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ずっと空を見ていた。
住宅街の塀の上に腰掛けて。
足元には、もう萎れて何か分からなくなったものが刺さった瓶。
一日中此処に居るけど誰にも気付かれない。
 ・・・・僕は死んでいるから。

何もしたくないと思った。
学校も嫌い。塾にも行きたくない。家に帰っても楽しくない。
 ・・・このまま消えてしまいたかった。
薄暗い帰り道を一人歩く。
ありふれた、少し寂れた住宅街。
この道は歩道もないような小さな道だけど交通量が比較的多くてたびたび事故が起こっていた。

 ・・突然目の前に白い光が溢れてけたたましいエンジン音が響いた。
目の前にトラックが迫っていた。

(あぁ、私死ぬんだな・・。)と思った瞬間トラックがクラクションとともに横を通り過ぎていった。
一瞬何が起きたのか分からなかったが自分は壁際に尻餅をついてどうやら生きているようだ。
壁にしたたかに背中と頭をぶつけたせいでくらくらする。それに尻餅をついたお尻の下に何かあったようでお尻がすごく痛い。
見てみると萎れた花のようなものが入った瓶だった。
まだくらくらする頭でなぜこんなものがあるのか。どうして自分は生きて壁際で尻餅をついているのかを考えた。
たしか私は壁よりも二メートルほど離れて歩いていたはずだった。なのに壁に背中と頭をぶつけている。
誰かによほど大きな力で突き飛ばされない限り自分の跳躍力では届かない距離だ。
それに、その跳躍力があったとしても自分には反応できなかっただろう。つまり自分で壁際に移動し尻餅をつくのは不可能だということになる。
しかし辺りを見回しても周りには誰も居ない。
すると「大丈夫?」と頭上から声が聞こえた。
見上げると若い男が塀の上に腰掛けたまま見下ろしていた。
「・・あなたが助けてくれたのですか?」
少し違和感を感じながらも男に尋ねた。

「さあ、どうだろう?君が轢かれそうになった処までは覚えているんだけどそれ以降はよく分からないんだ。」
「そうですか・・・。・・ところでなぜあなたはそんなところに座っているんですか?」問うた後、少し嫌な予感がした。
「僕にはね、此処しかないんだ。・・どこかに行こうと思っても最後には此処に戻ってきてしまう。だからここに居る。ずっと、ずっとね」
「あ、あの、それって・・」
「お察しのとおり、僕は幽霊って奴だ。証拠はその花瓶かな。」
いやな予感はあっさり現実へと変わった。男はこっちが拍子抜けするくらいあっさりと自分が幽霊であると告げた。
でも恐ろしいとは感じられなかった。むしろ彼の口調・雰囲気に親しみすら感じた。
だからかもしれない、気が付くと言葉が漏れていた。
「死ぬって、幽霊になるってどんな感じですか?」
彼はしばらく考えていたあとようやく口を開いた。

「死ぬってこと。つまり死の瞬間は覚えてないんだ。車が目の前に来たことまでは覚えているんだけどね。
気が付いたときは血まみれでぐちゃぐちゃの死体が転がってて最初はそれが誰なのかわからなくて、でもよく考えたらどう見ても真上つまり上空からの視点なんだよね。
上空ってことは飛んでないと見れないアングルナな訳で、当然僕は飛行能力なんて持ってないし、何より、服装とかが自分そっくりで路上には自分の荷物が散乱してる、それで(あぁあれは自分の死体で僕は死んだんだなぁ)って気付いたんだ。
というわけで幽霊になった瞬間のことも分からないんだ。質問に答えてあげられなくてごめんね。」
「い、いいえ。すみません、無遠慮にこんなことを聞いてしまって・・」
本当に自分は馬鹿だと思った。自分の不幸を聞かれて辛くない人は居ないのに。まして自分が死んだ時のことなんて。きっと怒らせただろう。悲しませただろう。辛い思いをさせただろう。
よりによって自分の命の恩人になんてことを聞いてしまったんだ。
「あの・・・」
「はいっっ」あぁどうしようなんて言われるだろう。いや、どうやって謝ればいいんだろう。どうすれば・・・
「そんなにびくびくしないで、僕を怒こらせたと思ってるのならそれは間違いだから。別に怒ってないからさ、ね?」
「ど、どうしてですか?私はあなたに辛いことを・・」
辛いことを思い出させた上に、気を使わせてしまうなんて本当になんて私はどうしてこんなに馬鹿なんだろう。

