1 始まり
俺が誰かって?
俺の名前は、
アレス・アセロアフィス。
クラディアちゃんが確りと仕事をこなしてくれた後、ETCA水産部長なんてもんをやっている。
ん?水産部長なんて落ちぶれたな?まぁ、な、クラディアちゃんが一応失敗してくれたからこの様さ。
でも、一応あの子は使命を果たしてくれたよ。俺は、賞賛する。
今回は、俺の過去を話す場所を提供してくれるらしいな。
まぁ、俺も連邦にぐるぐる人生をかき回された。そんな過去の話をしたいと思う。
あの頃は若かったさ。
こんな中年の話も聞いてくれれば面白いかもしれない。
じゃあ、始めよう
アセロアフィス。
その名前はaceloと言う単語に名前を構成する-afisという辞が付いた構成だ。aceloというのは道しるべといった意味。誰だ、『道しるべ男ww』なんて笑っている奴は失礼な。これも一応列記とした名前だ。
そんな事を考えながら連邦公営地下鉄に乗り込む、ETCAまで数駅。連れているのは一人の少女だ。中年と少女のコンビネーション。おかげさまで、電車内に居る女子高生がこっちを見てくすくす笑っている。『ラブホ』だの『援交』だの、禍々しい、生々しい単語をこっちに聞こえてくるまで話してくるもんだから無視しても無視しきれない。公衆の面前で連邦人らしくない。
「マスター、今回はどちらまで」
少女が言う。マスターと呼ばれたアセロアフィスは少女に向きかえる。
「ETCAだ、あとマスターと呼ぶのは止めろ。」
「マスターなので。」
少女はそう言い、漆黒の車窓を見つめていた。
彼女の名前は、アレン・ラツ・フェリシャという。我等、
ユエスレオネ軍技術開発本部の職員である。
言い忘れていたが、俺はその技術開発本部、通称技本の本部長である。
その俺が今回呼ばれたのが、ETCA―
サニス条約機構―だった。
『西トレディーナ、西トレディーナです。』
チャイムの後にアナウンスがある。
ECTAの本部はここにある。
フェリシャと共に車両を降りる。
「ETCA本部まで、徒歩で10分、バスで5分のようですが。どちらで行きますか。」
まるでカーナビのように声音を変えずにフェリシャが言う。
「徒歩で直接向かう。」
短く告げ先を急ぐ。
この先の混乱は二人とも分らなかった。
2 司令
ETCA本部に着いた。
高いビルが二つ途中の階で繋がっており、日が強いせいか上階のガラスが白銀のように光っている。
そんなことは全く気にせず、アセロアフィスとフェリシャは本部ビルに入ってゆく。
「ようこそ、担当者の名前かイベント番号をお願いいたします。」
受付の女性が張り付いた笑顔で言う。そういえば、周りも張り付いたような笑顔で話している。ここは地獄か何かか。
「イベント番号117863だ、担当者に急ぐように言ってくれ。」
「承知いたしました。」
笑顔の張り付いた女性は電話に触れて、アセロアフィスの後に気付いた。
「よーぅこそ!ETCAへアセロアフィス君!よろしくやってるかなー??アハハ、君も老けたねぇ……さぁさぁ行くぞ~♪」
「おい、ちょっと待て。」
突然、話しかけてきた女性には見覚えがあった。
「あれ?まさか覚えてないとか??私だよ~リファン・リファーリン・フィルシャファだよ~!」
覚えている。ユエスレオネ軍に同期入隊しためんどくさい奴。入隊してから色々やらかし最終的に処分を受け、何処へ行ったやら覚えていなかったがこんな所で宜しくやっているとは思わなかった。
「フィルシャファ、もしかしてお前が担当者か。」
「そりゃそうだよ~とにかく色々あってね……とりあえず、会議室に行こうか?」
「ああ、そうだな。あと年甲斐も無く若者振る舞いしてるんじゃない、こっちが恥ずかしくなってくる。」
そんなことを話しながら、会議室までやって来た。
無駄に広い会議室には三人しか居なかった。
「今回、何で呼ばれたか解る?アセロアフィス君。」
「さっぱりだ、解るかフェリシャ?」
「ウィー、マスター。」
なんでユーゴック語なんだ……。
否定するなら普通にして欲しい……。
「まっ、とある件でETCAと企業が衝突していてね。それを解決したいと思っているんだ~。」
フィルシャファが窓のシェードに触り、外を眺める。
「どういうことだ。詳しく教えてくれないとこちらも動こうにも動けん。」
「ガスプラント爆破事故って言ったら解るかな。」
「は?」
ガスプラント爆破事件と技本と何の関係がある。
まさか、公害抑制技術を作れとか言うんじゃないだろうか。
「パルソガ、もちろん知ってるよね。あそこに去年あった連邦ガス工業―FTAのガスプラントが爆破した事件も知ってるよね。」
「ああ、ガス貯蔵管が老朽化、ちょっとした火花に点火して大爆発を起こしたって話だったな。」
「そう、そのはずだった。」
フィルシャファの顔が曇る。
「それがどうかしたのか。」
