『怪獣王の復活』
作者 凱聖クールギン
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南太平洋・ラゴス島近海***
美しいエメラルドグリーンの海原に、一隻の漁船が白波の航跡を引いていた。
かつて太平洋戦争の激戦地の一つとなったここラゴス島も、
終戦から長い月日が経った今は、まるで全てが悪い夢だったかのように
平和で長閑な南洋の景色が広がっている。
漁師「全然いねえな…。どうしちまったんだ」
漁船を操縦しているラゴス島民の漁師は煙草を咥えながら、
魚群探知機の画面と睨めっこをして毒づいた。
今年はここまでかなりの豊漁だったのだが、
ここ数日はどうしたわけか、海に魚がさっぱりいなくなっている。
漁師「おっ…!?」
突然、魚群探知機が何かの影を捉えた。
こいつは大きな群れだな――と一瞬漁師は思ったが、そうではない。
その影は群れではなく、それだけで一つの個体であった。
鯨どころの大きさではない。恐ろしく巨大な何かが、ゆっくりと船の真下を泳いでいる…。
漁師「うわぁぁぁぁっ――!!」
言い知れぬ恐怖を漁師が感じた次の瞬間、
海中から放射された青白い光熱が漁船を包み、
一瞬の内に漁師もろとも焼き尽くして海の藻屑に変えてしまった…。
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東京・赤坂***
夜。赤坂の料亭で、剣桃太郎首相はある老人と会談していた。
元内閣総理大臣で、民自党の大物長老議員の一人、三田村清輝である。
三田村「剣君、ダカールでは本当にお疲れ様。
返す返すも見事な手腕だったね」
桃太郎「いえ、ティターンズに対抗する各国首脳や軍人達、
それに世界各地で正義のために戦ってくれたヒーロー達の力があったからこそです。
それより三田村先生、太平洋上で相次いでいる、例の海難事故ですが…」
三田村「ああ、間違いない。
海底火山の噴火だの、浮遊機雷の爆発だのと
マスコミは色々憶測を飛ばしているが、私は確信しているよ。
…あれはゴジラだ」
ラゴス島で最初の漁船炎上事故があってから一週間。
船が突如、炎に包まれ沈没するという怪事件はその後も続発していた。
しかもその発生場所は少しずつ太平洋を北上し、日本に近付いている。
桃太郎「このままでは日本の領海内でも同様の事故が起きるのは時間の問題です。
政府としても、早急に手を打たなければなりません」
三田村「いざとなれば太平洋上の船舶の航行の全面停止も含め、
弱腰にならずに思い切った手段を講じるべきだよ。
経済や通商の面での支障も多々あるだろうが、犠牲者が出てからでは遅すぎる」
三田村は1984年のゴジラ出現の際、日本の総理大臣を務めていた男である。
米ソ両国がゴジラ撃滅のため東京での核ミサイルの使用を強硬に主張する中、
両国首脳と直談判してこれを説得、翻意させ、
東京を核による破滅から守った当時の功績は今や政界の語り草となっている。
桃太郎「地球連邦軍の極東支部も
ロゴス一派を追放し、
各地に左遷されていた主要メンバーが戻りました。
彼らと日本政府との連絡を密にし、
いつでも自衛隊と共同作戦が取れるよう備えておかなくてはなりません」
三田村「その意味では、いい時期にティターンズ派の大掃除ができたね。
極東支部が麻痺している時に怪獣が日本に現れたらと思うと……ぞっとするよ」
桃太郎「実際、霞ヶ浦にペギラとチタノザウルスが現れた際には、
GUYS JAPANの活躍が人々を守る大きな力になりました。
チタノザウルスに対する超音波作戦を自衛隊とDASHが共同で行なえた事は、
今後に向けてとても良いテストケースとなります」
三田村「対ゴジラ最終兵器……メカゴジラの建造は進んでいるのかね?」
桃太郎「怠りなく。後は通信システムの最終調整と、
プラズマ・グレネード及びアプソリュート・ゼロの取り付け作業を残すのみとの事です。
かつてのGフォース製メカゴジラ、三式機龍、MOGERA等、
これまでの対ゴジラ決戦兵器の技術の全てを結集した、
最新最強のメカゴジラが間もなく完成します」
三田村「私としては、インファント島との外交も強化し、
いざという時はモスラの力を貸してもらえるよう
働きかけておいた方がいいと思う」
モスラを島の守護神として崇めるインファント島はロリシカ国の統治下にあるが、
近年では日本の丸友商事が土地を買い取って開発を進めるなど、
日本との関わりも深い島である。
三田村「剣君、怪獣災害とは戦争だよ。
怪獣それ自体の脅威はもちろんだが、国外、国内を問わず、
様々な人物や団体がその混乱に乗じて動いてくる。
我々政治家の使命は、そうした荒波のような無数の危難から国民を守る事だ。
男塾出身の武闘派総理として知られた君に、私から言うのもおかしな話だが…
…しっかり戦ってくれたまえ」
桃太郎「――押忍!!」
総理官邸にゴジラ上陸の第一報が入ったのは、
深夜、会談を終えた首相が官邸に戻った直後の事であった。
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大戸島***
太平洋に浮かぶ小さな孤島・大戸島。
この島には古い言い伝えがある。
島の海には呉爾羅という巨大な怪物が棲んでいて、海の魚を食い尽くすと、
陸へ上がって来て人間まで襲って餌食にするという…。
かつては呉爾羅が村を襲うのを防ぐため、不漁の時には若い女を筏に縛って海へ流し、
生贄として捧げたという忌まわしい風習もあったが、
それだけ島民にとっては、呉爾羅は昔から強烈な畏怖の対象だったのである。
ゴジラ「ギャァァォォォ――ン!!」
島民もすっかり寝静まっていた深夜、
天の怒りを表すかのような激しい暴風雨の中、
深い闇を湛えた漆黒の海が青白く光り、水飛沫と共に巨大な怪獣が上半身を現した。
伝説の呉爾羅――いや、ゴジラである。
警官「怪獣出現です! 丘の上の公民館へ、速やかに避難して下さい!」
大戸島の人口は少なく、鄙びた漁村がいくつかあるだけである。
島民達は恐怖に慄きながらも家財道具を担ぎ、子供や歩けない老人を抱きかかえて、
地元の警察官の誘導に従い、豪雨の中をひたすら丘の方へと避難する。
ゴジラ「ギャォォォ――ン!!」
停泊している漁船を踏み潰し、浜に上陸したゴジラは背鰭を発光させたかと思うと、
青白い放射能熱線を口から発射した。
チェレンコフ光を帯びて闇夜に輝く恐るべき高熱の吐息は、
直撃を受けた木造倉庫を周囲の林ごと爆発炎上させる。
ドォ…ン! ドォ…ン!
