彼は生まれたときはただの子供だった。
両親に恵まれ、姉に恵まれ、幼馴染の従者もいて『孤独』とか『不幸』には程遠い人間だった。
数少ない不幸は彼が中学生の頃に家が謎の地震で倒壊し、お気に入りの『模型』を失い、姉が『留学』に出て行ってしまったことだ。
しかし姉は数ヶ月に一回家に戻ってくるし、『芸術』はいつか壊れる物と教わっていた彼には十分耐えれるものだった。
…そして十八の誕生日に能力者
【脆弱戦隊】となった。因みに始めての能力使用は翌日のハロウィンだった。
その後美術大学を(なんとか)卒業した彼は親の企業を継ぐため自身の『芸術性』を高める旅に出る。
ある日彼は旅の中で『戦場』の存在を知る。
そこで気付いた。そこなら今までない『芸術』を見出せるのでないかと。
その様な経緯で身一つ(と家来三匹)で『戦場に』やってきたのだ。
しかし初試合で相手に言いくるめられ、その相手の家来になってしまう。
その翌日、今度は見事に相手を倒してものの自殺されてしまい自身も氷漬けにされてしまう。
……遠い意識の中…彼は夢を見ていた…、闘技場で個人奮闘する自分に似た戦士の夢を…
そして気付いたときには彼は生まれ変わっていた、
【万軟蒟蒻】に。
彼は自身の得た力を最大限生かし「ゼリー屋」を始めた。
儲けはない。ただ多くの能力者と触れ合い、時に戦い、情報を集め、彼は「強く」なっていた。
そんなある日、彼はかつて自分を『服従』させた能力者を発見する。
彼は狂っていた。理由は知らない。ただ明らかに実力の差がある相手にむかって行って…
『死んだ』。止める事は出来なかった。そして彼は思った。自分はこうはなるまいと。
その出来事が忘れ去れるほど時がたったある時彼は出会った友人と共に一つの『勢力』を立ち上げる。
始めは二人だったメンバーも彼自身が勧誘に精を出し、次第に有名になっていったのだ。
大きくなった『勢力』での交流を通じて彼は一人の女性に恋をする。
思いを伝えることはしなかったが、彼女のそばにいればなんだって出来る気がした。
彼は幸せであった、決して不幸ではなかったはずで、このまま永遠に続けばいいと願っていた。
しかし『運命』は残酷で……彼の「幸せ」を断ち切ってしまう。
切欠は『戦場』に来ていた姉の死だった。
彼にとって姉はまさしく誰よりも強い存在であった。
その姉が相打ちとはいえ他の能力者に討たれたのは衝撃的だったのだ。
その出来事は彼の出生が明かされる物でもあった。
彼は殺した能力者の魂を糧にして記憶、姿形をそのままに『転生』できる特殊人種
『戦魔』だったのだ。
そして彼にはさらに『戦魔』を圧制から救った『英雄』の生まれ変わりでもある。
彼は悟った、死の間際に見たあの青年こそが『英雄』なのだと。
知ったとき、彼の右腕にはめられたブレスレットから声が聞こえるような気がした。
次の不幸は想い人の殺害だった。
彼は最後を見届けることが出来なかった。どこで死んだのかもわからない。
ただ、死んだことを知らせれたのだ。
彼は彼女の死の真相を調べた。唯一わかったのは殺害した犯人のみ。
彼は探して…追い詰めた。
しかし、犯人は皮肉にも想い人に瀕死にされ話せる状況ではなかった。
頭に血が上った彼は止めを刺してしまう。
気付いたときにはもう犯人は人の姿をしておらず、虚無感のみが残る。
これが彼を狂わす最後の『悲劇』だった。
その時、ブレスレットが輝き、彼にささやく…
想い人を蘇生させる方法を。
彼にはもはや悩む余地はなかった。
逢いたい、それだけが先行する。
そして彼は知る、自身のブレスレットの正体に。
ブレスレットは『英雄』を封印する道具だった。これが無いといつしか『自我』が食われるらしい。
彼が力を欲するとき『英雄』が目覚めるを防いでいた。
しかし彼は自身の意思で『英雄』と『契約』することにする。
すべては『愚者の医師』の為に…
想い人の為にと…
そして今、彼は『戦魔』にとって忌まわしき地に立って、能力者を待ち構える。
…ここからの『運命』は…まだ誰も知らない…
最終更新:2010年06月19日 21:57