『砂漠の姫の来日』-2
作者・ティアラロイド
1447
実は一か月前ほど前のこと。
フィリナはフランス南西部・アルカションの自邸で、
日本にいる慎哉から手紙を受け取っていた。
「親愛なるフィリナ様」で始まるその手紙には、
光平がシグフェルとなってしまった事情が
詳細に綴られていた。
紅蓮の鳳凰シグフェルとして謎の怪生物イーバとの戦いに身を投じる事になった光平。
しかし光平を異形の身体へと変えた張本人・東条寺理乃の手掛かりはぷつりと途絶え、
ブレイバーズとGショッカーの戦いにも否応なく巻き込まれる事が多くなり、
今後の先行きに不安を抱き思い悩んだ光平たちは、後見人であるフィリナに思い切って
事情を打ち明けて相談を仰ぐこととしたのだった。
フィリナ「これは…!?」
手紙を読んだフィリナは、最初は何の冗談かと思った。
しかし慎哉はこんな幼稚な冗談を手紙にしたためて
送ってくるような人間ではない。
それに電子メールではなく、わざわざ手書きの手紙にして
国際郵便書留にして送った来たという事は、
万一の他者による傍受や誤送信を恐れたのだろう。
それだけ用心深く行動したという事は、
これは只事ではないという事をフィリナも察し、
急遽スケジュールを調整して来日の運びとなったのである。
…とはいえ、これは正直フィリナにも手に余る事であった。
いかに世界有数の石油王一族で重要な地位を占めるフィリナといえども
彼女一人でどうにかなることではなかった。
国際ビジネスの世界や社交界では経験豊富ではあっても、
「海外で暮らす従弟が突然、異形の超人的存在に変貌した」など
人生初めての経験だ。どうしてよいものか見当すらつかない
というのが本音だろう。
ただ「シグフェルの正体」の秘密を誰にも漏らさずに黙っていれば
これからもそれで済むという事ではないだろう。現に光平たちはこれまで
本来ならば無関係な事件に何度も巻き込まれている。
相応の対策を講じなければならない。それも急を要する。
フィリナ「私たちだけでいくら思案したところで、何も見えてはこないわ。
やはりしかるべき専門家か組織に相談すべきよ」
慎哉「まさかフィリナさんは、光平の事を
ブレイバーズに知らせる
つもりなんですか?」
慎哉は
ブレイバーズに助けを求める考えには難色を示した。
ブレイバーズが光平を「ただの戦力」と看做して利用するだけに
終わるのではと疑って心配しているのだ。
フィリナ「必ずしも頼る相手は
ブレイバーズだけとは
限らないわ。私の知っているフランスのある有名医科大学に、
信頼できるサイボーグ工学の先生がいらっしゃるわ。
その先生にお願いしてみるのも、一つの手段ね」
優香「でもそうなると、光平くんはしばらく日本から
離れる事になるんですか…?」
フィリナ「そうなるわね…」
光平「フィリナ……」
慎哉「………」
「光平が日本から離れる」というフィリナの言葉に、
優香と慎哉の顔は一様に曇った。
やはり光平と長期間別れる事になるのは
寂しいのだろう。
フィリナ「ごめんなさい。何も慌てて今決める事はないわ。
みんなでじっくり一番よい選択肢を考えていきましょう」
光平「そうだよ。まだ時間はたっぷりあるんだ。
ゆっくり考えようぜ」
優香「光平くん…」
慎哉「そうだな。ここでうじうじ悩んでたってしょうがないよな」
フィリナ「その東条寺理乃という女と
その父親についても私の方で詳しく調べてみるわ。
じゃあこの話はいったんはお開きにしましょう。
ところで明日はお休みなのよね。慎哉、優香、明日は
二人とも時間は空いてる?」
慎哉「俺なら空いてますよ」
優香「私も大丈夫です」
フィリナ「そう、それなら明日は光平と一緒に
私と付き合ってくれないかしら」
1448
独立幻野党・地下秘密アジト***
独立幻野党=幻兵団のアジトに突如として姿を現した、
元ブレイン党作戦指揮官キャプテン・ゴメス。
果たしてその真意は何か…?
