現在 1549年 10月13日 12:15
開け放たれた指揮通信車のハッチから、強烈な日の光が差し込んでくる。
「間違いない。ここは、わたしの知る世界だ・・・・・・」
七兵衛が感慨深そうに、空を仰ぎ見ながら呟く。
「ここが、戦国時代・・・・・・」
「来たのか、俺達は本当に・・・」
心なしか、空は平成時代より、青く澄み渡っている気がした。
リリカル自衛隊1549 第11話 「戦国時代」
森の号令の下、全員が時計の時間を合わせる。
揺り戻しが起きるまで、あと169時間7分。
時計を合わせた後、すぐさま作業が始まった。帰還場所を見失わない為のランドマーカーの設置、侵入者を探知するセンサーの設置など、やることは色々あった。
はやてを始めとする魔導師も、結界などを張って協力する事が事前に決められていた。が・・・・・・。
「AMF?」
森は怪訝な表情で聞き返した。
先程シャマルがスリッピングフィールド一帯に結界を展開させようとしたのだが、上手く魔力が結合できなかったのだ。
不思議に思い調べてみると、この辺り一帯に高濃度のAMFが展開されている事が判明した。
「はい。Anti Magilink-Fieldと言って、簡単に言えば魔力を使いづらくするフィールドを展開させる魔法です」
と、今回の作戦に記録係兼情報係として参加したユーノが答える。
「我々のところで言うジャミングやECMみたいなものか・・・」
と森が呟く一方、鹿島はすかさずユーノに訊く。
「そのAMFとやらは、人工でしか生成できないのか?それとも自然発生することもあんのか?」
「自然に発生するってのは、結構低い確率だと思います・・・。人工に生成されていた方が多い気がします」
ユーノの言葉で、なのははスカリエッティを思い出した。彼の所有するガジェットドローンはAMFを展開出来、なのは達も大いに苦しめられた。
もしかしたら、スカリエッティがいるのではないか。そう思ったなのはは、すぐに自分の考えを否定した。
そんな偶然、ありえない。
「つまり、その超低い確率に当たっちまったのか、それともこの時代に魔導師がいるかのどちらかということか」
鹿島は腕を組んで、何か考え始めた。
「八神2佐、君達が行った人工磁場シールドの実験は、確か全て失敗したんだったな?」
森がはやてに問う。
「はい。あちこちの世界に施設を作って、条件も完璧に再現したんですけど、結局全部成功しませんでした」
「なら十分だ。おそらく自然現象だろう」
森はそう言って、大規模な周辺一帯の偵察を行わず、センサーの設置と警戒だけ行うよう命じようとした。が、鹿島がすかさず反論する。
「ちょっと待ってくれ。自然現象だと何故言い切れる?ここはちゃんとした偵察活動を行って、AMFの原因を調べるべきだ」
「部隊の行動は夜間に限定されている。昼間に移動すると、誰かに発見される恐れもある」
「能力が完全に発揮出来ない状況で襲われてみろ。あっという間に全滅するぞ。大体、こんな平地のど真ん中で密集してたら、それこそ襲ってくださいと言ってるようなもんだ」
「君はあくまで民間のオブザーバーだ。部隊運用権限は私にある」
そう喧々囂々の議論が始まってしまった。なのははそれを見て、エリートで規律を守る森と、直感で行動する鹿島の違いを感じた。
森は規律に従い、その通りに行動している。規律を守る事が最善で、部隊に混乱をもたらさないと考えているのだろう。反面、思考に柔軟性を欠き、規定通りの事態には完璧に対応できそうだが、規定にない突発的な出来事には対処できないかもしれない。
対して鹿島は直感で行動している。思考が柔軟でどんな状況にも対応出来そうだが、反面自衛隊という規律を重んじる組織では疎まれそうだ。
やがて、森は小規模な偵察隊の出発を命じた。鹿島は「偵察を出すならヘリも出すべき」と言い張ったが、森が指揮官権限で一蹴してしまった。森にはロメオ隊・ホール対策特別部隊の総指揮権限が与えられているため、鹿島も下手に太刀打ち出来なかったのだ。
こうして、七兵衛と乗馬の出来る隊員3名が、この時代の服装をして偵察を行う事となった。
ホール対策特別部隊の指揮車では、鹿島と森が激論を戦わせているのを、はやては念話に変換された無線通信で聞いていた。
隣で部隊展開の管制を行っているリインフォースⅡが、警戒の為に展開する魔導師達と連絡を取りつつはやてに話しかける。
「何か、上手くいってないですね~」
「ほんまやなあ。もちっと仲良くして欲しいもんや」
そう心から言ったはやては、目の前のモニターを眺めた。
モニターには、各魔導師の所有するデバイスからの映像が映し出されている。今のところ、大した動きは無い。
本当なら、魔導師による航空偵察が行われる予定だったのだが、このAMF下では飛行は困難だった。森は
魔導師達の体力温存を考え、航空偵察は夜間に偵察ヘリで行う事を決定した。
対して鹿島は、「魔導師が使えないならヘリを今すぐ出すべき」と森に提案したが、案の定、森は聞く耳を持たなかった。
