10月13日 11:00分 オペレーション・ロメオ 実行まで あと1時間10分
リリカル自衛隊1549 第10話 「状況開始」
東富士演習場の倉庫では、作戦の編成式が行われていた。
防衛省内局の高官、陸自の将官、さらには時空管理局からリンディ・ハラオウン提督を始めとして、数人の高官が参加している。
「改めて説明するが、今回の任務は特殊である。我々は1549年に時間転移し、第3特別実験中隊を捕捉。1週間後の揺り戻しが発生する前に、我々が時間転移した場所―――スリッピングフィールドに戻り、現代に帰還する」
森が先程から、作戦の詳細について説明している。
ロメオ隊員達は迷彩服を着て、管理局の魔導師達はいつものバリアジャケットを展開させていた。
倉庫の中には物々しい雰囲気が漂い、ピリピリした空気が張り詰めている。
「今回の任務が失敗した場合、わたし達の帰る世界そのものが無くなってしまう可能性があります。だから、この作戦は絶対失敗させたらあらへんのです」
はやてが森に続けて言う。
「この作戦では余計な影響を現代に与えないため、極力現地人の発見されないよう、行動は夜間に限定して行う。発見されてしまった場合は、全力で後退、回避し、無用の戦闘を避けろ。
やむを得ず交戦する場合、麻酔弾での発砲のみ許可する。この麻酔弾は薬莢が土中分解するため、現代に与える影響を極力減らす事ができる」
「わたし達は、非殺傷設定の魔法のみ使用できます。ですが、やはり発見されない事が第一です」
森が一発の銃弾を手にとって説明する。その銃弾は弾頭が麻酔針となっており、極力まで減装薬されて人体に着弾してもダメージを与えないようになっている。
なのは達の非殺傷設定の魔法は、相手にダメージを与える事無く昏倒させられる。
このように現地の人員を殺傷せず、任務を遂行することが今回の任務での優先事項なのだ。もし過去の人間を殺傷した場合、現代に多大な影響があると判断されたからだ。
「ではここで、今回の作戦に参加して頂くオブザーバーを紹介しよう。鹿島元2等陸尉だ」
森の紹介で、ロメオ隊の列から1人の男が抜け出した。
その姿を見て、なのはは1週間前の七兵衛の説得が成功したことが判った。やはり、男同士で話合った方が早いこともある、となのはは改めて思い、同時にあの鹿島を説得できた七兵衛を少し尊敬した。
「鹿島です。どうぞよろしく」
鹿島はそう言って、皆に頭を下げた。
「森1佐、質問があります」
「何だ?」
「実弾は装備するんですか?」
いきなり鹿島が実弾の話をしたことにより、倉庫内が一瞬ざわついた。
実弾の使用―――明らかな戦闘行為だからだ。その話を積極的にするという事は、鹿島は戦闘を予測しているのだろうか、となのはは思った。
「装備はする。だが、発砲は許可あるまで厳禁だ」
「魔導師の方々の、殺傷設定の魔法とやらはどうなんですか八神2佐?資料映像を見せてもらった限りでは、かなりの威力があると思いましたが」
鹿島は続けてはやてに問う。はやてはその質問を予測していなかったのか、一瞬答えるのに戸惑ってしまった。
「ええと、こちらも許可あるまでは非殺傷設定のみ使用可能です」
「鹿島君、君は戦闘行為を行うつもりなのか?」
森が鹿島に、低い声で言う。
「いざという時の備えです。他意はありません」
「鹿島君、君はオブザーバーだ。不用意な発言で、隊の皆を不安にさせてもらっては困る」
鹿島は森の言葉に一瞬顔をしかめたが、自分の発言は無用な混乱を生むと判断したのか黙っていた。
森は鹿島が黙ったのを確かめ、再び皆に向き合った。
「この作戦はあくまで秘匿行動が第一である。それを忘れるな」
「もう一度言いますけど、この作戦が失敗したら、わたし達の知る世界は消えてしまいます。大切な人達のためにも、絶対作戦を成功させて帰ってきましょう!!」
はやてがそう締めくくり、作戦編成式は終了した。
そして、1時間後・・・・・・。
