あらすじ
「日々の青春を6弦やら4弦やら太鼓やらの民俗音楽に費やすようなパンク学生が、この時期を境にぱたりとフリーになった。何故かわかるか?」
- 翌日、学校にて怜梧たちは早速慎二郎が情報を仕入れてきたことを知る。
その情報によれば、今のところ音楽経験ありでフリーなのはごく少数だと言う。
その中にベーシストがいる事を知った怜梧は、その人物の名前を聞くと早速勧誘しに行こうと決める。
が、どういうわけかその日はベーシストがいなかったため、やむなく次の日に持ち越しになってしまう。
その翌日、廊下で男子生徒に付きまとわれている女の子を見つける怜梧。
介入しようかどうか迷っていると助けてくれとその女の子が懇願してくる。
事情の知らぬまま男子生徒を追い払った怜梧。女の子はありがとうと言う。
そこでばったりと会ったかなかがギターを持ってくるが、それを見ると女の子は怒ってどこかへ行ってしまう。
その女の子こそが慎二郎の言っていたベーシストだということに、怜梧はやっと気づくのであった。
きーんこーんかーんこーん。
【怜梧】「~~~っ、し!」
終業のチャイムが響き、本日最後の授業が終わりを告げる。
クラスの生徒たちがまばらに散っていく中、俺は一つ大きく伸びをした。
【慎二郎】「よう怜梧」
【怜梧】「ん?慎二郎か。お前いつの間にいたんだ」
【慎二郎】「朝からいたわっ!!」
【怜梧】「それでなんか用か?」
【慎二郎】「ああ。依頼の件、確かにやってきたぜ」
【怜梧】「何お前、ついにストーカーでも始めたの」
【慎二郎】「探偵はストーカーとは言わねえだろうが!っていうか、そんな怪しい仕事誰がするかあっ!!」
【怜梧】「んじゃメンバー探しの件か」
【慎二郎】「なっ、なんだよ、わかってるじゃんか……」
【怜梧】「どうだった?」
【慎二郎】「ぼちぼちだな。フリーの奴は何人か見つかったぜ」
慎二郎はそう言うと、何やら一枚のA4用紙に書かれた名簿を見せてきた。
それを見てみると、名簿にはきっちりと氏名や性別、クラスなどが決め細やかに記載されていた。
お、意外と探すといるもんなんだな……。
【怜梧】「その中でメンバー入りしてくれそうな奴は?」
【慎二郎】「…………」
おい、なんで黙るんだよ。
【慎二郎】「まあ、その、なんだ」
【慎二郎】「高峰君、ひとつ君に質問だ。いいかね?」
【怜梧】「はっ、お願いします」
【慎二郎】「日々の青春を6弦やら4弦やら太鼓やらの民俗音楽に費やすようなパンク学生が、この時期を境にぱたりとフリーになった。何故かわかるか?」
【怜梧】「バイク事故にあって踵がなくなったから」
【慎二郎】「どこのベーシストだそれはっ!!受験だ受験!!」
【怜梧】「まあ妥当な理由だよな」
【慎二郎】「ああ。だから、このタイミングで誘っても全員アウト、なんていう最悪な結果も予想されるっつーわけだ」
慎二郎はそう言うが、実のところ俺もその可能性は充分示唆していたりする。
何度も言うようだが、こんな時期に一からバンドやるなんて馬鹿げたこと言ってるのは俺たちぐらいなもんなんだからな。
【怜梧】「そういうところはしょうがねえよ。で、受験を理由にバンド辞めた奴何人いるんだ?」
【慎二郎】「……これくらい」
そういうと、慎二郎は先ほどの名簿にボールペンで斜線を引いていく。
一本二本、段々とその数は増えていく。
【怜梧】「…………」
【慎二郎】「…………」
やがて慎二郎の手はぴたりと止まる。
最終的に残った名簿の名前は…………。
【怜梧】「……な」
【怜梧】「なんで一人しか残らねえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
【慎二郎】「知るかぁっ!俺が聞きたいわっ!!」
【怜梧】「あ~ちくしょう、どうすりゃいいんだよお……」
【慎二郎】「俺も致し方ないとは思う。だが、それでも前に進まねばならんのだよ怜梧!」
【怜梧】「言われんでもやるっつーの……」
【慎二郎】「ん?」
【怜梧】「なんでもない。まぁ、一応1人見つかっただけでもよしとするか。で、そいつの名前は?」
【慎二郎】「おう。え~っとだな……」
【慎二郎】「名前は山波だ。山波 美織、女だな。クラスはっと……D組だな」
