アットウィキロゴ
羽根あり道化師
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

羽根あり道化師

戻って、きっと ~叶わぬ願い~

最終更新:

vice2rain

- view
メンバー限定 登録/ログイン
広大な草原が広がるミルディアンの西のはずれ。
険しい山脈が続き、町はもう存在しないこの場所は綺麗ではあるものの訪れるものはほとんどなかった。
隣国アレツォーネからも山脈を越えねば到達できない場所であるので、領土に関して口うるさいアレツォーネ王からしても用のない場所とみなされているらしい。

そんな草原に流れる小川のほとりに、小さな家が一軒だけぽつんと立っている。まるで町から取り残されたかのような家の周りには少しの家畜が居て、菜園があるだけである。

と、屈強そうな青年が家から出てきた。そして慣れた手つきで家畜の世話を始める。彼が世話を始めてまもなく、草原を涼しげな風が駆け抜けたとき、男の後ろで声が聞こえた。

「仕事中すまない。あなたはこの家の方か?」

大人びた口調ではるが、声は若い。彼が声の主を探して視線を落とすと黒い修道服を纏った少年が目に入った。とがった耳を見てエルフの血を引くことは一目瞭然ではあるが、それを考慮しても落ち着きがありすぎる。青年は訝しげな表情になって答えた。

「いや、俺はただの庭師だよ。キミは?そんな修道服は見たことがないんだけれどね。」
「宣教ではない。あなたの主、アリス・バージェス殿を訪ねてここまできたんだ。」
「珍しいことだな…?アリスはかなりお年を召されたエルフ。キミのように若い知り合いがいるとは思えないが。」

まだ怪しんでいる様子の青年の対応に、ヴァイスはため息をついた。

「…では彼女に、『あなたの友、ヴァイスがきた』と伝えてはくれまいか。それで彼女が僕を知らない…いや、覚えていないようならば僕は黙ってお暇しよう。」
「わかった、少し待っていてくれ。」

男はドアの奥へ消えていった。ヴァイスは考える。彼はきっと彼女のボディガードもかねているに違いない。彼女は聡明な賢者としても有名だったし、かつてはその美貌で名を世界にとどろかせてもいた。
と、男が再びドアから現れ、ヴァイスに告げる。

「アリス様はお会いしたい、と。」
「そうか…ありがとう。」

青年に通されてヴァイスは家の中へ入っていく。網掛けの靴下と毛糸がかごに入れられ、ロッキングチェアに寄り添っている。テーブルの上にはジャムがたくさん並んでいて、どこを見ても花が飾られている。その様子にヴァイスはかすかに笑った。

「変わらないな…昔から花を愛していた。」

男は彼の言葉に首をかしげたが、何も言わずに一番奥の扉をノックした。返事が返ってくると扉を開き、キッチンへと向かう―茶の用意でもしてくれるのだろう。
部屋は広くて日当たりが良かった。風通しも良く、小川のせせらぎも聞こえてくる。部屋の雰囲気は暖かなものだったが、その片隅にはメタリックな機械類が放置されていた。誇りこそかぶってはいないが、永い間動かしていないことが見て取れた。
機械類の山の反対側には白いベッドがあり、その上には小柄な老婆が座っていた。上品な雰囲気、穏やかな目でヴァイスを見ると、やわらかに笑った。

さきに言葉を話したのはヴァイスだった。

「久しぶり…というにはあまりにも時を隔てすぎてはいるが…変わらないな、花の好きな君らしい。」
「ありがとう。ふふ、お年寄りのほめ方をわかっているのね…」
「い、いや…そんなつもりじゃないんだ。すまない、その…あまりにも変わらなかったから…」
「いやね、今のは私の意地悪よ。本気にしないで…。あなたも変わらない…って言ったら怒るかしら。」
「フ、僕は変われないのだがな…いや、内面はかなり変わったつもりだ。だが…君の前では昔に戻るらしい。」

アリスは昔を懐かしむように目を細める。ドアが開く音が後ろで聞こえると、男は紅茶を差し出して去った。残した庭仕事を片付けるのだろう。

「懐かしいわ、魔法学校の友達…。メイプルさんにはいつもお世話になってばかりだったし、あなたにはいつも魔法の指導をしてもらったわ。」
「メイプルのあれはおせっかいといっても過言ではないがな。」
「ふふ、そんなことないわ。…そうだ、あれからもう800年くらい経つけれど、あなた計画は実行するつもりなの?」

ヴァイスの表情は突如厳しくなった。

「…これから。ミルディアンの皇子たちが旅立つらしいのでな、それに同行しようかと思っている。目的地が一致するしな。まぁとにかく…最期になるだろうからここへきた。」
「最期なんていわないで……辛いわ。」
「すまないな。…ところで君はなぜこんなところへ?町に住んでいれば何不自由なく、家庭も築くことができたはず…」

ヴァイスの言葉をさえぎってアリスは首を横にフッタ。瞳には少し憂いの色がちらついている。

「それは違うわ。どんな場所でも…あまり幸せにはなれなかったはずなのよ…。だから一人になるの…」
「フ、絶世の美女は違うな。」

ヴァイスは茶化すように笑った。アリスもつられて、かすかに口元をほころばせてくすりと笑う。

「そういう意味ではないとわかっているのでしょう。」
「…さぁな。さて…僕はそろそろ失礼しよう。」

椅子から立ち上がってドアノブに手をかけたヴァイスをアリスは呼び止める。振り返った彼にアリスは声をかけた。

「さっきの」
「ん?」
「さっき、あなた変わったといったわ。その変わったあなたを見せてほしいの。」
「…」
「ヴァイス。」

期待のこもった優しげな声にヴァイスは戸惑った様子だったが、何も言わずに背を向けると家から出て行ってしまった。アリスは悲しそうにうつむいたが、突如家の外が光り輝きだしたことに気づき、窓の外へ目を向けた。

ただの草原だった野原に花が咲き乱れている。丁度窓からみえる景色の真ん中にヴァイスが立っていてかつてからは考えられないような満面の笑みを浮かべている。そして、大きく息を吸ったかと思うと、叫んだ。

「すげぇーだろッ!俺からのプレゼントだ!!せいぜい長生きしてくれよッ!ばーさん!!!」
「もうっ、失礼ね…!ありがた迷惑よー!元に戻しに、またここへ来なさいね!」

アリスがせいいっぱいの声で叫び返すと、ヴァイスは控えめな笑みを浮かべて、消えた。きっとミルディアンへ向かったのだろう。

彼が居なくなった後、アリスはベッドに再び座りなおす。しばらくぼーっとしていたようだが、庭師が外から帰ってくると彼女は立ち上がってリビングへ行き、ロッキングチェアに座って編み物の続きを始めた。黙ったままの彼女に耐えかねたように男は口をひらく。

「さっきの少年、一体何者なんですか?」
「…そう、ねぇ…」

アリスは少し考えて言葉を続けた。

「まるで表情のない、冷たいお人形さんみたいな人だったわ。それから…」
「?」
「…やっぱり、教えないわ。」

日差しは草原をかける風とともに優しく彼女を包み込んでいた。



こんな始まり方もいーかなと思ってたけどボツにした「おバカと~」の始まり。おっと、最初っからネタバレという暴挙でもありましたネvv
アリスおばーちゃんの気持ちを大切に書きたくて蔵出ししました。

記事メニュー
最近更新されたスレッド
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー