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【女の子】「やっ……はぁぁ……っ」

恥ずかしさを挟んだ、可愛らしい声が響いた。
ガマンしているつもりでも、快感が勝って声を漏らしてしまうような感じだ。

【女の子】「だっ、だめ……そこは……っ」

息を荒げながら否定するも、その声色からでは本気で言っているようには聞こえない。

【女の子】「あ、あぁっ!」

構わず動いたのか、一瞬にして1オクターブ上がる声。
そんじょそこいらのAV女優の演技くさい喘ぎとは何かが根本的に違う。
普段から見知った女の子、つまりは知り合いだからこそそんな曖昧な思いを感じさせるんだろうか。

【慎二郎】「おーおー、お盛んなこって」

傍らでぼーっと虚空を見ていた俺の友人―――刑部 慎二郎が呟いた。

【慎二郎】「あれか?こう、校舎内でヤるのってスリル満点でたまんねーよフゥハハってやつなんかね」

【怜悟】「さぁ……」

【慎二郎】「にしたってねぇ……無謀を通り越してるだろ、ありゃ」

【怜悟】「バレた時のこと考えてないんじゃねえかな」

【慎二郎】「にはは、それ言えてる。むしろ見つかって一足早い夏休みってのも笑えるなっ」

苦笑する俺とは対照的に、慎二郎は不敵な笑みをしている。
現時刻を確認すると、1時30分にさしかかっていた。
教室には誰もいない。むしろこんな時間まで教室にいる俺たちの方が稀有だろうな。

【怜悟】「ところでさ―――」

【女生徒】「あっ……あぁっ!だっ、だめ、そこ、そこはっ……だめっ……!」

【男生徒】「はは、ここがいいんだぁ?」

【女生徒】「はっ、はあぁぁぁっ!あ、あああぁぁぁぁぁ~っ!」

絶叫。
姫方は絶頂に達した模様です。

【怜悟】「……なんで俺たち隠れてんだろうな」

【慎二郎】「そりゃまぁ……気まずいだろ、このタイミングじゃ」

やれやれと肩をすくめる慎二郎は、制服が汚れるのも構わずどっかし座り込んでいる。
俺はといえば、できる限り尻をつけないように屈伸スタイルで待機中。
―――そう。
今俺たちは、空気の読めないバカップルが堂々と淫行に走っている教室……のベランダにいる。

【慎二郎】「まぁ、普段おしとやかな浅田さんの喘ぐ姿なんざ今後一生見れねぇだろうから、しばらく堪能すっかね」

【怜悟】「先公に見つかって欲しいんじゃなかったのか」

ちなみに浅田さんとは、今まさにオーガズム全開で喘ぎまくっている女子である。

【慎二郎】「そこはギリギリまで待つんだよ。ありゃ多分感じやすいタイプだ、絶対廊下まで響くぞ」

【怜悟】「……勝手にしてろ」

事を回想するならば、それはほんの5分前の話になる。
期末試験も終え、あとは終業式まで短縮日課になった学園はそれこそ試験の答え合わせだけというまことに生徒には嬉しい授業しかない。
つまりは午前中には授業が終わり、午後日課はなくそのまま下校という流れだ。
ホームルームを終えて大抵の生徒はそそくさと下校する中、俺と慎二郎だけは教室によく入り浸っていた。
あとに残るのは外で部活に勤しむ下級生ぐらいなもんだ。校舎内は当たり前のように閑散となる。
今日も正午を過ぎた時間になっても教室で適当に遊んでいた俺たちだったが、何故だかそこに一組のカップルがいちゃつきながら近づいてきたわけで。
これはただ事じゃねえと慎二郎が慌てて俺をベランダに引っ張りだして隠れ、今に至る。

【怜悟】「それにしても……よくバレないよな」

【慎二郎】「周りが見えてねぇんだろうな。おかげでこっちはウォッチングし放題だぜ」

結果的に言えば慎二郎の勘が当たり(いつもは当たらない癖に)俺たちはこうして気づかれずにいる。
しかしあまり事が長引けば炎天下のベランダにいるのは危険だ。
どうにかしてバレずに脱出しないといけない。

