽者か?
なんのためにそんなことを?」
白河「野暮ですよ三輪長官。もちろん目的は我々の目の上のたんこぶである
内閣総理大臣・剣桃太郎――奴を失脚させるためです」
南「若さと行動力、そして清廉なイメージ。
剣総理は今、国民から圧倒的な支持を受けています」
三輪「…それはそうだろうが、不倫スキャンダルくらいで
あの剣桃太郎を総理の座から引き摺り下ろすことが出来るのか?
奴は広域指定暴力団の組長と親友同士だと公言しても、
未だに高支持率のまま総理の座に居座っておるような男だぞ」
すると南雅彦が三輪長官に一枚の女の顔写真を差し出した。
その写真に映っている女こそ、先ほどのアンチショッカー同盟に
追われていたショッカー女戦闘員である。
三輪「なんと!? では女の方は…!!」
南「その通り、ベットの女優の方はショッカーの女戦闘員の顔に
似せてあります。つまり剣総理は一国を預かる首相の地位にいながら、
Gショッカーの女性構成員と密かに一夜を共にしていたという筋書きです」
白河「国民の生命と財産を守るべき立場の内閣総理大臣が、
その国民の安全を脅かす侵略者の手先と同じベットの上で寝ていたのですから、
これは国家の安全保障上の重大問題です。これで奴は終わりです」
三輪「――す、すばらしいぞ白河先生!!」
帰りの車中***
深夜の銀座の街中を走る黒塗りの公用車……
三輪「フフフ……あとはワシに任せるがよい。
これを使うに打ってつけの舞台があるのだ。
今週臨時国会が召集され、委員会に参考人として召致された
ワシと奴との答弁が予定されておる。その席でこの爆弾を炸裂させてやる。
その時の奴の顔が目に浮かぶわい」
白河「期待していますよ。ああそうそう…近々ブルーコスモスの
ムルタ・アズラエル氏が日本の現状視察のため、極秘裏に
訪日されるようです。総大主教猊下のご期待にお応えするためにも、
そろそろまた新しい“目に見える実績”を上げていただかないことにはね…」
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△木暮精一郎、石神千恵→アンチショッカー同盟の組織強化のため、
不本意ながらも
ロゴスの支援を受けている模様。
△岸田長官、佐竹参謀→白河尚純邸に晩餐に招待される。
●白河尚純、南雅彦、三輪防人→剣桃太郎の女性スキャンダルを捏造し、
総理失脚の陰謀を着々と進める。
【今回の新規登場】
△木暮精一郎(仮面ライダー)
アンチショッカー同盟の日本におけるリーダー。
△石神千恵(仮面ライダー)
アンチショッカー同盟の日本支部の女性メンバー。
最終更新:2020年10月29日 10:56