ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL
第25話 作戦開始一時間前
ユージア大陸――メビウス1の、元の世界の地名である。
その大陸東部にある大都市ロスカナスに、一人の長身の男が降り立った。名を、ビンセント・ハーリングと呼ぶ。そう、彼こそが世界でも屈指の
大国、オーシア連邦の第四十八代大統領である。
ハーリングが戦争が終結してまだ間もないこの地に降り立ったのは、諸外国に提案していた先進国の首脳たちによる、国際会談への同意を得るため
だ。すでに海の向こう側の大国ユークトバニアには同意を得られているため、ハーリングは次にユージア大陸大陸最大の国家FCUとの会談に臨んで
いた。
「ようこそいらっしゃいました、ハーリング大統領」
ロスカナス市内のホテルにて、ハーリングを出迎えたのはFCUの大統領であるロバート・シンクレア。かつての大陸戦争にて、強大な軍事大国エル
ジアに対抗するため結成されたISAF(独立国家連合軍)の生みの親とも言える人物だ。
「これはシンクレア大統領、ご丁寧に――戦争も終わって間もないでしょうに、もうユージア大陸は復興しつつありますな」
ひとまず握手をしてハーリングは席に着き、このホテルに至るまで自分の眼で直に見てきた街や市民の様子を話す。彼の言うとおり、戦火に巻き込
まれたはずの大陸の各都市では、急ピッチで復興作業が進み、人々の表情は明るい。
もっとも、それは敗戦国であるエルジアから多額の賠償金と領土分割から得られた富によるものが大きいのだが――それを指摘したところで、今更
どうにかなる問題ではない。融和主義で知られるハーリングだが、理想だけで政治はやれないことは承知している。
「ええ。エルジアでもようやく、暫定政権成立の目処が立ちました。ユージア大陸はこれから、平和への道を歩むでしょう。ただ――」
ハーリングの思考を見越してか、シンクレアはエルジアのことも口にした。しかし、どうにも歯切れが悪い。その理由を、ハーリングはすでに知っ
ていた。
「ただ――エルジア残党軍の動きが、最近活発になりつつあると?」
「お見通しのようですな。その通りです」
隠しても無駄なことだとシンクレアは頷き、ハーリングの言葉を肯定する。
敗戦したエルジアであったが、依然として降伏に従わない軍の残存勢力は少なくない。ユージア大陸各地ではISAFによる掃討作戦が続いていた。
「……彼が、メビウス1がいれば、残党軍などあっという間なのですが」
シンクレアが独り言のように呟く。先の戦争の英雄は、すでにもう数ヶ月もの間、姿を消している。ISAF空軍による捜索は、すでに打ち切られてい
た。彼の所属する第一一八戦術戦闘飛行隊では、同僚たちが訓練と称して自発的に捜索を行っているが、それすらも徐々に諦めの声が出ている。
「心中お察しします、シンクレア大統領――それは、そうと。我が国の偵察衛星が、気になるものを撮影しまして」
ハーリングは傍らにいた秘書官のトミーに命じて、皮製の鞄から一枚の衛星写真を取り出させた。
「旧エルジアの首都ファーバンティ南方、トゥインクル諸島近辺の映像です。すでにお気づきだとは思いますが――」
「あぁ……これですか」
シンクレアは衛星写真を手に取り、困ったような表情を浮かべた。
本来なら、そこにはかつてエルジアが開発した最終兵器"メガリス"がある。すでにメビウス1に撃破された後なので、現在は残骸のみがそこに横た
わっているはずなのだが――衛星写真には、メガリスの姿はなかった。
「もちろん、ユージア各国はすでにこの情報を知っています。国内で無用な混乱を呼ぶとの懸念から、公開はされていませんが――」
「衛星ビジネスが繁盛する現代です。国民に知れ渡るのは、時間の問題でしょう……ですが、それ以上に気になることが」
ハーリングはさらに、数枚の書類を取り出す。それらを受け取ったシンクレアは文面を見て、わずかに驚きの表情を見せた。
「ハーリング大統領、これは……」