ふむ、じゃあ反対側の棟のクラスか。
すぐにでも行けそうだけども、一応東海に一声かけとくべきだろうか。
【怜梧】「……ま、すぐに済むか」
ダメだったらダメでそれは仕方ないことだ。
東海には慎二郎の情報と共にその事後報告もおまけでつくことになるが、まあいいな。
【怜梧】「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。あんがとな、慎二郎」
【慎二郎】「おう。俺はこれから予定あるから帰るが、武運を祈ってるぜ」
【怜梧】「ああ、じゃあな」
手を振る慎二郎と別れ、俺は教室を出た。
今度、あいつに何かおごってやらないとな。
【かなか】「……あれ?」
【怜梧】「……ん」
【かなか】「あー!高峰君だ!」
【怜梧】「ああ、東海か」
【かなか】「どうしたの?こんな時間まで」
【怜梧】「い、いやさ……その……」
【かなか】「んー?」
俺は東海に今日の慎二郎の持ってきた情報について説明した。
……ついでに、実際に突撃して帰ってきた際の戦果もだ。
【かなか】「…………」
【怜梧】「…………」
【かなか】「……こればっかりは高峰君のミスだよねえ……?」
【怜梧】「いやーっ、やめてっ!俺のせいって言わないで!!」
……つまり、掻い摘んで説明するとだ。
実際に声をかけにD組に行く時、俺は大事なことを忘れていた。
……山波って誰だ?
そう。俺はその山波という少女の顔を知らないのだ。
当然顔も知らないのだから、声のかけようも本人の探しようもない。
そうこうしているうちに、クラスの子に聞いてみたら本人は既に帰ってしまっていたというオチだった。
【怜梧】「すんません……」
【かなか】「……まあ、仕方ないっちゃー仕方ないかもしれないよね」
【怜梧】「返答のしようもございません……」
【かなか】「元気出そうよ!向こうだって、足生えて逃げたりしないよ!」
いや、足生えてなかったら人間じゃないんだが。
【かなか】「ともかく、明日も行くんでしょ?」
【怜梧】「ああ、もちろんだ」
【かなか】「じゃあ今日は明日に備えて口説き文句でも考えとく!はいコレで今日の失敗はチャラね!」
何やら東海は許してくれたみたいだ。
ともあれ、俺にはまだチャンスがあるようだな。
【怜梧】「うーん、口説き文句か……」
【かなか】「高峰君、女の子との交際経験は?」
【怜梧】「ないな」
【かなか】「えっ、そうなの?実は私も……」
突然、東海がハッとした表情になる。
【怜梧】「ん?」
【かなか】「忘れて」
【怜梧】「はて?」
【かなか】「いっ、いいい今のセリフは忘れてーっ!!」
【怜梧】「……? はあ」
【かなか】「とぉっ、とにかく!明日こそ勝負なんだからね!」
【怜梧】「わ、わかってるってば」
そんなこんなで、それからはどうやってその山波美織をオトすかで散々議論した俺たちであった。
まあ、内容は直筆の手紙でいこうだの、プレゼントで弦をあげようだの、あまりまとまったものとは言えないが。
とりあえずは、東海の言うとおり、明日はしっかりしないとな……。
翌日。
相変わらず突き刺さるような日光を浴びつつ、教室へ。
……。
きーんこーんかーんこーん。
終業の鐘が鳴る。
なんだか最近、授業が妙に長く感じる。
今まではぼーっと教師の話を聞いていたからだろうか。
そんなことを考えつつ、鞄に荷物をまとめた。
【怜梧】「……よし」
そのまま鞄を放置して、教室を出た。
昨日の反省を生かし、あらかじめ今日は下校時刻になってすぐに訊ねることにしていた。
雑踏を掻き分け、渡り廊下を歩く。
反対側の棟まで行くと、すぐさま近くのD組の教室内へと入る。
【怜梧】「っと……」
既に何人か帰り始めてはいたものの、それほど閑散としていない。
しかし、この中から見つけるのは至難の業だ。それも、本人の顔を知らない状態でだ。
【怜梧】「えっと、山波って人いない?」
やっぱり、探してみても無駄な気がする。
とりあえず、手っ取り早く近くの学生に聞いてみた。
さすがにこんな早くからじゃ、本人もいるだろう。
【男子学生】「ん?あいつなら今いないよ」
【怜梧】「マ、マジで!?」
【男子学生】「いや、嘘言ってどうすんのさ」
おいおい、なんなんだよ。
そんなに山波ってやつは多忙なのか?
