アットウィキロゴ
VIPロックマンまとめ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

VIPロックマンまとめ

the day

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
624 :the day:2006/11/11(土) 18:07:44.56 ID:8n1TFFiG0
The day 



始まり。

赤い。
半壊された硬質の扉から、真紅の長い尻尾が飛び出す。
べちゃり、と床に叩きつけられた――機械が垣間見える腕。

四方を、鋼鉄で囲まれた広い空間。
中央に巨大な柱が屹立し、その周りを青白いカプセルが設置されていた。

その空間のビスを埋めた鉄の床は、真っ赤に染まっている。

「お前は……いったい……」
荒い息をつく生存者。
金色の長髪を持った女が、オイルまみれの血に膝を突き、緑に輝く剣を持っていた。

「お前は、いったい何なんだ……!」
剣と同じ色をした、女のボディが未曾有の恐怖に大きく揺れる。

彼女の周りを埋め尽くす死体。
暴風に巻き込まれたかのような傷口を、天井の薄青に輝く照明の下に晒し、全てが絶命していた。


625 :the day:2006/11/11(土) 18:09:51.00 ID:8n1TFFiG0

彼ら、彼女らの命の証を踏みしめるのは、赤い装甲に覆われた脚。
水音をたて、人影が緩慢に歩む。
いたぶるかのような歩行が、ゆったりと行われた。

幽鬼の如きレプリロイド――赤いメットを被った少女が迫る。
幼さを感じさせる顔と身体を、オイルで真っ赤に染めあげていた。

元のボディカラーの赤に、命の紅を重ねる。
少女の右腕が上がり、瞬時にして拳が砲台となった。

「お前は、何なんだ!?」
剣を両手に持ちかえて、女の放った怒号が、真紅の少女に突き刺さる。

それに応え、少女の口の両端が――にぃ、と弧を描いた。



やっと暖かさを取り戻した、春の始め。
桃色の花弁を大量に身に着けた木々が、並木道を彩る。
時折、ピンクの花びらを落とし、巨大な建造物へと続く通路を雪のように舞った。

花びらの絨毯を蹴散らしながら、革靴が突き進む。
靴の持ち主は、スーツの上に白衣を羽織った老人。


627 :the day:2006/11/11(土) 18:11:56.87 ID:8n1TFFiG0

胸の衣嚢に宛がわれた名札には、ケインと書かれていた。

厳しい顔で、桜の匂いのする生暖かい風を割り、遠くにそびえる正五角形状の建物に向かう。
ケインが時計を見下ろすと、短針は八を指していた。

「白衣なんて珍しいな」
からかいを帯びた声が、後ろから流れ出た。
回された灰色の瞳が捉えたのは、背の低い白い影。

「お久さっ! 今日は仕事かな?」
手をあげ挨拶する少女が、人の良い笑みを浮かべ、ケインに向かってくる。

ケインと同じく白衣を、黄色のカッターシャツの上に。
寒くないのか、膝までないジーンズを履きこなしていた。

「相変わらずだな。――ふざけたボディだ」
ケインは空色をした頭髪がのる顔を一瞥すると、彼女と最後に会った時よりも、背丈が小さくなっている事に気づく。

奇異な視線を受け、少女は髪が薄くかかる両肩を竦める。
白の装束に引っ付けられた金色のプレートが、彼女の名をドップラーと周囲に知らしめた。

「ちょっと年齢を低くした」
とんとん、と彼女は赤い靴をステップさせて、桃色の床が破片を散らす。


629 :the day:2006/11/11(土) 18:14:10.54 ID:8n1TFFiG0
「保たれる若さって良いよね。レプリロイドの強みだよ」
自分の身体を見下ろし、ドップラーはにやりとしてみせた。

聞き流していたのか、ケインは無言を貫いて踵を返すと、自分の行き先へと急ぐ。
慌てて、さっさと進む男の背中を追うドップラー。


「全滅……だって?」
背の高い老体の歩行に合わせながら、少女が横を向き、暖めていた疑問で口を開く。
隣に並ぶ少女の幼い顔が、苦い思いを浮かべた。

梢を揺らす桜。
花びらが二人の頭にかかり、ケインは払い、ドップラーは摘まんで投げ捨てた。

「私のむ……」
ケインは言葉を止め、一拍空けて、再び口を開く。
「シグマ以外がな」
ごまかしのためか、垂れ下がる紺色のネクタイの位置を直しつつ、事の絶望的な被害を少女に教えた。

