THE OPERATION LYRICAL_02

ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL





第2話 "Mobius1 engage"




青空はどこでも変わらない――戦場はどこも同じ。




「車両内及び上空のガジェット反応、すべて消滅!」
「スターズF、レリックを無事確保!」

司令室の、張り詰めていた空気が一気に和らぐ。ディスプレイにはレリックの入ったケースを確保したスターズ分隊の新人二人が映っている。
はやては安堵のため息を吐いて、それを見つめていた。

『車両のコントロールも、無事取り戻したですよ、今止めま~す』

司令室に響く幼い少女の声はリインフォースのもの。彼女も今回の作戦に参加していたのだ。

「…ああ、ほんならちょうどええ。スターズの3人はヘリで回収してもらって、そのまま中央までレリックの護送をお願いしようかな」
『はいです!』

ゆっくりと強張った身体の力を抜きながら、はやては指示を出す。リインは主にしっかり答えた。
レリック――ロストロギアの一つ、その実態は高エネルギーの結晶体。外見上は美しい赤い宝石だが、外部から大きな魔力を加えられると大規模な
爆発を巻き起こす。はやてたち機動六課の主たる任務の一つに、これの確保がある。
今回は、レリックを搭載したリニアレールがガジェットにより襲われ、コントロールを奪われて暴走していた。機動六課はなのは、フェイトの二
名に各々が隊長を務めるスターズ分隊、ライトニング分隊の新人フォワード部隊を送り込んでこれを阻止、レリックを奪還した。
初任務としては上々の出来と言えた。なのは、フェイト両名は相変わらずの強さだったし、新型ガジェット出現という予想外の事態を目の当たり
にしても新人たちは与えられた新型デバイスを存分に扱いこなし、撃破に成功した。

「隊長、ライトニングはどうします?」

機動六課で数少ない男性、グリフィス・ロウランがライトニング分隊について尋ねる。

「現場待機、現地の職員に事後処理の引継ぎしてもらおか、よろしくな」
「了解しまし――」

グリフィスが言い終えないうちに、突然、通信士のルキノ・リリエが何かに気づいた。

「あら?これって―」
「ん、どないしたん?」

はやてが反応し、ルキノは手元のコンソールを叩いて確認作業を行う。
「――現場空域に、飛行物体が接近……?」
「……ちょっと待って、ガジェット反応じゃない!」

同じように確認作業をしていたアルト・クラエッタが言った。ディスプレイの表示が一部切り替わり、現場空域に接近する飛行物体を映す。

「飛行物体六つ、現場空域に急接近!速度……何これ!?」
「どうした、落ち着け。正確に報告するんだ」

表示された飛行物体の速度に驚くルキノに、グリフィスが落ち着いて報告するよう指示。
だが、彼女の読み上げた数値は司令室の面々を唖然とさせた。

「物体の速度、毎時マッハ2!」
「なんやて?じゃあ超音速か!」

驚く彼女たちを嘲笑うかのように、飛行物体は現場空域に到達。
その現場では、何も知らないスターズ分隊の新人たちがヘリに乗り込もうとしていた。



エイリム山岳地帯、リニアレール鉄道。
空中にかかる光の道、魔法"ウイングロード"の上を歩いて、スバル・ナカジマとティアナ・ランスターのスターズ分隊新人二名は、ヘリに乗り込
もうとしていた。
ふと、何かに気づいたティアナが足を止める。

「? どうしたの、ティアナ?」
「――あ、ううん、何でもない」

気のせいだろうか。ティアナには一瞬、空で何かが光ったような気がした。
その直後、司令室からの警告が現地の六課メンバー全員に知らされる。

『ロングアーチから、現場!』
「どうしたの、はやてちゃん?」

いきなり念話で司令室から、それも部隊長のはやて直々の知らせになのは、フェイトは怪訝な表情を浮かべる。

『警報や!ガジェットではない、飛行物体がそっちに急接近しとる!様子が妙や、警戒して!』

飛行物体、という言葉に現場の皆は眉をひそめた。

「ガジェットではないって、どういうことだろう……?」
「さあ……?」

怪訝な表情を崩せずにいられないのは、停止した列車の上で待機していたライトニング分隊のエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。
若い人間の多い六課でも特に幼い彼らの疑問にすぐに回答が現れた―ミサイル、紛れもない質量兵器と言う形で。

