『大追跡!鳳凰を狩る餓狼』-2
作者・凱聖クールギン
1392
東京・メガロシティ***
八荒「あ~疲れた。もうお腹ペコペコだよ」
舞「お昼はマグロナルドのハンバーガーにしましょう」
午前中のシグフェル探しを切り上げ、昼食を食べる事にした仰木舞と北八荒。
近くのハンバーガーショップでハンバーガーを買い、
公園のベンチに腰掛けて休憩する。
流星「………」
食事を必要としないロボットの流星は舞と八荒が昼食を摂っている間、
舞から貸してもらったタブレットで動画を開き、
何やらブツブツと呟きながら真剣に見入っている。
八荒「なあ流星、何見てんだ?」
流星「ウルトラマンと怪獣との戦いの映像資料だ。
バリアを張る怪獣に、ウルトラマンはそれを飛び越える
ハイジャンプからのキックで倒した」
タブレットの画面の中では、
かつてウルトラマンジャックと古代怪獣キングザウルス三世が戦った際の記録映像が流れている。
スペシウム光線さえ防いでしまうキングザウルス三世の強力なバリアを、
ジャックは訓練によって編み出した新技・流星キックで破ったのだ。
流星「助走を十分につけてジャンプ、
空中で体をひねりキックの体勢へ――」
流星の電子頭脳に組み込まれた戦闘マニュアルコンピューターが、
動画内のウルトラ戦士の動きを詳細に分析して戦い方をインプットする。
巻き戻しと再生を繰り返し、しばしタブレットの画面に没頭していた流星だったが、
彼の聴覚が突如、何かが空を飛ぶ音を捉えた。
流星「あっ! シグフェルだ!」
舞「えっ!? どこどこ?」
マンションの5階の窓から飛び立ち、
翼を羽ばたかせて飛ぶシグフェルの姿を流星は見た。
舞と八荒も慌てて空を見上げたが、
その時にはシグフェルはもうビルの影に隠れてしまっていた。
メタルダー「サイドファントム!」
すぐにメタルダーに瞬転した流星はサイドファントムを呼び寄せ、
乗り込むと飛行モードでシグフェルを追跡した。
八荒「俺達も行こう!」
舞「ええ!」
舞と八荒も食事を中断して近くを走っていたタクシーを呼び止め、
大慌てで飛び乗る。
運転手「はい、どちらまで?」
八荒「ええっと、あっちへ!」
運転手「は…?」
舞「あっちの方向に、とにかく急いで下さい。早く!」
メタルダーが向かった方向へ、タクシーは走り出した。
1393
シグフェル「どこへ行った…!?」
紅蓮の翼を広げ、空高く飛び立ったシグフェルは旋回しながらゴブリットを探す。
すると、眼下で人の叫び声が聞こえ、爆発が起こった。
シグフェル「あいつ、派手に暴れてるな」
サーキュラダーに乗って逃げながら、ゴブリットは街を破壊していた。
「これからはもっと慎重に行動する」とは誓ったばかりだが、
目の前で怪人が暴れているのを無視するわけには行かない。
火の手が上がった方向を目指してシグフェルは羽ばたいた。
シグフェル「見つけたぞ!」
高度を下げてビルの谷間をすり抜け大通りに出たシグフェルは、
ミサイルを撃ちながら猛スピードで爆走している
ゴブリットのサーキュラダーを発見、追跡を開始する。
ゴブリット「へっ、来やがったなシグフェル!」
左腕を潰され、片手運転でサーキュラダーを操縦するゴブリットは、
シグフェルが自分を追って来るようにと、
サーキュラダーのミサイルを闇雲に乱射していた。
彼のバイクが走り抜ける横で店のショーウィンドウが割れ、
ガソリンスタンドが炎に包まれ、車が横転して人々が悲鳴を上げる。
シグフェル「やめろっ!」
ゴブリットを追尾して飛びながら、
シグフェルは指先から火炎を放ってサーキュラダーを狙うが、
ゴブリットは華麗な運転テクニックでこれをかわし、
火炎は路面のアスファルトに命中して爆発を起こす。
シグフェル「くそっ、この街中じゃ、
下手に外すと大変な事になってしまう」
交通量の多い中、車列を次々かき分けてビル街を疾走するゴブリットに、
周囲への誤爆を恐れてシグフェルも容易に手が出せない。
ゴブリット「へへっ、このままポイント8まで逃げ切ればこっちのもんだぜ!」
メガロシティの最南端、ポイント8の港湾エリアには、
シグフェル捜索のため出動中のクロスランダーがいる。
ゴブリットはそこまでシグフェルを誘き寄せる腹づもりなのだ。
ゴブリット「(あ~あ、これじゃ結局元の木阿弥じゃん…。
クロスランダーの下で働く運命からは逃れられねえのかよ。
俺一人でシグフェルを捕まえれば大出世も夢じゃねえかと思ったけど、
どう引っ繰り返っても勝てる相手じゃねえしなあ…orz)」