「……FTAのガスプラントが爆破した後、そのあと現地の土地はADK完全出資、株保有率100%の企業、ジャッハルタガス工業―JHSに売却され、その上にガスプラントとは別の工場を建てた。ETCAの調査では、JHSには連邦のチェックが入っていない。ETCAがJHSの工場の視察を申請したところJHSへの連絡ではねられた。」
「つまりどういうことだ?」
「ETCAはADKの勢力が、FTAガスプラントを爆破し、JHSパルソガ工場にADKの兵器開発や、連邦の主権を脅かす力を設置したと予測している。何としても、あの工場の中を調べ内容とLTAガスプラント事故の真相を探れ。っていうお仕事だけと大丈夫~?」
大丈夫~?じゃねぇ。
「なんでわざわざ技本なんだ。そんなこと、
特別警察とか
国家公安警察調査部にでもやらせれば良い話じゃないか。」
「ダミーだよ。連邦もETCAと殆ど認識は同じようだし、特別警察とか調査部を持ち出して大々的にやれば国際問題になりかねないと考えてるんじゃないかな。」
「んで、技本なのか。」
「技本、って組織に注目したんじゃないよ。アセロアフィス君とフェリシャちゃんの居る技本中央部の人員が魅力的だから呼んだんだよ~。」
「!?、何故それを……」
「ユエスレオネ軍技術開発本部第一班アレス・アセロアフィス、アレン・ラツ・フェリシャ、スカースナ・ハルトシェアフィス・イヴァネ、アレス・レヴィア・ラヴュール。でしょ?」
「貴様、何故それを。」
「ETCAをなめていると最悪死ぬよ。気をつけな。」
フィルシャファがそういってから、静寂が訪れる。
ETCAの圧力、連邦の危機、陰謀工場……。
色々あるがこれは受けるほか無いらしい。
「分った、この仕事。受けよう。」
3 技術開発本部第一班
自動ドアが開く。
「おっ、部長。お疲れさん。」
第一声はスカースナ・ハルトシェアフィス・イヴァネ。
「お疲れ様です、部長殿。」
第二声はアレス・レヴィア・ラヴュールだ。
そうここは、技術開発本部第一班、通称中央部である。
ここには軍技術者の最高峰の者が集まる。
「部長殿、今日はどちらに出張されたのですか。」
アレスが言う。
「ADLP」
「え!?」
「間違えた、ETCA。」
アレス、スカースナが笑っている。しかし、フェリシャだけは無表情が張り付いていた。
フェリシャについては誰もその過去を知らない。無表情、無感情のロボットのような人間だ。
アレスもスカースナもそれについて気にしていないかのような感じであった。
「部長殿、ちょっとお話があるのですが。よろしいでしょうか?」
「別にかまわない。」
「では、別室で。」
アレスが言う。何か重大な報告をしそうな感じであるので心構えをもって会議室に移動する。
「で、何の様だ。」
「フェリシャ少s……フェリシャさんのことなんですけど……。」
「ん?、フェリシャがどうかしたのか。」
アレスが誰も居ない会議室をわざわざ見回して、息を整えて言う。
「ちょっと、実験してみませんか?」
「は?」
「お前、人の事馬鹿にしてるだろう。」
アセロアフィスが言う。
アレスは焦ったかのように手を胸の前でわたわたさせる。
「いいいやぁ~そんなわけ無いじゃないですか~あはは。」
「何でわざわざ俺がフェリシャに人間性を持たせなきゃいけないんだ。そんなこと同僚のお前等がやれば良いことだろうが、そもそも業務中だぞ、業務中。解るか?」
「見てください、これ。」
アレスが数枚の写真を今度はアセロアフィスの前に提示する。
「何だこれ、フェリシャばっかり写ってるな。」
「そうですよ~フェリシャちゃんの特別な写真です~。」
そうか、そういう魂胆か。
「おい、アレス。俺がこれで釣れるとでも思っていたのか?」
「ええ、部長殿に差し上げる物ではないですから。」
は?
「部長殿が協力してくれないとこの写真データがネット上に流出する事になります~。」
「犯罪だぞ。」
「ええ、ですが流出すればフェリシャちゃんの身も部長殿の身も危ないかもしれませんねぇ~。」
くっ。
しょうがない、目標が曖昧なだけまだマシだ。
「分った、分った。今日の巡回で色々試してみるから、そんな事は止めるんだ。」
アレスが写真をWPで空中に持ち上げ、消滅させた。
「OKです。こちらもデータはまだありますから、迂闊なことをするとデータ、漏れますよ。」
「小癪な奴め。」
そう言い、アセロアフィスは会議室を出てゆく。
「簡単な奴だな。ふふっ……」
アレスは小声で外を眺めながら呟いた。
4 巡回
「くっ、今日も暑いな……」
ユエスレオネでは真夏日まっしぐらであった。
「フェリシャ、今日の巡回スケジュールを教えてくれ。」
「はい、マスター。ユエスレオネ陸軍開発研究工廠と
ユエスレオネ中央大学ウェールフープ研究所リパコール室よりWAAの結果が出ているとの事です。リパコール研究室でのWAA実用実験を行うそうです。」
WAA―Werlfurpu'd Aplauxmeen Apia―ウェールフープジャミングシステムのことだ。連邦軍研究開発本部は前々からこれを暴徒鎮圧のための非殺傷兵器としての利用を目標としている。
最終更新:2015年05月21日 19:02