【怜悟】「おい、そろそろ何とかしないとまずくないか」

【慎二郎】「バーカ、もう少しこの状況楽しめってんだよ」

【怜悟】「そんなん無理に決まって―――」

【浅田】「あっ、あっ、あ、すご、いっ!奥までっ、当たって、るっ……!」

【怜悟】「…………」

【慎二郎】「…………」

【慎二郎】「やべ、勃起してきた」

【怜悟】「すんなすんな!」

【慎二郎】「るっせぇよこの勃起不全!俺はもう我慢できねえんだよ!!」

【怜悟】「ばかっ、お前こんなとこで脱ぐな!」

【慎二郎】「いいだろ別に、あと3クリックぐらいで出すから関係ねえよ」

【怜悟】「んな早漏っぷりを露呈せんでいいっ」

【浅田】「ねえ……今何か声がしなかった?」

【怜悟】「―――ッ!」

やばい、騒ぎ過ぎた……!
さしもの慎二郎も脱ぎかけたズボンを元に戻し、息を潜めた。

【男生徒】「俺も聞こえたぞ」

【浅田】「誰か隠れてたり……しないよね」

不安そうな二人の声が聞こえてくる。
俺たちは身をさらに屈めて向こうの出方を待った。

【慎二郎】「あれ……これってやばくね?」

そうですねやばいですね。
お前のせいですよね、またしてもお前のせいですね。

【男生徒】「……ベランダの方かな」

……おい、嘘だろ?
なんであんな激しく運動してる最中にこっちの声が聞こえるんだよ。
焦り始める俺たちに追い討つように、足音がこっちに近づいてくるのが聞こえてきた。

【慎二郎】「こりゃまずいな怜悟。どうにかして逃げねぇと」

【怜悟】「どうにかするったって……」

【慎二郎】「決まってんだろ」

そう言って慎二郎は人差し指を突き立てて、それを地面へと向ける。
一見すると地面を指差してるように見えるが、慎二郎は今みたいな状況でそんな馬鹿げたことをする奴じゃない。
となると……。

【怜悟】「……下か?」

慎二郎はこくりと頷いた。

【怜悟】「無茶言うな!ここ2階だぞ!?」

【慎二郎】「他に逃げ道がねぇんならここしかないだろ。なぁに、着地さえミスらなきゃ怪我しねぇよ」

【怜悟】「……っ」

よくもまあ簡単に言ってくれるな。
確かに2階ならまだ死にはしないだろうが、慎二郎の言う通り着地さえ失敗しなければ危険は少ない。
けれど、今から飛び降りるからさぁお前も一緒に、って言われて動ける奴が何人いるんだよ。
それなりに覚悟しなきゃ足が動かない。

【慎二郎】「それじゃ行くぞっ」

俺が迷っているにも関わらず慎二郎はベランダの欄干に足をかけた。
一拍ほど置いて、そのまま体を空中に投げ出した。
全然恐れというものが見られなかった。

【怜悟】「慎―――」

慌てて慎二郎の名を呼ぶが、あっという間に慎二郎の姿は階下へと落下していく。
数瞬後、どさり、という鈍い音が聞こえてきた。
どうやら地面に着いたみたいだ。

【怜悟】「…………」

【慎二郎】「おい怜悟っ、何してんだよっ」

階下から慎二郎の声がした。
怪我もなくしっかり着地したのがわかったが、今はそんなこと心配するより、飛ぶか否かを決めるのが先決だ。
―――どうする!?
迷えば迷うほど時間が少なくなっていく。男はもうこっちにやってきているのがわかった。

【怜悟】「くそっ……」

……思えば向こうのカップルが勝手にし始めたことなのに、どうして俺が一歩間違えば怪我しかねない行為に及ぼうとしてるんだろうか。

【怜悟】「冗談じゃねぇよ……!」

そう思い始めたら、何だかムカムカしてきた。
理不尽だ。あまりに理不尽すぎる。
俺だけこんな目に合うのなんてまっぴらご免だ。
お前らだってこんな所でコソコソとヤりまくってんじゃねぇよ。
普段は大した感情も持たない教室でも、セックスの跡なんかがこびりついてたら嫌な気分にだってなるだろうに。

【怜悟】「慎二郎っ」

階下にいる友人に声を投げかけて、同じように欄干に足をかけた。
下を除くと、慎二郎が着地したと見られる植え込みが目に入る。
慎二郎がこっちに向かって手を振っていた。

【怜悟】「…………」

そして、欄干で静止する。
慎二郎が何か言っているのが聞こえたが、無視した。

―――すう、と息を吸う。
次の瞬間、背後で教室の窓が大きく開かれた。
男が何かを言っている。慎二郎も何か喚いている。

―――全部無視だ、馬鹿野郎。

そして溜めに溜め込んだ息を全開に吐き出して―――





【怜悟】「あーーーーっ!!あいつら教室でエッチなことしてるぞーーーーーっ!!!!」






下校中の生徒達に。
真夏の太陽の下せっせと部活に勤しむ下級生達に。
たまたま近くを通りがかっていた気だるそうな教師に。




俺は、叫んだ。




次いで。
欄干に引っ掛けていた足に力を込めて―――大空へと飛んだ。

【怜悟】「ざまーーーーみろぉぉぉぉーーーーーっ!!!」



もう一つ次いでに、呪詛の言葉をぶつけながら…………飛んだ。
風が体を通り抜けて、時間がゆっくり進んでいるかのような錯覚を覚える。
どんどんと近づいていく植え込みを見つめながら、ふと思った。
―――ああ。
めちゃくちゃ、気持ちいい―――と。




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最終更新:2007年08月17日 23:18
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