『赤』という色が嫌いだ。
何故だか、とても禍々しく感じる。どうしてだろう。赤い色が視界の中に入ってくると、酷く、不安になる。何か良くないことが起こるんじゃないか、なんて。そんなこと、起こらないのに。赤い色が視界の中に入ってくると、酷く、心細くなる。何かに、誰かに縋り付かなきゃ自分が保てなくなる。
何故だか、とても禍々しく感じる。どうしてだろう。赤い色が視界の中に入ってくると、酷く、不安になる。何か良くないことが起こるんじゃないか、なんて。そんなこと、起こらないのに。赤い色が視界の中に入ってくると、酷く、心細くなる。何かに、誰かに縋り付かなきゃ自分が保てなくなる。
『……っ!?』
ある時、その赤は『火』の色だということに気付いた。
――嫌だ。
真っ赤に揺らぐ、火。
――来ないで。
あたしはバースディケーキのロウソクの炎を見て、脂汗を流した。
…火。
あか、い。
体が震える。息が荒くなる。
ゆうちゃんが作ってくれたケーキを、あたしは思わず払いのけた。他の料理も食器も巻き込んで、床に勢いよく払い落した。床一面にクリームが飛び散り、派手な音を立てて食器が割れ、炎は消えた。
火が消えた途端、あたしは急に冷静になる。一度モノクロになった景色に、急速に色彩が戻ってきた。“月夜 お誕生日おめでとう”と書かれたチョコのプレートも、半分に割れていた。肩で息をするあたしに駆け寄り、ゆうちゃんは言った。
『ごめんっ!』
『……ど…して?』
ゆうちゃんに抱きしめられ、あたしは少し、泣きそうになる。
『…謝るのは、あたし…でしょ?』
ケーキ、せっかく作ってくれたのに。どうしてゆうちゃんが謝るの?謝らなきゃいけないのは、あたしなのに。どうして、謝るの?
『ゆう、ちゃん?』
『…ごめん』
どうして、ゆうちゃんが泣いているの?
『ゆうちゃん、ごめんね。…ケーキ、台無しにしちゃった。部屋も、汚くなっちゃった。ごめんね、ぐちゃぐちゃだけど、ケーキ、ちゃんと食べるから。部屋も、あたしが片付けるから。だから、泣かないで?』
ふわふわとゆうちゃんの髪を撫で、あたしは言った。ゆうちゃんは無理やり笑って、良いよ、と言った。ケーキならまた作るから、と。
――嫌だ。
真っ赤に揺らぐ、火。
――来ないで。
あたしはバースディケーキのロウソクの炎を見て、脂汗を流した。
…火。
あか、い。
体が震える。息が荒くなる。
ゆうちゃんが作ってくれたケーキを、あたしは思わず払いのけた。他の料理も食器も巻き込んで、床に勢いよく払い落した。床一面にクリームが飛び散り、派手な音を立てて食器が割れ、炎は消えた。
火が消えた途端、あたしは急に冷静になる。一度モノクロになった景色に、急速に色彩が戻ってきた。“月夜 お誕生日おめでとう”と書かれたチョコのプレートも、半分に割れていた。肩で息をするあたしに駆け寄り、ゆうちゃんは言った。
『ごめんっ!』
『……ど…して?』
ゆうちゃんに抱きしめられ、あたしは少し、泣きそうになる。
『…謝るのは、あたし…でしょ?』
ケーキ、せっかく作ってくれたのに。どうしてゆうちゃんが謝るの?謝らなきゃいけないのは、あたしなのに。どうして、謝るの?
『ゆう、ちゃん?』
『…ごめん』
どうして、ゆうちゃんが泣いているの?
『ゆうちゃん、ごめんね。…ケーキ、台無しにしちゃった。部屋も、汚くなっちゃった。ごめんね、ぐちゃぐちゃだけど、ケーキ、ちゃんと食べるから。部屋も、あたしが片付けるから。だから、泣かないで?』
ふわふわとゆうちゃんの髪を撫で、あたしは言った。ゆうちゃんは無理やり笑って、良いよ、と言った。ケーキならまた作るから、と。
『赤』は、平気になった。
『火』は、まだ怖い。
『火』は、まだ怖い。
火を見ると、脳が焼けつくような感じがする。
ほんの小さな火でもそう。
退院してから今まで、あたしは台所には入ったことがない。ライターにもマッチにも、触れたことすらない。外でうっかり火を見てしまったときは、急いで家に帰り、服のままシャワーで冷たい水を被った。恐れを、早急に癒すために。
そして強くならなきゃと、あたしは自分に言い聞かせる。弱いままではいけないと。
ほんの小さな火でもそう。
退院してから今まで、あたしは台所には入ったことがない。ライターにもマッチにも、触れたことすらない。外でうっかり火を見てしまったときは、急いで家に帰り、服のままシャワーで冷たい水を被った。恐れを、早急に癒すために。
そして強くならなきゃと、あたしは自分に言い聞かせる。弱いままではいけないと。
――どうして、あたしはこんなにも火を恐れているのだろうか。