「我が国だけではありません。ユークトバニア、ベルカ、そして貴国でも……原因は不明ですが、各地で戦闘機が多数、突然消滅する事件。このメ
ガリスが消えた時期と、ほぼ一致するのです」
「――まるで、SF小説のようですな」
書類をテーブルに手放し、シンクレアは言った。
――SF小説、か。彼らの言っていたことは、案外的を得ているのかもしれないな。
ハーリングはシンクレアの言葉で、自国で先進的な空間理論や時間跳躍などの研究を行っている――はっきり言えば、学会でも異端児扱いされてい
る科学者たちの意見を思い出す。
彼ら曰く、ユージア大陸に小惑星"ユリシーズ"が落ちて、その後メガリスによる隕石の人為的な落着と度重なる巨大な衝撃のせいで、地球の磁場が
乱れてしまったという。各国で消滅した戦闘機は、磁場の乱れによって起きた空間の裂け目に飲み込まれてしまったのだ、とも。
馬鹿馬鹿しい、と一笑して片付けてもよかったが――ハーリングには、それが正解なような気がしてならなかった。
時空を飛び越えて、ミッドチルダ、次元航行航空母艦"アースラ"のブリーフィングルーム。
いつか見た光景だな、とメビウス1は、モニターに映るメガリスの全体図を見て思った。モニターの傍らでは、空中管制を担当するゴーストアイと
六課の部隊長、はやてが作戦の解説を行っていた。
「さて、メビウス1の情報を元に、メガリスの全体図をここに用意した。偵察機から送られてきた画像データは、電波障害がひどく使い物にならな
かった……八神二佐、作戦の全容を」
「はいはいっとな」
ゴーストアイから端末の操作をもらい、はやては改まって、口を開く。
「――さて、今更多くを語ることはない。スカリエッティが、どういう訳か分からんけど、メビウスさんと13の世界の最終兵器メガリスを起動さ
せよった。先のクラナガンへの攻撃でもあったように、これは弾道ミサイルを打ち上げて、宇宙空間の隕石を落とすもんや。この恐ろしい悪魔の兵
器を破壊するには……」
はやてが端末を操作すると、メガリスを上面から見た全体図に、矢印が加わっていく。矢印は四本、いずれも、メガリスの排気ダクトに侵入するよ
うな形で描かれているのが特徴だ。
「まず、ダクト内部の三つのジュネレーターを破壊する。そうすれば中央の廃熱口が開きメガリス内部にある大型弾道ミサイルへの道が切り開かれ
るやけど……今回、それは無しや」
中央に加えられていた矢印が消える。代わりに姿を現すのは、突入部隊と表記された友軍ヘリのアイコンだ。
「ジュネレーターを全て破壊すれば、停電が起きてサブコントロールルームへの扉が開く。今回は、このサブコントロールルームから直接、メガリ
スのメインコンピュータに接続し、起動を停止させるんや。停止はリインがやる」
「はいです!」
はやての肩に乗っていた、一見小さな妖精に見えるユニゾンデバイス、リインフォースが元気よく手を上げた。以前のリニアレール鉄道の暴走でも
彼女は列車のメインコンピュータにアクセスし、停止命令を出して列車の暴走を止めた実績があった。
「もちろん、リイン一人で突入なんて真似はせえへんよ。護衛にうちの新人たち、それから、地上本部から応援に来てもらった、ベルツ二尉のB部
隊が就く。よろしいかな?」
「了解です……お願いします、ベルツ二尉」
六課の新人たちのまとめ役、ティアナは頷き、同じくブリーフィングを受けていたベルツに向かって声をかけた。ベルツは「こちらこそ」とラフな
敬礼で答えた。
「しかし、メガリス本体にもとんでもない対空火器があるんだろう?」
「たぶん戦闘機も出てくるだろうな……」
「まぁ、俺たちが相手するんだろうけど」
ベルツと同じく、地上本部より応援に来た戦闘機隊、アヴァランチ、ウィンドホバー、スカイキッドの三人が呟く。はやては「当然」と頷き、それ
に対する解説を始めた。
「その通り、メガリス本体にもとんでもない数の対空火器があるはず。戦闘機も迎撃にあがってくるやろうから、地上本部戦闘機隊、それにメビウ
スさんと13には、迎撃機の排除をお願いしたい。対空火器は――戦闘機に比べて小さい、六課の魔導師が潰す。ええな、三人とも?」
