新暦76年 10月3日 17:45 第97管理外世界 日本国 東富士演習場 宿舎 1F休憩場
秋元と加賀は、コーヒーを飲みつつ今日の演習結果について話し合っていた。
「やっぱりあそこで、2発はてき弾を撃ちこんどきゃ良かったんじゃね?」
「いや1発撃った時点で猛反撃食らったし、やっぱり狙撃で牽制しながら直近で爆薬投げておけば、結構出来たんじゃ・・・・・・」
あーでもない、こーでもないと話し合い、頭を抱える秋元の隣で、加賀はコーヒーを飲みつつ呟いた。
「あ、そうだ。今日の深夜1時から新アニメだ。ワンセグで録画しておかないと・・・・・・」
「またかこのオタクめ」
「うるせー。アニメは日本の重要文化財だ!天然記念物だ!!」
「とりあえず黙れ」
そんな事を言い合っていると、2人に対して複数の足音が近づいてきた。
リリカル自衛隊1549 第8話 「親睦」
足音の主、それはフェイト、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、そして狼形態のアルフだった。
はやて達はロメオ隊の隊員達と仲良くするために、出会ったら積極的に話しかけるよう皆に言っていた。フェイト達もそれに従い、秋元達を見かけたので話しかけてきたのだ。
「こんばんはー」
秋元と加賀はフェイト達の姿を見て即座に立ち上がり、そして二人同時に見事な敬礼をした。
「テスタロッサ執務官どの!!気づかず申し訳ありません!!」
秋元が敬礼しつつ、斜め上を見つつ答えた。階級が絶対の自衛隊では、上官を見たら即敬礼しなければいけないのだ。これを怠ると、最悪、上官の鉄拳が飛んでくる。
一方加賀は、敬礼こそしているものの、視線はフェイト達に向かっている。
(うわー、金髪ロリショタツインテール短髪と、萌え要素がたっぷり詰まってんじゃねーか。やっぱりロリか?いやツインテールも捨てがたい・・・。でもここはスタイルのいい執務官殿か?あー、管理局とやらに転職したい・・・・・・)
そんな事を思いつつ、加賀が変な視線で眺めるのに気づかずフェイトは苦笑しながら答えた。
「敬礼も敬語もいいですよ。わたしの方が歳も低いんですし」
「それでも!我々は管理局の方々皆を幹部相当で応対しろと、上官から言われていますので!!」
「それに執務官とは1尉相当の階級だと聞いております!」
ビシ!と秋元と加賀は斜め上を見つつ、はきはきした声で続ける。階級にうるさい自衛隊では、とても上官にため口なんて利けないのだ。
「じゃあせめて、テスタロッサ執務官殿じゃなくて、フェイトさんって呼んでください」
「フェイトさん・・・ですか?」
フェイトの提案に秋元は困惑したが、加賀はノリノリで言った。
「じゃあフェイトさん座って!!色々と話を聞かせてください!!」
「わ、わかりました・・・。ほら皆も座って」
加賀の猛烈な勢いにフェイトはタジタジになり、皆を促して休憩室のソファーに座った。
「自分は、秋元直樹2等陸曹です。歳は24歳。以前は第一空挺団に所属していました」
「加賀洋二2等陸曹であります。年齢と以前の所属は秋元と同じです」
秋元と加賀の自己紹介が始まり、フェイト達も自己紹介を行う。
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です。以前の所属は時空管理局、機動6課です」
「スバル・ナカジマ2等陸士です」
「ティアナ・ランスター2等陸士です。よろしくお願いします」
「エリオ・モンディアル3等陸士であります!」
「キャロ・ル・ロシエ3等陸士です・・・。よろしくです」
そこまでは、いたって普通の自己紹介だった。
『アルフだ。あたしはフェイトの使い魔だ。よろしく』
が、アルフが自己紹介を始めた事により、秋元と加賀は周囲を怪訝な目で見回した。
アルフは失念していた。第97管理外世界には、喋る動物はいないことを忘れていたのだ。
「・・・・・・あれ?今6人目の声が聞こえなかったか?」
「ん・・・?何か声が・・・・・・」
だが秋元達の疑問に気づかないアルフは、いたって普通に
『おーいお二人。喋ってるのはあたしだって』
しかし秋元と加賀は、アルフが喋ることにちっとも気づかず
「ん?誰かステルス迷彩でも着て潜入しているのか? スネーーーク!!」
「メタルギアネタはやめろ。それにしても、お清めの塩でも置いといた方がいいのかな?幽霊でもいるのか?」
そう言って、どこからともなくバンダナを取り出す加賀と、同じく食塩(明石産)と取り出した秋元の様子を見て、ようやくフェイトは秋元達の疑問に気づいた。