「だからもういいんだって。・・確かに死んだという事実は辛いさ、でもそれはもう過去のことだから。
それにね、立場が違ったら多分僕も同じことを聞いたと思うから。人間ってさ、自分の分からないこと、例えば死とか霊とか気になるでしょ?
なら答えを知っていそうなモノに出会ったら聞いてしまうのは本能みたいなものじゃないのかな?僕は、そう思うけど。
それよりさ、僕は君に会えてうれしいんだよ。」
「えっ?ど、どうしてですか?私はこれといった特徴もないし、暗いし、”うれしい”なんて言われるような所なんて・・ありませんよ。」
「いや、君は僕にとってある意味神様や仏様、金銀財宝よりも貴重なものを持っているよ。」
「? なんですか?」
「分からないの?。君は僕とこうして話すことができるし、触れられるみたいだ。これは僕にとって奇跡みたいなことなんだよ。」
そういって彼は”フワリ”と目の前に降りてきて私の手を握った。
ひんやりとしているかと思っていたけどその手は不思議な温かみを私に与えた。
心の奥にまで届くようなほのかなやさしいあたたかさだった。
「君は暖かいね。こうして触れるだけで君の気持ちが伝わってくるみたいだよ?」
そういって彼はくすりと笑った。間近で見る彼の顔はほんの少し幼さが残った少年のようだった。

「ねぇ、僕と友だちになってくれないかな? ずっと一人で退屈だったんだ。」
笑いかけた彼に私は即答できなかった。その代わりにひとつ質問を投げかけた。
「・・・ずっとここにいるって普段は何をしてるんですか?」
「・・普段はこの塀に座って空を見上げているんだ。あまり遠くにいけないし誰も僕に気が付かないから話相手もいない。
鳥の観察をしてみたり、たまに猫会議に出席したりもするけどにゃごにゃも言われても僕には分からないしね。
だから空を見上げる、・・自分が風になってすうっと飛ばされていって小さな小さな粒子になっていく、鳥に食べられたり、吸い込まれたり、吐き出されたり、雨に解けて海や川に流れて少しずつ少しずつ自分が消えていくのを想像するんだ。
空はいいよ、見上げるごとに違う空になるからね。雨の日、風の日、雪の日、晴れの日、嵐の日。同じ空なんて一つもないし、この大きな空を見てると自分がどれほどちっぽけなものかがよく分かるから。」
そういった彼は少し寂しそうに笑った。

その顔が悲しくて、切なくて、なぜか私は彼にこんな顔をさせたくないと思った。
「あの、いい・・です、よ? あ、いえ、その・・友達・・になって・・・ください・・・・。」
つっかえつっかえだったがちゃんと言えたことにほっとする。
でも、彼の反応がなくて不思議に思って顔を上げると彼は、まさに”驚き”の表情で固まっていた。
「本当に!?いいの??僕幽霊だよ!?え、本当に?」
彼のあまりの喜びっぷりにこくこくと小さく首を振ることしかできなかった。しかしそれでも十分なようで彼ははしゃぎまくっていた。
彼の見せた変貌振りに唖然としている私に気付いた彼は恥ずかしそうに咳払いをした後に赤くなりながら言った。
「コ、コホンッ。コホンッ。えーあー・・・その・・つい取り乱してしまってごめん・・
あの・・それくらい、うれしかったんだ・・・。えぇっとさ、いつもここに居るから気が向いたらでいいから来てくれるとうれしいな。」
彼はそう言った後、まだ赤い顔を恥ずかしそうに伏せながら早口に「そ、それじゃまたね!」と言ったかと思うともうそこに彼の姿はなかった。
忽然と消えた彼に驚きながらも帰ろうと歩き出した背中に”気をつけて帰るんだよ”と彼の言葉が聞こえた気がした。



