現在においても、「十字軍」ということばが使われる場面があります。近いところでは、NATOのリビア作戦し、プーチン・ロシア首相が使用しています。いうまでもなく、「十字軍」はいい意味で使われているわけではありません。では、十字軍とは何だったのでしょうか。十字軍については、以下の問いを立てて考えます。

①目的と帰結
②十字軍の期間と範囲

①の目的については、宗教的(贖罪、聖地奪還)なものから、キリスト教徒内の平和、貴族の二男・三男の食い扶持の確保などの世俗的なものまでひとつにしぼることはできません。ただ、従来言われてきた宗教的→世俗的、ではなく、世俗的→宗教的、という見方も出てきています。
帰結のひとつとして、十字軍に従軍した貴族の没落による王権の強化、が挙げられます。

②については、対イスラムに対するもののほかに、異教徒、異端に対するものがあることを指摘しておく必要があります。山内進の『北の十字軍』は、バルト地域への十字軍を扱った名著です。そこで詳しく扱われているドイツ騎士修道会VSポーランド・リトアニア連合軍のタンネンベルク(グルンヴァルド、ジャルギリス)の戦いは、その後、政治体制が変わるたびに、さまざまに解釈されながら、「国民統合」に利用されてきた点で、歴史研究の興味深い素材となっています。ポーランドもリトアニアもともにEUに加盟した2004年以降は、多文化主義の文脈で語られています。
最終更新:2011年11月08日 08:40