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羽根あり道化師
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羽根あり道化師

第一章 堕とされた天使

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vice2rain

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特別頭がいいわけでもなく、見た目がかっこいいわけでもなく(だからといってかっこ悪くもない。至って普通の、現代的な学生だと思っている)、死神のノートを拾ったわけでもなく、ましてや海賊王になれそうもない大学生、秋山 刃は日が暮れた住宅街へと続く道をボーっとしながら歩いていた。

季節は春。今年、大学2年生になったばかりである。そのためだ、サークル、剣道部の新入生歓迎会でここ数日飲み会が続いた。それに、彼女が居ない身としては合コンに参加しない手はない。二日酔いで疲れている体にムチ打って無理やり参加したのも悪かった。なお悪いことに、結構お調子者だからか、テンションをムリにあげてしまう。あぁ、コレがきっと「いい人」止まりの理由だろうな、そんなことは彼は重々承知していた。こういう性分だ、仕方ない。

とにかく、そんなこんなで頭がボーっとした状態でよろよろとしながら家へ向かっていたのだ。自分以外に道を歩いている人はぜんぜん居ない。ほとんどの人はもう眠っている時間だろうから当然だ。一人暮らしのアパートまではまだ距離もあった。

その時だ。向こう側からぼろぼろの服を着たガリガリの男がよろけながら歩いてきた。ホームレスか、と一瞬思ったがどうやらそれも違う。なにより雰囲気が異質だ。というより人の雰囲気がしない。人よりもなにか、もっと怖いもの…

「!?」

男は突然殴りかかってきた。少し反応が遅れてしまったがなんとか身を翻してそのこぶしを避けた。だが、酒のせいで視界も狭いし判断力もかなり鈍ってしまっている。刃は走って逃げようとした。だが、相手の男もすごいスピードで追いかけてくる。足音が妙だった。ガシャガシャという音が聞こえる。一瞬振り返ると、男の顔が見えたのだがそれは腐った肉がわずかに張り付いた、骸骨だった。

「オバケエェェェェェェェェェ!?なんだよコレェェェ!俺心霊体験なんて初だっつーの!神様アァァァァ!俺一応クリスチャンよ?!助けてくれてもいいんでないの!?」

刃がわめいた瞬間後ろの骸骨が叫び声を上げて燃え上がった。暫くすると、灰となって骸骨は消えていった。
そして、骸骨が消えた所に今度は別の男が立っていた。男というには若い、だが少年というには大人な男。黒い瞳、黒い髪、唇は紫色で顔色も青白い。全体的に露出がぜんぜんない、ローブのような黒い服を着ている。極めつけに、背には漆黒の羽。
ここまで真っ黒だと、刃もある一つの決断に行き着くほかなかった。

「・・・も、もしかして・・・あの有名な・・・」

男はほくそ笑んだ。

「そうだ。」
「マジィィィ!?これが真っ黒黒助ぇぇぇ!?」
「アッハッハ、お前ブチのめすよ。違うわ。天使じゃボケ。」
「天使・・・っ?だって羽が黒い!」
「そーいう奴もいる。善良な天使ってのは羽が黒いもんだ。俺の名はアポリオン。リオンとでも読んでくれ。」

刃はアポリオンという名前を聞いたことがあった。聖書に出ていた名だったはず。いったい、なんの天使だっただろうかと考えていて思い出したのは、ヨハネの黙示録。たしか、アポリオン…注釈に乗っていたあの名は…

「アポリオンってサタンの別名じゃねぇかよーーーーーーー!天使名乗るな!」
「よく勉強してんな、カミサマも喜んでるだろうな。そうだ俺がサタンだ。だが別に悪いことをしているわけじゃない。」
「は・・・?だって、人類を5ヶ月間絶望の淵に立たせたって・・・」
「あぁ、そりゃウソだ。せいぜい俺にできる悪いことなんて、そうだな・・・他人の家のインターホン鳴らして猛ダッシュとか。」
「ピンポンダッシュかよ!器小さいなお前はアァァ!ていうかお前目立つ!こんなトコにいたらマズいよ、とりあえず俺んち来いよ。どうせ一人暮らしだから。」
「おいおいふざけんなよ、やだよ、男はみんな獣だぜ。」
「お前は年頃の娘か!っていうかそれが天使のいう言葉かアァァァ!お前も男だろうが!」
「天使に性別はありまっせーん。まぁ、お前の言うことにも一理あるな、案内してくれよ。」

リオンをつれて、刃はアパートへ、今度はヘンなお化けに襲われることもなく無事に辿り着いた。あまり広くはない一室。几帳面な性格のおかげで、一人暮らしの男の部屋とは思えないほどきれいに片付いていた。水をコップに注ぎながら刃はリオンに問いかける。

