リリカル自衛隊1549 第5話

ドナドナよろしくトラックに詰め込まれ、なのは達が連れて来られた富士山麓の偽装基地には、常に雨が降っていた。人工雲とやらの影響だろうとなのはは思い、そして偽装基地に到着しトラックから下車した。渡されたビニール傘を開き、なのはは歩き出した。


リリカル自衛隊1549 第5話 「大穴」


しばらくなのは達は歩き、そして途中から見知らぬ男が加わっているのに気づいた。外見は30台半ば、服装もTシャツにジーパン、パーカーととても自衛隊員には見えず、その男の表情も不機嫌そうだった。

(誰だろう・・・。自衛隊の人には見えないし、管理局にもあんな人はいなかったはず・・・・・・)

なのはがそんな事を考えていると、列の先頭を歩く森が突然止まった。そして斜め前方を指差した。

「あれを」

森の言葉でなのは達が前を見ると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
富士山麓に、巨大な大穴が開いていた。

「これが現在、確認されている中で最大のホールだ。3年前に現れ、そして成長速度も一番速い」

よく見ると、ホールがじわじわと周囲の地面を飲み込みつつ、大きくなっているのがわかった。
ふとなのはは疑問を抱いた。確か4日前に聞いた時に、はやては富士山麓のホールの大きさは約100メートルと言っていた。だが今見ると、ホールの大きさはどう見積もっても200メートルはある。
そのことを神崎に訊くと、神崎はさほど驚いた様子も無く答えた。

「ここ1週間でホールが急激に成長しています。今では一日に最大20メートルも大きくなっています」

その言葉で管理局のメンバーは息を飲んだ。まさかそこまで急成長するとは思っていなかったからだ。
とその時、先程の見知らぬ男が口を開いた。

「ホール・・・とか言ったよな。これが的場さんとどう関係があるのか説明してくれ」

男はそう神埼に問い、神崎は答える。

「彼らがタイムスリップした影響で、本来の歴史とは違う流れが出来ているんだと思われます。第3特別実験中隊という異分子を取り込んだ影響で、歴史が変わってきているんです」
「それで?」
「もし彼らが現地の人間に攻撃され、自衛行動を取った際に現地の人間を殺したら・・・。本来死ぬはずの無かった人間が死に、それが現代に影響を及ぼします」
「自分が生まれてくる前に自分の親を殺すのと同じだ。そうして少しづつズレていく歴史は、私達が存在する事を許さなくなっているんだろう。そうして出来たズレが、ホールだ」

神崎の言葉を森が引き継ぎ、それを聞きながらなのは達はホールを眺めた。

「第3特別実験中隊が行動を起こし、私達のいる本来の歴史とは大きく異なる歴史が発生した時・・・・・・、旧い歴史は消滅します」
「正しくは“何も無かった事にされる”だな。私の存在も、鹿島君、君の存在もだ」

森のその言葉で、なのははヴィヴィオの事を思い出した。昨年機動6課が襲撃された際、どうにか守る事が出来たヴィヴィオ。
(ヴィヴィオの存在も、無かった事にされるの・・・・・・?)
今回、なのははヴィヴィオを知人に預けて地球にやって来た。なのはと別れる事をヴィヴィオは嫌がっていたが、必ず帰ってくると約束したのだ。
そのヴィヴィオが、無かった事にされる。いやヴィヴィオだけでない。機動6課の面々も、全次元世界の住人も、家族も、自分の存在さえもが“無かった事にされる”・・・・・・。
(止めなきゃ、絶対に・・・・・・)
なのははそう決心した。

「あの~、質問なんですけど」

唐突に声が上がった。質問したのはスバルだった。

「その理屈で言えば、私達の存在はとっくに消えてるはずじゃありませんか?確か小説で読んだんですけど、バタフライ効果とか何とか・・・・・・」

神崎は少し驚いた表情をし、森は仏頂面のまま、私服の男は『何で子供がいるんだ?』とばかりに管理局の面々を眺めた。

「いい質問です。確かにあなたの言う通り、歴史にズレが生じることでホールが発生するなら、私達は今ここにいません。第3特別実験中隊が1543年に漂着し、草木の一本でも傷つけたなら、私達はその瞬間に消滅していたはずです。なのに、そうならなかった。何故だと思います?」

誰も何も思い浮かばないのか、答える者はいなかった。

「これは憶測ですが、歴史には些細なズレなら修復する機能があるんだと思います。第3特別実験中隊が過去に漂着し、サバイバルのみに徹していたら歴史のズレは発生せず、ホールも現代に現れる事は無かったでしょう。それでもホールはこうして成長しています」

私服の男が何か言おうとしたらしかったが、森に制されて口を開かなかった。

「これらの事実から鑑みるに、第3特別実験中隊が意図的に歴史を改変しようとしている可能性があります」
「第3特別実験中隊は的場一佐を始めとして、部隊内で爪弾き者にされていた隊員が多い。もし彼らの現代への恨みが、戦国時代で活性化し、過去からの攻撃を始めたとしたら・・・・・・」

「おいおいちょっと待てよ!」

森と神埼がそう言った時、私服の男がいきなり叫んだ。

「俺は的場さんを助けてくれって言われてここに来たんだ。それを過去からの攻撃だの何だの、話をすり替えるな」
「過去からの攻撃ではなくても、我々の世界が消滅の危機に瀕しているんです。鹿島さん、あなたの力を貸して欲しいんです!」
「ふざけるな。大体あんたらおかしいぜ。的場さん助けたくて俺に協力を求めんのか、世界が消滅するのが嫌で俺に協力して欲しいのか、どっちなんだ?」

鹿島と呼ばれた男のその投げやりな言い方に、なのは達は怒りを感じた。世界が消えるかも知れないのに、何を言っているんだという風に。

「世界が消滅するかどうかの時に、そんな事を言っている場合か!!」
「場合なんだよ」

滅多に表情を変えない森が怒鳴っても、鹿島は面倒くさそうに受け流す。

「消えちまえばいいんだ、こんな世界」

そう言って傘を折りたたんで帰ろうとした鹿島に、神崎が後ろから近づき、言った。

「逃げるんですか?Fユニットの時みたいに」

その言葉で鹿島は振り向き、そして怒鳴った。

「あんたに何がわかる!!資料だけ見て、人の全てを理解したような事を言うな・・・!!」

そう言って鹿島はすたすたと偽装基地のゲートに向けて歩き出した。神崎はその後を追い、森はいつもの仏頂面に戻って鹿島を見ていた。
はやては森に近づき、鹿島について尋ねた。

「鹿島さんって、誰ですか?」
「特殊部隊時代に的場一佐の腹心で、誰も制圧したことの無い図上演習を、ただ一人制圧した元自衛官だ」

そう言って森はトラックへ向けて歩き出し、はやて達もそれに続く。なのはは最後にはホールを眺め、そして作戦に不安を抱きつつトラックへ乗車した。





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最終更新:2009年11月14日 22:45