ホアタの会戦


「くっ、今回も負けか。全ては俺のミスだ」
「そうですね。貴方のミスです」
「おいおい、そこはフォローするとこだろ? また、殿軍を任せるが、
 大丈夫か、イーサリー」
前線から戻って装備を取り替えていたその男は、傭兵の自分に一番肝腎なところを
任せるのか、などと言いつつもおどけながら承諾した。
彼の部下の傭兵たちも口々にマクセンの無能を笑うも、これは傭兵なりのユーモアである。
思えば、故郷の復興のために傭兵に身をやつした彼も、今ではこの地の果てでの
ゴブリン相手の戦いに終始する毎日を送っている。焦りや不満もある。だが、
目の前のことを片付けないことには先がないのを彼は、彼らは知っていた。

ホアタ平原にしては起伏の激しいこの地は兵を伏せつつ、逃げながら戦うのに適している。
悪地形に適したゴブリンから時間稼ぎをし続けられるのは、イーサリーのみであった。
背後に控えた数十名の部下に装備と上等な水を持たせて、イーサリーは単身、前に出る。
まずやってきたのは、風の召喚魔であった。即座に肩掛けた弓を取り、敵の喉を射抜く。
側面から断崖を飛び越えてきたのは土の召喚魔である。突撃の勢いを受け流しつつ、
敵の背に乗るようにして首筋に刃を差し入れる。
牙を剥き、無秩序に突撃してくるのは若いゴブリンたちであった。数が多く、乱戦になる。
肘討ち、蹴りに当て身で三体を倒したのち、二刀を抜き放ち、気合と共に。
一閃。
何体ものゴブリンが吹き飛び、また、その反動を利用して後方に飛びずさる。

部下たちのもとに戻ったイーサリーは剣を取り替え、矢を補充し、水を飲んで一呼吸する。
そして、部下たちに陣を移すように命令してまたひとり死地へと向かう。
こんなことを一度の退却戦で何度も繰り返すが、さすがに限界はある。
追撃の何波目かには熟練の兵たちを従えた老将の姿があった。さすがに自分ひとりでは防ぎきれない。
イーサリーは詫びるようなことを部下たちに言う。部下たちは口汚くイーサリーを罵倒するも、
どこか楽しげに武器を取った。

ホアタで行われた何度目かの会戦はフェリル国の敗北に終わった。
両軍の将に死者はなかったが、兵たちの死者数は数え切れないものであった。
イーサリーは昨日寝食を共にした仲間たちの墓前に、酒を捧げ、今日生き延びた幸運に感謝した。



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最終更新:2011年01月17日 21:38