出世と独立は叶わず、結局元の上司に泣きつく破目に…。
今はこれしか選択肢がないとは言え、
己の力不足と運命とを呪ってがっくりうなだれるゴブリットであった。
とにかく急いでクロスランダーの元まで逃げなければ、
ゴブリットはシグフェルの火炎で今度こそ全身バーベキューである。
ゴブリット「ちっくしょぉぉっ!!(涙)」
絶叫したゴブリットは赤信号を無視して交差点に突っ込み、
目の前を横切るトラックを豪快なウィリージャンプで飛び越えた。
1394
東京メガロシティ・港湾地帯***
ゴチャック「どうだった…?」
デデモス「駄目っす。そちらは?」
ゴチャック「うむ…、こっちも手がかりなしだ」
メガロシティ南端の港湾地帯。
手分けしてシグフェルを探していたゴチャックとデデモスが合流し、
互いに報告し合う。
ゴチャック「シグフェルはイーバという怪物を倒すために現れる。
イーバの正体は不明だが、
秘密警察の調べによれば
黄泉がえった人間をターゲットにして襲う化け物らしい」
デデモス「黄泉がえった者がいる会社や学校などを調べ上げ、
マークしてイーバの出現を待ってはいるのですが、
なかなか現れてはくれませんねえ」
ゴチャック「ここは根競べだ。
粘り強く見張り続けていれば、いずれイーバは現れる。
そしてそれを倒すためにシグフェルも…」
クロスランダー「………」
戦闘用ジープ・ドライガンのボンネットの上に腰掛けながら、
クロスランダーは心ここに在らずという様子で
先程からずっと海の向こうを見詰めている。
デデモス「あの…クロスランダー様?」
クロスランダー「…ゴブリットの奴が単独任務を与えられ、
しかもそれが成功した暁には、俺の部下から離れて
一人立ちするのを帝王に認められるだと…?
帝王はこの俺から部下までも取り上げ、
いよいよ邪険に扱われるようになったか…くそっ!」
デデモス「お、俺に当たらないで下さいよ~」
ボンネットから飛び降りたクロスランダーは、
苛立ち任せに部下のデデモスを蹴り飛ばした。
ゴチャック「ゴブリットの将来も考えての
帝王と軍団長殿のご配慮でありましょう。
決してクロスランダー様を冷遇しての事ではないはずです」
バルスキーの命令により、当面の間、ゴブリットの穴埋めとして
クロスランダーの下に付く事になったゴチャックがそう言って慰める。
デデモス「そうですよ。ゴブリットの代わりに
ゴチャック殿ほどのお方をお貸し下さった事からしても、
軍団長殿のお心遣いは明白じゃないですか」
ゴチャック「それはどうだか分からぬが…。
私は銃を持たない格闘型ロボットゆえ、
大したお役には立てんかも知れんがよろしくお願いする」
確かに、ゴチャックはその実績からして、
このような役目に決して最適だとは言えない。軽闘士の代わりなど、
もっと下の階級の者にやらせるのが本来ならば筋であろう。
ただ、最近どこか焦りを募らせているクロスランダーを心配して、
バルスキーは敢えて実力・階級が高めで、
性格のしっかりしているゴチャックを目付役に抜擢したのだ。
クロスランダー「その謙遜ぶりがかえって好かんな。
元は同じ爆闘士だったのが、今は仮とは言え上下関係だ。
お前としては面白いはずがあるまい」
ゴチャック「貴殿の方こそ随分苛ついておられるな。
軍団長殿はそれが懸念で、わざわざ私を寄越されたのですぞ」
クロスランダー「ナンバー1ロボットのこの俺が、
今の現状に心穏やかに甘んじてなどいられるわけがなかろう。
何としてもシグフェルをこの手で捕らえ、
ナンバー1の実力を証明しなければ、俺には後がないのだ…!」
ゴチャック「そうした焦りが、
かえって貴殿の足枷になっている面もあるのではありませぬか。
ナンバー1の栄誉を手にしたければ、
まずはその邪魔となる雑念を振り払われよ」
クロスランダー「………」
クロスランダーが押し黙り、会話が途切れたその時、
ゴブリットからシグフェル発見の通信が入った。
クロスランダー「何!? ゴブリットがシグフェルを発見しただと?」
デデモス「はいっ! ゴブリットの奴、
シグフェルを引き付けながらこっちへ向かっているそうです!」
ゴチャック「運が向いて来ましたな。
シグフェルをここまで誘き寄せ、我らの手で捕獲すれば…」
クロスランダー「大手柄は俺達のものというわけか。
いいだろう。ここでシグフェルを迎え撃つ。
ゴブリットに早くここまで逃げて来いと伝えろ。
シグフェルを捕らえるのはこの暴魂クロスランダー様だ!」
ナンバー1の宿命を負う、戦功に飢えた暗殺者。