魔導師はヘリに比べて小さく、ローター音も出さないので航空偵察にはうってつけだったのだが、このAMFが全ての計画を狂わせてしまった。
「はやてさん、森さんと鹿島さん、どっちの意見が正しいと思います?」
リインフォースⅡがモニターに目をやりつつ、はやてに訊く。
「正しいって言われてもな~。森さんの行動は組織としては常識的だし、鹿島さんの提案は実戦的発想に基づいておるから、どっちも間違ってはないと思うよ」
はやてはそう答えた。
するとその時、はやてに念話が届いた。ヴィータからだ。
『これから周辺一帯の警戒に行って来る。ロメオ隊の人間も一緒だ』
『ヴィータ、ちゃんと仲良くするんよ』
『っ、わかってるよ!じゃあな!!』
そう言ってヴィータからの念話は切れた。
はやては手元の地図に目を落とす。なのはを除くスターズ分隊は、スリッピングフィールド周囲の森林地帯を行う予定だ。万一敵襲があったら、一番危ない場所である。
(・・・ヴィータ。無事でな)
はやてはそう願った。
その頃、「君がいると指揮系統が乱れる」と森に言われ指揮通信車を追い出された鹿島は、苛立ちながらポケットからタバコを取り出した。
電子ライターを何度か着火させようとしたが、ガスの残量が少ないのかなかなか点かない。仕方なく予備のライターを取り出そうとした時、横からライターを持った手が突き出されていた。
三國だった。三國はジッポのライターを着火し、鹿島に近づけた。鹿島は礼を言って、タバコに火を着ける。
「森さん、何度D-3に挑戦しても制圧出来なかったんです。あなたみたいな天才に嫉妬してるんでしょう」
三國はそう苦笑しつつ、ライターを懐に戻した。
鹿島はライターを持った三國に、礼にとタバコを一本差し出す。
「いいです。タバコは吸わないので」
「じゃあ、何でライターを?」
再びライターを懐から取り出し、三國は嬉しそうな表情で答えた。
「父の日に、息子がくれたんです。娘には『タバコ臭い』って言われまして、それで禁煙したんです。やっぱり、男同士の方が話が合いますね」
「そうですか・・・」
「ゴラン高原だの東ティモールだのイラクだの、方々派遣されましたがね、まさか戦国時代に派遣されるとは思わなかった。歴史好きの息子の見せてやりたいもんです」
三國はそう言った後、「タバコ、ちゃんと始末しておいて下さいよ」と言ってどこかに歩いて行った。
鹿島は深く煙を吸い込んだ後、近くをユーノが通りかかるのが見た。
「スクライア博士、ちょっと訊きたい事が」
「ああ、鹿島さん・・・って、タバコ吸っちゃ駄目じゃないですか!何も僕達の痕跡を残しちゃ・・・」
「後でちゃんと始末しとく。それで、話がある」
鹿島は短くなったタバコを口から離し、ユーノに向き合った。
「1つ訊きたいんだが、あんたが知ってる中で、AMFだっけ?を発生させられる人間は、どのくらいいる?」
「AMF自体、非常に珍しい魔法なんです。そうですね・・・、大体10人以下だと思います」
「一番こんな事が得意そうな魔導師は?」
鹿島にそう訊かれ、ユーノは腕を組んでしばし考える。
「・・・・・・やっぱり、AMFを使ってた中で印象深いのは、ジェイル・スカリエッティでしょうかね?」
「ジェイル・スカリエッティ?」
ロメオ隊には魔法技術を始め、次元世界のことについては殆ど知らされていない。もちろん、犯罪者であるスカリエッティの事なんて知らないだろう。とユーノは思った。
「広域指名手配されている次元犯罪者です。生命操作や生体改造、精密機械に関する違法な研究を行っていたり、管理局に襲撃を掛けてきた事もあります」
「そのスカリエッティって奴、設計図の図面さえあれば何でも作れるような奴か?」
鹿島が真剣な表情に訊いてくる。ユーノは何故だろうと思いつつ、答える。
「多分。ガジェットドローンっていう、この世界でいう無人戦闘機械を量産させてましたし」
「・・・そのスカリエッティが、人工磁場シールドに関する技術を得ていたりしている、何てことは?」
ユーノはその言葉の意味を考えてみる。
たしかにスカリエッティが人工磁場シールドに関する技術を得ていたら、装置を完全に再現させる事は可能だろう。タイムスリップへの個人的な興味もあるに違いない(現にユーノだって、過去の世界に行く事が出来るという事に興味を持って志願したのだ)。
「もし技術を得て、それで完成させたとしても、それで成功するなんて事は多分無いです。現に管理局が技術を提供されて、それを完全に再現させても効果を発揮しなかった訳ですし」
「過去に行ける魔法ってのは存在するか?」
「うーん、未だに見つかってませんね」
そう言うと、鹿島は黙り込んで何かを考え始めたようだった。
「あの、何かあるんですか?」
「いや、何でもない・・・・・・」
鹿島はそう答えた後、小さく呟いた。
「・・・見つけてるな、もう」
ユーノはその言葉の意味がわからなかったが、鹿島はそれっきり何も話しては来なかった。
最終更新:2009年12月09日 21:20