「そりゃ、幸い…………じゃないよね。青の子は?」
首を傾げて、ドップラーは最近の興味の安否を尋ねる。
二人の脳裏に、少女のような顔をした青いレプリロイドが浮かぶ。

「着任してなかった」
温度の感じられない、端的な答え。
そっ、と呟き、ドップラーの顔は理解を示した。


630 :the day:2006/11/11(土) 18:15:51.80 ID:8n1TFFiG0

「精鋭部隊が、全滅、ね。相手は一人だったんだろ?」
「ありえない」
即答の、短い否定の言葉を吐くケインに、力は感じられない。
疲れた顔を天へと向け、視界いっぱいに春の青い空を入れた。

「そだね。でも、実際にそんなレプリロイドが居る訳だ」
少女は同意し、しかし、自分でそれを否定する。
不承不承といった感じで、首肯するケイン。

「とにかく、そいつを検査するらしいが……私の予測を聞きたいか?」
確定されていない予想を少女に。
疲労が溢れる顔をドップラーへ向け、ケインは首を傾げた。

「聞きたいね」
期待を宿す瞳が、ケインの腰元から返る。

「――おそらく、彼女は遺産だ」
遺産という単語が、老人から吐き出される。
二人の科学者が沈黙する。

次第に、目的地が外観を鮮明に現す。
天まで届けと、白い巨大な壁が伸び、ロビーへのこれまた大きな玄関が威容を誇っていた。

その前に、柵で線を引かれたゲートが訪問者を待ち構える。
厳重な警備。そして、それに相応しい重要性を秘めた建造物だと、誰が見ても解る。


632 :the day:2006/11/11(土) 18:20:02.50 ID:8n1TFFiG0

「へぇ、女の子なんだ」
しばらくして、言葉の端から、ドップラーが予測した。
そして、柔らかそうな頬に手をあて、その話の彼女に興味を示す。

「人型の遺産って、珍しいな」
ドップラーの記憶には、これまで見てきた遺産の中に、人型を模した物など該当しない。
ケインも同じだった。

「あぁ、だから、これから検査に立ち合う」
とたん――
「今からなんだ!?」
ドップラーが大声をあげ、喜びの悲鳴をあげる。
失言に近い己の発言に、失意の呻き。ケインは、自分の身体を少女から退く。

「見たい!!」
目を、未だ見ぬ科学の結晶が見れるという興奮に輝かせ、万歳するかのように両腕を振り上げた。

「ハンター職員じゃない者を、入れる訳がないだろう。自分の研究室に帰れ」
辛辣に言うが、それで引き下がるとは、ケインも長い付き合いから思っていない。
案の定――ドップラーは、老体の脚を細い腕で抱きしめてきた。

歩行を邪魔する子供じみた行為に、ケインは頭痛を覚える。

「むぅ、昔の恋人につれないじゃないか!」
頭の痛みが酷くなった。


633 :the day:2006/11/11(土) 18:22:30.01 ID:8n1TFFiG0

「もういいもん!! ハッキングしてやる!!」
白衣が、ぎゃあぎゃあと足下で喚く。
諦めの悪い少女に、ケインはうんざりし、今日ここで出会った事を非常に後悔した。

ドップラーの気迫と脅しに負けたケインは、
「…………止めろ。解ったよ……本部に掛け合おう」
そう言って、少女にガッツポーズをさせてやった。



「はー、あの子か……可愛い顔だねぇ。遺産っていうから、もっと酷いものを想像してたよ」
研究の意も兼ね備える検査室は、二段構造をしている。

斜めに立て掛けられたベッドのある部屋の上に、キャットウォークのような通路が設けられていた。
動き回る研究員達の頭上を、宙に浮く形で通路が走る。

ケインとドップラーは、通路に張られたガラス越しから、事の成り行きを見下ろしていた。
手すりを掴み、冷めた目をするケイン。
その横で、どこから取り出したのか、ドップラーはウサギの顔を座台にした椅子に座る。

背広の胸から煙草を取り出し、ケインが目線だけで吸ってもいいかと聞いた。
ドップラーが許さず、首を振って、老人の喫煙を禁止する。
指に挟まれた細く白い筒は、大人しくケインの懐中へと戻った。