「あれは……!?」

青空のはるか向こう、白煙を吹きながら1発のミサイルがまっすぐ突っ込んでくるのをフェイトの瞳は捉えた。
もっとも普段見慣れないそれが質量兵器であるということを認識するまで、わずかなタイムラグが起きた。
そしてそのタイムラグは――致命的なミスを生む。
「……ヴァイス君、避けて!」

なのはの叫びは、しかしヘリのパイロットであるヴァイス・グランセニックに届くのが遅れた。

「くそ……間に合わねぇ!」

ただちに機体を上昇させるヴァイスだったが、ミサイルはそれに追いすがる。
このままではミサイルが直撃する―その直前、なのはが相棒レイジングハート・エクセリオンを構える。

「アクセルシューター……間に合って、シュート!」

レイジングハートから、桜色の魔力弾が複数放たれる。なのはの得意とする射撃魔法の一つだ。
放たれた魔力弾は一気に加速、ヘリに向かうミサイルに追いすがる。
誰もが息を呑んだその瞬間、際どいところでミサイルは魔力弾を浴びて、爆発。ヘリへの直撃は避けられた。だが――

「っく! エンジン出力……低下!畜生、コントロールだけで精一杯だ!」

ヴァイスの操縦技術で墜落は免れたものの、爆発したミサイルの破片と爆風はヘリを傷つけ、現場空域からの撤退を余儀なくさせた。

「ヴァイス君、その損傷じゃ無理だよ。後退して!」
「すみません……撤退します!」

黒煙を吐きながら、ヴァイスの操縦するヘリは空域を離脱していく。
なのはは険しい表情で、青空を睨む―来た!
ミサイルを発射した者であろう、六つの飛行物体が空域に姿を現す。

「フェイトちゃん、来るよ!」
「分かってる……みんな、迎撃するよ」

フェイトも自身の相棒バルディッシュ・アサルトを構え、飛行物体を睨む。新人たちも各々のデバイスを手に迎撃体制に移行。
徐々に距離が縮まり、飛行物体の姿が鮮明になってくる。その姿を見た時、なのはとフェイトは声を上げて驚愕する。

「嘘、あれって……!?」
「戦闘機……!」

飛行物体の正体は、紛れもない戦闘機だった。
双発、双尾翼、無駄のない空気力学的に優れたフォルム――彼女たちは知る由もないが、この戦闘機はMiG-29"ファルクラム"と呼ばれる機体だ。
それらが六機、二機ずつの編隊を組んでまっすぐこちらに向かってくる。

「ハーケン・セイバー……!」

フェイトはそれぞれ己の魔法を発動させ、MiG-29に向かって放つ。MiG-29は編隊を崩し、フェイトの光の刃、ハーケン・セイバーを回避。
反撃とばかりに六機のうち四機のMiG-29が主翼下に抱えたミサイル、R-60短距離AAMを発射。R-60は白煙を吹きながら猛スピードで二人に迫る。

「やらせない!」

なのは、再びアクセル・シューターを発射。レイジングハートが代わって詠唱を行い、桜色の魔力弾が発射されたミサイルよりも多く放たれる。
目標を目の前にして、R-60は次々と魔力弾に迎撃され爆発。飛んできた破片と爆風を防御魔法のプロテクションで防ぎ、返す刀でなのはは敵機に
向かってもう1度アクセル・シューターを発射。
MiG-29は編隊を崩し、アフターバーナーを点火して加速。各々が上昇、旋回などで回避機動。