幻の月光「キャプテン・ゴメス…ブレイン党での下剋上に失敗した男が
こんな場所に何の用だ?」
ゴメス「これは御挨拶だな。昔は中近東で共に暴れまわった
私と貴殿の仲ではないか」
幻の月光「言っておくが、我々はGショッカーなどと手を組むつもりはないぞ」
ゴメス「しかしアルシャードの令嬢誘拐に失敗した今、
今やテロ社会での諸君ら幻兵団の面目は丸潰れだ」
幻の睦月「なんだと!」
幻の如月「我らを侮辱するのか!」
幻の月光「よせ!!」
激昂する幻の睦月と幻の如月だが、
幻の月光が彼らを制止する。
ゴメス「アルシャードの令嬢はお前たちにくれてやろう。
ただその令嬢を囮にしてシグフェルをおびき出したい」
幻の月光「シグフェルをだと?」
ゴメス「我々Gショッカーは、令嬢とシグフェルにはかなりの高確率で
何らかの繋がりがあると見ている。君たちも令嬢誘拐を邪魔してくれた
シグフェルには恨みがあるだろう」
幻の月光「わかった。今回は特別にお前の話に乗ってやる!」
翌朝…。
朝倉家・玄関前***
朝倉家の玄関には、外出の装いに着替えた光平、慎哉、優香、そしてフィリナの姿が集合していた。
フィリナは頭にはベースボールキャップを被り、青のジャケットに、健康的な両足を惜しげもなくさらす
白のタイトなミニスカートにブーツという、お忍びの際の専用ルックである。
優香「あのフィリナさん…」
フィリナ「どうしたの優香?」
優香「さっきからあの人たちがこっちをじっと見てる
みたいなんですけど…」
優香の指差す方向を見ると、カウボーイスタイルと登山者のような格好をした
二人組の若い男がこちらをずっと監視しているようだった。
内閣安全保障室長の土橋竜三からここの住所を聞き出した
国家警備機構の静弦太郎と霧島五郎だ。
慎哉「なんか怪しい感じの奴らだなあ…」
光平「俺が行って追っ払ってやろうか?」
フィリナ「昨日の国家警備機構の人たちね。あの人たちなら大丈夫よ」
優香「そうなんですか?」
フィリナ「構わないから放っておいて行きましょう」
フィリナたちは、尾行する静弦太郎たちのことなど
お構いなしに目的地に向かってさっさと出発した。
弦太郎「おい、出発したぞ! つけるぞ五郎」
五郎「合点!」
1449
矢吹コンツェルン本社・会長室***
矢吹「そうか、それではフィリナ嬢は無事に目的の少年には
会えたのだね?」
めぐみ「そのようです」
昨夜フィリナが無事に光平の暮らす朝倉家に到着した事を、
秘書の桂めぐみから報告を受ける矢吹郷之助会長。
矢吹「私はその光平という少年に会った事はないが、
彼の父親、牧村陽一郎についてはよく知っている。
今でも彼の事を国賊と呼んで蔑む者も少なくはないが、
それは決して違う」
めぐみ「矢吹さん…」
矢吹「彼はエリートコースを順調に歩み、将来は外務事務次官や
駐米大使の地位も約束されていた男だった。しかし自らその道を蹴って、
日本国の国旗を一外交官として代表して背負いながら、
自分の意思で志願して、率先して危険な紛争地帯や貧困地域に向かい、
世界平和の実現のために戦い続けた熱き男だったのだ」
矢吹郷之助は、自分の知人である今は亡き日本人外交官の事を回想し、
思いを馳せるのであった。
矢吹「せっかくの従姉弟水入らずの時間だ。
楽しい時間を過ごしてもらえればよいのだが…」
めぐみ「フィリナ嬢を狙った独立幻野党の動きが気になります」
矢吹「彼女には余計なお節介かもしれないが、
例の国家警備機構の二人には引き続き厳重に
ガードしてもらおう」