635 :the day:2006/11/11(土) 18:24:59.18 ID:8n1TFFiG0

二人と同じ白衣を着た研究員。
彼等が集まるベッド――眠りにつく少女が身体を横にしていた。
着衣は無く、一糸も纏わない裸身が、遠慮なく外気に晒されている。

少女の物か、血を思わす赤いボディが、寝台に隣接する机に置かれていた。
研究員、そしてケインとドップラーの大量の視線が、少女に注がれる。

物語に出てくるかのような、整えられた目鼻立ち。
腰を越える金色の長髪を持つ頭に、猫の耳を生やすのが異質だった。

しかし、それ以外は何処にでも居る、女になる手前――青春を謳歌する少女のそれだ。

「あの猫耳は、何か意味があるのかな」
ドップラーが笑う。
「静かにしろ」
色の無い目線と言葉で、ケインが少女を嗜めた。

「むぅ」
小鼻と頬を膨らませる少女など露知らず、研究員達は作業を続ける。
少女の周りに、様々な種類の機器を運び、計器や数値の調整とチェックを行った。

コードを乱立させる四角い機械が、端にある電極を緑に点灯する。
その横の画面を付ける黒い箱を、白衣のレプリロイドが引きずってベッドに密着させた。


637 :the day:2006/11/11(土) 18:28:37.28 ID:8n1TFFiG0

二人の研究員が、先端に楕円形の金属を持つコードを握り、少女に近づく。
数十人の白衣の中に一人だけ、紺の外套を着たフルフェイスの人影が、黒い手袋に包まれた片手をあげる。

自動二輪車用の如きメットの人物が、何かを言ったのか、研究員達は揃って頷いた。
少女へと、検査、そして研究を完遂させる為の紐が迫る。

金でメッキされた先端が、少女の薄い乳房に宛がわれ、金属に穿たれた穴から零れる液体で接着された。
同じく、腹部に貼り付けられ、そして女性器にまで挿しこまれるコード。
レプリロイド達は、無表情で仕事を続けていった。

絶縁被覆を施した電線が、少女の身体を埋め尽くす。

そして研究員の一人が押す、機器のスイッチによって、先端が唸りをあげた。
青白い放電の津波が、部屋全体に大きく広がる。

「あ……が……ぐあああああああああああ!?」
突然の痛みと快感――少女が悲鳴をあげた。
股間を突き刺すのが震動し、胸のコードが熱を持ち、残りが火花を散らす。

細い首を大きく反らす少女が涎を垂らし、絶叫する。
全身をよじって、痛みを誰かに訴えるのだが、この部屋に救う者などいない。

「……くうっ!! あぐ!? ……ああっ……うああああ!!」
痛みとは別の感覚への反応として、少女の恥毛の生えない股間から、粘着性のある液体を噴出する。
与えられる絶頂の証が、リノウムの床を汚した。


645 :the day:2006/11/11(土) 18:41:34.05 ID:8n1TFFiG0

尚も放電は続き、検査を行う先端部分とくっ付く白い肌が、赤く斑になった。

「えぐいなぁ」
暴君という名の検査に、ドップラーが不快感を隠さず、幼い顔に皺を寄せた。

「目隠しなら、あるぞ」
ケインが、仮眠用のアイマスクを横に投げた。
黒い布が少女の頭へと着地する。

「……意地悪ぅ」
頬を大きくしたレプリロイドの科学者が、すぐさま投げ返した。
老人の胸へと当たり、そのまま左右に揺れながら、廊下へと落ちる。

「あぐ……ぐうぅ!! あがぁ!!」
検査は一時間以上かけられ、少女にこの世に存在しうる様々な感覚を叩き込んだ。
真っ赤になる顔。
痙攣する身体がベッドを軋ませる。

いつまで続くのか。
少女は激痛に震え、何度も何度も達し、見開かれた目から涙を流し、秘唇から潮を吹いた。
茶色のベッドの革張りが、愛液で水浸しになり、少女の体温の残滓が湯気をたたせる。

