クリストファーは今までに無いほどに(彼はあまり感情を表に出さない)眉をひそめた。眉間に深々と刻まれたシワのために、普段はメイドたちにため息をつかれ、黄色い悲鳴を上げられる彼も今は鬼の貫禄である。彼の二つ名、鬼神にふさわしい姿であった。
「・・・不可能だ。こんなことは、絶対に不可能だッ!!!」
おもむろに叫んだかと思うと、彼は玉座の間へ向かって大股でずんずんと歩いていくクリストファーにメイドたちは別の意味でのため息をついていた。
3章 隣国の優王子、というかヘタレ
「国王ッ!お考え直しを!」
クリストファーはなりふり構うこともなく必死な目線で国王に訴えた。珍しく大声を張り上げている。
その様子に目を丸くした国王は驚きのためか、答えを声に出すのに数秒かかった。
その様子に目を丸くした国王は驚きのためか、答えを声に出すのに数秒かかった。
「・・・クリスよ、なんの話だ・・・?」
「なんの話だ、ではありませんッ!あの月影の麗国と呼ばれる、ルナシェイド王国の王子と我が国の王子王女とに親睦の場を設けるなど・・・!」
「よい話ではないか。ルナシェイドといえば、民も穏やかだし国王も温厚な方。さらに言えば、リオン王子はとても心優しくこの話はリオン王子の提案によるものと聞いたぞ。それを無碍に断るわけにはいかん。それとも、お前はルナシェイドに何か不穏な噂でも聞きつけたのか?」
「・・・そんなこと、決して。心優しいリオン王子、それが不安なのです!・・・彼が、エリウッド王子とエリザベス王女にそそのかされて悪巧みをするようになってはあわせる顔も・・・!」
「はっはっは!何かと思えば・・・まあ、あの愚息どもはあれでも場はわきまえるだろう。それにワシが言うのもどうかとは思うが、あれたちには人をひきつける何かがあるからな・・・」
「なんの話だ、ではありませんッ!あの月影の麗国と呼ばれる、ルナシェイド王国の王子と我が国の王子王女とに親睦の場を設けるなど・・・!」
「よい話ではないか。ルナシェイドといえば、民も穏やかだし国王も温厚な方。さらに言えば、リオン王子はとても心優しくこの話はリオン王子の提案によるものと聞いたぞ。それを無碍に断るわけにはいかん。それとも、お前はルナシェイドに何か不穏な噂でも聞きつけたのか?」
「・・・そんなこと、決して。心優しいリオン王子、それが不安なのです!・・・彼が、エリウッド王子とエリザベス王女にそそのかされて悪巧みをするようになってはあわせる顔も・・・!」
「はっはっは!何かと思えば・・・まあ、あの愚息どもはあれでも場はわきまえるだろう。それにワシが言うのもどうかとは思うが、あれたちには人をひきつける何かがあるからな・・・」
このやり取りがあったのは、もう3週間も前になる。
ルナシェイド王国、世界で最も繁栄し巨大な王国。そこに、エリウッドとエリザベスはいた。公務で訪れたので本来ならば王城にて静かにすごさねばならない。
しかし、それは彼らのこと。もちろん一つの場所にとどまることなどなかった。特にルナシェイドへ訪れたのがはじめてのエリザベスは表情を輝かせている。
ルナシェイド王国、世界で最も繁栄し巨大な王国。そこに、エリウッドとエリザベスはいた。公務で訪れたので本来ならば王城にて静かにすごさねばならない。
しかし、それは彼らのこと。もちろん一つの場所にとどまることなどなかった。特にルナシェイドへ訪れたのがはじめてのエリザベスは表情を輝かせている。
「うおーーーー!すごいっすー!銀の剣っ!これ使ったらクリスに勝てるかな?!」
「いやー、むりだと思うよ。オレたち二人でこれそろえてさ、寝込みを襲ったらもしかしたら勝てるかも?」
「つか、この透明な剣はなんだろ?ガラスかなー?」
「それは白水晶の剣だよ」
「いやー、むりだと思うよ。オレたち二人でこれそろえてさ、寝込みを襲ったらもしかしたら勝てるかも?」
「つか、この透明な剣はなんだろ?ガラスかなー?」
「それは白水晶の剣だよ」
城下町の武器屋の中であれこれ手にとりつつ鬼神と恐れられる従兄弟を打ち負かす算段をたてている彼らに穏やかな笑みを浮かべて声をかける青年が一人。二人と背丈はあまり変わらないが、声の落ち着いたトーンから明らかに彼が年上であろうことが推測できる。しかし、二人が彼の腕に目を落とすと剣を扱うには明らかに細すぎる腕だった。(仮にも)女性であるエリザベスよりも細いのではないか。
二人の目線に気づいたらしい青年は、苦笑すると「僕は魔術師なんだ」と言った。
二人の目線に気づいたらしい青年は、苦笑すると「僕は魔術師なんだ」と言った。
「魔術師も武器屋によることがあるのかい?」
「おいおいリザー、魔術書は本屋さんか武器屋にしかないんだぞ。とくに闇魔術は武器屋が扱うんだ」
「そう、そのとおりだよ。それに・・・本屋さんに行くとすぐに見つかってしまうからね」
「?」
「おいおいリザー、魔術書は本屋さんか武器屋にしかないんだぞ。とくに闇魔術は武器屋が扱うんだ」
「そう、そのとおりだよ。それに・・・本屋さんに行くとすぐに見つかってしまうからね」
「?」
青年は悪戯っぽく笑った。銀色の髪が揺れる。その合間から除いた耳はエルフの尖った耳ではなく、人間と同じだった。つまりは、ハーフエルフ。そう、クリストファーと同じハーフエルフの者である証である。
「ところで…君たちの後ろにいる黒髪の男性は君たちを連れ戻しに来たんじゃないのかな?」
「「!!!!!」」」
「き~さ~ま~ら~・・・なんど言ったらわかるッ!さっさと帰るぞッ!」
「ああうっ!乱暴!乱暴ですよー!クリスさんッ!いつもより3割り増しで痛い痛い!」
「摩擦!摩擦の力強いーーー!石畳がツラいぜー!」
「「!!!!!」」」
「き~さ~ま~ら~・・・なんど言ったらわかるッ!さっさと帰るぞッ!」
「ああうっ!乱暴!乱暴ですよー!クリスさんッ!いつもより3割り増しで痛い痛い!」
「摩擦!摩擦の力強いーーー!石畳がツラいぜー!」
絶叫とともに去っていった二人を、穏やかな笑みの青年はただ静かに見送っていた。
その夜、二人は初めてリオン王子と顔を合わせることになった。外交などエリウッドはおろか、エリザベスも初めてである。国内の社交パーティにはよく出席し、主に貴族の娘たちと延々と話し込んでいたものだったが、今回は異国の王子が相手だ。どう接していいのかも、正直わからないままでいた。
当然のようにドレスを拒んだエリザベスは普段どおりに髪をみつあみに結って、おろしている。服はどちらかというと騎士の着ているような礼服だった。エリウッドも当然彼女と同じような服を選び、緊張した面持ちで席についている。
二人のほかには今の所使用人しか見当たらない。クリストファーの気配を感じ無い事を確認すると、すぐにリオン王子と出会いがしらに笑わせるための一発ギャグの考案の作業に入った二人であったが、残念なことにその相談が終わることなくドアは開かれた。
そこに立っていたのは、昼間に声をかけてきた青年。昼間はどこからどうみても旅の魔術師程度にしか見えなかったが、今は煌びやかな礼服を纏っておりルナシェイドの王子としてのオーラを漂わせていた。
二人のほかには今の所使用人しか見当たらない。クリストファーの気配を感じ無い事を確認すると、すぐにリオン王子と出会いがしらに笑わせるための一発ギャグの考案の作業に入った二人であったが、残念なことにその相談が終わることなくドアは開かれた。
そこに立っていたのは、昼間に声をかけてきた青年。昼間はどこからどうみても旅の魔術師程度にしか見えなかったが、今は煌びやかな礼服を纏っておりルナシェイドの王子としてのオーラを漂わせていた。
「こんばんは、改めまして初めましてエリウッド王子、エリザベス王女。ご挨拶が遅れましたね・・・ルナシェイド王国の王子、リオンです」
「わー、あなたがリオン王子だったんですね!」
「びっくりしたよー!ていうか、緊張しちゃったよなあ・・・!」
「あはは・・・君たちが冒険好きな人だって言う噂は聞いていたから、きっと城下町にいると思って探していたんだ。僕も・・・うん、すこし本屋さんとか、見てみたかったしね。そうそう、君たちのお父上から伝言を預かっているんだ。1ヶ月間ルナシェイドに滞在しなさい、ってね」
「1ヶ月!やったぜ!!!遊び放題?!」
「きたね、バカンスだねー!!!」
「わー、あなたがリオン王子だったんですね!」
「びっくりしたよー!ていうか、緊張しちゃったよなあ・・・!」
「あはは・・・君たちが冒険好きな人だって言う噂は聞いていたから、きっと城下町にいると思って探していたんだ。僕も・・・うん、すこし本屋さんとか、見てみたかったしね。そうそう、君たちのお父上から伝言を預かっているんだ。1ヶ月間ルナシェイドに滞在しなさい、ってね」
「1ヶ月!やったぜ!!!遊び放題?!」
「きたね、バカンスだねー!!!」
喜ぶ二人に指を立てて、リオンは苦笑する。
「留学、だって。剣術と学問を修めよ、その成果はクリスからの報告で聞く、っていうお言葉もあったよ」
「学問・・・うえぇ~・・・こっちに着てまでクリスの地獄トレーニング?」
「学問・・・うえぇ~・・・こっちに着てまでクリスの地獄トレーニング?」
げんなりとした表情で頭を抱えたエリザベスに、リオンは控えめな声で彼が学問を教えることを伝えると途端にエリザベスの表情は明るくなった。エリウッドも心底嬉しそうに笑うと、リオンに教えてもらえるならだいじょうぶかな、と言う。
「僕は、勉強しかとりえが無いから・・・そのかわりさ、僕に剣術を教えてくれないかな?」
「もちろんだよー!まかせてッ!ボクは騎士団員に負けたことないからね!」
「オレもー、最近は負けなしっす!リザとだけは決着つかないけどさっ」
「あはは・・・じゃあ、これから・・・よろしくね?」
「もちろんだよー!まかせてッ!ボクは騎士団員に負けたことないからね!」
「オレもー、最近は負けなしっす!リザとだけは決着つかないけどさっ」
「あはは・・・じゃあ、これから・・・よろしくね?」
紋章の刻まれた双子の瞳には、ただ穏やかなリオンの笑顔が映っていた。