あらすじ
- 翌日、学園は終業式の一週間前なので短縮日課となり、暇を持て余していた怜悟。
慎二郎は女友達と遊びに行ったため一人さみしく音楽室へと向かい、アコースティックギターを借りる。
そのまま屋上に行くが、夏休み前ということで閉鎖していた。仕方なく誰もいなくなった教室で弾くことに。
10分ほど弾いて心が落ち着いたのか、怜悟はそのまま教室で寝る。
するとそこにかなかがやってきて、寝ている怜悟を起こしてしまう。
驚く怜悟だったが、かなかはギターに興味津々。互いに初対面だがすぐ打ち解ける。
軽く雑談した後、怜悟はかなかと別れる。
子供のようにギターに触れてはしゃぐかなかに、怜悟は昔の自分を思い出しながら帰宅する。
※この話でようやく怜悟とかなかが知り合いになる。
みーんみんみん。
夏真っ盛りまであと少しという今日この頃、指揮者もいないのにセミは一斉に狂い鳴いている。
学園は来たる夏休みに備えて、生徒たちを午前中で早々と帰宅させる―――つまりは短縮日課が始まった。
授業がないのは非常にありがたいのだが、それはそれで暇ができると言うわけで。
俺は今日も慎二郎と共に、いかにして今日の暇を潰すかについて考えようとしたのだけど。
【慎二郎】「んじゃあ怜悟、わりぃな。今朝話した通りだ」
【怜悟】「はいはい」
【慎二郎】「……だぁーからしょうがねえんだってば。前々から約束しちゃってた事なんだしさ、今更ドタキャンなんてできねぇんだよ」
生返事をした俺を不機嫌と受け取ったのか、慎二郎はぽりぽりと頬をかきつつ答えた。
慎二郎が今朝話したというのは、今日の奴の予定についてである。
元々容姿がチャラいせいなのか、それとも話術に長けているかは定かではないが、異様にコイツは女にモテている。
廊下を歩けば声をかけられる事などしょっちゅうで、下駄箱を開けば綺麗な手紙が申し訳なさそうに置いてあるのはもはや見慣れた光景だ。
で、約束というのは奴の数ある遊び友達との約束なわけで。
夏休みが近づく中二人して暇を持て余してるかーなんて駄弁ったその次の日にこれだ。
何がしょうがないだこの野郎。お前の脳みそは下半身にあるのか。
そう言い返したやろうかと思ったが、あえて俺は何も言わない事で返事をした。
【慎二郎】「あー……いや、さ……」
慎二郎が言いにくそうに口ごもるのを黙ってみてみる。
正直俺はそこまでというか全く怒っちゃいないんだけどな。面白いからそのまま静観してよう。
【慎二郎】「マジで、今度なんかお前におごってやっからさ。今日は頼むよ」
【怜悟】「いいんじゃねえの」
【慎二郎】「なんでそう卑屈になっかねお前。なんならお前も来るか?」
【怜悟】「……」
そう言われて、ちょっと考え込んでみる。
女の子と遊ぶ機会なんてそうそうないじゃないか。ましてや付き添いは慎二郎だ。フォローだって期待できる。
【怜悟】「んー……いいかもな」
【慎二郎】「お、マジか?」
【怜悟】「ああ」
【慎二郎】「んじゃ、今ちょっくら連絡取ってみるわ」
早速慎二郎は携帯を開き、何やら素早い指の動きでボタンを打つ。
おそらくメールを打ってるんだろうなと思いつつ、俺はどういう振る舞いをすればいいか考えてみた。
とりあえず、今の俺には意中の子なんぞはいない。
だとすれば適当に声をかけたりして会話をしていけば何とかなりそうだ。
よし、これで行こう………………そこまで考えて、ふと思った。
【怜悟】「慎二郎」
【慎二郎】「あん?」
何か……違う気がする。
知らない子と遊ぶのに不満があるわけじゃない。
けれど、それはあくまで『遊び』だ。終わってしまえば、後には何も残らない。