「何も得られなさそうだな」
「そだね。ふん……また〝ワイリー〟か」
結果自体には期待していなかったのか、ドップラーは欠伸をして、両腕を伸ばした。


649 :the day:2006/11/11(土) 18:44:53.74 ID:8n1TFFiG0

少女の機械の瞳には、他からは見えぬ情報が展開している。
赤き少女の身体を中心にして、文字列が現れ、解析された内容を主人であるドップラーに伝えた。

悲鳴が途絶える。やっと検査が終了したのか、機器は動作を止め、広い空間は静寂を取り戻した。

直ぐに機器が片付けられる。
白衣等からは、何の感情も伺いしうる事は出来ない。

「先に失礼する。シグマの見舞いに行くんだ」
黙々と解散の準備をする研究員達を一瞥していたケインが、手すりから離れる。

「あぁ、行っておいで」
少女は手を振り、了承した。

ねぇ、とドップラーが笑いかけ、昔からの友人に質問する。
「遺産を作る奴……どんな科学者だったんだろうね。君みたいな、偏屈?」

ケインの振り向きざまの答えは、
「とりあえず、虐殺機械を作る――異端者だったろうな」
少女の予想通り、そしていつも通り、暖かさは無かった。


652 :the day:2006/11/11(土) 18:48:16.54 ID:8n1TFFiG0

ケインの腕に花束など無い。

「経過はどうだ、シグマ」
ベッドに横たわる女性にかける言葉も、簡素なものだった。
だが灰色の双眸には、確かに、包帯を巻く女への気遣いの意が宿っていた。

「た、隊長……!」
黒い背広の後方から、青いボディが飛び出す。
目尻に涙を溜めた少年が、驚くシグマと呼ばれたレプリロイドの胸へと飛び込んだ。

「わざわざ来てくれたんですか。――悪くないですよ」
金色の髪が揺れ、女がはにかんだ様に笑う。
ケインの労いよりも、涙で濡れた顔を押し付ける少年に対して、頬を赤く染めた。

困ったような、そして嬉しそうな表情を浮かべるシグマ。彼女に頭を撫でられる少年。
微笑ましい一つの光景。

「特に、致命的な問題は見つかりませんでした」
そんな二人を見て、ほんの少しだけ口角を揺るめるケインに、首に聴診器を下げたレプリロイドが横に立つ。

「負傷した右肩部と、その他の裂傷の治療で事足ります」
無駄の無い報告をするバイザーメットの白衣に、彼の上司が満足そうに頷く。


654 :the day:2006/11/11(土) 18:51:08.20 ID:8n1TFFiG0

「ありがとう。下がっていい」
頭を下げ、医療師のレプリロイドが部屋を後にした。

「うぅー……隊長ぉ。ほんとに、ほんとに大丈夫ですか?」
「まったくもう……君は。私は大丈夫だから、安心しなさい」

今日の世界は、決して平和ではない。
戦争、災害、飢餓、疫病。
しかし、この病室だけは、そんなものから切り離され――平和であった。


赤い。
赤い。
赤い。
赤い。
全てが赤い。
全ての光景が赤い。
振り向いた、その先も――赤かった。

「――っあ!?」
真っ白な天井が現れる。
ベッドから跳ね起き、荒い息をつくシグマの顔は真っ青になっていた。


658 :the day:2006/11/11(土) 18:55:01.96 ID:8n1TFFiG0

「あれは……いったい……」
強く抱きしめてた事から、グシャグシャになったシーツを蹴飛ばし、金の髪を荒々しく振るう。

「…………わふぅん。いかがなさいました、シグマ様」
女の足元――寝台の下から、犬を模したメットを被った少女が首を出す。
眠たげな目を擦りながら、少女は主人の異常に気付き、シグマに自分の鼻を寄せた。

「ベル……お前も、来てくれたのか……」
「あたり前です。シグマ様」
少女の頭を撫で、女は笑みを取り戻す。――しかし、まだどこか翳りがあるものだった。



「あれ? ヴァヴァだ……」
紫の装甲を身に着けた少女が、中庭のベンチに座る少年の視界を横切る。

遠くで、少年の知らぬ男と歩く少女――ヴァヴァ。
ヴァヴァは、仕立ての良い背広を着た、肥満じみた壮年の男と並んで廊下を歩いていた。

どんな関係なのか、と興味を持ったが、少年は直ぐに手元の雑誌に目を落とした。
様々な花が紙面に咲く。気持ちの良い朝日の下、ガーデンニングの本を読みふけった。

「エックス、君に頼みがあるんだ」
突然かかった低い声に、少年はページをめくる手を止める。


812 :the day:2006/11/12(日) 00:49:01.28 ID:43vmG7uE0
「わっ……ケイン博士」
驚き、振り向くと、喪服の似合う老人が横に立っていた。

