中国政府の人口抑制政策


 日本では「一人っ子政策」として知られている中国の人口抑制政策が、「計画生育」政策である。改革開放政策が始まった1979年からまずは漢族を対象に開始された。原則として、夫婦で子供一人だけ許可するというものだが、細かい規定が設けられている。これに違反した場合には罰則が科せられるが、実際にはその地域の担当者による強制中絶が頻繁に行われている。

 中国の制度上、国家が年間の出生数の計画を出すと、その数値目標がそれぞれの地区、郷・街道などで責任制となって負わされる。違反者が出れば、その違反者だけでなくその地域の担当者までもが処罰の対象となる。そのため、出産適齢の夫婦には専任の担当者がつけられ、かなりの圧力がかけられている。これが強制中絶へとつながっていくのである。結婚の条件にリングの装着義務があるという話も出ている。

 中国全土で、妊娠7ヶ月~9ヶ月での中絶が年間50万件にものぼると言われる。(日本では母体保護法で、妊娠22週までの人工中絶しか認められていない。)
 在外のウイグル団体や、人権団体によって、強制的な中絶措置で妊婦に多数の犠牲者が出ていると報告されている。

 よく中国人は「少数民族は漢族に比べれば優遇されている」と言い訳するが、東トルキスタンでは、漢族であっても農村部であれば子供を2人まで持つことができ、条件を満たせば更に1人追加することができるなど、他の地域に比べると漢族も優遇されているのである。また違反者に課せられる罰則は、平均収入の数倍の罰金というように、かなりの経済的な負担がかかるものであり、貧しい人が多い少数民族にとってはかなり不利な条件になっている。
 そもそも優遇政策が施されたとしても、少数民族が人口抑制の対象となっているのであるから、内地からの大量の漢族の移住によって、いずれはその少数民族は消滅してしまうことを意味するであろう。さらに東トルキスタンではウイグル人の若者が強制移住で域外へと運び出されているのである。

 また、東トルキスタンの人々から見るならば、人口爆発を起こしているのは漢族であって、自分たちはそのとばっちりを受けているということに他ならない。
 中華人民共和国になってすぐのころには、人口の多さ=国の重要な財産ということで人口増加政策をとっていた。しかし、1953年に初めて行われた人口センサスで、予想を遥かに超える人口を抱えていることに気が付き、計画出産が公式に奨励された。しかしこれは長続きせず、50年代後半にはどのような理論の元に産児制限するべきかという「人口論論争」が始まり、更に大躍進政策の失敗によって多くの飢餓と、農業・工業の失敗を生み出したにも関わらず、人口増加=経済発展という理論による多子奨励が主流となった。
 大躍進・文化大革命期の現実離れした政策は、大量の餓死者を生み出しただけでなく、人口政策上でも取り返しのつかない大失態を犯したのである。また大躍進が終わったあとであっても、人民の不安を煽ることがあってはならないという政治的判断によって、計画出産活動が開始されるまでにはしばらくの時間がかかり、結局1972年までは再開されなかった。この間、大躍進期の人口減少に対する反動として第一次ベビーブームが起こっており、手をこまねいているうちに大量の人口増加を生み出すことになったのである。

 国策としての本格的な取り組みは79年からで、80年からは「公開書簡」で宣言され軌道に乗っていくことになった。もし、早くから適切な人口政策をとっていたなら、現在のような苛烈な計画生育政策は、漢族に対しても必要なかったのではないだろうか。
 また計画生育は宗教とも激しく対立する問題であり、ほとんどがイスラム教徒である東トルキスタンのテュルク系の少数民族にとっては到底受け入れがたいものになっている。1990年4月にアクト県バリン郷で起きた事件は、この計画生育が引き金になったといわれる。

 現在中国は、宗教が産児制限について口を挟むことを禁止している。しかし、そもそもこのような個人的な問題にまで制限を課している、中国共産党のほうが異常な存在であることは明瞭であろう。

「中国政府の人口抑制政策」付録
 この計画生育政策に関係する法律としては、「中華人民共和国婚姻法」、「中華人民共和国の人口と計画生育法」があり、この下に各省や自治区毎の条例がくる。新疆ウイグル自治区では、「新疆ウイグル自治区の人口と計画生育の条例」(2002年の月の11月28日施行)になる。
 まず『中華人民共和国婚姻法』で、婚姻年齢を男性満22歳、女性満20歳と定めており、他国と比べて高齢に設定されている。晩婚および晩育(出産年齢を遅らせること)を奨励すべきであるとしている。また優生学的な面から、直系血族および三代以内の傍系血族との結婚と、医学上結婚すべきではないと認められる疾病に罹患している者の結婚を禁止している。
 次に、『中華人民共和国の人口と計画生育法』では、計画生育を実施する夫婦に対しての優遇措置などを定めている。晩婚や晩育を奨励し、実施者に対しては各種社会保障制度を設けるよう指示している。そして、生涯の子供を一人だけと宣言した夫婦には、国が「独生子女父母光栄証」を交付し、これを持っていると各自治体の関連規定によって優遇措置を受けることができるようになっている。

 『新疆ウイグル自治区の人口と計画生育の条例』が、東トルキスタンの人々が実際に適用される規定になっている。まず、人口と計画生育については、各レベルの人民政府が責任をもつこととされている。そして人々は、地域の基層単位である「郷」や「街道」に結び付けられて管理されている。また企業、国家機関、社会団体などは、人民政府に協力して、人口と計画生育に取り組むよう求められている。

 計画生育の規定については、主に以下のような内容になっている。
  • 漢族の男性満25歳、女性満23歳、少数民族は男性満23歳、女性21歳で初婚を迎えれば晩婚とする。晩婚で結婚後出産した場合を晩育とする。
  • 都市部の漢族の一組の夫婦は1人の子女を産むことができ、少数民族の一組の夫婦は2人の子女を産むことができる。農村部の漢族の一組の夫婦は2人の子女を産むことができ、少数民族は3人の子女を産むことができる。夫婦の一方が少数民族の場合は少数民族の規定、夫婦の一方が都市部の住民の場合は都市部での規定に従う。
  • 法律に基づいて結婚登記を行い、計画生育の用件に適合し、更に女性側の戸籍所在地の郷政府あるいは街道弁事所から許可をもらってから、出産することができる。
  • 次の条件に適合する場合には県の計画生育行政部門の審査を通して、更に一人の子女を出産できる。傷痍軍人、公務で傷害を負った者、結婚後不妊で『修養法』(養子法)に準じて養子を持った者、油井作業5年以上の者、夫婦双方が一人っ子、既にいる子が正常な労働力にならない者。
  • 前子より3年以上あけなければ、2人以上の子を持ってはならない。

 この規定に従う者には以下の褒賞が与えられる。
  • 都市部の国家公務員、団体職員、企業の従業員で晩婚の者には結婚休暇を+20日、晩育は産休を+30日、男性にも看護休を+15日上乗せされる。
  • 農村部では、晩婚・晩育両方に対して、集団生産、公益事業労働の1年間の減免、あるいは現地人民政府から奨励金を受け取ることができる。
  • 「独生子女父母光栄証」を受け取ると、子供が満16歳になるまで毎月10元以上の保険費を受給でき、また企業などの退職金に賃金の5%の奨励金を上乗せ、または2,000元以上の一次奨励金を受け取ることができる。 

 違反者に対しては以下のような罰則が加えられる。
  • 都市部では前年の当該県住民の平均収入1-8倍、農村部なら農民の純収入の1-8倍の社会養育費を徴収する。
  • 3年を空けずに子供を産んだ場合は、その期間に応じて平均年収を基準として社会養育費を徴収する。
  • 就業者に違反者がいる場合には、その企業などが出生と養育費についての管理をしなければならない。昇級・昇進などは3年据え置き、場合によっては行政処分を行うこと。
  • 農村では3年間集団の福祉を受けてはならない。
  • 「独生子女父母光栄証」を受けていた場合は、優遇措置を停止し、すでに受けていた保険費や報奨金を返却すること。







最終更新:2013年07月11日 11:27