めぐみ「承知しました。国家警備機構の方へはそのように」
東京エネタワー・大展望台***
フィリナ「うっわー! 広い!!」
その日の東京エネタワーは、休日という事もあり、
観光客でかなり込み合っていた。
展望台から見下ろす東京の街並みを見てはしゃぐフィリナ。
普段は国際ビジネスの舞台や華やかな社交界に身を置く石油王令嬢も、
今この時間だけは歳相応の普通の女の子に戻っていた。
光平「もっと上の特別展望台の方に行ってみようか?」
フィリナ「ええ!」
フィリナと光平たちは特別展望台行きのエレベーターの列に並ぶ。
慎哉「なあ、なんで東京エネタワーなんだ?」
優香「どういうこと?」
慎哉「だって時代は今スカイツリーの方だろ」
フィリナと光平とは少し離れて列に並んでいる慎哉が、
つい身も蓋もないツッコミを口にする。
優香「フィリナさんの話だと、エネトロンを集積して
都心全域に送電するシステムを司る日本独自の技術の
エネタワーを直接自分の目で見てみたいんだって」
慎哉「どう見ても純粋に観光を楽しんでるようにしか
見えないよなあ…。あ、いや別にそれが悪いって
言ってるんじゃないぜ」
優香「光平くんがシグフェルになってから、私たちも
いろいろと大変だったじゃない。きっとフィリナさん、
私たちの緊張を解き解そうとしてくれているんだと思う」
慎哉「それにしてもさっきからフィリナさん、光平の奴にべったりじゃないか。
沢渡、よくお前嫉妬しないよな?」
優香「久しぶりの従姉弟水入らずなんだもの。
今日くらいは光平くんをフィリナさんに譲ってあげる♪」
慎哉「お前は心が広いよなあ…」
優香「そういう朝倉くんこそもしかして妬いてるの?」
慎哉「…俺がなんで!? そもそも誰にだよ!!…(///)」
1450
そんな時、ツーリング風の人相の悪い青年二人組が
列に並ぶ他の入場客強引にを押しのけて、
光平とフィリナのいる位置へと近づいて行く。
井沢「どけっ!」
優香「キャアッ!」
慎哉「なんなんだアンタたちは!?
ちゃんとルールを守って並べよ!」
ロングコートの男「邪魔だ!」
慎哉「うわっ!?」
二人組の男に突き飛ばされる慎哉と優香。
場内はたちまち騒然となる。
井沢「フィリナ・クラウディア・アルシャードだな?」
フィリナ「――!!」
光平「なんなんだお前たちは!?」
ロングコートの男「失せろ小僧。お前に用はない」
その男=井沢博司と相棒のロングコートの男は、
それぞれスティングフィッシュオルフェノクと
エレファントオルフェノクに変身した。
スマートブレインがシグフェルをおびき出そうと
フィリナに狙いを定めて襲撃してきたのだ。
光平「危ないっ!」
フィリナ「光平ッ!?」
スティングフィッシュオルフェノクの三又のトライデントから
咄嗟にフィリナを庇って逃げる光平。
周囲に他の一般入場客たちの目があるため、
ここではシグフェルに変身できない。
光平「だめだ! ここで変身すれば正体がバレちまう。
いったいどうすれば…!」
1451
スティングフィッシュオルフェノク@井沢の影「これまでだな…」
エレファントオルフェノク@ロングコートの男の影「死ね……」
他の観光客たちが皆、悲鳴を上げて逃げ惑う中、
光平とフィリナは二体のオルフェノクによって
たちまち展望台の隅の方へと追い詰められてしまう。
その様子を遠くの物陰から観察している
キャプテン・ゴメスと幻の睦月、そして幻の如月。
幻の睦月「おい! アルシャードの令嬢を殺してしまっては意味がないぞ!!」
ゴメス「心配するな。ただシグフェルをおびき出すためには、
こちらも本気で襲っているそぶりを見せないといかん」
怯えるフィリナと、必死に彼女を身を呈して庇う光平は、
絶体絶命の窮地に陥る。
光平「くそッ!!!」
フィリナ「光平っ!!」
オルフェノクの触手が光平とフィリナの心臓めがけて
伸びようとしたその時、間一髪でそれを防いだのは
アイアンベルトの見事な鞭捌きであった。
スティングフィッシュオルフェノク@井沢の影「誰だ!?」
光平「あなたは!?」
フィリナ「弦太郎さん!」
弦太郎「よォ! 大丈夫かお二人さん!」
光平とフィリナを守るようにして、
二体のオルフェノクの前に敢然と立ちはだかる静弦太郎。
エレファントオルフェノク@ロングコートの男の影「貴様、何者だ?」
弦太郎「そういえばGショッカーの諸君とはこれが初対面だったな。
俺は静弦太郎っていうモンだ。よく覚えといてもらおうか!」
スティングフィッシュオルフェノク@井沢の影「静弦太郎…だと?」
エレファントオルフェノク@ロングコートの男の影「あの国家警備機構の!?」
果たして東京エネタワー大展望台を舞台とした
静弦太郎とオルフェノクの対決の行方は…。
そして命を狙われるフィリナと光平の運命や如何に!?
1452
○静弦太郎→東京観光を楽しむフィリナたちをガードする。
○霧島五郎→東京観光を楽しむフィリナたちをガードする。
○矢吹郷之助→引き続き国家警備機構に来日中のフィリナの警護を依頼。
○桂めぐみ→引き続き国家警備機構に来日中のフィリナの警護を依頼。
●幻の月光→フィリナ誘拐とシグフェル捕獲のため、キャプテン・ゴメスと手を結ぶ。
●幻の睦月→フィリナ誘拐とシグフェル捕獲のため、キャプテン・ゴメスと手を結ぶ。
●幻の如月→フィリナ誘拐とシグフェル捕獲のため、キャプテン・ゴメスと手を結ぶ。
●キャプテン・ゴメス→フィリナ誘拐とシグフェル捕獲のため、独立幻野党と手を結ぶ。
●井沢博司/スティングフィッシュオルフェノク→キャプテン・ゴメスの命令で、東京エネタワーでフィリナを襲う。
●ロングコートの男/エレファントオルフェノク→キャプテン・ゴメスの命令で、東京エネタワーでフィリナを襲う。
○牧村光平→東京エネタワーで二人組のオルフェノクに襲われる。
○朝倉慎哉→東京エネタワーで二人組のオルフェノクに襲われる。
○沢渡優香→東京エネタワーで二人組のオルフェノクに襲われる。
○フィリナ・クラウディア・アルシャード→東京エネタワーで二人組のオルフェノクに襲われる。
【今回の新規登場】
●井沢博司=スティングフィッシュオルフェノク(仮面ライダー555)
仮面ライダーファイズが最初に戦ったスマートブレイン配下のオルフェノクで、
オコゼの能力を持つ。躊躇いも無く人を殺す冷酷非情な性格。
直径1mのコンクリートでも砕く威力のトライデントを武器に使用し、
下半身を魚の尾鰭に変化させた遊泳態となり、時速180㎞で空中を飛行して移動できる。
●ロングコートの男=エレファントオルフェノク(仮面ライダー555)
スマートブレイン傘下のオルフェノクの1人で、象の能力を持つ。
人間態はバイクを乗り回す青年だが、その服装は上半身裸に
ロングコートという明らかに怪しい風貌。身長220㎝、体重152㎏とかなり大柄。
頭部の両側に象の顔があり、両側から伸びた鼻が牙になっている。
身体は鎧のような装甲で覆われている。下半身が巨象の胴体と四肢に変化した
突進態にも変化できる。
最終更新:2020年11月26日 10:36