「アルフ、この世界には喋る動物はいないよ。とりあえず人間形態に戻って」
フェイトが犬(秋元と加賀には犬に見えた)に話しかけるのを、2人は怪訝な目でフェイトを見つめた。
アルフは人間形態をとり、改めて自己紹介しようとした、のだが・・・。
「あたしはアルフ。フェイトの使い魔だ。よろし・・・」
「イヌミミだーーーーーーッ!!」
突如叫び、アルフに駆け寄った加賀を見て、機動6課の面々は無意識にその場から一歩後退した。
「え?マジで!?マジで!?コレ本物!?」
「え、うん・・・。一応あたしの耳だけど・・・・・・」
「うわ尻尾まである!しかもスタイルも最高!!ヒャッハー!!」
戸惑うアルフと6課の面々を差し置き、何か喚きつつアルフを上から下までじっくり眺める加賀は、突如携帯電話を取り出し
「写真撮ってもいいですかね~?」
と携帯電話のカメラモードを起動。そんな加賀を、秋元は一発殴って
「すいません。ちょっとコイツに制裁食らわしときます」
と、男子トイレに加賀を引きずって行った。「え、ちょお前。まだ写真撮ってない」「うるせー」という声が後に続き、フェイト達の視界から秋元と加賀の姿が消えた後、
「ちょ、おま。うわなにをするやめ・・・・・・アッーーーーーーーー!!」
加賀の叫び声が響いた。
「グシャッ! という音が響いた気がする」と後にエリオは語ったそうな。
「すいませんね。あいつ、いわゆるオタクって奴で・・・」
数分後、加賀をトイレに置き去りにし、手に赤い液体を飛び散らせて戻ってきた秋元は、謝りつつ手の液体を拭った。
「「「へぇ~、そうなんですか・・・・・・(棒読み)」」」
と答えた機動6課の面々をよそに、秋元はアルフの姿をじっくり眺めた。
犬耳に尻尾、そしてスタイルがいいアルフは、秋葉原に立たせたらあっという間にオタク達が集まってくるだろう。それに普通に美しい。
少しは加賀の気持ちがわかった秋元だった。
「それで、秋元さんは何でこの任務に参加したんですか?」
と、スバルは話題を変えるため、明るい声で言い出した。
秋元はしばらく悩んだ後、
「約束、だからかな?」
「約束?」
とティアナが訊くと、秋元は続けた。
「俺、施設で育ったんですよ。施設の中でも結構年長だったんで、歳の低い子達の面倒もよくみてましてね。
んで、俺が自衛隊に入る時、皆に約束したんです。『お前らが大人になるまで、俺がお前らの未来を守ってやる』って」
秋元の話に、フェイト達は自分達の過去を思い出した。
フェイト達は皆、本当の意味での親や兄弟と家族と呼べる存在はほとんどいない。秋元の境遇も、彼女らと少し似ていた。
秋元は空気が変わったことを察し、勤めて明るい風に続けた。
「それに、俺の師とも呼べる人が第3特別実験中隊に参加してまして。その人の名は・・・」
「やれやれ、死ぬかと思った」
秋元が話を続けようとした時、復活した加賀が休憩室に戻ってきた。
「チッ・・・・・・。確かに殺したと思ったのに」
「わっはっはっは!今晩の新アニメを見るまで、俺は死なんさ!!」
物騒なことを呟く秋元の隣で、加賀は何事もなかったように笑った。
「あの、加賀さんが今回任務に参加した理由って・・・・・・」
フェイトが、恐る恐るといった風に訊ねた。
6課の面々は、演習中と現在の加賀のギャップに驚いていた。演習中は冷静沈着に一撃必中の狙撃を行っていたのに、ここでの加賀は、ただの変態にしか見えない(実際変態なのだが)。
フェイト達はマトモな答えを返してくれる事を願った。
が・・・・・・。
「今回の任務に参加した理由・・・それは!!」
「「「それは?」」」
「任務に失敗して世界が消滅すると、アニメが見れなくなるからだッッ!!!」
再び、休憩室に沈黙が降りた。
一方その原因を作った加賀は、そんなこともわからず
「いやー、来年にはアニメの2期が始まるし、俺のやってるギャルゲーの続編も出るからね~。アハハハハ」
と大笑い。楽しみにしているアニメやゲーム(主にギャルゲー。全年齢対象版)を指折り数える加賀の背後で、秋元が音もなく立ち上がり、
「世界が消滅する前に、お前を消滅させてやろう・・・・・・」
と呟き、再び加賀を引きずって行った。
「え、ちょまだ話は終わってない!」
「やかましい!!」
との声の後、
「ちょ、おま、それはマジで死・・・くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」!!!!」
と絶叫が響き渡った。
「なんか、木が折れるような音がしました」と、後にキャロは語ったそうな。
最終更新:2009年11月23日 14:06