魔王の軍勢


雪原、山脈、中原への足掛かり。
悪魔による大陸の蚕食は北部の不毛の地を覆い、既に王国に食い込むように進行していた。
かつての自ら滅した都市の成れの果て。
中原を一望出来る廃都の高み、瓦礫と化した尖塔の上に魔王は座し
軍勢は周囲を固め陣は成される。
人間文明の領域への本格的な侵攻に、悪魔達は高揚の色を隠せない。

陣の最中、尖塔の下。控える悪魔の将校達。
昂ぶる悪魔達の中、一際激昂した筋骨隆々の高位悪魔。
その筋肉質の男に胸倉を掴み上げられる高位悪魔。
それを見ておろおろするばかりの娘。他の悪魔は、我関せず。
ゼオンの怒気と殺意の篭った眼光を、パルスザンは煩わしそうに避ける。
ゼオン「おいコラ、人間界とやらはロクなのがいねえぞ。話が違うじゃねえか」
シャルロット「あの・・・パルスザン様を放してあげて下さい」
パルスザン「随分と焦りますね。メインディッシュはこれからだというのに」
大男に胸倉を掴まれて尚悠然と、高位悪魔の顔には気だるい薄笑いが浮かぶ。
メインディッシュとやらへの興味に、大男の憤怒の表情はやや収まる。
シャルロット「あのぅ、パルスザン様を・・・」
ゼオン「何が出るんだ?くだらねえものだったらブチ殺すぞ」
パルスザン「本命は、ルーゼル様の召喚に成功した魔術師達の軍勢、ですよ」
ゼオン「ほお?期待出来るんだろうな」

ルーゼル「いかにも」
一陣の風が辺りを駆ける。いつの間に彼等の横には、尖塔から魔王が降り立っていた。
魔王の姿を確認するが否や、パルスザンは強烈な魔力の奔流を迸らせ
ゼオンの腕を払いのける。
そのまま優雅に魔王に向かって一礼する為に。
セオンも強烈な魔力の奔流でダメージを受けた様子も無く、魔王の方に向き直る。

ルーゼル「いかにも、だが奴自身は俺がこの手で八つ裂きにするがな」
魔王はそれだけを言い捨て、魔王は一人市外の方へ向かってゆく。
ゼオン「そればっかりはしょうがねえ。…軍勢、と言ったな。他も喰い放題だろ?」
フーリン「まぁ、早い者勝ちだけどな」
ショハード「出遅れんなよ、フーリンちゃんよぉ」
フーリン「なんだと?」

魔王ルーゼルはそのまま開けた大地向かって歩む、瞳に映る景色は徐々に開けたものに変わる。
そのままもう少し歩いた頃、泡のようなものがルーゼルの横の虚空から突如湧き出る。
泡と共に現れた少女は、しなを作りながら魔王に深々と頭を垂れた。
だが魔王は虚空に湧き出る泡にも、現れた淫魔の少女にも、意に介した様子も無い。
キオスドール「彼の者の命を慰み者にした後、貴方様は如何なさるおつもりですの?」
ルーゼル「使い潰す。この地を、生き物を、生命の脈動を全て」
淫魔はその答えが意外だったのか、少し驚いたような表情と声色で更に尋ねる。
キオスドール「あら、折角のニンゲンも潰してしまうおつもりですの?」
あんっ、などと小さく嬌声をあげながら自らの肩を抱き、勿体無いと言わんばかりに。
キオスドール「老若男女全て?攫ってしまいたいような男の子も?可愛らしい乙女も?」
魔王の後を追ってきた高位悪魔達も、困ったように肩を竦める。
ムナード「私も、てっきり新たな畜舎を版図にお加えになるものかと」
ナーム「人畜計画も考え直さねばなりませんな」
だが魔王は彼女達に視線を向けさえせずに、断言した。
ルーゼル「剥ぎ取る、全て」
キオスドール「あっは、豪放な方。私、ゾクゾクしてきちゃいましたわ」
魔王はなお歩を進める、続々と周囲に集う悪魔達が陣となる。
魔王の軍勢は今や二つの王国に肉薄していた。



  • ルーゼルいいよね -- 名無しさん (2023-04-30 11:18:42)
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最終更新:2023年04月30日 11:18