「……速い!」

逃げるMiG-29を追いかけるアクセル・シューターを操作していたなのはが悔しそうに言う。
MiG-29は自慢の運動性能に軽快な加速力を持って、アクセル・シューターを引き離してしまう。
それでも、低空に下りた一機のMiG-29をフェイトが捉え、ハーケン・セイバーを放つ。MiG-29は上昇して回避を図るも間に合わず、胴体を真っ二
つにされて空中に四散した。パイロットの脱出は、確認できなかった。

「パイロットは――でも、今は!」

思いを振り切り、フェイトはなのはと協力してMiG-29と対峙する。
一方でMiG-29は三機が彼女たちに牽制攻撃を仕掛け、その隙に二機が新人たちのいる列車に向かった。

「まずい……っくぅ!?」
なのはは列車に向かう編隊を追おうとして、上空から不意の一撃を浴びそうになる。MiG-29のGsh-301三〇ミリ機関砲の弾丸が彼女に襲いかかる。
プロテクションで防ぎ、なのははレイジングハートを構えなおした。
――今までにないタイプだから、ちょっと苦しいかな?
初めて対峙した戦闘機と言う存在に、彼女は珍しく露骨な舌打ちをした。



一方、機動六課管轄の次元漂流者の保護施設。
メビウス1は胸のうちに突然芽生えた違和感を不思議に思いながら、ベッドの上に寝転がっていた。
――いったい何なんだ、この胸騒ぎは。
落ち着こうと思っても、まるで身体はそれを拒むようにソワソワする。

「ええい、くそ」

起き上がり、しかし何も出来ず、メビウス1はつけっ放しだったテレビの存在を思い出す。
アニメはとっくに放送を終えて、ニュース番組がやっていた。だが、どこか様子が変だ。

「なんだ……臨時ニュース、か?」

テレビの向こうからでも伝わってくる慌しい雰囲気。メビウス1はなんとなく、このニュースが気になった。まるで違和感の正体がそこにあるよ
うな―馬鹿な話だと自分でも思ったが、彼は食い入るようにテレビを見た。

『……繰り返します、臨時ニュースをお伝えします。エイリム山岳地帯のリニアレール鉄道にて、時空管理局と何者かの戦闘が発生している模様で
す。他の番組の収録のため現場に居合わせた当局の取材班が、中継で現場の状況をお送りいたします――』

テレビ画面に映るキャスターが消えて、代わりに山岳地帯の光景が映る。青空では、戦闘のものと思われる閃光がいくつも見えた。
現地の取材班の者と思しき声が興奮した様子で実況中継している。その時―青空の奥から、何かが取材班の上空をかすめ飛んだ。

「何!?」

かすめ飛んだ"何か"、メビウス1にはそれが何であるか容易に理解できた。

「どうしてMiG-29がこの世界に――しかも、あの国籍マーク……」

一瞬しか映らなかったが、この世界のカメラは性能がいいのかMiG-29の主翼に描かれた国籍マークをしっかり映していた。
忘れもしない、あの国籍マークは間違いなくエルジア空軍のものだ。

「これか……これなのか、この違和感の正体は?」

胸騒ぎはどんどん激しくなる。気付いた時には、メビウス1は部屋を飛び出していた。
奴らがどうして、どうやってこの世界に来たのか俺には分からない。どうして戦っているのかも―だが、ここはユージア大陸じゃないんだ。

「――お前たちの敵は、時空管理局じゃない」

F-22の居場所は大体目星が着いている。戦闘機の中でも大型の部類に入る機体だから、それなりに規模の大きい格納庫を探せばいい。
格納庫はすぐに見つかった。メビウス1は整備員用の出入り口を開けて、自分の予想が正しいことを知る。

「やっぱりあった――」

格納庫では、愛機F-22がまるで彼を待っていたかのように駐機されていた。嬉しいことに、サヴァイバル・ジャケットもヘルメットも同じ場所に
保管されていた。

「……あ、ちょっと、あなた。何してるんですか!?」
事情を知らない六課の整備員が声をかけてきたが、メビウス1は無視してサヴァイバル・ジャケットを羽織り、ヘルメットを被るとF-22に乗り込
む。