《電圧正常、全ての電子機器に問題なし》
《太陽からの電磁波到達まで、後10分》
《ロメオ隊、ホール対策特別部隊は指定の車両、航空機へと搭乗して下さい》
その合図で、ロメオ隊員と魔導師達は、一斉に車両やヘリへと走って行った。
今回「オペレーション・ロメオ」に参加する車両は
管理局仕様の指揮通信車1両
82式指揮通信車1両
87式偵察警戒車1両
96式装輪装甲車1両
軽装甲機動車4両
燃料タンク車2両
偵察用バイク5台
73式大型トラック3両だった。
対して航空戦力は
AH-64D「アパッチ」攻撃ヘリコプター1機
OH-1「ニンジャ」偵察・観測ヘリコプター1機
UH-60JA「ブラックホーク」輸送ヘリコプター1機
CH-47J「チヌーク」大型輸送ヘリコプターが1機
JF704式改ヘリコプター2機だった。
ロメオ隊の使用する無線機は念話と交信できるよう改造されており、個人で携行する無線機でロメオ隊員と魔導師との間で意思疎通が可能だ。
58名のロメオ隊員と64名の魔導師達は、それぞれ指定された車両、ヘリへと乗り込む。
はやては指揮通信車へと乗り込み、森や鹿島達は82式へ。なのは達元機動6課メンバーは、アルトが操縦するJF704式改ヘリへと乗り込んだ。
ティアナとスバルはJF704の後部ハッチから乗り込み、備え付けの椅子に腰掛ける。ティアナの隣ではフェイトがバルディッシュの最終点検をしており、正面ではエリオとキャロが緊張をほぐす為か談笑していた。
「ティア大丈夫?手が震えてるけど」
先程までなのはと話していたスバルにいきなり話しかけられ、ティアナは少し身を震わせた。
「だ、大丈夫よ。アンタに心配される程緊張してないわよ」
「? そう。ならいいんだけど・・・・・・」
とスバルは言い、再びなのはと話し始める。
ティアナは自分の手を見た。わずかにではあるが、スバルの言ったように震えていた。
怖い。ティアナはそう思った。
これから行くところは、毎日のように合戦が繰り広げられ、血で血を洗う戦いが繰り広げられている。
最悪、死ぬかもしれない。
ティアナは手を握り締め、集中する。
(大丈夫、わたしは出来る。落ち着け、落ち着け・・・・・・!!)
そう念じていると、いつの間にか手の震えは止まっていた。
手の震えが止まったのを見て、ティアナは窓の外を眺めた。小さな窓の外では、侍―――七兵衛が鎧兜を着け、馬に乗っていた。
七兵衛は鹿島と二言三言話すと、馬に跨った。おそらく、七兵衛と一緒に戦国時代からやって来た、彼の愛馬だろう。
ティアナは馬をしばらく眺めた後、イメージトレーニングを行う為瞼を閉じた。
作戦参加要員が全てスリッピングフィールド内に収まり、人工磁場シールド発生装置のうなりが増す。
《太陽からの電磁波到達まで、後1分》
《オペレーション・ロメオ。状況開始》
82式指揮通信車の車内では、神崎が本部との通信を行っていた。
「電磁波到達。人工磁場シールドに異常発生」
神崎が淡々と伝える。
車両群の外ではあっという間に濃い霧が発生し、ロメオ隊、ホール対策特別部隊を飲み込んだ。
「霧状の渦が発生」
神崎の報告で、指揮通信車内の鹿島は、小さな窓から外を眺めた。
車外は霧で視界が悪く、隣に停車していたはずの車両が視認できない。
霧の発生と同時に、車体が小刻みに揺れている。
《強烈な閃光が発生します。各員気をつけてください》
ティアナは無線通信から念話に変換された神崎の報告で、思わず身を低くした。
直後、強力な光が窓から差し込み、ティアナは目を思い切り瞑った。
霧が晴れた時、そこにはロメオ隊の車両はヘリは無かった。
かわりに、6年前と同じくススキの生えた土地が広がっていた。
自衛隊・管理局、さらには在日米軍の調査隊が早速スリッピングフィールド内に進入し、土壌の調査を行う。
調査機器が示す、土壌の年代は・・・・・・。
最終更新:2009年12月06日 18:40