「お? 来たか」
マーカスが見上げた先、空に一つの黒点が見えてきた。機体前面に二門の機関銃を装備した大型ヘリ、「キングレイヴン」。
ローター音を響かせ周囲の砂塵を吹き飛ばしつつ、ゆっくりと広場の中央に着陸した。
「素晴らしいタイミングだな」
明らかな皮肉と嫌味を込めて、ベアードが顔をしかめた。ヘリのハッチが開き中にいた兵士が手招きする。
「行くぞ」
デルタの四人と六課の二人がヘリに向かって歩き出す。その途中でスバルが質問する。
「あの、これからどこに向かうんですか?」
「さあな、俺達は『制圧したら迎えのヘリをよこす』としか聞かされてない」
「べつに制圧した後じゃなくてもいいのによ、むしろ戦闘中によこせってんだ」
マーカスがどことなくうんざりしたように答え、コールが不満をもらす。
「いつもこんな感じなんですか?」
「ああ、今回の任務も「この地点の制圧を頼みたい。なに、大したことはない簡単な任務だ」だとほざきやがった、くそったれが…」
「んで、いざ着いてみたらびっくり、大勢の敵さんから熱烈な歓迎パーティーを受けたってわけよ」
「は、はぁ…」
ベアードが悪態をつきながら更に答え、コールが冗談めかして引き継ぐ。
ローターの回転で周囲の砂埃をまき散らしているキングレイヴンに六人が近づくと、中から数名の兵士が降りてきた。
全員、手にランサーアサルトライフルを持ち隙なく周囲を警戒する。入れ替わりに六人が乗り込み、ヘリは再び飛び立つ。
ローターを更に回転させそれに伴う砂埃を巻き上げながら、キングレイヴンは空に消えた。
朽ち果てたビル群、かつて人類が繁栄を極めた都市は骨組と瓦礫だけを残して存在していた。
今、人類の代わりに都市を歩きまわるのはローカスト、ドローンの一体が瓦礫の上で周囲を見渡している。どことなく退屈そうに辺りを警戒していると、その頭を鉛弾が貫通した。
倒れこみ瓦礫まみれの地面に血だまりを作ると、その上空を爆音を伴う影が通過する。爆音に気づいた別のドローンがそちらを向くと再び鉛弾が頭を捉えた。
「よし、またヒット!」
右手でガッツポーズを取ったのは、フルフェイスのヘルメットを被った兵士「カーマイン」。
その手にはランサーが握られ、照準を覗き込みながら都市をくまなく見渡していた。
キングレイヴンは低空飛行でビルの合間を抜け、次の目的地に向かっている。
ふと機内に目を向けると、マーカスを見て動きが止まった。
「なぁ、あんた、もしかしてあの、マーカス・フェニックスか?」
「?、ああ、そうだが…」
「やっぱり!顔を見たときどっかで見たようなきがしたんだよなー、あ、俺カーマイン、よろしくな」
先ほどからキングレイヴンのハッチに腰掛け、ランサーで簡易的な狙撃をしていたカーマインはマーカスに若干興奮気味に自己紹介をした。
「いやー、まさかあの伝説の兵士にこんな所で会えるとは、おおっと!」
言いながら再び視線を外に向け銃撃する。また一体仕留めたのだろう、ガッツポーズをとる。
「人気者は辛いな」
「ほっとけ」
コールが茶化すように囃し立てたが、当のマーカスは面倒臭そうにしていた。
そんな事をよそに、ティアナは沈痛な面持ちでビル群を眺めていた。
何も喋らずに時折聞こえる銃声も聞き流しひたすらビルを眺める、瞬きもしないその紺色の瞳には、崩壊したかつての栄光を映していた。
「ひでぇもんだろ?」
「え?」
「大多数が生き残るために小数を切り捨てた結果がこれだ。おまけにローカストどもはまだ生きてるときやがる」
「…」
突然ドムに話しかけられ、少しだけ驚くティアナ。
惑星セラの状況はブリーフィングで聞いてはいたが、いざ目の当たりにすると想像以上の惨状に茫然とした。
大地はひび割れ、かつての住居は瓦礫の山と化し、地底からの異形の侵略者が人類の代わりに闊歩していた。
―――ここは本当に人が住んでいたのだろうか?