そしてタチの悪いことに、それが頭の隅に残っていると、そういう『遊び』でさえも、楽しめなくなってしまうわけで。
【怜悟】「やっぱ……さっきのなし」
【慎二郎】「はぁ!?ちょっ……どういうことだよ!」
【怜悟】「や、だからさ。お土産とか要らんから楽しんできていいよ」
【慎二郎】「……マジで言ってんのか」
【怜悟】「ん。大マジ」
【慎二郎】「はぁ……お前、そんなんだから恋愛インポとか言われんだよ」
【怜悟】「……言ってろ」
はぁ、と慎二郎はため息をつきつつ携帯を閉じた。
悪いな慎二郎。俺がやる気なさそうにしているとお前も楽しくなくなっちゃうだろうからな。
【怜悟】「ほらほら、もう行けよ。待ち合わせ遅れんぞ?」
【慎二郎】「……なぁ怜悟、俺のことなんざいちいち気にしなくたっていいんだぞ?」
【怜悟】「何が」
【慎二郎】「や、だからさ。お前、これでいいのかって事だよ」
【怜悟】「…………」
抽象的な慎二郎の言葉に、俺は口をつぐんだ。
その質問は……俺にとって、今一番答えにくい質問だから。
【怜悟】「さぁな……」
とりあえず、今は言葉を濁す事しかできないわけで。
【慎二郎】「ったく……マジで大丈夫かよ」
【怜悟】「っつーか、それわかってたらもう行動してるって……」
【慎二郎】「だったらいいけどよ。あんまズルズルいくんじゃねえぞ?ダチが一生童貞だったら俺泣くぞ」
【怜悟】「うっせチャラ男。もういい、お前どっか行け」
【慎二郎】「言われんでも行くわこの透明男が!てめーなんざあれだ、クリ男で充分だ」
【怜悟】「さりげなく淫らな名前つけてんじゃねえよボケ!さっさと行け!」
【慎二郎】「あーわかったよ!そんじゃあな!」
がらがらがらっ!
【怜悟】「……ったく」
誰もいなくなった教室で、一人呟いた。
……心の中で、慎二郎の言葉を思い返してみる。
【怜悟】「んなの、わかってるんだよ……」
わかっているけど……。
けど、その先が続かない。
踏ん切りがつかないんだろう、きっと。だからいつまでもうじうじ悩んでいるんだ。
【怜悟】「はぁ……」
頭を垂れて、深く息を吐く。
教室の外からは今日も汗くさい部活動がわっしょい行なわれている。
端から見れば何の感慨もないけれど、当の本人たちはこれ以上になく熱く、青春を謳歌している。
【怜悟】「……よし」
窓から蒼穹の空を見上げ、俺は自分の頬をぴしゃりと叩いた。
じんじんと赤く腫れた頬が痛むが、無視して立ち上がる。
そのまま教室を出て、廊下を小走りで歩いていく。
お目当ての教室は決まっている。3階の東棟だ。
…………。
がらがらがら。
【怜悟】「―――失礼しました」
一つ挨拶をして、その教室を出る。
『音楽準備室』
いつも悩みとかを抱えたときに幾度となく彷徨いやって来た、俺の救済所。
そして傍らに持っているのは、古ぼけたアコースティックギターだ。
ホコリを被って放置されているところを見つけて、今も自分が落ち込んだりしたときに爪弾くためのギター。
ギターを弾いているときは、不思議と気分がよくなるものだと、俺は思う。
さて、演奏者と楽器は揃った。
あとはそれらを最大限に発揮することのできる、至高のステージだけだ。
場所はいつも決まっている。
最上階のさらに上―――そう、屋上だ。
終日開放されている屋上だからこそ、気持ちのいい演奏ができる。
俺は階段を一歩一歩登り、屋上へと向かう。
【怜悟】「……あれ?」
最後の階段を登りきったところで、ようやく屋上のドアに張り紙がしてあるのに気づいた。
じっと見つめてみる。
『夏季休業間は屋上の出入りを禁ず』
【怜悟】「―――はぁ!?」
なんなんだこれは!?
夏休み中は屋上出入り禁止って……まだ夏休み入ってないし!