餓狼クロスランダーが今、シグフェルに対してその牙を剥いた。
1395
ゴブリット「ク、クロスランダー様~!」
シグフェルに空から追跡されながら、ゴブリットはほうほうの体で
クロスランダー達の待つ港湾地帯へと逃げ込んだ。
ゴチャック「おう! 来たか」
デデモス「うわぁ…。こっぴどくやられてますよ」
ゴブリット「駄目だ~。シグフェルは強い!」
サーキュラダーを転がり落ちるように降りたゴブリットは、
焼け焦げて自由の利かなくなった左腕を庇いながら
へなへなと地面にへたり込んだ。
クロスランダー「おお、こんな所で会うとは奇遇だなゴブリット。
何でも、俺の配下から抜けるチャンスを帝王に与えられたそうじゃないか」
ゴブリット「げっ…! あ、いや、それはその…」
クロスランダー「ガタガタ震えるな。怒ってなどおらん。
それで、その山野とかいう男の抹殺は果たせたのか?」
ゴブリット「それが…。射殺寸前に別の何者かが山野の命を奪い、
確認のため乗り込んだところでシグフェルと遭遇、
戦いましたが敵わずこのザマでございます…」
クロスランダー「フハハハハ! そうか、それは災難だったな。
暗殺の仕事を横取りされ、シグフェル捕獲も失敗では立つ瀬があるまい。
小物の分際で身の程知らずな夢など見るからそういう痛い目に遭うのだ」
デデモス「(うわ、ひでえ言い方…)」
ゴブリット「そ、そんな事よりシグフェルが!
シグフェルがもうすぐこっちへ来ますぜ!
俺一人じゃ全然敵わねえっす。助けて下さいよクロスランダー様!」
クロスランダー「よしよしいいだろう。
では任務を果たせなかった以上、俺の部下は当分やめられんとして、
ここは上官たるもの、可愛い部下のために助け船を出してやる。
ここから先は俺の言う通りにするのだ。分かったな」
ゴブリット「あ、ありがとうございやす…」
デデモス「へっ、ドンマイ」
こうして結局クロスランダーの配下に戻ってしまったゴブリット。
クロスランダーは相変わらず口汚く罵りながらも、
子分が帰って来た事にどこか嬉しそうである。
がっくりうなだれる相方の肩を、デデモスは軽く叩いて慰めた。
ゴチャック「しかし、シグフェルはあのキングダークをも破った難敵。
果たしてどう迎え撃ちましょう」
クロスランダー「俺に考えがある。
…いいかゴブリット。こいつを使え」
もはや左腕が動かず、ライフルを持てなくなったゴブリットに、
クロスランダーは自分の二挺拳銃の片方を貸し与えて耳打ちした。
◇ ◇ ◇
シグフェル「街をあちこち壊しやがって…。
逃がしはしないぞ!」
ゴブリットを追って空を飛び、港湾地帯にやって来たシグフェルは、
海沿いの貨物倉庫の前にそのゴブリットが一人立っているのを発見し地上へ降りた。
ゴブリット「よう、待ちくたびれたぜシグフェル。ここで勝負だ」
シグフェル「勝負…?」
クロスランダーから貸し与えられた拳銃を右手に掲げ、
ゴブリットは芝居がかったように言う。
シグフェル「何の事だ」
ゴブリット「ガンファイトさ。知ってるだろ?
お前さんは銃の代わりに、さっきの炎を使えばいい」
シグフェル「西部劇の真似事か」
ゴブリット「男の決闘って奴よ。やるのかやらねえのか。
ひょっとしてまさか、この俺と早撃ちを競うのが怖いってわけじゃねえだろうな」
シグフェル「…望むところだ」
決闘の申し出に乗ったシグフェルはゴブリットを正面に見据え、
仁王立ちの姿勢を取る。
そこへ、正午を報せる近くの教会の鐘の音が聞こえて来た。
ゴブリット「あの鐘が鳴り終わったらファイト・スタートだ」
シグフェル「いいだろう…」
鐘が鳴り止んだのを合図に撃ち合う早撃ち対決。
互いに敵の動きを凝視しながら、聞こえて来る鐘の音に耳を澄ます。
拳銃を持った右手をゆっくりと掲げ、射撃の構えを取るゴブリット。
シグフェルも右手の指先をゴブリットに向け、火炎の発射態勢に入る。
そして――。
1396
ゴブリット「――喰らえ!」
シグフェル「――ハァッ!」
教会の鐘が鳴り止んだと同時に撃ち合う両者。
動き出しはシグフェルの方がわずかに早く、
ゴブリットの銃がビーム弾を放つ前に、
指先から直線状に伸びた炎がゴブリットの右手を焼いて銃を叩き落とした。
だが次の瞬間、別の方向から飛んで来たもう一発のビーム弾が、
勝利を確信したシグフェルの胸に炸裂する。
シグフェル「がっ…!?」
不意打ちの一撃を受けてダメージを負い、
地面に膝を突いて崩れるシグフェル。
クロスランダー「フハハハハ! 油断したなシグフェル!