「ちょっと、それは次元漂流者の大事な――」
「俺がその次元漂流者だ。悪いが、格納庫を開けてくれ」

何か訳ありと思ったのか、整備員は言われるがまま格納庫の扉を開けた。太陽の光が格納庫の中に入り込み、メビウス1のF-22を照らす。

「おい、エイリム山岳地帯ってどこだか知ってるか?」
「え……? ここから西に二〇〇キロほどだが……」
「西に二〇〇キロ、だな。ならあっという間だ」

整備員の答えに、メビウス1は安堵する。飛び出したはいいが、行動半径外だったらどうしようもなかった。
メビウス1はF-22のコクピットに収まり、エンジン始動の手順を実施する。
――さぁ、起きろ相棒。
エンジンに火が入った。メビウス1と共に戦場を駆け抜けた文字通り最強の戦闘機が目を覚ます。
高鳴るF119エンジンの咆哮。メビウス1は酸素マスクの固定を確認すると、機体の計器類を最終チェックしてエンジン・スロットルレバーを僅か
に押す。
"ラプター"、猛禽類を意味する言葉にふさわしい堂々とした姿でF-22は格納庫を出る。
格納庫の前には幅の広い道路が広がっていた。本来なら車両の交通用だろうが、この際関係なかった。
最後に操縦桿とラダーを動かして、機体の動作確認。異常無し、離陸準備完了。

「――メビウス1、離陸する」

言ってから、メビウス1は苦笑いする。答えてくれる管制塔などないのだ。癖のようなものだった。
エンジン・スロットルレバーを叩き込む。F119エンジンの咆哮が一段と強くなり、F-22は大地を蹴った。
離陸、メビウス1のF-22は一気に高度一万フィートに上昇すると、進路を西に取った。



クロスミラージュを構えたまま、ティアナは険しい顔をしていた。
列車の上空を飛び交うMiG-29は、とても新人たちの手に負えるものではなかった。

「ううぅおおおおおぉぉーっ!!」

ウイングロードを展開し、MiG-29に真正面から果敢に挑むのはスバル。
ローラーブーツに代わる彼女のデバイス、マッハキャリバーは主の意思に答えるように猛加速、MiG-29との距離が一気に縮まる。

「リボルバー……!?」
シュート、と自身の技を繰り出す前に、MiG-29は主翼下のロケットランチャーを斉射。十発以上に及ぶロケット弾が、スバルに襲い掛かる。

「うわわ、わ!?」

そこでマッハキャリバーがウイングロードを一瞬解除、スバルの身体は重力に引かれて落ち、しかしロケット弾の回避に成功。もちろんそのまま
では地面に叩きつけられるため、即座にウイングロードを再び発動。

「スバル、下がって!」

ティアナはクロスミラージュをMiG-29に向けて、ありったけの魔力弾で弾幕を作る。
ところがMiG-29は翼を翻し、それすらも回避してしまう。
――火力も機動力もずば抜けて高い。戦闘機って、こんな手強いものなの!?
初めて経験する異世界の兵器との戦いに、ティアナは焦りを覚えざるおえない。
同じ飛行する者、白き飛竜であるキャロのフリードリヒも、この未知の敵に苦戦していた。

「フリード、ブラスト・レイ!」

背に乗せた主の声―彼女たちにしてみればその表現は正しくないが―に従い、巨大な火球を放つ。MiG-29は上昇しながらロールしてそれを回避、
反撃の機関砲弾をフリードリヒに撃ち込む。

「こんのぉ!」

それをエリオが前に出て槍状のデバイス、ストラーダで薙ぎ払う。
とは言え、フォワード部隊の攻撃はことごとく回避されている。対照的にMiG-29の攻撃は今のところ有効弾は無いものの、確実に彼女たちの動き
を封じ込めつつあった。