「で、なんでそのサタンが人間界に来たんだよ。まさか俺にとりついて人間殺そうなんて考えてんじゃないだろうな。」
「まさか。そんなわけないだろ。いいか、神の国が近づいた。今世界は―最後の審判が行われ始めている。」
「最後の審判?それでさっきのお化け・・・?つまり、あれは死んだ人ってことかよ。」
「そうだ。テレビつけてみろ。多分そろそろ、報道が―」

リオンの言ったとおりに刃はテレビをつけた。眉間にしわを寄せたリポーターがマイクを片手に記事を読み上げる。

「世界各地で不可解な事件が起こっています。至るところで白骨化死体が動き出し、人々を襲う怪奇現象、原因については調査中で、FBIの超能力研究者たちも首をかしげる程の規模です。原因はまだわかっていません。あっ、今情報がはいりました!北海道で82歳の女性が白骨化死体に襲われ死亡です!この女性は墓地の近くにいたということです!また、この白骨化死体はキリスト教会を避けるように活動をしている模様です!みなさん、家から決して出ないようにしてください!そして、墓地には向かわない!キリスト教会が近くにある方はそちらに避難してください!えー、もう一度繰り返し…」

「…世界各地、か…。ちょっとまってくれ、最後の審判って神様の前にみんな並ばされて、っていうのじゃなかったのか?」
「そのことだけどな…全員が生き返らないとそれはできない。元々の神は、生き返った人間に魂が戻ると信じていたんだが、そうならなかったから一度千年王国をあきらめたんだ。だが、現在の神―2000年前に就任した神が―強行してな。俺は何度も助言したんだ、やめたほうがいいって。そうしたら俺は封印された。俺の他に、3人封印された。俺だけなんとか封印を破って飛び出してきたわけさ。このままじゃ千年王国なんてムリだからな。地球が滅んでしまう。そうだ…もうひとつ誤解をといておくが、サタンっていうのは悪魔じゃない。天使だ。ミカエルと肩を並べるくらいのな。本来の意味は、知恵ある者、だったんだ。」
「知恵ある者…?」
「俺を知恵ある者として創ったのは先代の神さ。だけどな、今の神はなんかおかしい…。他に封印された天使は、善の天使、勇気の天使、力の天使。どれも要になるようなものばかりだぞ。どうもにおうんでね、俺は神にケンカを売るつもりなんだ。それで、心力の強そうな奴を探してたんだけど」
「心力?」
「そのままだ、心の強さ。お前、なかなあ太い神経してんじゃねーか。俺サマの配下に加えてやるよ。」
「いや、ちょいまち。話が見えない。」
「だぁーかぁーらぁー、ゾンビをやっつけながら神をおびき出してやっつける仲間がほしーの。俺は天使だから神に傷を負わせられねーの。人間がいねーと駄目なわけ。アンダースターン?」
「アンダースターンしたけど俺やだよ。」
「やだよっつったってねぇ…一週間もすりゃ武器を持って歩く時代が訪れるぜ、この日本でも。」

リオンは不適に笑った。彼は戦うことを少し楽しんでいるような雰囲気を帯びていた。
がっくりとうなだれる刃。しかし、そんな時間は彼らには与えられなかった。
外から大きな声が聞こえてきたのだ。

『人間のみなさん、神の国は近づきました。死者は蘇り、審判のときを待つことになります。信仰のないものは襲われることもありましょう。しかし信じて待ちなさい。神の教えに帰依しなさい。そうすれば、神は、あなたがたを選ばれた民として迎え入れるでしょう…』

「…くそ、やられたな……」

リオンは苦虫を噛み潰したような表情をした。
話が見えないままの刃は口をひらこうとしたが、それよりも早くリオンは口早に説明をしだした。

「俺の計画では、人間たちが神を信仰しなくなることによって力を減らすつもりだった。神の力は人間の信仰心によるからな…。だが、こうなった以上恐れた人間たちは神を信仰するしかなくなる。そうすれば、神の力はますます増える。」
「おい、リオン。そもそもなんで神は千年王国を―?」
「千年王国が完成すると、その後千年間は神のいらないと判断した者を黄泉の国に閉じ込めておける。…けど……俺にはどうも…リスクが大きすぎるとしか…まぁそれだけ今の神はお馬鹿さんなんだけど…。どうだ刃。協力する気になった??」
「まぁ確かに、19年間信じてたものを裏切られて燃えてきたかもしんねーよ。しかたねーな、俺でよければつきあってやるよ。どうすればいいのかはリオンが教えてくれんだろ?」
「やったーーーーー!助かるよ、リオン!絶対絶対神倒そう!地球守ろう!俺ァそれだけが気がかりで気がかりで…」

黒い翼を持って、真っ黒な服装をしているが、やはりリオンは天使だった。天使らしい純粋な笑みも、心も持っている。刃は突然笑えてきて、二日酔いなんかどうでもよくなった。
危険なことにかわりはない。だけど、なんとかなりそうだった。
この世―天国も巻き込んでもリオンより頭の良い者はいないのだ。そんな彼がいるのだ、なんとかなるだろう。

しかし彼は知らなかった。何事もノリで決断してはならないということを―



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