目の前の敵に気を取られて、物陰にいた狙撃手に気付かんとは!
一対一の勝負だなどと誰が言った?」
貨物倉庫の陰から現れたクロスランダーが銃を掲げ、勝ち誇ったように大笑する。
シグフェルに右腕までやられて倒れ込んだゴブリットを、
駆け寄ったゴチャックが支えて助け起こした。
デデモスは左手の鉤爪をワイヤーフックのように射出し、
シグフェルの首に引っ掛けて捕らえる。
シグフェル「うっ!」
デデモス「ヒャハハハハ!
クロスランダー様、奴を拘束しました」
クロスランダー「よくやったデデモス!
ゴブリットも囮の役目ご苦労! これで大手柄だ。
謎の鳳凰シグフェル、この暴魂クロスランダー様が捕らえたぞ!」
デデモス「(いやいや、俺達がでしょ)」
ゴブリット「(手柄はいつも一人占め。
この宿命からはやっぱ逃れられねえか…)」
ゴブリットが取り落とした自分の銃を拾い、
シグフェルの顔に突き付けてご満悦のクロスランダー。
その後ろで、デデモスとゴブリットは小さく肩をすぼませる。
シグフェル「くっ…! 卑怯だぞ」
クロスランダー「卑怯? フン、青いな。
戦士たるものはどんな汚い手を使おうが、勝てばいいのだ!」
ガンファイトを真に受けてしまった素直さが仇となった。
本来、シグフェルの優れた感覚能力をもってすれば伏兵に気付けない事はなかったが、
決闘という言葉に騙されて目の前のゴブリットの動きに全神経を集中させていたシグフェルは
隠れていたクロスランダーの存在を察知し損ねたのである。
クロスランダー「ククク…。帝王もこれでお喜びになるだろう。
帝王のご寵愛も、ナンバー1の名声もまた俺の手に戻る。
俺は史上最高のガンマンロボット、クロスランダーだ!
フフフ…フハハハハハ!!」
狂気を帯びたように高笑いするクロスランダー。
だが、その笑い声を空の彼方から聞こえてくる
サイドファントムの爆音がかき消した。
メタルダー「シグフェル!」
シグフェルを追ってサイドファントムで飛んで来たメタルダーの到着である。
地上に降りたメタルダーはサイドファントムのアクセルを踏み込み、
猛スピードで突っ込むと、車体をぶつけてデデモスのワイヤーフックを切断。
更にクロスランダーを撥ね飛ばし、シグフェルの元へ駆け寄った。
メタルダー「シグフェル、大丈夫か」
シグフェル「ありがとう…。あなたは
ブレイバーズの?」
メタルダー「ああ。メタルダーだ」
シグフェルを助け起こしたメタルダー。
だが二人をすぐに四体の悪の戦闘ロボット達が取り囲む。
クロスランダー「メタルダーめ、いいところに来た。
貴様も俺がここで倒してやる!」
メタルダー「君と話したい事は色々あるが、
全てはこれが片付いてからだ。
まだ戦えるか? シグフェル」
シグフェル「ああ…。もちろんだ!」
全身に気合を入れて立ち上がるシグフェル。
両者が戦闘態勢を取り、今まさにぶつかろうとしたその時…。
突如として空間が歪んで時空クレバスが開き、
次元の向こうから恐るべき異形の怪物が姿を現した――。
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○メタルダー→シグフェルを発見し追跡。ネロス軍団員と戦っているシグフェルの救援に入る。
○仰木舞→シグフェルを発見しタクシーで追う。
○北八荒→シグフェルを発見しタクシーで追う。
●クロスランダー→ゴブリットを囮に使いシグフェルを狙撃する。
●ゴブリット→クロスランダーの元へ逃げ込み、囮に使われる。
●デデモス→シグフェルを左手の鉤爪で捕らえるがメタルダーに邪魔される。
●ゴチャック→ゴブリットの代わりにクロスランダーの部下に仮配属。
シグフェルとメタルダーを包囲する。
○シグフェル→ゴブリットを追跡し戦闘。クロスランダーの狙撃を受けピンチになるが、
メタルダーに助けられる。
最終更新:2020年11月26日 10:28