【怜悟】「マジかよ……」
強引に突破してやろうかと思ったが、ご丁寧にもドアは鎖でがんじからめに封鎖されている。
これじゃ鎖を解くのにも時間がかかるだろうし、このまま演奏するのは無理だ。
【怜悟】「教室でやるか……」
ともあれ、ここでじっと立ち止まっていたんではしょうがない。
俺は踵を返して先程まで慎二郎と駄弁っていた自分の教室へと戻った。
…………。
べーん。べーん。
音叉の音を頼りに、弦をチューニングしていく。
チューナーがあればもっと簡単にできるのだけど、生憎となかったので音叉を使うしかない。
この作業を怠けるといい音が出ないので、しっかり調整しないと。
【怜悟】「―――よし」
一通りチューニングを終えると、組んだ足の上にギターを乗せる。
そっとフレットに指を添えて、弦を弾いた。
そのまま流れるように左手を動かして弦を弾く。
何度も弾いている曲だから、もうスコアがなくても弾ける。
人気の少ない校舎の中にギターの音色が響く。
聴く客もいない、セッションする人もいない、俺一人だけの演奏。
そんな空間が、俺はとても好きだった。
…………。
【怜悟】「ふぅ……」
一曲ほど弾き終えて、俺は息を吐いた。
ぽかぽかとした午後の日差しが心地よいせいか、微妙にうとうとし始めてきた。
どうせ誰も来ないだろう。ちょっと昼寝でもするかな……。
俺は一旦ギターを机に立てかけておき、近くの机に突っ伏す。
目を閉じると、一気に眠気が襲ってきた。
…………。
子供の頃の思い出には、それこそ成長しても色褪せないものがある。
俺のギターも、元は子供の頃に習ったものだ。
年中窓ぎわでどっかし座り込んでは飽きるまで爪弾いていた父親。
幼い俺にとって、その優しい旋律は憧れの存在だった。
いつからか、そんな演奏を自分もしたいと思うようになった。
手の届かない所に綺麗に飾ってあったギターを、どんな玩具よりも欲しいと思った。
そしてある日、俺は決心して親父に言った。
【怜悟】「おとうさん。おれ、それやりたい!」
なんてことない一言だ。
その時の俺にはギターなんて単語を覚えているはずもなく、あれとかそれとしか言えなかった。
そんな俺に対し、親父は不敵に笑って、
【怜悟の父】「これか?これはな怜悟、ギターっつーんだ」
【怜悟】「ぎたー?」
【怜悟の父】「そうだ。いい音してるだろ?」
【怜悟】「うんっ」
無邪気に頷く俺の頭を、親父はぐしゃぐしゃと撫でた。
【怜悟の父】「それでこそ俺の息子だな!よし、とーちゃんがいっちょ教えてやんよ」
その時の親父の笑みが、俺には今でも忘れられなかった。
初めて抱え込んだギターは、子供の俺にはあまりに大きすぎて。
でも、そんな姿を親父は優しく見つめていた。
それから、俺は親父にギターを教えてもらった。
休日はおふくろの言及も無視して、二人でギターに入り浸っていたりした事もあった。
今思えば俺たち親子のそんなやり取りが、普通の親子がやるような河原のキャッチボールと同じだったんだろう。
ぺーん……。
そうだ。
まだ習いたての頃は、それこそおっかなびっくり弦を弾いていた。
一つ一つの音に、興味深々でいちいち驚いていた気がする。
ぺーん……。
そう、まさにこんな感じに……。
【怜悟】「…………?」
ぺーん……。
なんだ……?
夢の中で響く音じゃない。
まどろむ意識の中、それが実際に誰かが発してる音だというのに気づいた。
控えめに、ゆっくりと誰かがギターを弾いている……。
【怜悟】「ん…………」
俺は重い瞼を開けて、顔を上げた。
そして俺の目に入ってきたのは……。
【?/かなか】「あっ……!」
―――俺を見下ろしている、一人の少女だった。
【怜悟】「あ、れ……?」
微妙に覚醒しきってない頭で、考える。
俺はさっきまでギターを弾いてたんだけど、ついうとうとして居眠りをした。
そこまでは覚えている。
んで、目を開ければ……。
【?/かなか】「あ、あの……その……」
女の子が、目の前に立っているわけで。
【怜悟】「……」
いや、待て。とりあえず、言いたいことは山ほどある。
けど、まずはこの一言しかないだろう。
―――この子、誰?