地鳴りのような足音を響かせながら、ゆっくりと地上を前進するゴジラ。
親とはぐれて逃げ遅れた子供が、丘を上る道の途中で泣いている。
一歩、また一歩と、ゴジラは丘に近付いて来る。
その時――。
キィィィィィィン――!!
空の彼方から、甲高い轟音を響かせて接近する謎の飛行物体があった。
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北国のエスキモーに古くから伝わる、もう一つの伝説がある。
アトランティス大陸の超古代文明が生み出した地球の守護神ガメラ。
それは地球の生命エネルギー「マナ」を活動力とする生体兵器であり、
人間のみならず全ての生態系、ひいては地球そのものを守る存在であるという…。
闇を切り裂き、雨を薙ぎ払いながら高速で回転飛行する球体。
噴射される白いジェットの炎が眩しく光る。
謎の飛行物体の接近に反応し、ゴジラが顔を空へ向けた。
その黒い円盤状の球体は、ゴジラの注意を引きながらその頭上高くをしばらく旋回し、
少しずつ高度を下げ始める。
ゴジラ「ギャォォォ――ン!?」
急加速しゴジラ目掛けて一直線に突っ込んで行く黒い飛行物体。
焦れったそうに飛行物体の旋回を眺めていたゴジラも、
咄嗟の危険を察知して即座に熱線を発射した。
飛行物体は熱線の直撃を弾きながら突進を続け、
回転カッターのようにすれ違いざまにゴジラの肩を斬る。
肩から火花を上げ、唸り声を発して倒れるゴジラ…。
ガメラ「キャォォォ――ン!!」
土砂を巻き上げ、地上に激突するように降りた円盤状の球体から四本の脚と頭を出し、
遂に怪獣としての全身像を現したガメラが天に向かって咆える。
ゴジラもすぐさま立ち直り、負けじと空気が割れんばかりの咆哮を発した。
ゴジラ「グゥゥ………!!」
ガメラ「ガゥゥ………!!」
二大怪獣はしばし牙を剥き合い対峙していたが、
やがてゴジラの背鰭に青白い光が灯り、ガメラが大きく息を吸って赤い光を口に集める。
スパークする放射能、収束するマナ。
そして――。
ズドォォォォォン!!!
ゴジラの放射能熱線とガメラのプラズマ火球が同時に発射され、空中で激突!
島を吹き飛ばすかのような凄まじい大爆発が起こり、
膨らむ爆炎が二大怪獣をその中へ呑み込んで行った…。
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△ゴジラ→海底から船舶を襲いつつラゴス島から日本の領海まで北上。
大戸島に上陸しガメラと戦うが引き分ける。
○ガメラ→大戸島に飛来しゴジラに戦いを挑むが引き分ける。
○剣桃太郎→今後の怪獣対策について、赤坂の料亭で三田村清輝と会談。
○三田村清輝→今後の怪獣対策について、赤坂の料亭で剣桃太郎首相と会談。
【今回の新規登場】
△ゴジラ(ゴジラシリーズ)
中生代の恐竜の生き残りが、水爆実験の放射能を浴びて変異した怪獣。
核エネルギーを活動力とし、口から青白い放射能熱線を吐く。
核を生み出した人類に対する地球の警鐘の如く人類文明に脅威を与えるが、
宇宙怪獣の襲来など地球の危機に対しては人類との共闘も厭わず立ち向かう場合もある。
恐るべき生命力を持ち、数多くの怪獣達と戦ってきた不滅の怪獣王である。
○ガメラ(ガメラシリーズ)
巨大な亀のような形をした怪獣。
アトランティス大陸の超古代文明によってギャオスを倒すために作られた生体兵器で、
その使命は人間のみならず全ての生態系、そして地球を守る事である。
特に人間の子供を守ろうとする習性があり、人間と精神交信をする事も可能。
口からプラズマ火球を吐き、頭と手足を甲羅に引っ込めてジェット噴射で飛行する。
○三田村清輝(ゴジラ 1984年版)
元内閣総理大臣。
総理の任期を終えようとしていた矢先にゴジラ出現の事態に遭遇し、
非常緊急対策本部の最高責任者として対応。
米ソ両国が主張した東京での核ミサイル使用を非核三原則を貫いて断固拒否し、
東京を核による壊滅から守った。
最終更新:2020年11月19日 07:14