だとしても、二日連続で飛び出してくようにいないなんて……。
【怜梧】「ったく……しょうがねぇな……」
早くもせっかくの作戦が意味をなさなくなってきたか。
嘆いていてもしょうがない、俺は一度教室を出た。
【怜梧】「どうすっかな……」
が、悩めば悩むほど時間は減っていく。
くそっ、やっぱり慎二郎から顔とか外見の特徴とかを聞いとくべきだったな。
そうこうしているうちに、生徒はどんどんちらばっていく……。
【怜梧】「……ダメだ、見つからない……」
ここは一時撤退だ。
慎二郎もまだ残ってるはずだろうし、ここで慌てているよりかはマシだろう。
俺は来た道を引き返すことにした。
……。
【怜梧】「……ん?」
クラスに戻る途中で、妙なものに気づいた。
なんとなくここからでも会話が聞こえる。
【男子生徒】「だからさー、そこんとこ、なんとかできない?」
【?/美織】「しつこいぞ。何度も言わせるな」
【男子生徒】「ホント、一曲だけでいいんだよマジで。絶対、いい曲演奏できるって」
【?/美織】「それは勝手な想像だろう?第一、私を納得させるために曲を聴かせると言ったのはそっちじゃないのか」
【男子生徒】「だっ……だから、それで君は納得してくれたっしょ?」
【?/美織】「…………」
【男子生徒】「あ、あれ?」
【?/美織】「今の私の態度を見ればわかるだろ。それ以上何も言わせるな」
【男子生徒】「なっ……」
【怜梧】「…………」
おーおー、なんかナンパまがいなことしてるなぁ。
しかし、圧倒的に男の方が相手にされてないのがここからでもわかるぞ。
【男子生徒】「まぁ待ちなって。もっかい!もっかいでいいから、チャンスくれない?」
【?/美織】「……はぁ」
【男子生徒】「ね!このとおり!」
【怜梧】「…………」
様子を見ていると、急に男の方がペコペコし始めている。
が、それとは裏腹に女の方は不快そうだった。
【?/美織】「はぁ……どうすれば……」
【?/美織】「!」
【怜梧】「あ、やべ」
困惑していた女の子の目が、不意に俺に合う。
慌てて目を逸らすが、どう見たって怪しいというか、立ち聞きしてたのバレたよな。
【?/美織】「おい、そこのお前」
【怜梧】「……はぁ」
やっぱり、巻き込まれるのか……。
呼ばれたので素直に返事をすると、女の子は一気にこちらとの距離を縮めて迫ってきた。
【?/美織】「あの男、なんとかしてくれないか」
【怜梧】「な、なんでだよ」
【?/美織】「立ち聞きしてたんだろう?これくらいやってくれないと困る」
【怜梧】「……状況がわかんねぇから何とも言えない」
【?/美織】「見てわからないか?」
【怜梧】「……」
しばし考えてみる。
【怜梧】「ナンパか?」
【?/美織】「……私がそんなものに合うわけないだろ……」
いや、自分で言うなよ。
月並みだけど、この女の子顔は悪くないじゃないか。
【怜梧】「じゃあストーカー?」
【?/美織】「……まぁ、そんな感じと思っていい」
【怜梧】「ふーん、大変だな」
【?/美織】「ああ、迷惑なんだ。だからなんとかして追っ払ってくれないか?」
【怜梧】「……しょうがないな」
【?/美織】「頼んだぞ」
なんだか言われるままになっているような気がする。まぁ、しょうがないか。
俺は男の方へと向き直った。
【男子生徒】「だ、誰だよお前」
【怜梧】「ただの通りすがりだ。それより、こいつが何だか迷惑がってるようだから、付きまとうのはよしとけ」
【男子生徒】「お、お前には関係ねぇだろ!」
【怜梧】「まぁ、確かに関係ないな」
【?/美織】「ばかっ、あっさり認めるな!」
【怜梧】「いや、だって本当の事だろ……」
【男子生徒】「俺はこの子に用があるんだよ。すっこんでろ」
【怜梧】「悪いがそうもいかない」
【男子生徒】「はあ?」
【怜梧】「俺はうっかりだがこいつが困ってるところを見ちまった。それに助けを求められたら、ほっとけなるわけないだろ」
【怜梧】「確かにあんたからしちゃ俺はただの部外者だ。けど、今だけはこいつの仲間なんだよ」
【?/美織】「…………」
【怜梧】「だから言っとく」
【怜梧】「こいつには、手を出すな」
きっ、と男を睨む。
あまりこういうのは得意じゃないが、威嚇のためにもやっとけと慎二郎に教わった事がある。
【男子生徒】「っ……」
よし、どうやら凄んでくれたようだ。
【男子生徒】「うっ、うるせえ!いいからどけよ!」
男がそう叫ぶと、男の手が俺の横―――女の子の方へと伸びる。
やばい、手挙げてきやがった!
