Well come to Earth5

―――3月30日、午後6:30 ハドソン事務所(地下秘密基地)

 冬よりも太陽の沈み具合が異なっているとは言え、この時刻は微弱ながらも夕焼けの名残が残っている。住むべき場所に帰る労働者や家政婦が居るのはこの時刻ならでは不思議ではないだろう。
 烏やスズメ、その他の野鳥が住宅街の電線が引かれている空を飛びまわり、下の人間達が買い物袋や鞄を持って歩いている。このような時間帯の中、凛を除くハドソン事務所の人間は地下の秘密基地の中で寛いでいた。
 入社したばかりの彼女はこの地下基地の事は知らない。何故ならば、此処の事は彼女に隠しているからだ。
 ソフィー達の本当の仕事はゼスト達が今やっている事で、それは外部では機密扱いとなっている。
 もし、この事が世間に知れたら騒ぎになる可能性があるからだ。
 が、かと言って従業員である彼女にこの事を永久に隠す訳にはいかない、何らかの経験と自分達に対しての親しみがある程度高まった上でこの事を打ち明けるつもりでいるだろう。
 そんな地下基地のブリーフィングルームにて、アーチャーは此処の大規模な電子機器の中にある端末を使って何かをやっていた。
 それはゲームであった。市販で売られているゲームソフトをパソコンソフトに移植したもので、内容も全く同じである。
 アーチャーはこのソフトをこの機器に搭載されているパソコンシステムにこのソフトをインストールして遊んでいる。ソフトは彼が一番気に入っているもので、此処最近この機器を使ってあそんでいる。
 そんな彼が夢中になっている次の瞬間である。
 夢中になっているゲームが映る大規模なウィンドウの右隣に呼び鈴と共に“緊急通信です”と書かれた文が刻まれたウィンドウが表示される

「――――緊急通信………!? まずいッ!」

 アーチャーは慌ててゲームを終わらせ、付属のマウスを動かし、そのマウスカーソルを問題のウィンドウの方に動かし、左クリックする。
 すると通信用ウィンドウが表示され、其処にゼストとリニアの顔が映る。

「――――此方、アーチャー!」
<ゼストだ。アーチャー、ボスは居るか?>
「ボスなら、部屋に居ます。すぐに呼び出しますか?」
<あぁ、至急頼む。如何しても報告しなければならない事があるからな。>
「了解です。」

 この会話の後にアーチャーは席を立ち、機器に搭載されている内線通信をソフィーの部屋に繋げる。

<アーチャー、何ですの?>
「ボス、ゼスト先輩から緊急通信が入っています。至急ブリーフィングルームに来て下さい!」
<何ですって、ゼストから? ――――分かりました。すぐに向かいますから貴方は其処に居なさい。>

 この会話の後、通信回線が切れる。その約5分後にソフィーがこの部屋にやって来て、機器郡の方まで顔を出してきた。

「―――ゼストから緊急通信ですって?」
「はい、すぐに代わって欲しいそうです。」

 アーチャーがそう言う中、ソフィーは彼の隣に割り込んで機器を操作し、画面上のカーソルを通信用ウィンドウに合わせ、後に呼び起こす。

「此方ソフィー。 ―――ゼスト、アーチャーから報告を受けましたけど、如何なさいまして?」
<ボス、我々は予定通りに特自と共に池田湖の調査に参加しました。ですが、其処で我々は信じられない物を見ました。 リニアははしゃいでいましたが、俺は今でも驚いていまして、この真実が疑わしく思います。>
「ちょっと待ちなさい。“信じられない物”とは如何言う事でして? 詳しく説明なさい。」
<はい、ボス。アーチャーも落ち着いて良く聞けよ?>

 モニター越しの人間も含め、この場の人間の会話が止まり、ゼストはこの日の朝から現在までに起こった出来事をこの部屋に居る二人の人間に打ち明けた。
 その報告を聞いたアーチャーは若さ故か“宇宙人”と言う単語に反応し、ソフィーは彼に自重するように言いかける。
 兄とは言え、アーチャーはモニター越しの妹と同様に10代中半の若さだ。空想の産物と評され易い単語に反応を感じても不思議ではないだろう。