「窮鼠猫噛みとはよく言ったもんだ、追い詰められた者は何をしでかすかわからない、ってか」
「ええ…」
「目的地が見えてきました」
パイロットの言葉を聞きヘリ中の全員が外を見た。かつては何かの神殿であったであろう、コリント式の柱が幾つも点在する荘厳な建造物が見えてきた。
神殿から並行する柱を挟んだ先にある土嚢を積み、簡易的な壁を作った広場に三人の人がいた。
一人は頭髪が全く存在しない、マーカス達と同じくアーマーを着込んだ男。
もう一人は帽子を被り同じくアーマーを着た男。
最後の一人はスーツ姿の金髪の女性、恐らくオペレーターなのであろう。インカムをかけていた。
「おい、マーカス」
「ああ…、ホフマンか…」
ドムの言葉に、マーカスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
キングレイヴンは広場の端にゆっくりと着陸、ハッチが開いてマーカス達は広場の三人の元に向かう。
3人がこちらを向き同じく向かってきた。互いに近づいたところで帽子の男「ビクター・ホフマン」口を開く。
「よく生きてたな、裏切り者」
「ああ、お陰さまでな」
「フン、本来なら貴様のような奴の手を借りずとも、作戦は決行できるのだがな」
「そうも言ってらんねぇ状況のようだがな」
開口一番にマーカスを罵倒したホフマンに対し、後ろにいたフォワードの二人は眉を顰めた。
「認めたくはないが状況は厳しい…、ん、そこの二人は何者だ?」
マーカスの後ろにいたティアナとスバルに気づいたホフマンは怪訝な顔つきになる。ホフマンがこちらを向く前に表情を戻し二人は敬礼、所属を名乗る。
「時空管理局から派遣されました。機動六課所属、ティアナ…」
「フン、管理局の人間か、そこまでしてイミュルシオンを手に入れる口実が欲しいか。」
「…」
ホフマンの言葉に二人は顔には出さないものの、気分を害した。
管理局に良くないイメージを持つものは多いとは聞いたが、ここまではっきりと口に出す人間を二人は見たことがなかった。
そんな二人のことなど露知らず、ホフマンは喋り続ける。
「こんな二人を派遣して恩を売るつもりか。管理局とは考えることが浅はかだな」
その言葉を聞いてスバルは顔をしかめた、幸いホフマンは向こうを向きながら喋っているためスバルの表情は見えない。
更に何か喋ろうとしたところで、禿頭の男に話しかけられた。
「大佐、そろそろ今回の任務の説明を」
「む、それもそうだな、皆、よく聞け」
その場にいた全員がホフマンに注視する。
「ついに切り札、『ライトマス・ボム』が完成した。これをローカストの本拠地に撃ち込めば、我々人類の勝利だ」
そこでいったん区切り全員を見渡す。再び演説を打つように話し始めた。
「しかし、このライトマスボムを使うには地下のデータを収集する『レゾネイター』が必要不可欠だ。あれで奴らの巣を探知し、中枢に直撃させる。が、先ほどレゾネイターを持った部隊がこの先で行方不明になった。」
「ああ…、また面倒なことになりそうだ…」
ホフマンに聞こえないような小声でマーカスが悪態をつく。
「そこで諸君らにはレゾネイターと行方不明になった部隊の捜索を願いたい」
「普通逆だろ」
今度はコールが小声で悪態をついた。
「そして今回の任務に参加する二人を紹介しよう。」
そう言うと、禿頭の男が一歩前に進み出た。顔立ちはマーカス達と違い、日系人を思わせる。
「ミン・ヤン・キム中尉だよろしく頼む」
敬礼し自己紹介をする。それに合わせてマーカス達も敬礼を返した。
続いて金髪の髪を後ろで結わえた女性が前に出る。
「アーニャ・ストラウド少尉です。本作戦のオペレーターを担当します」
アーニャが自己紹介を終えホフマンが何かを喋ろうとしたときだった。
「グルォォォォォォォ!!!」
突然の咆哮に、全員が辺りを見回す次いでの向いている方に視線を移す。
神殿の方から数体の影―――、ローカストが向かってきた。
全体像が見える程度の距離にまで近づくと手にした銃、『ハンマーバースト』をマーカス達に向けて乱射する。ローカスト達の手元が瞬いた。
「隠れろ!!」
マーカスの声を合図にその場にいた全員が土嚢の陰に飛び込んだ。一瞬遅れてマーカス達がいた場所に弾丸が降り注ぐ。
即座にマーカス達は得物を構え、反撃を開始する。
「ああもう、なんだよいきなり!!」
ブラインドファイアをしつつ、カーマインが嘆いた。フルオートで撃ち続けマガジンが空になるとランサーを引っ込め、リロードする。
「ラームショウグンバンザイ!」
「ミナゴロシダ!」
口々に重苦しい声を吐き出しながらローカスト達は銃を乱射する。放たれた弾丸は土嚢や地面を穿ち、その弾幕の合間を縫ってマーカス達の弾丸がローカストを捉えた。
血飛沫を上げながら白い巨体が倒れ、代わりに新たなローカストが前にでる。
「一体殺ったぞ!」
「コール、そのままベアードとスバルで左を頼む、ドムとティアナは右だ!」
マーカスが支持を指示を飛ばし、『了解!』と各々から返事が返ってくる。
「中尉、この作戦は人類の命運をかけた作戦だ、失敗は許されない。」
「わかっております大佐殿。しかし援軍は?」
「何を寝ぼけたことをほざいている、貴様らが援軍だろうが!ここら一帯はネーマシストが多すぎて空からは無理だ、地上から探索せよ。少尉、急いでキングレイヴンに乗れ!」
「了解!」
土嚢に隠れながらキムに命令を下し、ホフマンは銃撃を避けつつアーニャと共にキングレイヴンに乗り込んだ。
「あと二匹!」
「任せてください!」
マーカスが残りのローカストの数を確認すると、ティアナが土嚢から身を乗り出し愛用のデバイス「クロスミラージュ」を構える。
クロスミラージュから撃ちだされたオレンジ色の魔力弾は、残った二体のローカストの頭に命中する。
命中によって生まれた隙を狙って、デルタの四人が集中砲火を浴びせる。
体中を鉛弾で削られ穴を開けられながら。最後の二体は倒れた。
「イヤッホウ!一昨日来やがれ!!」
「何とかやったな…」
コールが勝利の雄叫びを挙げている横で、ベアードは体を払いつつ息をつく。
敵の全滅を確認し全員が土嚢から身を乗り出す。
「あ、危なかった…」
「大丈夫か、怪我はないか?」
「ご心配なく、スバルは頑丈さだけは桁外れですから」
「ちょ、ティア!ひどいよ!」
「事実でしょ? それに褒め言葉よ」
「む~」
膨れっ面のスバルをあしらいながら、ティアナはマーカスにこの後の行動について尋ねた。
「この後の行動は?」
「ホフマンが言ってたように、行方不明になった部隊とレゾネイターの捜索を行う。詳しいことはキム中尉が知っているはずだ」
「よし皆、集まってくれ」
会話が終わると同時に、キムが集合をかける。
デルタの四人、フォワードの二人、更にカーマインがキムの元に集まる。全員が集合したところでキムが作戦概要を話し始めた。
「聞いての通り我々はこれより行方不明の部隊、及びレゾネイターの捜索を行う、部隊はこの先での通信を最後に消息を絶ったまずはあそこに向かう」
言いながらキムが神殿を指さす、それを見た全員が頷いた。
「頼んだぞ、中尉!」
ローター音が響き始めたキングレイヴンからホフマンがキムに声をかける。キングレイヴンが上昇するまでキムは敬礼し続けた。
上昇を確認すると、マーカス達に向きなおる。
「さて、行こうか」
「「「「了解」」」」
その時、
「っ、増援だ!!」
ドムが叫んだ。その視線の先には再び神殿からローカスト達が向かってくるのが見える。
「ああ…、一難去ってまた一難…、勘弁してくれ…」
「いいから隠れろ」
再び嘆いたカーマインをコールが土嚢の陰に押し込む。全員が得物を構えた時だった。
上空のキングレイヴンが機首をローカスト達に向ける。前方に装備された二つの機関砲が吠えた。
曳光弾の雨がローカスト達に降り注ぎ、次々と八つ裂きにしてゆく。
手足などを引きちぎられながら倒れてゆくローカスト、曳光弾の雨が止んだ時は手足を欠損させた死体が散らばっていた。
『俺からの奢りだ、気をつけろよ』
「援護感謝する」
パイロットからの思わぬ「奢り」に、キムは耳の通信機で礼を述べる。キングレイヴンが飛び去った後マーカス達は神殿へと向かった。
最終更新:2009年08月20日 21:28