ドンッ!
【?/美織】「―――うあっ!」
不意を突かれて押され、女の子はそのままなす術なく尻餅をつく。
【怜梧】「お、おいっ、大丈夫か?」
すぐに女の子へと駆け寄る。
良かった、ぱっと見たところ怪我はなさそうだ。
【怜梧】「……」
……何も手出すことないだろ。
立ち上がって、呆然としている男をもう一度睨む。
今度は威嚇じゃない。本気で怒りがこみ上げてきた。
【?/美織】「お、おまえ……っ」
【怜梧】「てめぇ……やる事にも限度があんだろ」
【男子生徒】「ひっ……」
【怜梧】「聞こえてねぇならもう一回言うぞ。手を出すな」
【男子生徒】「う……」
【怜梧】「手ェ出すなっつってんだろうがッ!」
廊下に響くくらいの大声で怒鳴る。
もう、他人だろうと知ったことか。
このまま首根っこ掴みに行ったって構いやしないんだぞ。
【?/美織】「……二人とももうやめろ」
【怜梧】「……え?」
【?/美織】「これ以上揉め事になりたくない。やめないと、大声で泣くぞ?」
そういう女の子の目には、既に大粒の涙が浮かんでいた。
……お前、もう泣いてるじゃん。
【?/美織】「き、聞いてるのかっ」
【男子生徒】「わ、わかったよ!今日はあきらめるよ……」
【怜梧】「…………」
ちらり、と俺は女の子を見る。
【?/美織】「……(こくり)」
【怜梧】「もう二度と近づいてほしくないみたいだぞ」
【男子生徒】「くっ……」
【?/美織】「もうあきらめろ。今日のことは許すが、こんな状態で私を引き入れても仕方ないだろう?」
【男子生徒】「……はぁ」
【?/美織】「それじゃあな」
そこまで言って、女の子はくるりと踵を返した。
あまり長らく話していてもしょうがないと判断したみたいだ。
……やれやれ、これで終わりかな。
【怜梧】「さてと……」
あまり面倒事に関わってて元の目的を忘れちゃまずい。
俺もまたこの場を去ろうとする……が。
【?/美織】「おい、何してる?」
彼方から女の子が声をかけてきているのに気づいた。
【怜梧】「え、いや、もう戻ろうとしてんだけど」
【?/美織】「何言ってるんだ。もうちょっとだけ付き合え」
【怜梧】「は、はぁ?」
【?/美織】「―――話がある。場所を移すぞ」
さて。
言われるがままについて来てしまった。
断ろうとも思ったが、この女の子、妙にオーラを感じるんだよな。
【怜梧】「で、話ってなんだ?」
【?/美織】「ああ。まだ感謝の言葉がないだろ?それを言おうと思って」
【怜梧】「いや、別にいいんだが……」
【?/美織】「そうもいかない。たまたま通りがかっただけなのにここまでしてもらったんだからな」
【怜梧】「まぁ俺捕まえたのお前だしな」
【?/美織】「というわけで改めて……ありがとう。助かった」
【怜梧】「…………」
う、うーむ。何だか変な気分がする。
人に感謝されるってのはあんまりないからな……。
【怜梧】「……べ、別にいいって」
【?/美織】「お前、素直じゃないな」
【怜梧】「大きなお世話だっ」
【?/美織】「まあともかく、助かったのは事実だ。それだけは本当に感謝してる」
【怜梧】「まぁ、いいけどさ」
【怜梧】「とりあえず、ストーカーってのは怒らせると怖いんだぞ?一体何でつきまとわれてんだか……」
【?/美織】「…………」
【怜梧】「……ん?」
すると、なぜだか女の子は目をぱちくりさせている。
俺、なんか失言でもしたか?
【?/美織】「……お前、私が誰だか知らないのか?」
【怜梧】「そういえば……」
そういえば知らないな。
こいつ、そんなに有名人なのか?