「ティア、上から来るよ!」
「!」

目標を変更したのか、MiG-29がこちらに突っ込んでくるのをティアナはスバルに言われて気付く。

「真っ向勝負ね……やってやるわよ!」

恐れが無いとはいえない。気を抜いたら膝がガクガク笑ってしまうに違いないし、心の中では逃げ出したい気持ちすらあった。
それでも引かぬ心、すなわち不屈の魂を持って、ティアナは急降下してくるMiG-29にクロスミラージュを向けた。

「ハァァーーー!」

雄叫びを上げて、魔力弾を乱射。MiG-29は主翼下に搭載していた無誘導爆弾を四発投下。列車ごとティアナを吹き飛ばす考えだったのかもしれな
い。

「……!」

ティアナはクロスミラージュの銃口を爆弾に向け、撃つ。落ちてくる爆弾の迎撃などそう簡単にうまく行くものではないが―四発の爆弾は、いず
れも空中で炸裂した。
衝撃がティアナに襲い掛かり、たまらず彼女は列車の屋根に叩きつけられた。
MiG-29は好機と見たのか、旋回して再び突っ込んでくる。スバルがウイングロードを展開させ止めに入るが、もう一機のMiG-29が彼女に機関砲を
撃ち込み怯ませた。

「また来る――!?」

ティアナはクロスミラージュを再び構えるが、左右どちらも残弾が不安だった。カートリッジを交換する余裕は、無い。
その瞬間――MiG-29の側面に、一本の矢のような物体が飛び込んでくるのを、ティアナは目撃した。
あっと思った時にはMiG-29の胴体に矢が直撃、機体は爆発し木っ端微塵に砕け散った。

「何……が、起こったの?」

ふと、後方を振り返ると、戦闘機がもう一機、彼女の頭上を駆け抜けていった。敵かと思ったが、MiG-29とは形状が違うことに気付く。
一瞬見えた尾翼に描かれたメビウスの輪の形をしたリボンのマーク。
メビウス1が、戦場に到着したのだ。



ほんの数分だけ時間は前に遡る。
機動六課から離陸したメビウス1は西へとまっすぐ飛び、エイリム山岳地帯上空に到着した。

「何とか間に合ったか……」
APG-77レーダーが捉えた五つの機影。IFF(敵味方識別装置)に応答は無かった。
メビウス1は最初この世界に来た時と同じように通信機の周波数を国際緊急チャンネルに切り替えた。回線を閉じていない限り、まず聞こえるは
ずだった。
「こちらISAF空軍……聞こえるか、エルジア空軍」

メビウス1はまずこのエルジア空軍と思しき機影にコンタクトを取ってみることにした。もし、自分と同じようにこの世界に飛ばされてきたのな
ら事情を説明して攻撃を中止させるつもりだった。

「エルジア空軍、聞こえていたら攻撃を中止してくれ。ここは俺たちの世界じゃないんだ。余所の世界に俺たちの戦争を持ち込むな」

頼むぜ、聞いてくれよ――。
しかし、通信の返答が聞こえてくることは無かった。もしかしたら回線を閉じているのかもしれない。あるいは――

「シカトしてるのかな――ならこうだ」

エンジン・スロットルレバーを押し込んで機体を加速させる。燃料は残り少ないが、出し惜しみして後悔するよりはマシのはずだ。
視認距離に入り、メビウス1はまず何かを取り囲むように飛ぶ三つの機影を目にする。

「あれは――MiG-29、間違いないな。それと―?」

さらに接近。MiG-29が取り囲んでいたのは、人間だった。彼はこの人間に見覚えがあった。

「高町……それに、ハラオウン!?」

二人は空を飛んで、あの日の夜と同じ装備でMiG-29と対峙していた。
なんだ、戦っているのか――?
MiG-29がR-60を発射、それをなのはが桜色の魔力弾を放って撃ち落し、フェイトがハーケン・セイバーで反撃。MiG-29は急激な右ロールで回避、
続いて他の二機が絶え間ない連続攻撃を仕掛けている。
やっぱりあいつら魔女だったんだな――いや、そんなことはどうでもいい。
メビウス1は思考を巡らせた。眼下では迷子になっていた自分を助けてくれた二人が、攻撃に晒されている。