 ・・・家まであと少しという所で(あっ、名前聞き忘れたな・・)と気づいたが明日聞きに行けばいいかと流しておくことにした。
家に入るといつものように味気ない食卓、顔も合わせない両親。
私は重苦しい雰囲気に耐えられずそそくさと自室に逃げ込み勉強をすることにした。
 ・・・しばらくして弟が部屋に入ってきた。
「姉ちゃん、わかんない所あるんだけど・・・」
どうやら宿題をやっていたらしい。やんちゃで落ち着きがないのにまめに勉強するところは私に似ていてよかった。
「・・はいはい、どこなの?」
「この真ん中のところなんだけど・・・」
 ・・・・・なんていうやり取りを交わしながら説明すると納得してくれたようだ。
こういうところは私よりも飲み込みがいい。もっと勉強したら私よりも良い所に行けるかもしれない、などと思っていると唐突に「・・・姉ちゃん、何かあったの?」不審気な顔でたずねてきた。
「べ、別に何もないわよ。・・何か気になることでもあるの?」
「いやなんか今日の姉ちゃんどこか楽しそうだから・・何かあったのかなって思ってさ。」
「・・たまたま機嫌が良いだけよ。」
などと言って今日の出来事は話さなかった。言っても信じないだろうし、なにより今日の出来事はあの人と私だけの秘密にしておきたかったのだ。



また朝が来た。憂鬱な一日が始まる。
でも今朝は少し違った。朝の喧騒も、重苦しい食卓も気にならなかった。
あの人に会えるからだろうか、家を出るとき私は少しうきうきしていた。

排気ガスで淀んだ朝。新鮮とは程遠く深呼吸どころか呼吸すらしたくなくなるような爽やかさの欠片も無い朝の空気。
その中を進む。彼のいるであろう場所へ。
はたして、彼はそこにいた。この澱みの中でも見間違えようも無いほどに透き通った何かに包まれるように、はっきりと朝に腰掛けていた。
そらを見上げたままの彼に近づくと「おはよう」の声と共にフワリと降りてきた。
彼が実にあっさりと昨日のことは夢ではなかったのかという疑念を打ち砕いてくれたことに心中感謝しながら挨拶を交わした。
と彼が思いがけない提案をしてきた。

「はーい、ここでちょっと提案です。僕と話すときは誰もいない処でか小声でお願いします。でないとせっかくの友達が”一人事の激しい可哀想な人”になっちゃうよ?」
 ・・・なるほど今なぜ自分が周りからちらちらと熱視線を送られているのかが分かった。
私の目に彼がどれほどはっきり見えていても周りの人たちにとって私は虚空に向かって話しかける可哀想な人に映る訳だ。
「OKなら手をグーにNOならぱパーにしてね。」
彼の提案にすかさずグーを出す。これで何とか可哀想な人からの脱出出来るだろう。あでぃおす!!
彼は少しならば移動できるというので学校まで話しながら行くことになった。とは言っても彼の言葉にグーパーしていただけなのだが・・

「さて、学校です。今日は授業参観ですか?」
「はい、そうです。トム」
中学生の英語の問題のような答えをしてしまうほどさらりと彼は言った。
「・・・・ってえぇぇぇぇぇ・・・(フェードアウト、はいOKでーす。)。 ち、違いますよ。何ですかいきなり!?」
小声で叫んだ自分を褒めたいと思った。
「いやー授業参観でもないと部外者が授業を見れないじゃないですか!」
チョット マテ・・・ジュギョウ ヲ ミルッテ ?
「だ、駄目ですよ!だって、だって・・・」
「? いいじゃないですか、減るものじゃないんだし。それに暇なんだもん。大丈夫、安心して!君に守護霊のごとき鉄壁のガードをお届けするよ!」
「要りませんからそんなものは・・・」などという小声の攻防戦の結果、彼は渋々ながらも引き下がってくれた。
私はホッと胸を撫で下ろしつつ昇降口に入る。
私の靴箱の中にはやはりというかいくつもの押しピンが入っていた。
(彼に見られなくてよかった。)
いつもの事なので何も感じない、思わない。
もう 慣れてしまった。
いつからこうなったのかさえ覚えていない。理由は些細なことだった。

始まりは私が告白されてそれを断ったということだった。相手は格好良くて人気のある人だった。
そのことが癇に障ったらしい。彼を狙っていた女子と取り巻きの数人が嫌がらせを始めた。もともと私の暗いところやとろいところが気に入らなかったらしい。
彼は私を何度か助けようとしてくれたがその行為をエスカレートさせるだけだった。
そのうちに彼は別の彼女を作った。それでも彼女たちはやめなかった。
私を弄び、蹂躙すること。目的は消え、いつからかその行為自体が目的になったいた。
私はただ耐えた。いつか終わりが来ると信じて。
 ---信じるものは救われる---誰の言葉だったか。そんなの全然嘘じゃないか。信じる人すべてが救われるなら。戦争なんて起きない。貧困もない。平和な世界。
私もこんな思いをせずに済むはずだ。

皆無責任なことを言う。「努力すれば夢は叶う。」「あきらめるな。」「仲間を信じろ。」でも誰もその言葉に責任を取らない。
責任の無い軽い言葉を一体誰が信じるのか、なぜ誰も異議を唱えないのだろうか。耳障りがいいから?聞こえが良ければそれでいいの?
じゃあそれを信じた人は?どうすればいい?無責任な人達の無責任な言葉に振り回されて捨てられた人は一体どこに行けばいい?何をすればいい?
無責任なことを言わないで。


「・・・ふーん・・・・・」
耳元で今朝の声が聞こえた。顔を上げると彼がいた。

 ・・・見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。
見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。
見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。
見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。
見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。
見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。
見られてしまった。見られてしまった。見られてしまった。みられてしまった。みられてしまった。みられてしまった。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。
ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。
ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。ミラレテシマッタ。
彼にだけは知られたくなかったのに・・・・・・・・・・・・彼にだけは知られたくなかったのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ミラレテシマッタ。


「・・・こっちへおいで」
カレ ガ ナニ カ イッテ イル。デモ ワカラ ナイ、ワカラ ナイ ノ、ワカリタク ナイ ノ ・・・・
 ---ぎゅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ---
何が起こったのかわからなかった。いつの間にか私は校舎裏の人気の無い場所にいた。教室の朝の喧騒が遠く響いてくる。
私は一体どうしたんだろう?確か彼に見られてみられてミラレテミラレテ・・・・
 ---ぎゅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ---
おかしい。さっきから苦しいような気がする。体が動かない。自分の体なのにどうしてだろう?
ふと目をやると彼が私を抱きしめていた。
一瞬で顔が熱くなると同時に私の頭の中に今の状況がストンと入ってきた。
私は見られてしまったのだ。見られたくなかった秘密を

「どうして・・・」
私が言い終えるより早く彼が口を開いた。
「うるさい!!!・・・なんで隠した?どうして?僕は君の友達だって君と友達になったって言ってくれたじゃないか。なのに、どうして隠すの?ねえ・・・・答えてよっ・・・・・・。」
言葉が 出なかった。幽霊の彼は私を抱きしめたまま静かに泣いていた。怒っていた。何よりも自分は友達なのだと。
「見られたく・・なかった・・・から・・・。友達・・だから、虐められている私を・・見せたくはなかった・・・」
口に出せたのはそこまでだった。
「ふざけるな!!!そんなことで僕が君を嫌うとでも思ったの?僕は君の友達なんだよ、友達なんだ、友達なんだよっ。だから・・・、もっと信じてよ。
お化けだけど・・、会ってすぐだけど・・・君が僕を友達だと言ってくれた時から君の一番の友達でいようと決めたんだ。
友達なんだよ。友達だから。だから、もう隠さないで。我慢しないで。すべてを話して、お願いだから・・・」
そこまで言い終えると彼は泣き崩れた