はやては視線を六課の空戦魔導師たち、フェイト、シグナム、ヴィータに向けた。彼女たちは揃って頷く。
本来ならはやて自身も加わりたいのだが、隕石迎撃の際に怒りに任せた広域攻撃魔法を行ったため、肉体への負担が予想以上に大きかった。これで
出撃するのは、かえって迷惑だろう。
その他、現地の天候や緊急時の通信など細かい規定を解説し、ゴーストアイが最後に締め括る。
「メガリス停止後、全員の帰還を持って、作戦を終了する。いいか、必ず帰還せよ。それ以外は、許可しない――以上だ」
「妙なこともあるものだな」
ブリーフィング終了後の、"アースラ"格納庫。整備点検を受けている戦闘機の群れを眺めていた黄色の13が、いきなり呟いた。
「妙って……何がだ」
適当に資材の上に腰を下ろし、黄色の13と同じく戦闘機を眺めていたメビウス1が、彼の呟きに反応した。
黄色の13はわずかに苦笑いを浮かべ、「いや」と首を振り、
「まさか、貴様と編隊を組んで飛ぶ羽目になるとはな」
と言った。確かに、ユージア大陸にいた頃は想像もしなかっただろう。最強のライバルと手を組み、世界の危機を救うために出撃を待っている。
「俺だって思いもしなかったさ。ところで13、その……なんだ、それは」
「これか?」
メビウス1は黄色の13が着ている飛行服、その腹部にいかにも不恰好な形で巻きつけられた、妙な白い布を目をやった。
「千人針ってやつだ。武運長久と無事を祈って、ナンバーズの奴らが作ってくれた」
よく見ると、布には赤い結び目が幾つもあった。その数は確かに、千くらいありそうだ。"アースラ"に乗艦する直前、目の下に隈を作ったチンク
たちが、わざわざ彼の元に届けに来たのだ。
「ははぁ……それはそれは、いい物をもらったな」
納得したようにメビウス1は頷いてみせた。
しばらく二人は無言のまま戦闘機を眺めていたが、突然黄色の13が思い出したように、飛行服の懐を探り始めた。
出てきたのは、封が閉じられたばかりの手紙。黄色の13はそれを、メビウス1に突き出す。
「……なんだこれ」
「お前に頼みがある。サンサルバジオンの酒場にいる少年に、これを渡して欲しい」
黄色の13は至って真剣な表情。これを断れるのは、せいぜい悪魔か鬼神くらいなものだろう。
だが、メビウス1は差し出された手紙を、黄色の13に突き返した。
「13、知ってるか? それは死亡フラグって言うんだ。手紙なら自分で渡せ、もしくはポストにでも入れて来い」
「そう言わずに、頼む」
突き返された手紙を、なおも黄色の13は差し出す。メビウス1は困ったような表情を浮かべ、渋々手紙を受け取った。
「……今回だけだぞ。それから、撃墜されたら承知しないからな」
「恩に着る」
礼を言って、黄色の13は立ち上がり、愛機であるSu-37に向かっていった。そう言えば、パイロットはそろそろコクピットに入ってスタンバイに
入る時間だった。
俺も行くか、と愛機のF-22に向かおうとして、メビウス1はふと、後ろから誰かの視線を感じて振り返る。
「……なのは?」
いつからだろうか。彼が自分のことを"高町"ではなく、"なのは"と呼ぶようになったのは。
それが彼の自分をどう思っているかの表れだと考えるのは、都合がよすぎだろうか――そんなことを思いながら、なのははメビウス1の元を訪ねて
いた。
「よぅ――身体は、大丈夫なのか?」
「はい、普通に生活する分には」
言ってから、なのはは苦笑いを浮かべた。ミッドチルダどころか、管理世界の未来を賭けた今回の作戦に、彼女は参加できなかった。"ゆりかご"戦以
来、八パーセントほど総合魔力量は低下し、身体も戦闘に出るにはまだ万全ではないからだ。
「……まあ、色々思うことはあるだろうけどな、今回は俺たちに任せてくれ」
彼女の思考を見越してか、メビウス1は言葉を放ち、「安心しろ」と彼女の肩を叩き、F-22に向かおうとする。
その彼の肩を、なのはは掴んでいた。
「……なのは、どうした?」
あぁ、いつもそうだ、となのはは思った。
