偵察に出た七兵衛達は、明らかにこの時代の物ではない物を発見していた。
大量に遺棄されていた小銃の空薬莢だったり、戦闘糧食の空き缶だったり。近くの岩肌では、爆発で抉られたらしい痕跡もあったと、七兵衛達は報告してきた。
一方、無断で指揮通信車に戻った鹿島は、その報告に違和感を抱いていた。
何かが、おかしい―――。
リリカル自衛隊1549 第12話 「相反」
鹿島の疑問に気付く事無く、森はトラップの有無だけを七兵衛達に確認させ、ヘリ部隊のみ残して本隊をベースキャンプ予定地の高座山に前進させるよう命じた。
慌てて鹿島は、森に前進を中止するよう訴えた。一応鹿島はオブザーバーとして来ているので、渋々森は鹿島の意見を聞く。
「なぜ前進の中止を訴えるんだ?トラップは確認されていないし、問題は無い」
そう訊く森に、鹿島は理由を述べていった。
まず第一に、これだけの遺棄物が残されているのが不自然だった。近代ゲリラ戦の鉄則は、自分達の痕跡を残さないこと。遺棄物だけで自分達の存在・規模・位置が知られてしまうからだ。
薬莢はともかく、戦闘糧食の空き缶まで放置してあるのはおかしい。軍事組織では野戦時に、糧食の空き缶を埋めておくのは常識だ。そんな初歩の初歩の事すら偽装できていないのは、的場1佐が指揮する部隊にしては不自然―――、いや、後手に回りすぎている。
第二に、まだ現地住民に接触すらしていないことが疑問だった。
「偵察の報告じゃ、発見された民家は全て空き家だったんだろう?」
「それがどうした。戦に巻き込まれるのを恐れて、田畑を捨てて逃げ出したのかもしれない」
「だとしても全員いなくなるのはおかしい。ここは前進を中止して、観測へリで周囲一帯をスキャンすべきだ」
鹿島の言葉に、森は「それこそ藪をつついて何とやらだろうがね」と言い、再び部隊の前進を命じようとする。
鹿島はそのマイクを奪い、再び中止するよう訴え、森はそれを退け再びマイクを取り、また鹿島が―――。
その司令部の醜態を、秋元達は無線越しに聞いていた。
先程から秋元達はヴィータ達と協力し、センサーを設置した後周囲の警戒についていた。
「・・・なんか、纏まってないですね」
「ああ。さっさと方針を決めて欲しいもんだ」
秋元はティアナとそう言葉を交わし、再び周囲に目を凝らした。
先程から指揮通信車の通信士は「移動準備」と言っては「現状で待機」と取り消し、を繰り返していた。指揮車の様子がわからない秋元達は、指揮系統が乱れていると推測するしかなかった。
問題はヴィータを始めとする魔導師達だった。
今回の作戦の指揮権限は、ロメオ隊>管理局だったので、ロメオ隊の指揮権限が乱れると、魔導師達にも影響が出るのだ。森の方が階級が上で、地球で作戦を行う以上ロメオ隊が有利になるのは仕方なかったが、ヴィータは森と鹿島の不仲に苛立っていた。
「ったくアンタらの指揮官は無能じゃねえか!襲われた時にこっちが全滅したらどうすんだ!!」
「まあまあヴィータ隊長、落ち着いて」
そう怒るヴィータをスバルは宥めたが、ヴィータの怒りは止まらない。
「なんであんな奴が指揮官なんだ!?はやてが指揮官の方が、もっとしっかりしてたんじゃないか」
「一応森1佐はエリートですよ。防大卒でレンジャー徽章持ってて、海外派遣も何度もされてますし」
秋元が宥め、ようやくヴィータは静かになった。しかし、不満が大有りのようだ。
「そもそも実戦経験の無い奴が、何で指揮官なんだ。あんたらも不安じゃねえのか?」
「実戦経験って・・・・・・。自衛隊に実戦経験のある人なんて、そんなのいませんよ。指揮官を信じなきゃ、作戦どころか組織として成り立たないですし」
秋元が答えると、ヴィータはまだ不満がありそうな顔をしていたが、「他の警戒区域を見てくる」と言って歩き出した。
その背中を見つつ、漂ってきた異臭にティアナは鼻を塞いだ。
「それにしても、臭いですね」
「ああ、本当なら埋めるなり移動させるなりしたいんだがな・・・・・・」
そう秋元と言葉を交わしたティアナは、異臭の源へと目を向けた。
そこには、多くの死体があった。
矢が刺さったもの、胴体が一刀両断されているもの、頭が無いもの・・・・・・。様々な死体が、この森一帯に100体ほどあった。
合戦の死者らしく、本部はまだこのあたりに武装集団がいるのではと心配したが、死体の殆どはだいぶ前のものらしかった。現に日の当たる場所の死体は、殆どが白骨化していた。
それでも、一部はいまだに腐乱し蝿がたかり、壮絶な異臭を放っている。余りの凄惨さに、ロメオ隊・管理局を問わず何人かが嘔吐したものだった。
たまらず秋元達は遺体の埋葬許可を本部に求めたが、『遺体の移動によって歴史が変わるかもしれない』とのことだった。要するに、『何かあったらヤバイしそのまま放置しとけ』ということだ。
遺体の埋葬をしたかったのは、衛生上の観点からだけではない。無残に放置され、虫にたかられている彼らが可哀想だったからでもあった。
「ったく、遺体位で歴史が変わるんなら、俺達が来た時点で相当変わってるっての」
と、隣で64式狙撃銃を携えた加賀が呟く。ティアナも同じ意見だった。
ロメオ隊は、どうにも規則に縛られすぎている節がある。このままでは、敵に襲撃された時にあっという間にやられてしまう。
(―――敵?敵って誰?第3特別実験中隊の人?この時代の人?)
ふとティアナはそう思った。
いつの間にか、自分は第3特別実験中隊を敵だと考えていたらしい。本来なら彼らは救出対象なのに、敵と考えるのは早すぎる。
そう自分を戒めたティアナは、再び前方の森を見つめた。自分の相棒、クロスミラージュを強く握り締めて。
数分後、ロメオ隊員の無線機が突如鳴り、続いて魔導師達にも念話が届いた。
鹿島と森の喧々囂々の激論の末、部隊をベースキャンプ予定地に前進させるらしい。もちろん、移動時に騒音をだすヘリコプターは除いてだ。
通信を受け取った隊員達は、即座に撤収準備を始めた。各々車両に登場し、警戒のため一部の隊員のみ残して出発した。
魔導師達も、AMF下での魔力の消耗を抑えるため、物資を下ろして身軽になったロメオ隊のトラックに分乗した。指揮系統がはっきりせず、そのことにより雰囲気が険悪になっていたが、とにもかくにも部隊は高座山へ向けて出発した。
一方車列から数メートル離れた場所では、地面から一本の指が突き出ていた。その指の先端には小さなカメラらしき物が付いており、カメラは移動している車列の方向に向けられていた。
しばらく車列を撮影した後、唐突に指は地面に沈んでいった。
最終更新:2010年01月01日 12:23