彼の涙に釣られたのかもしれない。私の目に涙がたまり何も見えなくなっていく。目に映る全てが歪み不確かになる。遂に私の瞳のダムは決壊した。
止め処なく溢れる涙の粒が頬を伝って落ちていく。最初の一粒が地上に落ちた時、私も我慢できなくなって彼に抱きしめられらがら泣いた。
暖かな体。温かな心。温かな涙。暖かな彼の温もり。陽だまりに居るようで気持ちもぽかぽかしていく。あったかな涙は止まらず、でも少しも悲しくはなかった。
私には彼がいるから。僕がここにいるからと彼の温度が伝えてくれたから。きっといつか笑顔になれる。笑い会える日が必ず来る。
この瞬間私は疑いようもなくそのことを信じていた。そのことを彼のぬくもりのせいにした。
こんなに泣かされたのは生まれて初めてだ。
あったかな涙に包まれて、そのとき私は確かに幸福のなかにいた。

 ---柔らかな彼の声がこれほど歪むのを聞いたのは後にも先にもこの一度きりだった。---

彼は、私が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。泣き止んでもそのまま放そうとしなかった。
だから、私も遠慮せず彼に抱きついていた。恥ずかしかったけれどこの泣き膨れた顔ではどうしようもない、顔の赤さは涙の所為にでもしてしまおう。
「・・・いつからなの。」
涙でぐじぐじになった顔を隠すようにそっぽを向いた彼が言った。
私はいつからなのか覚えてないこと、原因、今の状況などを答えさせられた。
それを聞いた彼はしばらくしてポツリと独り言のように小さな声で呟いた。
「言ってくれれば良かったのに。・・・心配、させるなよ。」
そう言った彼の顔は相変わらずそっぽを向いたままだったけど赤く染まった耳が彼が照れまくっていることを教えてくれた。



カツカツカツ・・・教師が黒板に板書していく。
それをノートに取りながら授業が終わるのを待つ。
あの後、彼は学校の敷地内を回ってくると言ったままどこかへ消えてしまった。

キーンコーンカーンコーン・・・

チャイムが授業の終わりを告げる、
 ・・・昼休みだ。
私はいつものように屋上に来ていた。ものぐさな校務の人が変えていないのか、はたまた気付いていないのか屋上の鍵は壊れて開いている。
「おー、遅かったね。」
ドアをを空けるや否や彼の声がした。どうして私がここに来ると分かったのだろうか?
「・・・なんでここにいるんですか?・・・・いえ、答えなくて良いです。」
「えー、せっかくどう答えようか考えてたのにー」
不満気な声を上げているがそれはこっちの台詞だ。
「・・まあいいです。もう気にしません。」
「?、何を??」

彼の頭上には?がぐるぐる旋回していたがそのまま放置しておこう。言っても分からないだろうし。
「それでどうだったんですか?」
「?」
「回ってくるって言ってたでしょう?」
「あぁ・・、そうだね。言ってた言ってた。フツーの学校だね。」
本当にどうでもいい感じで言ったのが気に入らなかったのかもしれない。
「じゃあフツーじゃない学校ってどういう学校なんですか。」聞き返してしまった。本当はどうでもいいことなんだけどな・・
「ええっと・・、例えば恐怖!七不思議~とか、歩く二ノ宮さんとかあとそれからny・・」
「いいですからもう。はい、この話題は終了です。」
「えーー聞いてきたのそっちじゃん。・・・まあいいや。いい学校だね、ここ」
さっきのふざけた態度から急にいつものさらりとした態度に変わった彼に少しどきどきしながら話を聞く。
「不良が裏で喧嘩したりとか、煙草吸ったりだとか、幽霊もいないし、怪談もない・・・」
「不良と幽霊の事だけですね。」