【怜梧】「……さっぱりだな」
【?/美織】「……いや、知らないならいいんだ。それはそれでこっちも助かる」
【怜梧】「なんか随分と自分に自信あるみたいに聞こえるんだけど」
【?/美織】「そんなわけあるかっ!」
【怜梧】「おいおい怒るなよ、本当に知らないんだって」
【?/美織】「はぁ……いや、いい。男のお前なら知ってても不思議じゃないと思ったんだ」
【怜梧】「ふぅん」
じゃあ男子の間で神格化されてるアイドルとかなのか。
生憎とそういうのには疎いんだよ。慎二郎と違ってな。
【?/美織】「ところでお前、名前は?」
【怜梧】「名前?あぁ、高峰だよ」
【?/美織】「高峰か。覚えておくぞ」
なんかそういう言い方は俺がこいつに恨みを買ったようでならないんだが。
【?/美織】「私の名前は……知らないんだったか」
【怜梧】「無理に名乗りあわなくてもよくないか?」
【?/美織】「それくらいいいだろ。人間、次いつどこで会うかわからないんだからな」
いやいや、俺としてはもうああいう事に巻き込まれるのはご免なんだけど。
【怜梧】「……ん?」
……と、そう思いながら、ある人物が目に入った。
【?/かなか】「あ、お~い!高峰くーん!」
向こうも俺の存在に気づくと、手を振りながらこっちへ向かってくる。
【?/美織】「……知り合いか?」
【怜梧】「ああ」
【かなか】「どうしたの?こんなところで」
【怜梧】「ちょっとヤボ用だよ」
【かなか】「ふーん……」
東海の目がきょろきょろと移る。
以下の順番、俺、女の子、俺、女の子、俺、俺の順である。
【怜梧】「な、なんだよ」
【かなか】「……あっ、あはははは!あ、あたし、もしかしてタイミング悪かったあ?」
【怜梧】「は、はぁ?」
【かなか】「ご、ごめんね~お邪魔だったみたい~」
【怜梧】「んなわけないだろ。むしろ助け舟ってやつだぞ?」
【かなか】「で、でも……」
【怜梧】「大体、俺こいつと知り合ったのだって今日が初めて―――」
【?/美織】「おい」
背後から突然、妙にトーンの落ちた声が投げかけられた。
……思わず、声を出すのを止める。
【?/美織】「……そこのお前」
【かなか】「へ?あたし?」
【?/美織】「その後ろから提げている物はなんだ?」
【かなか】「あ、これ?そうそう高峰君、これこの前言ってたやつだよ!」
【怜梧】「お、マジで?」
そう言って、東海はさっきからずっと背後から提げていた”ギターケース"を見せてきた。
それを受け取って、中を見ようとジッパーに手をかけ―――。
【?/美織】「―――私が言ってるのはっ!」
【怜梧】「~~~っ!?」
【かなか】「ひゃ、ひゃああ!?」
先程とは打って変わったような女の子の声で、手を止めてしまう。
【?/美織】「どうしてお前とそれが関わってるんだ……」
【怜梧】「……なんだって?」
こいつの言う”それ”って……。
【かなか】「もしかして……ギターのこと……?」
【?/美織】「お前、私のことを知らないと言ったな」
【怜梧】「マジで知らんよ」
【?/美織】「ギターはできるのにか?」
【怜梧】「……?」
……一体なんなんだ?
俺がギターできるから、こいつは怒ってんのか?
【?/美織】「……もういい。今日のことは感謝するが、もう私に近づくな」
【怜梧】「おい待てよ。全然話が読めないぞ」
【?/美織】「……まだそんなことを言うのか」
【怜梧】「そんなことも何もただお前が突っ走ってるだけだろ?俺は事情を説明しろって―――」
【?/美織】「私の名前は山波 美織だ。わかったら、それ以上関わるな」
【怜梧】「―――へ?」
今……なんつった?
そう問いかけようとしたが、既に奴は踵を返していた。
多分、今声をかけても、何も反応してくれないに決まってる。
……俺はただ、立ち尽くしていたままだった。
【かなか】「た、高峰君……」
傍らにいた東海が、不安げな声でそう言ってくる。
【怜梧】「今の……聞いてたか?」
【かなか】「う、うん。あの子、山波って言ってたよね……?」
【怜梧】「……なんてこった」
……。
すっかり取り残されていた俺の頭が、ようやく事態を把握してきた。
最初は、ただストーカーまがいの奴につきまとわれてる可哀想な奴だと思っていた。
けれど違う……俺の思い違いだった。
あいつこそが、俺が昨日からバカみたいに必死に探していた……山波 美織その人だったことに、俺はようやく気づいた。
最終更新:2007年12月30日 00:41