「あ、はい。何でしょう?」
「春過ぎとは急だが、新しいレプリロイドが、君の部隊に配属される事になった」
本を閉じて、首を傾げる少年に、ケインは説明する。
新しいレプリロイド――検査を受けた、紅き少女を思い起こしながら、老体は続けた。

「へぇ……。それがどうかしたんですか?」
何故、自分に言うのか。そんな疑問を抱き、少年は、朝日に照る顔を怪訝なものにした。

老人は、一瞬言い淀み、
「――仲良くしてやってくれ」
「は?」
少年の思考を、不可解というものに囚われさせた。

「以上だ」
言うだけ言い、ケインは少年を置き去りにして、本部の施設へ戻る。
後方で自分を呼ぶ声がするが、聞こえないふりをして、足を速めた。

「遺産を飼いならす、か。……本部はいったい何を考えているんだ」
ケインが胸から書類を取り出す。

紙面には、猫の耳をつけた少女の写真と、ハンターに従属させるとの指令が載っていた。
既に訓練をさせており、類まれなる手腕をみせているようで、少女に特A級のハンターの称号を与えるとも書かれている。


814 :the day:2006/11/12(日) 00:51:39.45 ID:43vmG7uE0
結局、行われた検査で何も得られなかった、謎めいたレプリロイド。
遺産と呼ばれた存在。振るう力は、彼女を職場へと歓迎するハンター――その職員を、先日、虐殺してのけた。

本部の意向に、理解に苦しむケインは、手にする書類を中庭に点々と置かれるゴミ箱へ叩きつけた。

春が終わりを向かえようとし、段々と気温が暑くなってゆく。
だが、ケインの瞳はどこまでも冷え切っていた。



「仲、よさそうだ」
初夏。
空に浮かぶ白い太陽が、じりじりと光りを強め、地面に陽炎を作り出す。

色素が抜けたのではなく、元の色が真っ白である髪を持った少女が、思案に沈む老人へと声をかけた。

「……ライト博士」
ライト呼ばれた少女は、日より眩しい笑顔を、中庭の小さな運動場で球技に勤しむ二人に向けられていた。
バスケットをする赤と青。少女が一方的に、少年からボールを奪い、ゴールへと投げ入れていた。

「へっへーんだ」
「うぅー!」

特Aというのを納得できる身のこなしで、少女は相手を翻弄する。
目を回し、打ち倒れる少年。
少女の腕が翻り、またもリングへと、茶色の球が正確に投げ込まれた。


816 :the day:2006/11/12(日) 00:55:59.11 ID:43vmG7uE0

ケインはそれを静かに見つめ、ライトが声をあげて笑う。

「根つめた顔してますよ、ケイン博士」
笑みを崩さず、ライトは隣で黙して座る老人へ、気遣いの声をかけた。

その言葉に、きょとんとするケインが、困ったように口元を歪ませる。
自分のそんな姿を、他人に見られたくなかったのだろう。ケインは居心地が悪そうに、身体を揺らした。

「そう、だろうか……顔に注意は払ってなかった」
頬に手をあて、ケインが不器用な言い訳を口にした。

それを冗談と取ったのか、ライトが小さく吹き出した。
少女の、可愛らしいが、失礼な態度に憮然とするケイン。

笑いながらライトは、取り成すように軽く手を振るい、からかった訳ではないと弁解した。
笑みを浮かべながらでは、説得力は無いが、ケインは一応納得する。

「ふふっ、無理しないで下さいね。ん……休憩おわっちゃう――それじゃ、私は」
右腕に嵌められた時計を見やり、少女はスーツの男に向け、小さく礼をする。

「あ、最近、カウンセラーの許可が下りたんですよ」
ケインに背を向けようとした所で、ライトは髪をかき上げ、そう言った。


818 :the day:2006/11/12(日) 00:59:05.20 ID:43vmG7uE0

レプリロイドの心理を考え、悩みを聞き、それを解決する手助けをする。
カウンセリングの為に、医療室の一部を使用させてくれ――ケインは、そんな訴えがあった事を思い出す。
許可が下りた事に、特別な感慨をケインは受けなかったが、少女自身の嬉しそうな顔に、何かを言わなければならないと考えた。