目の前の女の子は、しどろもどろになりながらなんとか言葉を発しようとしている。
【?/かなか】「かっ、勝手に触ってごめんなさい!」
意を決したように大声で謝りだす女の子。
いや……いきなり謝られても。
【?/かなか】「こ、これ高峰君のだよね?」
【怜悟】「え?」
首を傾げる俺に、目の前の女の子はギターを指差した。
【怜悟】「いや……違うけど」
【?/かなか】「えっ?じゃあ、誰の?」
【怜悟】「誰のっていうか……音楽室から持ってきたモンだからさ」
【?/かなか】「あ……そうなんだ……」
【怜悟】「…………」
俺の言葉に、女の子はしょんぼりとうなだれてしまう。
もしかして、ギターに触れたかったんだろうか。
【怜悟】「……弾いてみる?」
【?/かなか】「えっ!?いいの?」
【怜悟】「ん、なんか弾きたそうだし」
ギターを女の子に手渡す。
女の子はそーっとギターを受け取り、小脇に抱え込んだ。
【?/かなか】「わ、思ったよりおっきいね」
【怜悟】「ギター触るの初めて?」
【?/かなか】「う、うん……よいしょっと」
女の子はなんとかギターを持ち上げて、体勢を整えた。
ギター全体を見渡して、そのまま弦を弾く。
べーん。
【?/かなか】「おお~っ」
なにやら感慨にふけっているみたいで、どうやら本当に初めてギターに触れたみたいだった。
2、3度適当に弦を弾く女の子は、やっぱり1回1回感嘆を漏らしている。
ふと、そんな姿が……。
【?/かなか】「―――ねぇ」
【怜悟】「うおおっ!?」
【?/かなか】「ど、どうしたの?いきなり大声出すからびっくりしたよ」
【怜悟】「あ、ああ……ごめん」
ぼーっとしていたせいか、女の子の言葉に気づかなかったようだ。
【?/かなか】「はい」
今度は女の子からギターを手渡される。
やっぱり慎重にギターを持ち上げて、そーっと俺に渡した。
【怜悟】「もういいの?」
【?/かなか】「うん!ちょっと落としそうで怖かったけど、触れただけでも嬉しいよ!」
【怜悟】「あ、ああ……そか……」
【?/かなか】「ギター弾ける人ってすごいよねぇ。これだけで色々な音出せるんだもん」
【怜悟】「あー、確かに言えてるかも」
実際俺が親父のギターに憧れたのには、6本の弦と指だけで七色の音が出せるからというのもある。
今でも自分で弾いていて本当に驚かされるばかりだ。それだけ音楽ってのは奥が深い。
【怜悟】「まぁ、逆に言えばまだまだ可能性もあるってことだよなぁ」
【?/かなか】「なるほど……じゃあさ、高峰君がその可能性を見出すってこともあり得る?」
【怜悟】「え、俺?どうだろーな……」
正直、今のままでできるかどうかと言われると……うんとは言えないだろうな。
音楽を続けるなら、今みたいに1人でぽつぽつやってたんじゃダメかもしれないし。
【怜悟】「やっぱ切磋琢磨し合える仲間的なもんが必要なんじゃないかな?」
【?/かなか】「そっか……一緒に音楽をする仲間かぁ……」
【怜悟】「ま、そうそうそんな奴いないもんだよ」
……俺が探してないだけかもしれないけどな。
【?/かなか】「…………」
【?/かなか】「……ね、一曲弾いてくれたりしない?」
【怜悟】「へ?」
【?/かなか】「あーいや、ダメだったらいいの!ただなんとなーくなの!」
【怜悟】「…………」
俺は思わずきょとんと目の前の女の子を見つめてしまう。
もうこの子が俺の前にいる時点で唐突なんて言葉は無意味なんだけど。
【?/かなか】「…………ダメかな?」
まるで俺がダメと言うかもしれないと決め付けているような顔で、俺を見つめてくる。
まったく……。
【怜悟】「はは……」
まったく、この子は俺をナメすぎだ。
あなたの弾く曲が聴きたいなんて、音楽をやる立場からしちゃ嬉しいことこの上ないっていうのに。
【?/かなか】「な、何?」
【怜悟】「いいぜ。おやすい御用だ」
【?/かなか】「ほんと!?」
【怜悟】「ああ。俺のでよけりゃ、な」
【?/かなか】「……うんっ!」
【怜悟】「そんじゃ、ご静聴くだされ」
ギターを抱えなおし、ゆっくりとピックを滑らせる。
なめらかな旋律が、2人しかいない教室の中を満たしていく。
名も知らぬ女の子は、じっと俺の演奏に耳を傾けて。
そんな彼女に、俺は精一杯メロディーを伝えていった……。
どれくらい時間が経っただろうか。
長くも感じたけど、実際はそんなに経っていないだろう。
【?/かなか】「今日はありがとうね」
俺の演奏が終わり、女の子が拍手と賞賛の言葉をくれたあと。
なんやかんやで音楽室にギターを返却して、下駄箱まで付き添った俺たちは、すっかり初対面と言う距離感がなくなっていた。
【?/かなか】「高峰君のギター、すっごく良かったよ!」
【怜悟】「ん、あんがと」
もう何度目になるかわからない褒め言葉も、今の俺には心地よかった。
自分の腕前に自信があるわけじゃないけど、それでも誰かから褒められるというのは嬉しいことなわけで。
【怜悟】「……ん?」
と、そこである事に気づいた。
【?/かなか】「どうしたの?」
【怜悟】「いや……そういえばさ、君、なんで俺の名前知ってんの?」
【?/かなか】「あれ?言わなかったっけ?」
いや、一言も聞いてなかったんですが。
というか、なんで今まで気づかなかったんだろうか、俺。
【?/かなか】「えっとね……高峰君、この前2階から飛び降りなかった?」
【怜悟】「―――っ!?」
【怜悟】「も、もしかして……そん時たまたまいたとか?」
【?/かなか】「う……うん、そうだよ」
うわ……マジか。
で、でも、まだ俺があん時に飛び降りたながら叫んだ言葉は聞こえてないかもしれない。
【?/かなか】「まぁ……高峰君も男子だし、ああいう言葉はしょうがないかなぁ」
ってばっちし聞こえてただと!?