「成る程、貴方達は今………命を救われたその宇宙人は貴方達の部屋に居ますのね。」
<はい、ボス。確かに一緒に居ます。今の所は意識が戻っており、体力が回復しつつあります。ですが―――俺個人の考えもあって、この事は特自に報告していません。>
「それは何故でして?」
<報告すれば、何れ軍属の誰かがその子の力を何らかの統一の為に利用するのではないかと考えているからです。>

 ゼストの理由にアーチャーは動揺を感じていた。彼にとって、軍に報告しないと言う事は、軍に逆らうのと同じイメージが出ているだろう。
 隣に居るソフィーは右手を口に当てて考え込んでいた。
 彼女もゼストが今言った意見も一理あると考えている。彼が報告した宇宙人の力を考えれば軍事利用される可能性は否定できない。
 ある程度の沈黙が続いた後、ソフィーの口が動き出す。

「ゼスト。確かに貴方の言うとおり、その子の正体を特自に知らせるのは危険ですわ。勿論彼等はそんな物の軍事利用なんて否定しますでしょうけど、他国の軍隊がその力を欲しがる可能性は否定できません。
現に魅力的な女性に成りすました他国のスパイが自衛隊の情報を奪っているのを耳に致しますもの。危険極まりませんわ。」
<じゃあ、それを防ぐ方法はやっぱり………。>

 リニアが割り込んで来るのを画面で見るソフィーは次の言葉を述べる。

「わたくし達で保護するしかございません。その子のような力は国を守る軍隊が持つべき物では御座いませんわ。例え自衛隊でさえもね………。」
<ボス、それってちょっとヤバくない? 下手したらリニア達も危ないよ!>
「――――でしょうね。でもゼストが言ったようにその子の使命が宇宙にあるすべての世界を守り、その侵略を企てた首謀者の討伐が目的であれば、後に分かってくれる筈でしょう。その時までわたくし達がその子を守らなければいけませんのよ。―――所で、その後ろに映っている方々は何方でして?」
<? ………あぁ、此処の従業員と女将です。なんでも、我々より先にその子と接触したとか………>
「―――成る程。代わって頂戴。」

 ゼストの“了解”の返事の後に、通信の相手が彼から女将へと代わって行く。

「ホテルの女将様でいらっしゃいますわね?」
<はい、美崎と申します。>
「成る程、こんな形で御会いする形で申し訳御座いません。わたくし達の事は貴女達に詳しくは話せませんが、自衛隊が今日やった事を手助けするチームのボスを務めていますソフィーとも居します。その部屋にする二人が現役隊員です。」

 二人の紹介の後に、ソフィーは本題に入ろうとする。

「あなた方が初めて会った時、その子はどんな様子でした?」
<それは―――私ではなく、梶川ちゃんの方だったかと思いますが、私が始めてあった時は物凄く御腹が空いてたみたいなんで、食事を与えましたが、ハシの使い方が分からなかったみたいなんです。何とか教えたんですが、物凄い食欲で御飯を3杯も平らげるほどでした。
 でも、私達が驚いたのはそれだけじゃないんです。後に此処の露天風呂に出て来て暴れていた熊をたった一人で眠らせて静めて、森に返したんです。最初はこの子の事に対して疑問を感じていましたが、此処に居る二人の話を聞いて私も納得しました。あの子は宇宙人だって言う事を………>
「………分かりました。」

 ソフィーの返事の後、女将は続けて口を動かす。

<―――私は貴方達の意見には賛成だと思います。私もこの子が軍の玩具として使われるのは反対ですし、私個人としてもこの子をかくませたいですけど、私たちの勤め先は民間施設ですから、下手にそんな事をすれば、私達が危ないと思うんです。>
「―――成る程、貴方達自信の身の安全も考えたいと言うのですね?」
<はい。だから―――私がこんな事を言うのも難ですけど、この子を宜しくお願いします………>

 女将が自分に向けて一礼を行う所をソフィーは通信用ウィンドウ越しに見る。
 その後で溜息をしつつ考え込み、パイプ煙草を口から外して煙を出す。数秒程度の時間が経つに連れ、彼女の口が動く。

「………貴女の思いは確かに伝わりました。わたくし達の方で引き受けましょう。」
<ソフィーさん、有難う御座います。>

 女将は感謝の意をこめてもう一度一礼を見せた。

「いえいえ、わたくしも出来る限りの事をお尽くし致します。所で、わたくし―――その子と御話をしたいのですが、代わって頂いて宜しい?」
<ぁ、はい。すぐに代わりますね?>

 女将の発言の後に、ウィンドウに映る人間が彼女から少年に代わる。

<………こンばンワ。>
「はい、今晩は。 ―――君がウチの子達の言ってた子ですのね………。」
<はイ、“マルドゥーク”と申シまス。>
「マルドゥーク………良い名前ですわね。わたくしはソフィー―――ソフィー・ハドソンと言いますの。宜しく。早速ですけど、本題に入りたいんですけど宜しい?」
<はイ、貴女と昨日御飯食べサせテくレた人の話ヲ聞いタかラ、何とナく分かリマス。>
「そう、でしたら話は早いですわね。君の身はわたくし達が保護する事になりましたの。宜しくて?」
<うン、ボクに対しテの彼女達の気持チは伝わリまシた。でモ良く、慎重ニ考えルと民間施設を営んでイル彼女達ヲ巻き込ム訳にハ行きマせンかラ………。>
「―――成る程、実に君らしい考えですわね。それから一言言いますけど、後ろの彼女から話は聞きましたけど、今後はあまり人の前では力を見せては行けないわよ?」
<そレは、如何しテでスカ? ボクの力ガ無けレば、熊と言ウ動物を静めルこトが出来たノニ………。>
「―――確かに君の力はわたくし達にとっては魅力的なのかもしれない。でもね、精神面も含めてこの星の人種も様々で、しかも時には不安定になりがちな所が御座いますのよ………。」
<そレは如何言ウ事でスか?>
「例えば、君の力を魅力に思う人間もいれば、その力を宜しくない人間も御座いますの。もしその人に力を見せれば、この星の警察や軍に通報してしまう。そうなれば、君は大幅に動けなくなってしまいますの。
この星は言わば幼く、他の星から来た物の存在を否定しがちなんですのよ。本当に申し訳御座いませんわ。君は本当に良い子、他の星から来たにせよ良い子にこんな事を言うのは真に苦しいものですわね………。」
<ボクもこノ星の事ハ、アルタイル・ライブラリーで勉強しマしタけド、借りレる資料ヲ読むヨリはそノ星の人カら教わル方が良イみタいでスね………。>
「そうですわね。何事も本を読むだけでは通用しない事も御座いますから。」
<そレじゃア、宜しクお願いシまス。ソフィーさン………>

 飛鳥はそう言いつつも、一礼を見せる。

「ボスで宜しくてよ? ウチの子は皆わたくしの事をそう呼んでいらっしゃいますから。」
<………はイ、ボス。>
「元気な声が出て宜しい。今、この瞬間から君は家族でもあるわたくし達の仲間でしてよ? 名前は―――そうですわねぇ~。“天空のかなたに飛ぶ鳥”に因んで、“天空飛鳥”―――この星ではこう名乗りなさい。宜しいですわね?」
<はイ、ボス。>
「――――それでは、明日………うちの子達と一緒にいらっしゃい。待っていますわよ?」

 一言を残したソフィーはウィンドウを閉じて通信回線を切る。
アーチャーは多少不安げな表情を浮かべつつ、椅子に座ってゆったりと肩を下ろす彼女に視線を合わせる。

「―――ボス、本当に良いんですか? 保護すると言っても、宇宙人なんですよ!?」
「仕方が御座いませんでしょ? 確かにゼスト達の言ってた子は宇宙人でしょうけど、わたくしだって、軍に引き渡したら立場的にもあの子が危なっかしく思えて、放って置けませんのよ。」
「それは………一理あるって僕も思いますけど、もしその事が分かって、自衛隊や他の軍の特殊チームとか、その子の仲間がウチに押しかけて来たら、如何するんですか!?」
「その時はその時、もしそれが軍にバレたとしても直にはそうなるとは限りませんわ。それにその子のやっている事が宇宙を守る事だと致しましたら、多分大丈夫でしょう。大統領だって、この国の総理大臣だってそれほど馬鹿では御座いませんもの………」
「それはそうですけど………まぁ、いっか。」
「―――さて、わたくしは部屋に戻ります。アーチャーは引き続き連絡待ちを、それからついでにホークの餌もお願い致しますわね?」

 彼女の命令を受けたアーチャーはこの部屋を後にするソフィーの背を見守る。それに引き続き、彼は自分の視線を機器のモニターに戻し、命令通りに連絡待ちに戻るのであった。

「確かに………やってる事がテレビの巨大ヒーローだもんなぁ。」


 ゼストは電源を切ったノートPCを折りたたみ、リニアは周辺に散乱するパーツを片付ける。ソフィーとの通信の直後、女将を含む従業員達と二人はこの後の数時間―――と言っても数分くらいだが―――の話し合いの結果、“自分達は何も見なかったし、聞かなかった事にする”と言う結果になった。
 その後で彼女達は本欄の仕事に戻るべく、この部屋を出た。
 全ての機器をリュックに収納した二人は今日の疲れが溜まっているのか、この場にくつろぎ始める。
 ゼストはこの部屋にあるバスタオルとタオルを持ち出し、リニアはテレビを付ける。

「先輩、何処行くの?」
「露天風呂だ。リニアも行くか?」
「う~ん、後で入る。」
「そうか、俺が戻るまでその子から目を離すなよ?」

 そう言われつつ、部屋を出る自分の先輩の背をリニアは見守った後、目線をテレビに戻す。今少女が見ているのは、動物の生態を中心としたドキュメンタリー番組だ。
 “天空飛鳥”と名乗られた宇宙少年もリニアの近くに座り、一緒にテレビを見ていた。
 宇宙人とは言え、これではテレビ好きのごく普通の子供と変わらないが、人間以外の地球に住む生物を見た事の無い彼にとって、この番組は非常に興味深い存在になりつつある。

「―――やっパり僕は、素性ヲ隠さナきャ行けナいみタいでスね………。」
「しょうがないじゃん。立場上の事もあるし………でも、リニアは飛鳥は悪い奴じゃないって信じてるから。でも元の姿に戻った方が良かったりする?」
「イイえ、大丈夫でス。この姿ノ方が安全だト分かっタ以上ハこれデ行きマす。」
「そうなの。だけど、アタシ達のうちじゃあそんなに緊張しなくて良いからね?」
「有難う御座いマす。所デ、リニア先輩の住んデいル創尾市は遠イんデスか?」
「う~ん、此処からじゃちょっと遠いかな? 市内の方も都会と田舎町の中間みたいな感じだから。ぁ、それから美味しい店をリニアは知ってるから、今度一緒に行く?」
「はイ、そノ時に御願いシまス。」

 自分の住むべき場所の説明をリニアから聞き、飛鳥は創尾市に対しての期待を浮かばせていた。ハドソン事務所の居心地を想像しつつ、目線をテレビに向き直すリニアに目線を合わせる。

「サラマンデス星人を追ッテ来たとハ言え、僕―――こノ星で色々やっテ行ケそウでス。」
「へぇ、そう。それなら良かった。でも、分からない事があったら、自分で無理に考えたりしないでリニアやボスに聞いてね? リニアも教えてあげるから。」
「そウさセてもらイまス。」
「ウッフフ、素直で宜しい。 ―――ぁ、それから言い忘れてた。前々から言って見たかったんだけど………。」

 リニアはこの後で右手を飛鳥に差し出す。
 そして………

「―――地球へようこそ。」

 純粋な少女はこの台詞を吐き出し、歓迎の意を表する。宇宙少年はそれに連られ、笑顔で返しつつ向かい側の少女と握手を交わした。
 これにより、違う世界に居る者同士の絆が生まれた。
 飛鳥は次の日にリニア達と一緒にホテルを出て創尾市に向かう最中、多少の不安もあるものの、彼女が昨日言った事を信じるのであった。


See you next mission.



  • ゲスト出演者
    • 鷲尾 拓海
      • 前回に引き続き、出演させて頂きました。怪獣に関係する仕事と言ったらやっぱりこの人でしょう。
    • ガヴァナー=ブルース
      • この話でのハドソン事務所の御客様第1号に選ばせて頂きました。この方も事によれば、まだ出てもらう可能性があります。

  • オリジナルキャラ
    • 美崎 紀子
      • ホテル“豊水館”に勤める従業員。
    • 梶川 鞠絵
      • 同じくホテル“豊水館”に勤める従業員。


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最終更新:2009年03月13日 01:39
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