新暦76年 10月3日 11:00 第97管理外世界 日本国 東富士演習場 森林地帯
今日は管理局・ロメオ隊合同で森林戦の演習が行われていた。約2キロのコースの中に大量のオートスフィアを配置し、2人1組でそれらを全て撃破しゴールへと向かう演習だった。
機動6課でスバルやティアナに行ったテストによく似ていたが、今回の演習場所は廃棄都市ではなく、障害物の多くある森林だった。そのため管理局部隊もいつもの実力を発揮できず、やられる事は無かったが苦戦していた。
自衛隊部隊はもっと危ない。このような実弾を使った演習を行うことは余り無く、しかも相手が撃ち返して来るような事を想定した実戦同様の訓練はさらに少ない。だがそれでも陸自の精鋭を集めた部隊なので、訓練の成果を発揮し管理局に比べればゆっくりと、しかし着実にオートスフィアを撃破していった。
リリカル自衛隊1549 第6話 「演習」
陸上自衛隊・ロメオ隊所属の秋元直樹(あきもと なおき)二等陸曹は、折りたたみ式ストックの89式小銃の微調整をしつつ、管理局の持ち込んだ立体映像のモニターを見ていた。モニターには、次々と撃破されるオートスフィアと、ディバインバスターやアクセルシューターを撃ちまくるなのはとフェイトが映っていた。
「もはや魔法じゃなくて、魔砲じゃねえか・・・・・・」
秋元が呟くと、隣で64式小銃を整備していた狙撃手の加賀洋二(かが ようじ)二等陸曹が口を開いた。
「あんなの、敵に回したくないよな。下手したら蒸発させられるかも」
「まったく、その通り」
そう言い、秋元は89式小銃の整備を終えた。加賀は64式小銃のスコープを弄りつつ、近くにいたシグナムとヴィータを見て言った。
「なあ秋元、お前あのポニーテールの人と幼女、どっちがいい?俺はようzy」
「黙れロリコン」
秋元はそう言って足元の石を投げ、石は加賀の顔面にクリーンヒット。それでも加賀は動じない。
《8番の秋元さーん、加賀さーん。出撃の準備をしてください》
アナウンスで、秋元と加賀はいよいよ自分達の番が来た事がわかった。今回、二人一組で行動することになっていて、秋元は加賀と組んでいる。
本部のあるテントまで行き説明を受けた後、弾薬を受領する。最後に装具の総点検をした後、2人は森の入り口に立った。
現在の最速タイムは、なのはとフェイトが叩き出した9分32秒。陸自部隊の最速タイムは16分22だった。
このままでは、ロメオ隊が管理局に圧勝されるという非常に情けない結果となってしまう。せめて10分台前半を叩き出さないといけないのが、秋元と加賀の置かれた立場だった。
2人は同時にボルトを引いて初弾を装填し、スタート地点にたった。
「行くですー。3、2、1、スタート!!」
リインフォースⅡの合図で、2人は駆け出した。
ルートはあらかじめ頭に叩き込んでいるが、オートスフィアの位置や数は教えてもらえない。なので出来るだけ早く発見し、殲滅する事が重要だった。
スタート地点から100メートル程行ったところで、視力2,0の秋元の目が何かを捉えた。ハンドシグナルで加賀に『止まれ』と合図した秋元は、双眼鏡で確認した。
「いたぜ・・・・・・、右前方、距離300に3体のオートスフィアを確認」
秋元は小声で加賀に伝え、加賀はすぐに64式小銃のスコープで確認した。オートスフィアを確認すると加賀はすぐさま地面に伏せ、64式小銃の二脚を立ててスコープを覗き込んだ。
「風はほぼ無風、射撃に支障は無い」
臨時の観測手を勤める秋元の情報で、加賀は単発で64式小銃を撃った。300メートル前方のオートスフィアは秋元と加賀に気づく事無く、加賀の狙撃で沈黙した。
「お見事」
「どうも」
そう言葉を交わし、2人はまた駆け出した。さらに200メートル進んだところで、大きな岩がルートの真ん中を塞いでいた。このコースを通る為には岩を迂回するしかないが、岩の向こうでオートスフィアが待ち受けているかもしれない。
秋元はポーチの中から伸縮する棒についた小さな鏡を取り出し、岩肌に沿って進んで岩の向こうを鏡で覗いた。
鏡には、空中に浮遊する5体のオートスフィアが映っていた。
秋元はハンドシグナルで『5体確認』と加賀に伝えると、加賀は『手前の3体をやってくれ。俺は奥の2体をやる』と返した。
秋元が加賀の前に立ち、銃口を下に向けて岩肌の淵に立つ。背後から加賀が秋元の肩に手をのせ、そして軽く叩いた。
その合図で秋元は岩陰から飛び出し、素早く手前の1体にドットサイトの光点を重ねた。
すぐさまセミオートで発砲し、オートスフィアに穴が開く。続けて2体を倒した秋元の背後で、加賀が奥にいた2体を狙撃で続けて破壊した。
5体のオートスフィアは5秒もしない内に全て破壊され、地面に落下した。
その様子を、なのはとフェイトは本部のモニターで確認していた。
「早いね。このペースでいくと、10分台を切るかも」
「うん。長距離からの狙撃と、近距離での素早い射撃。魔法無しでここまでやれるなんて、正直言って凄い」
そう言ってフェイトはモニターを操作した。別の場所の映像が映し出され、そこでも次々オートスフィア群が撃破されていくのが映っていた。
「もう16体撃破、早い・・・・・・」
「でも、まだ最後の難関が残ってるよ」
なのははモニターを操作し、コースの最終地点の映像を映し出した。大きな円筒形のオートスフィアが映し出される。
「自動追尾狙撃型のオートスフィア。形こそ新人達の訓練に使うのに似てるけど、性能は大幅に上がってる。自動攻撃する距離も伸びたし、装甲も硬くなってる。長距離狙撃するには、ちょっと厄介な相手」
「どう切り抜けるかな?今までの人達は遠距離から集中砲火を少しづつ浴びせてたけど。でも時間が多くかかっちゃうから、あまり良くはない戦法だね」
なのは達はそう言葉を交わし、再びモニターを見つめた。
その頃秋元と加賀は、ゴール地点の500メートル前を走っていた。
「このままだと、俺ら10分切るんじゃね?」
「油断するな加賀。最後は長距離狙撃型が居座ってるって、説明でお前も聞いてるだろ」
加賀が何か言おうとした瞬間、森の奥から青い光弾が飛んできた。2人は素早く伏せ、どうにか狙撃を回避する。
そのまま近くの岩まで匍匐前進し、岩を障害物にしてオートスフィアを確認しようとした。秋元は棒付の鏡を取り出し、岩からそっと突き出した。
が、次の瞬間には、小さな鏡は光弾によって木っ端微塵にされていた。
「うひょー、正確無比な遠距離狙撃。ちとキツイわな」
「ふざけてないで、さっさと作戦を再確認するぞ」
そして何事か話し合った後、秋元は防弾チョッキを脱いだ。防弾チョッキは重過ぎるので、全力で走るのには障害になるからだ。
秋元は89式小銃のストックを折り畳み、動きやすいようにスリングで背中に回した。加賀はスコープの倍率を変更し、秋元が走り出すのに備えた。
「3、2、1、行け!!」
加賀のカウントで軽装になった秋元は岩陰から飛び出し、そして走り出した。すぐさまオートスフィアが狙撃を開始し、秋元はジグザグに走ることによって光弾を回避する。
しばらく秋元が走ってガジェットの注意を引きつけると、加賀は隠れていた岩に64式小銃の2脚を載せ、オートスフィアに照準を重ねた。
加賀は数発発砲し、発射された弾丸は全てオートスフィアに命中した。が、弾丸は全て分厚い装甲に弾き返される。
だがその発砲で、オートスフィアの攻撃対象が加賀に変更された。オートスフィアが加賀を狙撃し始めたのを見計らって、秋元は手近な岩に隠れた。
(アブねー。もう少しでやられるところだった)
実際何発か光弾が秋元をかすめ、飛び散った岩の破片で頬から血が出ていた。非殺傷設定とはいえ、直撃したらまずいだろう。
秋元は加賀がオートスフィアの攻撃を引きつけている間に、06式小銃てき弾を取り出し、89式小銃の銃口に装着した。
そして岩から身を乗り出し照準を定め、てき弾を発射した。発射されたてき弾は弧を描いて、光弾を撃ち続けるオートスフィアに直撃し、爆発した。
が、表面にヒビが入っただけで、オートスフィアは活動を継続している。むしろオートスフィアは秋元だけに狙いを定めたようで、秋元に対する攻撃は激しくなり始めた。
「加賀ー!!早く何とかしろ!!このままだと俺がやられる!!」
秋元は無線へ叫んでいた。現に秋元の隠れる岩はオートスフィアの攻撃によって、どんどん削れていっている。あと少ししたら岩はばらばらになって、秋元に光弾が直撃する羽目になる。
『大丈夫、どうにかなるって』
「てか、さっさとやれ!!もうヒビが入ってるから、そこを叩け!!」
攻撃は苛烈さを増し、秋元は動こうにも動けない。
加賀はそんな秋元の様子をスコープで覗き、続いて光弾を乱射するオートスフィアを照準に納めた。倍率を上げ、スコープにオートスフィアのヒビが大きく映る。
(オーケー、いつも通り冷静に)
そう思いつつ、加賀は64式小銃のセレクターを単発の“タ”から連発の“レ”に切り替えた。息を止め、照準がブレるのを防ぐ。
(今だ!!)
加賀はオートスフィアが動きを止めた一瞬を見計らい、引き金を引いた。
フルオートで発射された10発の7.62mm弾は、全てがオートスフィアの装甲のヒビに直撃した。最初の6発が割れた装甲を完全に破壊し、残りの4発がオートスフィアの内部に到達した。
普通は7.62mm弾の連射は制御出来るものではない。だが64式小銃の減装薬された銃弾と遅い連射速度、そして加賀の射撃の技量がそれを可能にしていた。
最後の大型オートスフィアも、機体に電流を走らせた後、爆発を起こした。
なのははゴール近くの森で、大きな黒煙が立ち昇るのを目撃した。
「そろそろ、かな?」
「最後のオートスフィアも破壊されたし、もう来る・・・・・・」
フェイトがそこまで言ったとき、ゴール直前の道に人影が現れるのをなのはは見た。
秋元と加賀だった。2人は重たい装備をものともせず、走ってゴールの線を飛び越えた。
「つ、つかれた・・・・・・」
「やばい、これは死ぬ。ほんとに死ぬ・・・・・・」
2人は地面に倒れ込み、口々に喚く。秋元は仰向けになって空を眺め、ゴールを超えた直後に転んだらしい加賀は地面とキスしていた。
「タイムは・・・・・・、12分21秒!?」
タイマーに映った経過時間の表示を見て、フェイトは驚嘆の声を漏らした。
12分といえば、スバルとティアナが叩き出したタイムに近い。魔法無しでは、驚異の速さだった。
秋元と加賀の2人は、彼らより早く出撃した陸自隊員達にもみくちゃにされていた。「やったー!」だの「うおっしゃー、やったぜ!!」等の声がなのは達にも聞こえる。
「すごいね・・・・・・。これで、少しはロメオ隊の人達と仲良くなれればいいんだけど・・・・・・」
なのははそう呟きつつ、再びモニターに目をやった。新たなチームが出撃するところが、モニターに映し出された。
とその時、なのはとフェイトの元へ念話が入った。相手ははやてだ。
『2人とも急で悪いんやけど、ちょっとロメオ隊の司令室まで来てくれんか?森1佐から呼び出されて』
『別にいいけど・・・・・・』
なのはとフェイトは一緒に歩き出した。なのはは、何か嫌な予感を感じていた。
最終更新:2009年11月23日 14:00