命懸け、それも激戦を前にしているというのに、このISAF空軍屈指のエースは、いつも普通の表情をしている。今だって、わざわざ出撃前に訪ねてきた、
そして呼び止めたというのに、ごく普通に、怪訝な表情を浮かべるだけだった。
それが、なのはは怖かった。「ビビッた後に何をするかがエースか否かの分かれ道」と彼は以前言ったけど、ひょっとしてメビウス1はビビッてすらい
ないのではないだろうか。
自分と同じ"エース"であるはずの彼が、手の届かない場所に行ってしまう――そんな気がして、ならなかった。
「戻ってきてください、必ず」
かろうじて、口に出せた言葉はただそれだけ。
メビウス1は彼女の言葉に何か深いものを感じたのか、立ち止まり――しかし、いつものように笑みを浮かべた。
「あぁ、必ずな」
それだけ言って、彼はF-22のコクピットに向かっていく。遠くなっていくその背中を、取り残されたなのははずっと眺めていた。
戦闘機よりも足の遅いヘリは、先に"アースラ"から発艦していた。無論そのままメガリスに突入すれば、強力な対空砲火であっという間に撃墜されるの
は目に見えているので、戦闘機と魔導師による露払いを待つことになる。
ヘリのキャビンでは、ティアナを始めとした六課の新人フォワードぶたいが、緊張した面持ちで待機していた。
対照的に、ベルツ率いる陸士たちはヘッドホンを耳に当てて音楽を聴いていたり、ガムを噛みながら手近にいた同僚と雑談をしていたりと、ずいぶん余
裕がある様子だった。
「悪いな、これがうちの部隊の流儀なんだ。堪えてくれ」
陸士たちを見て眉をひそめていたティアナに向かって、自身も機内は禁煙のはずなのにタバコを吸いながら、ベルツが言った。
「……ずいぶん、余裕があるんですね」
「いいや」
ティアナの正直な感想に、しかしベルツは苦笑いを浮かべながら、タバコを持参した携帯灰皿に入れる。
「――みんな、本当は怖いんだ。それを忘れようとしてるだけさ」
相変わらず騒がしい部下たちに目をやって、ベルツは言った。
確かに――よくよく見れば、黙って俯いている陸士もチラホラしている。
彼らの多くは銃を握り締め、じっと身動きせず、ひたすら作戦開始を待っていた。
――そうよね。表面上はみんな平気そうな面してるだけよね。
納得したティアナの眼前に、一人の陸士が突然ガムを差し出した。ベルツの方を見ると、「いいから食え」と頷いていた。
彼女は「頂きます」とガムを一枚受け取り、後で思いついたように同じく緊張した面持ちのスバルたちにも陸士からガムをもらうよう促した。
「食べておきなさい、落ち着くから」
「足りない……」
ガムを噛み締めながら不満を漏らすスバルに、陸士たちはどっと笑い声を上げた。エリオとキャロも、ぷっと噴き出し、いくらか緊張を和らげていた。
作戦開始まで、残り二時間だった。
それよりほんの少し後、戦闘機隊はメビウス1のF-22、黄色の13のSu-37を先頭に"アースラ"より発艦。編隊を組んで、メガリスへと向かっていた。
「――なんて風景なんだ」
F/A-18Fのパイロットであるアヴァランチが、眼下の光景を目にして呻くように言った。
メガリスはクラナガンより北方1500キロ、永久凍土の地にあった。ゆえに、眼下に広がるのは氷に閉じられた無音の世界。生物が存在することを
許さない強烈な寒気が支配する、死の土地である。
「まるで、スカリエッティの心を映す鏡のようだな」
アヴァランチに続いて言葉を漏らすのは、F-16Cを駆るウィンドホバー。"人間は殺し合いをやめられない生き物"と断言したあの狂気の科学者は、おそ
らく人を信じる、という事など考えまい。その心は、目の前の氷の地の如く、寒く冷たいはずだ。
「くそ……通りでアルカンシェルをぶち込めないはずだ。氷が崩れて海面が上がっちまう」
Mir-2000のコクピットで、スカイキッドが言った。
確かに、いくらメガリスと言えど、管理局の誇る最大の威力を持つアルカンシェルなら、一撃で粉砕できるかもしれない。
だが、そんなことをすればこの永久凍土の氷が海に崩れ落ち、海面が一気に上昇してしまう。ミッドチルダの土地の沿岸部は、あっという間に水没して