「……恩を返すとするか?」

ちょうどその時、MiG-29の一機がこちらに気付き、迎撃に上がってきた。明らかに話を聞いてくれる様子ではない。
いいだろう、相手してやる―メビウス1はウエポン・システムのスイッチを入れる。

「メビウス1―…交戦!」

MiG-29と真正面から対峙する。ミサイルは一発しかないので温存、比較的余裕のある機関砲に切り替えて迎え撃つ。
敵機はメビウス1をロックオン、R-60を発射。彼はそれをぎりぎりまで引きつけ、ここぞと言うタイミングでフレア―マグネシウムの塊で、燃焼
すると大量の赤外線を放つ――を射出、操縦桿を右に倒す。
F-22はフレアを射出しながら右にロール、R-60は捉えた目標よりも大きい赤外線の反応を持つフレアに幻惑され命中せず。
即座にメビウス1は機体を捻らせ、MiG-29に斜め右上から覆いかぶさるように急接近、M61A2二〇ミリバルカン砲を叩き込む。
二〇ミリ弾をもろに受けたMiG-29は機体を穴だらけにされ、爆発。メビウス1は見向きもせずに次の目標に。
次なる獲物は、なのはとフェイトに攻撃しているMiG-29の二機編隊。彼のF-22は降下、MiG-29の後方下位に潜り込むと、機首を上げて敵機のエン
ジンに向かって二〇ミリ弾の雨を撃ち込む。エンジンに直撃をもらったMiG-29は失速し、地面へ落ちていった。
もう一機はさすがに気付いて左旋回して逃げを打つが、F-22の急加速から逃れられず、これも機関砲弾で蜂の巣にされた。

「ミサイルないとやりにくいな、やっぱり――」

それなりに不便を感じてはいるが、常人には到底真似出来ない速さで三機を葬ったメビウス1は、今度は列車上空のMiG-29に向かって加速。
一機のMiG-29が爆弾を投下、それを列車の上で拳銃を構えた少女が迎撃し、爆弾を空中で炸裂させる。
爆弾を投下して身軽になったMiG-29は再攻撃、再び列車上の少女に襲い掛かる。
これは――機関砲じゃ、間に合わん。
素早く兵装を切り替え、なけなしのミサイル、AIM-9サイドワインダー短距離AAMをMiG-29に向けて発射。敵機は突然の奇襲に回避すらままならず
AIM-9の直撃を受けて空中に四散した。
残り一機。
メビウス1は撤退するだろうと思ったが、あろうことか無謀にも残り一機となったMiG-29は突っ込んできた。

「野郎――命が惜しくないのか!」

フレア、それにアルミ片による電波妨害を行うチャフを放出してあらかじめMiG-29からのミサイル攻撃を阻止、残り少ない機関砲弾を撃ち込む。
被弾したMiG-29は彼のF-22とすれ違った後、爆発した――。



「圧倒的、やな――」

静まり返った司令室で、はやてがポツリと呟いた。
ディスプレイには、尾翼にリボンが描かれたF-22が。
――まったく、いきなりどっかに飛んでいったと聞いた時は何のつもりやろかと思うたけど。

「……現地に通達や、代わりのヘリをよこすから、それに乗るように。ライトニングの二人は、引き続いて現場待機」

はやての言葉に我に返ったのか、呆然とメビウス1の戦いを見ていた司令室の面々は自分の作業に戻る。
一方で、はやては何か物思いにふけったように腕組していた。
――なのはちゃんとフェイトちゃん、管理局のトップエースがリミッター付きとは言え苦戦した戦闘機、そしてそれを数分で全滅させたメビウス
さん……どないしようか。
そうは思いつつも、はやての中ですでに答えは決まっていた。

「なあ、グリフィス君」
「はい?」
「滑走路作れって言われて、何日くらいで出来ると思う?」


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最終更新:2009年02月20日 22:23