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【NO.1 【剣帝】vs 前篇】

 このページは私が“名勝負だった”と思った戦闘を載せた物です。
 それでは、記念すべき最初の名勝負いってみましょう!

※このページは【剣帝】様の許可を取っております


「おい兄ちゃん、殺されたくなかったら身ぐるみ全部置いてきな」
「Ah?」

【事件は確かそのような言葉から始まったような気がする】
【裏路地――宿泊先のホテルまでの近道を通っていた矢先に男は声を掛けられた】

【まず目に映るのは血が凝縮したかに見える深紅の瞳】
【その瞳が不機嫌そうに細められていくのに、男を取り囲む不良たちが一瞬身震いするがすぐに余裕を取り戻し】

「へっ! そんな態度を取るのも今の内だぜっ!
 何せ俺たちのボスは『能力者』なんだ、テメェが選べるのは今すぐ俺たちに従うかボスに殺されるかのどっちかなんだよっ!
 ぎゃはははははははははは!」

【能力者、それは森羅万象の理を歪めし生物の頂点】
【彼の者一振りで山を砕き、彼の者予備動作を必要とせず雷光を操る等】
【能力者は十人十色千差万別だが、唯一共通している点は一つだけある】
【――――彼らの力は絶対的で無慈悲】

「頼みましたぜ、ボス!」
「がははははは! 運が悪かったようだな!
 さぁ、俺に殺されるか言う事を聞くかどっちか選―――」
「Too noisy.(うるさいぜ)」
「あ―――――――?」

【だが、能力者に対抗できるのもまた能力者だ】
【毒を持って毒を制す、陳腐な言葉だがもっとも有効的な言葉。故に――】
【この後の展開もまた必然とも言えた】


「Uninteresting.(つまらなすぎるぜ)」

【裏路地にはその男以外に生きている人間は居なかった】
【周りはドロドロの血の海で覆われ、人の死体が散乱する地獄絵図】
【刀に付いた血を振り払うと、男は静かに黒塗の鞘に納めた】




【大通り】
【多くの人々が行き交う道、その端を、青年は歩いていた】

【ふと、足を止める】
【―――――血臭。最早自分にとっては慣れたものだが、決して心地がいいとは言えぬ臭気が漂ってきた】

【それも少量ではない。おびただしい量の血―――恐らく、血臭の発生源は血の海と化しているだろう―――の臭いだ】
【血臭の発生源を探ってみる。…否、探るまでもなかった】

【血臭が漂ってきているのは、自らが歩く大通りのすぐ横、路地裏からだ】
【瞬時にそれが把握できるほどに、血の臭いは濃かった】
【青年は歩を進め、濃い血臭が漂ってくる路地裏の横で足を止め、その路地裏を見た】


「(……これは………)」

【目に飛び込んできたのは、血の海。そしてそれに沈むように横たわる、大量の屍】
【そして事も無げに、血の海に立つ―――20代前半程度だろうか―――男性の背】

【見ると、黒塗りの鞘に収められた、形状から推測するに、刀を携えている】
【恐らくこの光景は、この男が作り出したのだろう―――そう考えながら、無感情に男の背を見ている】


「Shit! 折角新調した服が鉄臭くなっちまった!」

【クンクンと男が服の匂いを嗅ぐと、その顔を大きく歪ませる】
【やや狭い空間の裏路地で切った張ったをしていれば服に血が付くのもまた必然】
【だが、やはり新品の服を直ぐに台無しにされるのは流石に堪えた】

『ところで、後ろであなたのことを見ている人間が居ますが』
「Huh?」

【男の持つ刀――妖刀【漆桜】の声に従い、クルリと体の向きを変える】
【そこに居たのは無表情にこちらを眺める男】
【一般人ならば、いや普通の感性を持つ人間ならばこの光景を見て無表情で居る訳が無い】
【恐怖、畏怖、憤怒、怯え、嫌悪、何かしらの反応があっても良いのに、目の前の男にはソレがなかった】

【何よりも男の闘争心が、本能が告げているのだ】
【―――――この男、只者ではない、と】

「……………………」

【男は、唐突に体の向きを変え、こちらを向く】
【恐らくは気配を察知したのだろう。青年はそう考えた】

【青年には、男の持つ妖刀の声は聞こえない】
【そして、何のヒントも無しに、『男の持つ妖刀が、自分の存在を教えた』などという答えに辿り着けるはずもなく】
【当然とも言えるかもしれない、青年は、男の得物が『妖刀』である事には気付けず、しかし男が相当の手練であろうことは察知していた】


「………一つ聞く。」

「〝これ〟は、お前がやったのか?」

【〝これ〟―――言うまでもなく、足元に広がる惨劇を指し示している】
【そう、普通ならば―――その声色に、何かしらの感情が込められているだろう】

【だが問い掛ける青年の声色は、どこまでも平坦。憤りも、恐れも、凡そ感情と呼べるものはありはせず】
【紫の瞳には、感情の色は浮かんでおらず。ただ冷たく、深い眼光を放っている】


「――――Yes...(ハイそうです) って言ったらどうするんだ?」
『はぁ、あなたも人が悪いですね』

【獰猛で凶悪な笑みを浮かべながら男は肯定の意を示す】
【その姿はどう見ても殺人犯の様相で、見る限り完璧な“悪”であった】

【ここで不良に絡まれたから返り討ちにした―――と正当防衛を訴えれば穏便に済んだかもしれない】
【だが―――なんとなく、男はその方向に持っていくのを嫌った】

【男は戦いに飢えていた】
【別に今まで戦ってきた相手が特別弱かったという訳ではない】
【ただ心の奥底で男は物足りない、とその渇きを潤すことが出来なかった】

【―――この男なら、自分の渇きを満たしてくれるかもしれない】
【その様な男の考えが分かったのだろう、【漆桜】は呆れたようにため息を吐いた】


「………そうか。」

【青年は内心―――やはりか、と思っていた】
【状況から見ても、この惨劇は眼前の男が創り出したのだろう。そう判断する事は容易だ】

【だがそれ以上に、この男が纏う空気―――『普通』とは違う】
【そう、例えるならば戦闘狂。それと似た雰囲気を、この男は纏っているように思えた】


「…お前が〝悪〟であろうと〝正義〟であろうと、俺の道を阻まぬのならば手は出さん。」

「だが―――――――」

【どこからともなく、黄金に煌く大剣を取り出し、左手に握る】
【『普通』であれば―――否、『達人』であろうとも、片手で持つことは叶わないであろう、金色の大剣】
【それを軽々と持ち、笑みを浮かべる】


「―――――――望むのならば、相手になろう。」

「どうする――――――【剣鬼】。」

【聞いたことがある】
【戦いに狂ったように獰猛に笑い、敵を蹂躙し】
【化け物のような身体能力で敵を圧倒する剣士―――剣の鬼、【剣鬼】の通り名】

【よく見てみれば、この男…伝え聞いていた【剣鬼】の容貌と似ている】
【確信は持てないが、もしもこの男が伝え聞いた通りの腕を持つ【剣鬼】ならば…相当な手練だろう。青年は、そう考えた】


「Ha! イイねイイね、ゾクゾク来るぜその感じ
 Now that’s what I’m talking about. ―――Shall We Dance?(やる気が出てきた ―――踊ろうぜ?)」

【目の前の剣士から放たれる圧迫感、剣気に思わず笑みをこぼした】
【今すぐここで斬り合いたい――そんな欲望に囚われる一方で、果たしてここは二人が舞う為の舞台に相応しいのだろうかという疑問を思い浮かべる男がいる】

【――剣をぶつけ合うのならもっと相応しい舞台がいる】

「って言いたいところだが俺たちが踊るにゃここは役不足すぎる
 ――――ついて来いよ、もっと相応しい舞台に案内してやるぜ?」

【それだけ告げると男は横の壁へと取り付き、さらに跳躍】
【まるで忍者のように壁を蹴り、三角跳びの要領で上へ上へと登り続ける】
【時には手に持った刀で壁を切り裂き、足場を作りながら男はただ愚直にビルを駆け上がる】

【目指す場所はそう―――この街を一望できる巨大ビルの屋上】
【円形の形をしたソレはコロシアムの様で、二人が戦うに相応しい会場だ】
【眼下には街の明かりが地上の星を描き、頭上には星と月だけが二人の戦いを見守る】
【そんな場面を想像し、男はより一層に笑みを深めた】


「…………………………」

「………死の舞踏、か。」

【人間とは思えぬ跳躍力で、男はビルを駆け上がる】
【――話に違わぬ身体能力。恐らくは、今まで自分が闘ったどの相手よりも身体能力は上だろう】

【あの男、自分が呼んだ【剣鬼】の名を否定しなかった】
【ならば恐らく、あの男は【剣鬼】―――己と同じく〝闇〟の者】
【一つ、笑みを溢し―――青年は、跳ぶ】

【まず、自らの身体能力で、ビルの半ば過ぎまで跳び…その後は、先程男が作った足場を使い、昇っていく】

【恐らく頂上に辿り着くのは、男とほぼ同時。後から上り始めたにも関わらず、同時に辿り着くのは】
【男が作った足場を、的確に利用しているからだが…それを考慮しても、青年の身体能力は尋常ではない】
【それを見たならば、青年の化け物のような身体能力が窺えるだろう】




【二人がビルの屋上へと着いたのはほぼ同時であった】
【見下ろした大地の光景も、見上げた天壌の様相も想像していた光景と寸分狂い無い光景に男は胸の内で頷く】
【そして男は後ろに跳躍し一旦距離を取ると、再び剣士へと向き直り刀を抜いた】

「そういや名前を聞いてなかったな
 ―――俺は咲裂 剣。巷じゃ『剣鬼』やら『ブレイド』なんて言われてるが、好きなように呼んでくれて構わないぜ」

【振り抜いた刀を肩に担ぎ、男はこれから殺し合いをしようなんて想像もできないほどお気楽に自己紹介をする】

【ここに居るのは二人の剣士】
【一人はその生涯をただ一振りの刀に捧げた狂い鬼】


「―――――レオンハルト。」

「『レーヴェ』、【剣帝】と呼ぶ者もいる。…まあ、同じく好きに呼ぶといい。」

【片頬を上げ、笑みを浮かべながら】
【虚空を斬り裂くかのように、剣を軽く振る】

【金色の大剣は、月を映して】
【月光を反射し煌く剣、携える青年から放出されるは剣気】


【ここに居るのは二人の剣士】
【一人は己の道に立ち塞がるもの総てを斬ると決めた修羅】

【修羅は動かず、睨み合うかのように、〝鬼〟の出方を見ている】


「往くぜ、【剣帝】―――レオンハルトォォォォォオオオオオオ!!」

【咆哮】
【その声をゴングに男は刀の切っ先を修羅に向け】

「Looks like this is going to be one hell of a party!(楽しいパーティの始まりだ!)」
『Are you ready?(準備はよろしいですか?)』
「Of course!(勿論だ!)」

【疾走疾走また疾走!】
【風のように駆け抜ける先は金色の大剣を構えし修羅】
【男の身体能力ならばこの程度の距離などほんの一瞬に過ぎず―――】

「Yaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
                 『Haaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

【先手は男から】
【逆手に握った【漆桜】が火花を散らし地面を抉り取り
【そのまま男はレオンハルトに向かって【漆桜】を振り上げた】

【技術もへったくれも無い単純な力任せの攻撃】
【だが、一切の無駄を省きただ相手を斬り伏せる為に特化されたその攻撃は破壊力、速度全てに置いて最強の一撃】


【――――迅い、そして重い】
【一目見れば―――視認できたのは一瞬だが―――分かる、敵を切り伏せる事のみを考えた攻撃】
【並みの剣士ならば…否、並みの達人でさえも、この攻撃には反応できなかっただろう】


「―――――シッ!」

【だが、この青年ならば―――〝修羅〟ならば、反応できる】
【文字通り一瞬で詰められた距離、しかし修羅は対応、後方に跳躍し、躱す】

【そして回避した後、再び前方に跳躍―――こちらも一瞬で距離を詰め】
【金色の大剣を振り上げ、左上から右下、袈裟懸けに振り下ろす】

【その速度は、凄まじく迅く―――とても大剣の速度とは思えず】
【その太刀筋には一分の狂いもなく、金色の剣閃を残すほどに正確】
【――――並みの剣士であれば、反応すらできぬだろう。それほどの一撃】


「ワォ――――!」

【男の攻撃は酷く単純で、どこから来るのか誰にでも分かるくらい簡単な軌道を描く】
【だが、それは相手が反応できたらの話】
【いかに相手の攻撃を予測出来ようとも体が動かなければ何の意味も無い―――男の攻撃はまさにそれだった】

【しかし、目の前の相手はこちらの攻撃に反応し、回避】【なおかつ反撃までしてくる始末】
【そのことに男は気分が高揚してくるのを感じ―――】

【左足を後ろに滑らせ、体を後ろに逸らすことで斬撃を回避】
【―――紙一重、ほんの少しでも遅れれば真っ二つのタイミングで金色の刃は男の目の前を通過】

「―――――ハァッ!」

【勿論男がそれだけで終わる筈が無い】
【左足をそのまま円を描くように滑らせ体を回転】
【その勢いのまま大剣を振り下ろした男のボディ目掛けて回し蹴りが唸る】


【回避された】
【―――――ならば、高確率で返し手が来る】

【膨大な戦闘経験に裏打ちされた思考、反射的に組み立てられる予測】
【修羅の予測通り、反撃―――〝鬼〟が回し蹴りを放つため、体を回転させる間に】
【すぐさま大剣を引き戻し、来るべき衝撃に備え―――縦に構えた大剣の腹に衝突する、〝鬼〟の左足】

【衝突の瞬間、修羅は後方に跳び、衝撃を相殺する】
【後、〝鬼〟から見て右横に跳躍】


「――――ッ!」

【そして、高速で体を回転させる】
【遠心力が載せられた剣の速度、威力共に、先程の袈裟懸けの一撃よりも迅く、重い】


「い―――ってえなこの野郎!」
『そりゃあんな上等な鉱石の塊を蹴ればそうなりますよ』

【男の左足に確かな手ごたえ――だがそれは相手の体では無く大剣だ】
【ガツンッ、と鈍い音を立ててお互いの距離が離れる――】

「ホッホウ!」

【間もなく、一瞬で近づかれる】
【轟音を立てながら迫る大剣を尻目に上空へと跳躍】
【足元を通り過ぎる死の足音を耳に捉えながら男は口元を裂き――――】

「―――Sweet Sleep!!(おネンネ――してろっ!)」
『Have a good nightmare(良い悪夢を)』

【上空に掲げた【漆桜】を思い切り――――振り下ろした】
【空中に逃げた男に逃げ場は無い、すなわち反撃された場合攻撃を受けることしか出来ないのだ】

【ならば――反撃させなければいい】
【男の体重と【漆桜】の重さを加えたその脳天唐竹割りは、目の前の剣士が放った回転切りと謙遜無い程の威力――そして速度】


「(……これも避ける、か!)」

【修羅は、少なからず驚愕していた】

【あの回転斬を回避する。それ自体も驚嘆に値するが】
【問題なのは、回避の方法―――〝鬼〟が取った回避方法は】
【体の軸をずらすでもなく、体を捻るでもなく―――上空への跳躍】

【これは相当な身体能力がなければ成し得ない方法】
【〝鬼〟の身体能力の異常さを、改めて確認し――次なる一手を取る】


「――――甘い!」

【修羅が取った、次なる一手は―――防御】

【上空から放たれた一撃、見る限りかなりの威力を秘めている―――しかし、問題なのはその速度】
【その速度は、恐ろしく迅い。先程自分が放った回転斬と比べても遜色無いほどだ】

【故に、今から回避したのでは遅い。そう、一瞬にも満たぬ時間で判断し】
【黄金の大剣を振り上げ―――振り下ろされた刀と、噛み合せる】
【刀が縦、大剣が横―――ちょうど、刀と剣が十字を形作り、火花を散らす】


「It's Bravo! なかなかやるじゃねぇか―――っほ!」

【空中での振り下ろしが有効なのは得物が接触したほんの一瞬だけだ】
【何故なら空中では足を踏ん張る為の足場が存在しない為である】
【ならば――この現状を維持するのは不利】

【両手に握った刀をさらに押し込むように力を入れ】 ・・・・
【その腕力だけで男は刀を使って――――――――跳躍した】
【常人では絶対に真似できない――まさに人を止めた化け物にしか出来ない動き】

【高速で流れる光の景色を横目に、男は空中で体制を整え】
【地面を滑りながら剣士を見据え―――その姿はまるで獣そのもの】

「OKOK. 準備運動はこのくらいで充分だろ
 ―――Come on! Don’t bet on it?(来いよ――― そろそろ始めるか?)」

【さらに後方へバク転、器用に男は地面に降り立ち【漆桜】を構えた】
【ようやく温まってきた身体を揺らし、軽くステップを踏みながら剣士を左手で挑発する】

【つまり男の言いたいことはこうだ】
【―――――最初から全力で来い! と】


「…………フ………」

【超人―――否、怪物的な動きで、己と距離を取る、〝鬼〟】
【恐らく身体能力においては、自身と同程度…ならば、手加減をしている余裕は無い】


「――――いいだろう。」

「ならば、本気を出させてもらおう―――――」

【左手に持った大剣を―――両手に握る】
【そしてそれを顔の高さほどまで持ち上げ、横に水平に構え――――】

【――――青年から、尋常でない〝気〟が迸る】

【〝闘気〟、〝剣気〟、〝殺気〟―――様々な〝気〟が内包された、凄絶な〝修羅〟の気】
【そしてしばらくし、〝修羅〟の気は止み――――】


【――――〝修羅〟が、疾る】
【達人すら視認できぬほどの速度で、〝鬼〟へ正面から突撃し】

【―――〝鬼〟の前方、2mほどの地点で、その姿が掻き消える】
【その直後、〝修羅〟が現れたのは、〝鬼〟の後方2mほどの地点】

【疾る勢いのまま、一瞬にも満たない時間で距離を詰め―――左手に持った大剣で左から右、横薙ぎの一閃を放つ】


「Ha! It’s show time!」

【剣士――いや“修羅”から放たれる壮絶な威圧感、圧迫感に男は思わず身を震わせる】
【それは恐怖によってか―――否】
【それは後悔によってか―――否!】
【ただ男を襲う感情それは『歓喜』―――男が身を震わせる理由すなわち『武者震い』】

【一瞬の空白】
【次の瞬間、“修羅”が動きだし―――消失した】

「――――――――ハッ!」

【後方から殺気―――既に男は【漆桜】を後方に振り抜いていた】
【殺気を感じるのと男が動き出すのはほぼ同等】
【“修羅”の一閃は男が振り向く様に放った一振りとぶつかり―――爆発的な衝撃が二人の得物を襲い、火花を散らす】


【剣と刀が、噛み合う】
【長大な剣による一撃―――それを、振り向き様の刀の一振りによって受け止められる】

【常識で考えて、それなりに力を込めた大剣の一撃を、ただの刀が、この細身の刃が、受け止められるとは考えられない】
【ならばこの刀―――持ち主と同じく、常軌を逸している。そう考えるのには難くなかった】


「……やるな。」

「この一撃を受け止めるとは……どうやらその刀、相当な業物のようだ。」

【鍔迫り合いを繰り広げながら、〝鬼〟へと語りかける】
【片頬を上げ、笑みを浮かべながら紡ぐ言葉は、〝鬼〟の得物に対する賛辞の言葉】

【相当な業物。だが、それを欲しいとは微塵も思わない】
【剣士である以上、自分の得物には自信を持っているし―――】
【―――何より、この刀は、この男の手に収まっているのが正しい。何故かは知らないが、そう思えるのだ】


「Not surprising!(当たり前だ!) なんせ【漆桜】は世界一最高の――伴侶なんだぜ?」
『もう、戦闘中ですよ! は、恥ずかしいです…』
「ヒュ~、Let’s rock!(派手に往くぜ!)」

【本人にしか聞こえない惚気を命がけの戦闘中にしだす男と刀】
【なんとも力の抜ける話であるが、本人たちは至って本気だ】
【そして【漆桜】の声でやる気が出たのか男が動き出す―――】

「Rock it!」

【火花を散らす【漆桜】で一旦大剣を弾き、柄を絞りきるように握りしめると】
【右へ左へと、まるで嵐の様な暴風の刃を振り回した】


【“世界一最高の――伴侶”】
【―――伴侶?当然の如く、その奇怪な言動を訝しんだ】

【…だが、今はどうでもいい】
【無駄な思考は即座に排する。というより、人の趣味嗜好に口を出すつもりはない】


「―――――シッ!」

【鍔迫り合っていた刀と剣。その均衡は、刀によって断たれる】
【大剣が弾かれる。が、それは予想できていた。こちらから得物を弾かぬならば、相手が弾いてくるのは道理だ】

【予想できていたが故に、対応できる】
【大剣を弾かれる。が、体勢を立て直さぬままに後方へと跳躍。それにより、さながら暴風の如き一撃を回避する】

【後方に飛んだ後、即座に体勢を立て直し】
【―――直後、その姿が掻き消える】

【またしても直後―――その姿が現れたのは、男から見て左横】
【現れると同時に、上段から下段へ、大剣が凄まじい速度で振り下ろされる】


「Now, this is what I’m talking about!(やっとそれらしくなってきたな!)」
『左です!』

【男の攻撃を難なくかわす“修羅”に男も興奮せざるを得ない】
【鋭く警告してくる【漆桜】の声に従い後方へ跳躍――先ほどまで男が居た地面を大剣が粉砕する】

【剣圧による衝撃でさらに後方へ吹き飛びながら、飛んでくる礫を左手で弾く】
【再び両者の距離が離れ、仕切り直し】

「面白い物を見せてやるよっ!
 ―――To be surprised?,Babe!(驚いて腰抜かすなよ? ベイベー!)」

【まるで新しい悪戯を思いついた悪戯っ子の笑みを浮かべる男】
【右手に持った刀を上空に放り投げ、空いた右手を握りしめると―――】

「ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」

【地面に向かってその拳を思い切り叩き込む】
【その細身の何処から出したのか、コンクリートで出来た床が隆起し男の前に巨大な壁が持ち上がり―――】
【目の前のコンクリートの壁を蹴り飛ばした】

【ガリガリと地面を削り滑りながらコンクリートは“修羅”に向かって吹き飛び】
【丁度落ちてきた【漆桜】を右手で掴み取ると、壁に続いて疾走を開始した】
【コンクリートの壁はそれなりに大きく、男の姿を隠すには十分である】


「………フフ……」

【〝鬼〟が地面を殴り、コンクリートの床が隆起】
【それによって作り出された壁が、こちらへ迫る。壁に阻まれ姿は見えないが、恐らくは蹴り飛ばしたのだろう】

【―――――まさに鬼の業。人では成し得ぬ、身体能力に任せた攻撃】
【確実に脅威となるそれを前にしながらも―――〝修羅〟は、笑みを浮かべていた】

【――――〝修羅〟にとって、コンクリート程度を斬り裂くことは容易い】
【己の剣技と金色の大剣の前では、コンクリート程度、微塵に斬り裂かれるだろう】

【迫る壁を斬り捨てるべく、大剣を構え――――】


「(――――――まさか。)」

【――――動きを止める】

【〝修羅〟の思考の中、何かが警鐘を鳴らしている】

【『本当にそれでいいのか?』】
【『本当に斬り捨ててもいいのか?』】

【『――――〝鬼〟はこの壁を隠れ蓑にし、既に次なる一手を打っているのではないか?』】


【――――体が、動いた】
【右に大きく跳躍―――壁を斬るのではなく、壁を避ける】
【それにより視界に入ったのは―――壁に隠れるようにして疾走する、〝鬼〟の姿】

【恐らく、相手がこの〝鬼〟でなければ…ここまで思考を巡らせはしなかっただろう】
【だが、相手はこの〝鬼〟。あれほどの身体能力を持つ者が、ただ単純に壁を迫らせるだけに留まるだろうか?】
【案の定、答えは否だった。それほどまでに、〝修羅〟には油断が無い】


「やべ、バレちまった」
『で、どうするんです?』
「勿論、こうする訳よっ!」

【男の左側に“修羅”の姿】【おそらく男の企みに気が付いたのだろう】
【作戦は破綻―――したかに見えたが、男は相変わらず獰猛な笑みを浮かべたままだ】
【それぐらい分かって当たり前、ならば何故無駄だと分かっている行為を行うのか―――】

「―――Slash!(ぶった斬る!)」

【男は未だ滑り続ける壁を飛び越え、背中越しに二閃】
【十文字にすっぱりと斬られた壁は丁度四分割され空中に浮かび】

「Blast off!(吹き飛びな!)」
『本当にあなたは―――規格外ですね』

【四分割されたコンクリート全てに爆裂拳―――四連打を放つ】
【勿論向かう先は男の右側に居る“修羅”】
【それぞれの塊がぶつかり、砕かれながら不規則な軌道で“修羅”へと襲いかかる】

【―――これだけ距離を詰めれば飛んでくる巨大な弾丸を避けるのは困難】
【そう、男の狙いは何の妨害もされず距離を詰めることにあったのだ】


【〝鬼〟に裂かれ、四散したコンクリート】
【更に砕かれ、礫となって己に迫る弾丸】

【だが――――問題は無い】
【〝修羅〟は、その怪物的な動体視力で、己に着弾する礫のみを見切り】
【――――叩き落す。不要な礫は、何一つ叩き落さずに】


「(……やはり、何かを企んでいたか。)」

【その後、〝鬼〟は距離を詰めてくるだろうが】
【こちらが視認し、反応もできているのならば、さほど問題は無い】
【体勢を整える。〝鬼〟の攻撃を受けきり、返しの刃を浴びせる為に。一分の油断もなく、あらゆる可能性を考えながら】


【周囲は瓦礫によって陥没し、砂煙が舞う】
【不明瞭な視界、どこから飛び出してくるか分からない緊張感と警戒心】
【下手に動く回れば斬られる――ならば“修羅”その場で迎え撃つだろう 男の計画通りに】

【四つの巨大な弾丸に気を取られている内に男は床を切り捨て一つ下の階層に移動していた】
【既に人が出払ったオフィスを駆け抜け、地響きの鳴る天井――即ち“修羅”が立つ床の真下へと移動していた】

「―――は! BINGO!(大当たりだ)」

【音が鳴り止み、ほんの少しの静寂が訪れる】
【相手は砂埃が周囲で舞っている状態でどこからでも対処できるように神経を集中している筈だ】
【だが―――まさか真下からの攻撃など想像できる筈も無い】
【これが男が考えた『悪戯』の最終段階】

(んじゃまぁ地面からこんにちわと登場しますかね)

【ここで時間をおいて相手に考える時間を与えてはならない】
【相手が此方の意図に気が付く前に素早く、奇襲を開始する】

(レオンハルト――――お前ならこれくらい対処できるだろ?)

【心の中で強敵である相手の名前を呼び、男は“修羅”が立っているであろう天井に【漆桜】を真上へ突き刺した】


「(………………………)」

「(…下か―――――!)」

【足元に、違和感】
【極限まで神経を研ぎ澄ましていなければ、刃が床を突き刺すその感覚は掴めなかっただろう】

【否―――極限まで感覚を研ぎ澄ましていても、1年ほど前の青年ならば気付けなかっただろう】
【ならば何故、気付けたか?―――それは、今までに闘った者との、戦闘経験による】

【ある者は斬られる直前、瞬間移動をした】
【ある者は斬られる事にも構わず、自分に一太刀を浴びせた】

【そんな者達との戦いを経て、〝修羅〟の感覚は更に研ぎ澄まされた】
【ならばどうして―――――この程度、避けられぬ事があろうか】


「(突き刺したままで、避けられるか―――――!)」

【その場から、後方に少し跳び――――直後、ほんの先程まで自分が立っていた場所から、刀が生える】
【それにも微塵も怯まず、剣を直下の床に突き刺し―――斬り上げる】

【金色の大剣が突き刺さったのは、〝鬼〟の左側】
【もしも回避できず、何らかの防御を取らないのならば、〝鬼〟の左腕は斬り飛ばされるだろう】


「――やっぱり」
『お見通しだったようですね』
「って俺の台詞を奪うんじゃねぇ!」

【突き刺した時に肉を斬った感触が一切無い――つまり避けられたのだ】

『斬り上げ―――あなたの左です』
「んなもん百の承知の助よ!」

【地面から突き出た【漆桜】が相手の動きを監視、警告を放ち】
【男は男で相手の殺気を機敏に感じ取り“【漆桜】”で地面を斬りながら直進――その姿はさながら人食い鮫(ジョーズ)の様】

【すっ、と床と言う海に潜った背びれ(刃)が“修羅”の視界から消え】
【爆号と共に屋上の床が吹き飛んだ―――飛び出した黒い影】
【その黒い影は“修羅”から離れるように着地し、煙が晴れれば無傷な“鬼”の姿がそこにあった】

「What an ordeal.(酷い目に合ったぜ、全く)
 やっぱりこうでなきゃツマンネェよなぁ! レオンハルト!」

【肩に付いた土と瓦礫を振り払い、笑いながら軽快な口調で“修羅”に向かって話しかける】
【周りはどれも酷いくらいにボロボロなのに、お互いはまだ一太刀も浴びていないこの状況】
【それは何よりもお互いの強さを―――異常さを表していた】


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最終更新:2011年05月17日 17:58
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