「それはおめでとう」
捻り出したのは、なんの変哲もない祝いの言葉だ。

「ありがとうございます」
普通ではあるが、それでもライトは満足したようで、力強く頷く。
エメラルドの瞳には、カウンセラーとしての決意が漲っていた。

緩やかに過ぎ去る、なんでもない一日。――永遠と、〝通常〟が続けられていた。




「一体、何を考えているんだ……!」
振り下げられた拳がデスクを叩き、上に載る書類の束と灰皿が、淡く光る照明まで飛んだ。
煙草と灰が床を汚し、書類が部屋にばら撒かれる。

ケインは机を蹴り上げ、全てを地へと還した。
彼らしくない野蛮な行為を受け、壁に激突する万年筆が半ばからへし折れ、机の下敷きになったスタンドライトが破砕する。


819 :the day:2006/11/12(日) 01:03:25.07 ID:43vmG7uE0

「採掘場で何をしている……! どうして、情報部は何も言わない!!」
怒声に、我関せずと鈴虫が鳴く。
本部の三階に位置するケインの執務室の窓から、夏の名残である蒸し暑さと、秋の到来の声が流れてきた。

ケインの目前に、滅茶苦茶になった私物を飛び越え、大きなスクリーンが垂れ下がっている。
投射器の光りを受ける巨大な画面には、頭を抱えた男の知らぬ所で行われている、本部の〝動き〟が映されていた。

いつから、違和感に気づいたのか、ケインは思い出せない。
ただ、ハンター職員の進退について、書類の処理作業を行っていた時から、ケインの胸の内に疑問が沸いて出てきた。

勝手に、任務場所を変更される部下。
意味不明な異動。
説明のされない、内容不透明な任務。

それらに関する情報を、開示するのを拒否する、同じ職場であるはずの部署。

どこで彼がおかしな事に気づいても、おかしくはなかった程、ハンターは異質な行動をしていた。

「…………暗殺だと」
同時に、各地で暴れるイレギュラーの数が、日を追う毎に勢力を増している事も知る。

次々に、ハンター幹部が寿命や耐久年度を繰上げ、早めの死を迎える。
スクリーンには、先週末に、人間とレプリロイドの権利の平等化を訴えていた、幹部の一人が破壊されたと表示。


821 :the day:2006/11/12(日) 01:07:06.56 ID:43vmG7uE0

次に、和平会談のメンバーが連続して殺害されると――人とレプリロイドの生き死にしては、とても簡潔な文章が流れた。
暴走したメカニロイド達が、世界中で、死神の手を広げる。

摘みきれない頭痛の種に、ケインは全てを放り出したくなった。
しかし、そうさせないのは、ひとえに彼の立場が責任あるものであり、彼自身が責任感の強い人間であるからだ。

「この世界は……本部は……いったい」
ハンター本部で、重要な役目であるはずの老人は、道化という単語を頭から引っ張りだす。
歪む顔を手で覆い、ケインは生まれて初めて、市販で扱われている頭痛薬を服用した。

ポケットから取り出した瓶を戻さず、壁へと投げる。
安っぽい音をたて、内包していた錠剤が飛び出しながら、ガラスの破片は弾けた。

軽いノックが、上質の木で出来た扉に送られる。

「父さん……」
壊れた机の前にあった椅子へ、額を押さえて腰掛けるケインに、暗く沈んだ声がかけられる。
汚くなった執務室の扉が、金の長髪を流す女を飲み込んだ。

ケインの刃物のような瞳が、横目に向けられる。
緑の装甲が、力なく立っていた。

「……シグマ。何だ? 私は忙しい」
両手を後ろ手にするシグマに、用も聞かず、彼女の父はおざなりに応対する。
彼女の様子など目に入らず、今後の身の振り方だけが、ケインの頭をぐるぐると回った。


822 :the day:2006/11/12(日) 01:12:18.01 ID:43vmG7uE0

「…………いえ、なんでも……ないです。……邪魔して、すいません」

ケインは、女の手に握られた物に気づかない。
悲しげな目をし、もうこちらを見ようとはしないケインに、シグマは優しく微笑んだ。

涙を一粒だけ零し、
「……あなたに。父さん――あなたに……迷惑はかけません……」
シグマはそう言って、部屋を後にした。

「さよなら……父さん」

どのぐらい時間が経ったか。
数時間ほど動かぬまま思案していたケインが、一息つこうと、椅子から身を引き剥がす。
壁にかけられた時計が、今の時刻は深夜だと示していた。