「あはは、そうだね。でも、この二つは快適な学生生活を送る上で重要だよ?僕がいた高校じゃ不良が我が物顔で闊歩していてもしぶつかったりしようものなら・・・」
「話さなくていいです。むしろ聞きたくありません。」・・・なるほど、彼の話は自身の実体験に基づいているようだ。
「だけどさー、虐める方も相当暇だね。むかつくなら相手にしなけりゃいいのに。自分の時間を使ってさあ・・もっと他にやるべきことがあるだろうに・・・・」
「そのやるべきことが他人にかまうことなんじゃないんですか?」
弁当の包みを開けて箸を取り出し手を合わせて食べはじめる。今日のお弁当も良い出来だ。ユータも言ってくれれば作ってあげるのに・・・
「・・・そのお弁当、美味しそうだねー。・・・・・一口!一口でいいからちょうだい!」
「・・・別にいいですけど・・・・・食べられるんですか?」
私の素朴な疑問は、彼が忘れていたものを呼び起こした様だった。
「・・・・・・・・・・・ア---------僕幽霊ダッタ--------------------------!!!!」
叫び続けたまま彼はみるみる萎んで行き最後にぷしゅーと空気が抜ける様な音がした後床にぺたりと張り付いてしまった。

「・・・・・はむはむはむ・・・・もぐもぐもぐ・・・・もっきゅもっきゅもっきゅ・・・・ごくん・・・・はむはむ・・・・・・・」
リアクションに困った私はそのままご飯を食べ続けることにした。学生の昼休みは貴重なのだ。
「・・・・プシュ------------・・・・・プシュ----------------」
床にへばり付いた物体Xはまだ元に戻る気は無いらしい。
 ・・・なんだか不憫になってきたので物体Xに卵焼き(甘い)をお供えすることにした。
 ・・・・・お、卵焼きに気付いたみたいだ。触手の様なものが伸びてきた。
匂いを嗅ぐように周りでクンクンと動いた後で別の触手が伸びて物体Xを卵焼きの近くまで引きずった。
顔(?)が上がって触手ごと飲み込んだ(!)
「・・・・・・んっまーーーーーーーーーーーい!!!!!!!」
へばり付いていた物体Xは急膨張、ウルトラマンのポーズで復活。
「・・・あなたって本当に幽霊なんですか?妖怪とかそんなのじゃないんですか?」
「何を失敬な!拙者、生まれてこの方幽霊一筋でござる!!」
「いや、最初はちゃんと生きてたんでしょ・・・」
他にもいろいろとツッコミ所はあるが(なぜ侍?などなど)ツッコミ出したら彼のペースなので黙るが勝ちだ。
さあ、ご飯の残りを片付けなくては。

「いやー、この卵焼きは美味しいね。やっぱり卵焼きは甘いに限るよね!」
 ・・自分の料理を家族以外の人に褒めてもらったのは初めてだ、幽霊だけど。何か嬉しいっていうかなんというか・・だめだ顔が熱くなってきちゃった。
「・・・口にあったのなら良かったです。・・って言うより幽霊もご飯を食べられるんですね。驚きです。」
赤い顔を見られたくなくてそっぽを向いてしまった。しかもちょっと声がぎこちない。変に思われたかな・・?
「仏壇とかお墓とかにお供え物をするんだし食べられるんじゃないのかな?良く知らないけど。」
けれど彼は気付かなかったようだ。よかったよかった。
「じゃああのリアクションは何だったんですか?あの物体Xは?」
「食べられるなんて知らなかったんだよぅ。食べようとしたらなぜか食べれたのっ!あと、さっきのは僕の百八あるうちの・・・」
 -----キーン コーン カーン コーン-----
(あ、五時間目は移動教室だった。急がなきゃ。)
いそいそと弁当箱を片付けて走り出す。
「じゃあごゆっくりどうぞー・・・・」
「あっ、待って!今ちょうど良い所なのにーー・・・・」
身振り手振り興奮気味にしゃべっていた彼にそれじゃあと後手に手を振って屋上から出る。

久しぶりに他の誰かと一緒に食べたお弁当はいつもよりも美味しく、温かかだった。
最終更新:2011年03月06日 07:46