しまうだろう。
「要するに、私たちがやるしかないってことだね」
その辺りの事情を察して、戦闘機隊と編隊飛行するフェイトが呟いた。
「なのはの分も、働かないとな」
「ここで全て終わらせよう」
同じく編隊飛行をするヴィータ、シグナムが続く。彼女たちは戦闘機より小さいことを生かして、敵の対空砲火の懐に潜り込み、順次鎮圧していくのが
任務だ。
「……見えてきたぞ」
「ああ」
Su-37のコクピットで黄色の13が言って、F-22を駆るメビウス1が頷く。
はるか遠く、氷の土地の向こうに見えた、明らかに周囲と異なる人工物。その大きさはとてつもなく、レーダーに表示される数値を疑ってしまうほどだ。
「あんなものを、エルジアは開発していたのか……」
黄色の13が呟くように言ったが、その言葉には明らかに怒りが混じっていた。
エルジアの首都ファーバンティにてメビウス1に撃墜され、それからこの世界に飛ばされた彼は、メガリスの存在を知る由がない。ゆえに、彼は自分が
信じた祖国が、こんな悪魔の兵器を開発していたことが、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを覚えた。
同時に、そんな代物を起動させたスカリエッティに協力していた自分自身にも、強い憤りを覚えた。
「――13、俺たちであれを壊そう。元はといえば、メガリスは俺たちの世界の兵器だ」
「ああ、もちろんだ」
メビウス1の言葉に、黄色の13は力強く頷いた。
隕石を降り注がせるこの悪魔の兵器を、なんとしても止めなくてはならない。メガリスを生み出した世界の住人として、そして隕石によって家族も恋人
も奪われた者として――その思いが、メビウス1の今の原動力だった。
「こちらゴーストアイ、各機聞け」
その時、突然ゴーストアイから通信が入った。
まだ敵機はレーダーに映っておらず、別に何かが起きた訳ではない。珍しく、本来作戦には不要な思いを伝えるために、彼は通信を入れたのだ。
「作戦前に、全員に伝えたいことが、こちらとロングアーチからある――八神二佐、いいな?」
「オッケー、準備は万全やで」
「主?」
「はやて? いったい何を……」
いきなり通信にはやての声が混じり、シグナムとヴィータが怪訝な表情を浮かべた。そんな二人を無視する形で、ゴーストアイとはやてからの通信は続く。
「一時間後、諸君らは史上最も重要な作戦に参加する」
「スカリエッティを、私らの世界に混沌をもたらした敵を打ち倒す作戦となるで」
「我々は出身世界も、所属も異なるが、我々は共に闘い、今日まで生きてきた」
「信じるものの為に、自由の為に戦い抜いてきたんや」
「今日この日、我々は最後の戦いに結集する」
「私らの世界を解放し、人々に、友人に、そして家族に自由を取り戻すために」
「我々の勝利は、ミッドチルダだけでなく、各管理世界の、新たなる繁栄の時代を告げる先駆けとなるだろう」
そこまで言って、メビウス1はとうとう噴き出してしまった。
ゴーストアイとはやてが交互に放つ言葉が、かつて元の世界でメガリス破壊のために出撃する直前に司令官の行った演説と、ほとんどそっくりだった。
奇妙な偶然だったが、むしろ幸先がいい、とメビウス1は考えた。あの時は、メガリスの破壊に成功した。ならば、同じように今回も――。
「勝利は我々のものである!」
二人の演説に、メビウス1は割って入った。ゴーストアイとはやては一瞬戸惑ったが、すぐにそれぞれの持ち場で不敵な笑みを浮かべ、続く。
「取り戻そうや、人々に平和を」
「勝ち取るぞ、我々の自由と未来を」
「世界は全ての人のもんや」
そこまで言って、二人は呼吸を揃えて、高々と宣言する。
『さあ諸君、砕けた空――ソラノカケラを取り戻そう!』
「――よかろう、来たまえ」
メガリス内部、演説を傍受していたスカリエッティが、相変わらず狂人のような笑みを浮かべていた。
メガリス攻略作戦、開始まで残り一時間。
最終更新:2009年02月21日 20:32