【怜悟】「あー……いや、その……」
やばい、かなり恥ずかしい。
なんて言葉をかければいいだろうか……。
【?/かなか】「なんてねっ」
【怜悟】「え?」
【?/かなか】「あたしは別に平気だよ?ああいうの」
【怜悟】「あ、あぁ……」
【?/かなか】「むしろ、あれがなかったらあたし、ここまで高峰君に興味持たなかったもん」
【怜悟】「そうなの?」
【?/かなか】「うん。あれ見たとき、うわぁすごい人がいるなぁと思って、平賀山先生に名前とクラス聞いちゃった」
【怜悟】「…………」
なんていうか……すごい行動力だな。
普通興味だけでここまでするか?
【?/かなか】「もしかして……引いた?」
【怜悟】「んー……まぁ、こうして仲良くなれたんだし、チャラってことで」
【?/かなか】「ほんと!?」
【怜悟】「うむ」
【?/かなか】「そっかぁ、やっぱり高峰君ってすごい人だね!」
【怜悟】「たはは……どういう意味だそりゃ」
【?/かなか】「あたし、かなか」
【怜悟】「かなか?」
彼女の名前だろうか。
【かなか】「そ。東海 かなか。あたしの名前!」
【怜悟】「東海ね……ん、覚えた」
【かなか】「これからよろしくね、高峰君」
【怜悟】「こっちこそ……東海」
お互いようやく名前を知り合い、ふっと微笑みあう。
【かなか】「さてと……あたし、そろそろ帰るね」
【怜悟】「ん、そっか」
女の子は帰り道が俺とは逆らしい。
ということはここでお別れだ。
【かなか】「じゃ、また明日ね!」
【怜悟】「おう」
最後に別れの挨拶をして、可愛らしく手を振る女の子を見送った。
夕焼けに溶け込んでいく女の子の後ろ姿を眺めつつ、俺は靴を履き替えた。
…………。
【怜悟】「さて……」
じんわりとした暑さを身に感じながら、帰り道をぽつぽつと歩いていく。
さすがに夏真っ盛りというだけあって、ワイシャツの下はじっとり汗ばんでいる。
早く家に帰ってシャワーでも浴びたいところだ。
【怜悟】「東海かなか、ね……」
反芻するように、その名前を呟いてみる。
今日会ったばかりだというのに(正確には以前すれ違っていたらしいが)、そんなこと気にしないといった風に接してくれた。
本当、最近じゃ滅多に見ないくらいの明るい奴だった。
そんな東海は、俺のことをすごい人だと言っていた。
何度考えてみても、自分がそんな人間だとは到底思えない。
けど、東海は東海なりに、俺の何かを感じ取ってくれたんだろうか。
だとするなら……。
【怜悟】「…………」
そんな東海に、今度は俺から会ってみたいと、思う。
俺のどこに惹かれたのかを聞くためじゃない。
東海と触れ合って、俺の何かが変わるのなら、俺はそれを望んでみたい。
奈々子さんが言った言葉のように……賭けじみた事かもしれないけども。
俺は、東海に惹かれていた。間違いなく。
【怜悟】「はは……」
なんだ……。
もう、変わってきてるじゃんか、俺。
【怜悟】「帰ったらもっかいギター弾くか……」
きっと、いつもとは違うテンションで演奏できるだろう。
不思議な気分のまま、俺は帰路を着々と辿っていった……。
最終更新:2007年09月15日 22:38