本編1704~1711

『光平、決断の時!』-1

作者・ホウタイ怪人
1704

――あれから数日が経過した。
牧村光平は、まるで何事もなかったかのように
いつもと同じく普段通り学校に通っている。

ちなみにフィリナも「しばらく様子を見る」と言って、
今もフランスに帰国せずに都内のホテルに滞在したままだ。

江東区豊洲・朝倉家玄関先***


慎哉「帰れ!」
うさぎ「お願い! 光平くんに会わせてください!」

朝倉家を訪れた月野うさぎたちが、
玄関先で応対に出た朝倉慎哉と押し問答をしている。

亜美「ほんの少しだけでいいんです!
 光平くんと会って話を…」
慎哉「話をしてどうするんだ!?
 光平を助けてくれた事には礼を言うよ。
 …けどな、どうせアンタたちは光平の事を
 兵器か何かとしか思っちゃいないんだろ!」
美奈子「ひどいわ! そんな言い方!」
まこと「帰ろううさぎちゃん! こんな石頭と
 話しあっても埒が明かない」
レイ「同感だわ!」
うさぎ「でも……」

慎哉の横柄な態度にレイやまことも
怒りだしてしまい、冷静な話し合いも
できなくなってしまう。

慎哉「いいからもう帰ってくれ!!」
うさぎ「あっ…!」

玄関の扉は、うさぎたちの目の前で
無情にも閉められたのであった。

亜美「帰りましょう、うさぎちゃん。
 また日を改めて来ればいいわ」
うさぎ「うん……」

◇   ◇   ◇

一方、朝倉家の家の中では、2階の部屋から
光平が階段を降りて来た。

光平「慎哉、誰か来てたのか?」
慎哉「なんでもねーよ!」
光平「……??」

慎哉の露骨に不機嫌そうな態度に、光平は「?」な顔をする。

1705

光平「ところで慎哉、学校の制服を今日クリーニングに出すって
 この前言ってただろ?」
慎哉「…ああ、そう言えば。でもあそこのクリーニング店の店員さん、
 無愛想で無口だから、俺苦手なんだよなあ…」
光平「だったら俺のも出すついでに代わりに行って来てやるよ」
慎哉「お前、もう大丈夫なのか…?」

慎哉は心配そうに光平を見つめる。

光平「…どうしたんだよ? 俺ならこの通りもう大丈夫さ♪
 おかげさまでもうこの通り元気ぴんぴん!」
慎哉「光平……」
光平「今までいろいろと心配かけてごめんな……。
 じゃ、行ってくるわ!」

光平は二人分の学生服をまとめて
大きな紙袋に詰め込むと、近所のクリーニング店へ
さっさと出かけて行くのであった。


西洋洗濯舗 菊池***


朝倉家の近所にある、創業100年の老舗クリーニング店である。
ここの経営者夫妻はかなりの変わり者らしく、
「世界中の洗濯物を真っ白にする」と称してアフリカに渡っているそうで、
ここの店の留守は、店長を務めている息子さんに任せている。

その店長・菊池啓太郎は、真っ直ぐな性格のお人好しで、
しょっちゅう洗濯を頼みに来た客の相談に乗ったり、
代わりに買い物をしてあげたりと、その接客態度とサービスは
ご近所でも大変よいと評判なのだが、問題はこの店で雇われている
男性アルバイト店員の方なのだ…。

その店員の名前は分からないが、外見はやや長髪に茶髪。
客に対しても口は悪いし、ぶっきらぼうで愛想も悪い。
要するに接客態度は最悪なのだ。そんな理由で慎哉のように
敬遠する客も多い。しかし朝倉家の近所にクリーニング店は
この一軒しかないため、必然的に朝倉家はこの店の常連客となっていた。

巧「はい、学生服上下2着で2.200円だ」
光平「お願いします」

無愛想な店員=乾巧に提示された金額を支払う光平。
やっぱり今日も彼は愛想が悪い。
なんでこんな接客態度のよくない店員を雇うんだろう?と
疑問に思わなくもない…。
しかし光平は、なぜだか目の前の青年の事を
嫌いにはなれなかった。

1706

真理「コラッ巧! お客様に対してスマイルだって
 いつも言ってるでしょ!」

店の奥から若い女性が出て来た。
この人も名前は知らないが、男性店員と同じくここの居候で、
本職の美容師の合間にこちらの店の手伝いもしているらしい。

巧「チッ…うっせーな」
真理「ごめんね、いっつもこんな怖いお兄さんが相手で」
光平「いえ、そんなことはないですよ。
 ここのお店はクリーニングにかけては
 一流だって前々から評判ですし」
真理「嬉しい事を言ってくれてありがとう。
 仕上がりは二日後だから、明後日の夕方頃にでも
 引き取りに来てもらえれば」
光平「よろしくお願いします」
巧「またなっ」

店から出る光平に対して手を振る巧。
それに対して光平も、去り際に礼をして立ち去る。
彼は彼なりに客に対して愛想よく振舞おうと、
これでも努力しているようだ。


日本海溝・ブレイバーベース***


剣持「その後、朝倉家の様子はどうなっている?」
エルファ「この数日間、特に異常や異変は見受けられません」
千恵「なんだか不気味な静けさですね…」

レッドマフラー隊では、その後も牧村光平周辺の
警護と監視を密かに続けていたが、
その後は特に動きらしい動きもないまま、
数日間が経過しようしていた。

千恵「光平君に会いに行ったうさぎちゃんたちは、
 けんもほろろに追い返されたそうです」
海野「取りつくしまもないって訳か…」
剣持「博士、ここは私に彼への接触をご許可頂けませんか?」
村中「隊長自らがですか?」
剣持「そうだ」
佐原「我々に光平君を強制的に入隊させる権限はない。
 彼がブレイバーズに参加するかどうかは、あくまで彼自身の
 自由意志である事が大前提だ」
剣持「私が説き伏せます」

1707

翌日――。

海防大学付属高校前に、2台の黒塗りの高級車が停まった。
それぞれ一台ずつ中から降りて現れた人物は、
一人は巨大企業として知られるスマートブレイン社のCEO・村上峡児。
そしてもう一人の初老のサングラスの男は、財界において
闇の権力を握っていると噂される大物・天王路博史である。

城之内「いやあ驚きましたよ。日本の財界を代表されるお二方が、
 我が校の生徒に注目されるとは」

海防大学の学校法人を運営する理事の一人である、
都議会議員・城之内正峰によって応接室へと案内される村上と天王路。

村上「助かりましたよ、城之内先生」
天王路「わざわざお手数をおかけして申し訳ない」
城之内「EP党の坂田龍三郎先生のご紹介とあっては
 断る訳にもいかんでしよう。……それにここだけの話、
 あまり大きな声では言えませんが、私は以前に国家防衛局長官を
 務めておられた真影壮一氏にもお世話になっていましたからね…」

応接室でソファに座って二人して待つ村上と天王路。
そこへ校長と教頭に一緒に連れて来られた一人の男子生徒が入って来た。

校長「お待たせしました」
教頭「付属高校総合普通科在籍、2年A組、牧村光平君です」
光平「………」

授業中、突然校長と教頭に呼び出された光平は、
訳も解らぬまま、ここ応接間へと連れて来られた。
目の前のソファに座っている賓客らしき人物二人に、
言い知れぬ緊張感を感じる。

城之内「牧村君、大事な授業中に
 わざわざ来てもらってすまなかったね」
光平「いえ…」
城之内「こちらはスマートブレイン社の代表取締役社長兼CEOの村上峡児氏、
 そしてある財団の理事長を務めておられる天王路博史氏だ」
村上「どうもはじめまして、村上です」
天王路「天王路だ。よろしく」
光平「牧村光平です。よろしく…」

とりあえず村上や天王路と握手を交わす光平。
しかしその手を握った瞬間に、底知れぬ冷たさを感じ取った。

光平「――!!(…この人たちは一体!?)」

村上「城之内先生、申し訳ないのですが、
 彼とは私と天王路さんの3人きりで話がしたいのですが」
天王路「少しの間だけ、座を外してはもらえないだろうか?」
城之内「それはお安いご用です。ではごゆっくり」

城之内理事は校長と教頭を伴って退室し、
こうして部屋の中には、光平と村上と天王路の3人だけになった。

1708

天王路「時間が惜しい。それでは早速本題に入ろうか、
 牧村光平君……いいや、シグフェル!」
村上「我らが偉大なる帝国ガイスト・ショッカーは、
 改めて君を歓迎します!」
光平「――ア、アンタたちは一体!?」

光平は驚愕した。自分の目の前にいるのは
社会でもかなりの高い地位にいる人物だ。
それが突然「自分たちは人間社会に牙をむく側の
住人であり、お前も同じ闇の世界の側へと
引き込む!」と一方的に宣言したのだ。
それほどまでにGショッカーの地球侵略の手は、
自分の知らないところで社会の上層部にまで伸びていたのか。

天王路「驚いたかね?」
村上「何も恐れる必要などはありません。
 すでに日本の政財界にも幅広く我々の触手が伸び、
 しっかりと根が張っているのです」
光平「いったい俺に何の用だ!?」

光平は、身体の内から沸き起こりそうな恐怖感に
懸命に抵抗しながら、村上たちに問う。

村上「君はすでに栄光あるGショッカーの一員に
 選ばれたのですよ。光栄に思いなさい」
天王路「喜びたまえ。Gショッカーを支配される
 表裏六柱の至高邪神は、君にGショッカー最高の
 地位と待遇を与えると約束された」
光平「冗談じゃない! 俺はお前たちなんかの仲間にはならない!
 一方的に話を進めないでくれ!!」
村上「君に拒否権はない。これは決定事項です」
光平「帰れ! 帰ってくれ!!」

光平は、Gショッカーへの仲間入りを激しく拒絶する。
しかしここで村上と天王路は、悪役にはお決まりの脅迫文句を
会話の中に交え始めた。

村上「光平君、君には確か沖縄のご実家に今も
 父方の年老いた祖父母が暮らしておられましたね?」
光平「――!?」
天王路「君の可愛いガールフレンドや学校のお友達に後輩、
 そして母方のご実家のお美しい従姉君にも…」

光平の脳裏には、沖縄で暮らしている祖父母や、
優香、慎哉、雄大、そしてフィリナの顔が浮かぶ。

光平「やめろ! みんなには手を出すな!」
村上「三日間だけ猶予をあげましょう」
天王路「それ以上は待てん。よく考えてみる事だな…」
光平「………」

1709

放課後――。
テニス部の練習をしている光平たち。

テニス部員A「お~い、牧村! お客さんだぞ!」
光平「俺に…?」

「誰だろう?」と光平が呼ばれて
テニスコートから出て行った先で待っていたのは、
いつもの軍服を脱いでスーツ姿に身を固めた剣持と村中だ。

光平「あなた方は…」

光平は、目の前の二人がこれまで度々お目にかかった
地球連邦軍の軍人である事を思い出した。

光平「何の御用ですか?」
剣持「まあ立ち話もなんだ。横に座りなさい」

そう言って剣持は、光平にベンチの隣に座るよう促す。

剣持「村上と天王路が君に会いに来たそうだな?」
光平「はい…」
剣持「何を言われたのかは聞かなくても大体想像がつく。
 Gショッカーに入れば最高の待遇とポストを用意する。
 しかしもし拒否すれば、君の身近な人間にも危害を加える。
 そんなところだろう?」
光平「………」
剣持「単刀直入に言う。ブレイバーズに入隊しろ。
 それが君自身のためでもある」
光平「俺のシグフェルとしての力に利用価値があるからですか?」
剣持「自惚れるな。正体不明の異能の力を持つ一民間人に
 これ以上勝手に外を歩き回られては、我々としても迷惑する。
 それだけのことだ!」
光平「…なっ!?」

ここで近くから話を聞いていた慎哉が憤って中に割って入る。
光平の事が心配で、こっそり立ち聞きしていたのだ。

慎哉「さっきから黙って聞いてりゃあ!
 そんな言い方ってあるかよ!」
光平「…慎哉!?」
剣持「君は?」
慎哉「海防大学付属高校2年A組、朝倉慎哉です!」
剣持「光平君の同級生か」
慎哉「アンタたち連邦軍がシグフェルに…光平にした仕打ちッ…。
 よもや忘れたとは言わせないぜ!!」

慎哉の言う「仕打ち」とは、恐らくコルベット准将の部隊の犯した
数々の非道な所業の事を言っているのだろう。

村中「あれはコルベット准将が勝手に――」
剣持「よせっ!」

釈明しようとした村中隊員を制止する剣持。
仮に今ここで"ブレイバーズ派とロゴス派の対立"という
地球連邦軍内部の複雑な構造関係を説明したところで、
一介の市民である慎哉には理解できないであろう。
むしろかえって責任逃れの言い訳にしか聞こえないに違いない。

村中「しかし隊長…」
慎哉「光平はアンタたちには渡さない!
 今日はもう帰ってくれ!」
剣持「また来る」

1710

こうして剣持たちが諦めて帰ろうとしていたその時、
近くの道路を猛スピードで通行した黒塗りの怪しい車から
学校のテニスコートや校門めがけて銃が乱射された。

ゴメス「やれ…」

車の中に乗り射撃を指示していたのは、キャプテン・ゴメスだ。
Gショッカーからの光平に対する警告だ。

剣持「危ないッ! みんな伏せろォッ!!」

剣持の機転で幸い死者や重傷者は出なかったが……。

雄大「うわあああっ!!」

光平の後輩である岡島雄大が、左腕に掠り傷を負ってしまった。

光平「雄大!?」


同校舎内・医務室***


すぐに医務室へと担ぎ込まれた雄大の左腕には、
しっかりと包帯が巻かれている。

雄大「いやあ、先輩たちにもご心配をおかけしました。
 軽い怪我で済んでよかったですよ♪」
光平「ごめんな、雄大。俺のせいで…」
雄大「…え? なんで光平先輩が謝るんですか?」
光平「………」

光平は、雄大も疑問の問いかけにもまともに答えられず、
無言のまま医務室から出る。廊下では剣持たちが待っていた。

剣持「これで解っただろう。君がシグフェルである以上、
 君自身の意思に関わらず、周囲の人間を危険に晒すことになる。
 これ以上他人を巻き込むな。このけじめは自分でつけるんだな」
光平「くっ…!!」
慎哉「待てよ光平!!」

雄大の負傷を目の当たりにした事と、剣持の言葉のダブルパンチで
居た堪れなくなった光平は、ショックでどこかへ駆け出してしまった。

帰りの車中で二人きりで話す剣持と村中。

村中「隊長、少し言い過ぎだったのでは…?」
剣持「…かもしれん。だが、俺たち大人がしてやれる事は、
 子供が道に迷った時に間違った道へと向かわないように
 決断できるよう導いてやることだ」

1711

○月野うさぎ→牧村光平に会いに朝倉家を訪れるが、朝倉慎哉に追い返される。
○水野亜美→牧村光平に会いに朝倉家を訪れるが、朝倉慎哉に追い返される。
○火野レイ→牧村光平に会いに朝倉家を訪れるが、朝倉慎哉に追い返される。
○木野まこと→牧村光平に会いに朝倉家を訪れるが、朝倉慎哉に追い返される。
○愛野美奈子→牧村光平に会いに朝倉家を訪れるが、朝倉慎哉に追い返される。
○乾巧→「西洋洗濯舗 菊池」に来店した牧村光平に応対する。
○園田真理→「西洋洗濯舗 菊池」に来店した牧村光平に応対する。
○佐原正光→牧村光平のいる朝倉家の様子を監視している。
○剣持保→海防大学付属高校を訪れ、牧村光平に接触。
○村中隊員→海防大学付属高校を訪れ、牧村光平に接触。
○海野隊員→牧村光平のいる朝倉家の様子を監視している。
○佐原千恵→牧村光平のいる朝倉家の様子を監視している。
●村上峡児→海防大学付属高校を訪れ、牧村光平に接触。Gショッカーに加入するよう脅迫する。
●天王路博史→海防大学付属高校を訪れ、牧村光平に接触。Gショッカーに加入するよう脅迫する。
●キャプテンゴメス→牧村光平への脅迫の念押しのため、放課後に部活動練習中の海防大付属テニス部を襲撃。

○エルファ→牧村光平のいる朝倉家の様子を監視している。
○牧村光平→村上峡児と天王路博史から脅迫される、その後、剣持保から説得を受ける。
○朝倉慎哉→牧村光平を説得に来た月野うさぎや剣持保を追い返す。
○岡島雄大→テニス部の練習中に銃乱射に巻き込まれ、左腕に軽微な怪我を負う。
?城之内正峰→村上峡児と天王路博史を牧村光平に引き合わせる。

【今回の新規登場】
?城之内正峰(闘争の系統オリジナル)
メガロシティ選出の東京都議会議員。学校法人海防大学の24人いる理事の一人。
村上峡児や天王路博史の裏の顔を知っているのかは不明だが、
坂田龍三郎や真影壮一とも繋がりがあるらしい…。

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最終更新:2020年12月03日 08:33