部屋の隅に設置させた、コーヒーメーカーを操作しようとすると、床から電子音。
引っくり返った電話機が、単調な音を鳴り響かせて、受信を告げる。

「私だ」
丁寧に不機嫌を隠し、ケインが受話器を取る。

『シグマが一昨日の夜から、昨夜にかけて、何処に居たか知っているかね?』
発信者は、挨拶もなかった。


824 :the day:2006/11/12(日) 01:14:05.17 ID:43vmG7uE0
「……は? いえ、存じませんが」
声から、ハンター本部の最高責任者だと思い出し、ケインは少しだけ慌てる。
だが、動揺も綺麗に隠蔽してみせた。

『邪魔をした』
不可解な質問は、唐突に切られ、待機音だけが虚しく続く。

最後の夏の日――平和であるはずの日常から、異常が水面から現れた。



緑を赤く染める秋。

『シグマが本部のデータをハッキングした、との嫌疑がかけられている』
次第に寒さを帯びてきた季節の始まりを、耳を疑う言葉で、冷たく祝す。
ケインは受話器が、振動をしているのを感じ、それが自分の震えによるものだと気づいた。

「……馬鹿な」
口からでるのは、掠れる一言。
思い当たる節などなく、ましてや、ケインにはそのような事自体が信じられなかった。

『早急に、彼女を会議室へ連れてくるように』
相手の事など考えない送信者は、短く告げると、またも強引に通信を切った。

波が揺れる。


828 :the day:2006/11/12(日) 01:17:47.92 ID:43vmG7uE0



「何……が……」
赤い。
紅葉などという風物ではなく、ハンター本部の一部が炎の巻かれていた。

「シグマ……!!」
ケインは、自分の娘の姿を、おぼつかない足取りで探す。

赤い。
全ての光景が、赤に染められていた。


[第17精鋭部隊隊長、暴走]

「これは、由々しき事だ!! レプリロイドが反乱を……しかもハンターから!!」
肥満の男が、頭から出したのかと思える声で喚く。
それを横目にしながら、ケインは配られた書類に目を通した。

「――なんですか、これは」
いつから、世界は自分の理解を超えるようになったのだろう。
ケインは、どこで間違えたのか考えるが、答えなど出ない。

「二日前から、我々が考えた〝調査方法〟だ」
与える者も居ない。


831 :the day:2006/11/12(日) 01:20:33.13 ID:43vmG7uE0

「……何かの……冗談でしょう」
〝何か〟が自分を追い抜かし、結果だけが足跡として残る。
その足跡は、様々なものに被害を振り撒き、無惨なものだ。

「メディアは勿論だが。ハンター職員にも、奴等が事を起こすまで、この事は公表するな」
ケインは理解できない。

「以上」
彼等は何を言っているのか。

「待ってください……! この調査方法は、何なのですか!?」
科学者。レプリロイドを作る身の自分に、突き出された悪夢。

「以上だ。退室したまえ」
真っ暗な闇色のメットが、老人をみつめた。

「これは……レプリロイドの権利は、どうなるのです!?」
いつから、こうなったのか。

レプリロイドは、人間の道具であるという風潮が生まれ、人は傲慢になった。
両者が手を取り合える世界を作る――ハンターの目標。そんな思いは何処へ消えたのか。

「権利――こうなってしまっては、そんな物など破棄すべきだ」
いつから、自分は何も言えなくなったのか。


833 :the day:2006/11/12(日) 01:24:31.20 ID:43vmG7uE0

「世界平和のため――我々は、可及的速やかな解決を求める。」
世界平和という単語にすら、ケインは違和感を感じた。

「訓練Σについては秘密裏に運ぶよう、お願いする。以上だ」
フルフェイスの男が、そう言い、会議室の幹部達が揃って頷く。
全てが完結した。



二週間後。

[ヴァヴァ脱走]
[アイシー・ペンギーゴ異動]
[アーマー・アルマージ異動]
[ブーメル・クワンガー異動]
[バーニン・ナウマンダー、ラボへ]
[第9レンジャー部隊、失踪]

訓練Σは、どこかで行われている。
何かが、どこかで行われている。

シグマは、何を思い、何を求めているのか。
ハンターは、何を考え、何を目的としているのか。

834 :the day:2006/11/12(日) 01:26:44.74 ID:43vmG7uE0


「私だ」
鳴り響く受話器を取る。

「……ケイン博士、マックです!! イレギュラーが高速道路を……!!」

違和感の正体は掴めない。
だが、確実に〝何か〟は息づいている。

地球――この青い世界に。




<了>

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー