「今回君達に頼みたいのは、鹿島元2尉の説得だ」
森はそう言って、なのは、フェイト、はやてにファイルを手渡した。ファイルを開くと、そこには自衛隊の制服を着た男の写真と、簡単な履歴書が入っていた。
なのは達は、その男に見覚えがあった。
「この人って、前にホールを見せられた時にいたような・・・・・・」
リリカル自衛隊1549 第7話 「過去」
「そうだ。彼は現役時代に的場1佐の部下だった。今回協力を打診したんだが、本人にはやる気が無いようだ」
「何故彼に協力してもらいたいんですか?」
森はフェイトに訊かれると、机から立ち上がって窓の外を見つめた。
「彼は的場1佐の腹心の部下だった。そして的場1佐の作った図上演習シナリオ『D-3』を制圧した、たった一人の男だ」
「その『D-3』って、そんなに難しいんですか?」
はやての問いに、森は机からファイルを取り出し、はやてに見せた。
はやてがファイルを開くとそこには沢山の名前と、制圧できたか否かや敗北までの時間が書かれていた。
そしてたった一人だけ、「制圧」と書かれた欄があり、名前は「鹿島 勇祐」とある。
「どうやったかは知らないが、鹿島元2尉はD-3を制圧した。的場1佐の戦略や思考をよく知る彼を同行させれば、戦国時代で的場1佐がどこで何をしているかわかる。だから連れて行きたいんだが・・・・・・」
「本人にはやる気がない、と?」
なのはの問いに、森は苦々しい表情で頷いた。
「何で鹿島さんには、そんなにやる気が無いんですか?」
はやての問いに、森は再び窓の外へ目をやって答えた。
「鹿島は現役時代、的場1佐が創設した特殊海兵旅団『Fユニット』に所属していた。そのFユニットは、上層部から時期尚早と判断され、解散。鹿島元2尉は自衛隊の体質が変わらない事に絶望、退官・・・・・・とある。本当の事はよくわからないが」
「その、Fユニットとは?」
フェイトは森に問い、森は再び資料に目を通しつつ答えた。
「その時の自衛隊は法整備の遅れにより、有事の際に満足に活動できないと判断されていた。しかも自衛隊の機動力・輸送力は足りず、まともに作戦行動も取れない。的場1佐はそんな状態に危機感を抱き、独自の部隊を作ろうとした。
独自の指揮系統を持ち、独立した航空部隊、車両を保持し、有事の際は日本全国のどこへでも素早く展開できる。いざという時には先制攻撃も可能。それがFユニットだ。
的場1佐は関係各所の協力を得て、人材や装備を集めるのに奔走。ようやく部隊の設立が軌道に乗った」
森の説明を聞いたなのはは、表向きの機動6課設立の経緯を思い出した。レリック事件に満足に対応できない管理局の体質に危機感が抱かれ、独自に対応できる機動6課が作られたのだ。
「なんだか、機動6課と似ていますね」
「ああ、君達がもといた部隊の話は聞いている。本当にFユニットと君達の機動6課とやらの設立の経緯は似ている。ただ違ったのは、組織の体質だ」
森ははやての問いに、少し複雑そうな表情を見せ、答えた。
「Fユニットは解散させられた。理由としては予算超過、Fユニットが的場1佐の私兵部隊化するのをを恐れた統幕の判断、それと的場1佐の暴走やクーデターを恐れた政府の判断、そして日本が独立した防衛力を持つのを厄介に思ったアメリカの横槍。
詳しい事は私にもわからない。だが的場1佐やその部下数名は徹底的に抗った。統幕会議に乗り込んで部隊の必要性を説明したり、Fユニットの設立を後押ししていた国会議員のところへ押しかけたり、さらには装備調達額の水増しからなる部隊予算の流れをマスコミに公表する云々等、脅迫めいた文言を防衛庁長官に送ったりした。
的場1佐の信条は『勝てない戦いはしない』らしかったが、それこそ勝てない戦いだった」
「その結果、どうなったんですか?」
「的場1佐を始めとする徹底的に抗った隊員は閑職に回され、素直に帰順していた隊員は、その後設立された特殊部隊等に移籍した。中には何も変わろうとしない自衛隊の体質に絶望し、退官する道を選んだ隊員もいる」
「それで、鹿島さんは退官したと?」
はやての最後の質問に、森は静かに頷いた。
フェイトが鹿島の履歴を見つつ、呟く。
「退官後、民間の会社に防衛大学校卒業の経歴を生かし、就職。しかしすぐに退社。その後も職を転々とし、現在某零細企業のしがない営業マン。営業成績は最悪、上司の受けも最悪・・・。現在、6度目の転職を考え中・・・・・・」
「ただの駄目な大人やないですか」
はやてが突っ込んだ。森は表情を変えず、はやての突っ込みを受け流した。
(それより、こんな個人情報をどっから調べたんやろ?そもそも上司の受けとかどうやって調べたん
や?)
密かに疑問を持ったはやてに気づかず、森は続けた。
「そこで、君達に彼の説得に行って欲しい。私と神埼1尉は防衛省に行って色々説明しなければならない事があり、時間が無い」
「でも、わたし達は鹿島さんの事をよく知りませんよ?」
「それに、わたし達だけだと説得できる自信が・・・・・・」
なのは達はそう言って困惑したが、森は気にしないような顔で続けた。
「大丈夫だ。説得には彼にも同行してもらう。おーい、入ってくれ」
森のその言葉で、司令室のドアが開いた。
背広を着た、マッチョな男がそこにいた。
「それがし、斉藤山城守が家臣、飯沼七兵衛と申す」
マッチョマンはそう言うと、窮屈そうに胸のネクタイに手を掛けた。
「・・・・・・あの、森1佐。もしかしてこの人って・・・・・・」
恐る恐るはやてが質問すると、森は無表情のまま答えた。
「そう。彼が、戦国時代から飛ばされてきた武士だ」
最終更新:2009年11月23日 14:02