あらすじ
俺は裏切っちゃいない。そしてそれをもう一度、あの子に信じてもらいたい。
- 未だメンバーが2人しかいない中練習を始める怜梧とかなか。
かなかの上達にあまり期待はしていなかった怜梧だが、練習していると意外と飲み込みがいいことに気づく。
再びメンバー探しをする二人(+α)。
が、やはりベース担当の枠が美織しかいないので、なんとかして説得しなければいけない。
美織を怒らせてしまったままなので近づくのも危うい状況だが、怜梧はもう一度美織に会いに行くのであった。
…………。
【怜梧】「…………」
【かなか】「っ…………」
じゃ~ん!
【怜梧】「…………」
【かなか】「~~っ…………」
じゃじゃじゃじゃ~!
【怜梧】「…………」
【かなか】「…………」
【かなか】「あ、あのさぁ!」
【怜梧】「んー?」
【かなか】「え、い、いやぁ~……その……」
【かなか】「な、なんで何も言わないのかなぁ~って」
【怜梧】「いや、邪魔しちゃ悪いかなって思ったんだけど」
【かなか】「だからって何も言わないでじっと見られると……」
【怜梧】「そうか?俺の視線なんかいちいち気にしなくたっていいのに」
【かなか】「う、うん、それはそうなんだけど……」
そう言って東海はもじもじしてしまう。視線も宙を彷徨っているようだ。
まあ、最初のうちはこっ恥ずかしいのかもしれないけど、俺が見てるだけで恥ずかしがっていたんではライヴでどうにもならない気がするんだが。
…………。
ふと、窓の外の蒼穹に目を向ける。
相も変わらずセミの鳴き声が響いていた。
先日のベーシスト勧誘で見事山波美織を怒らせてしまった(らしい)俺たちは、メンバー探し以外で現状況でできることを模索した結果、とりあえずは東海のギター練習をしようということになった。
俺自身、人にギターを教えるのは初めてだったからどうなるもんかと心配していたんだが……。
数日前。
時刻はいつもと同じ、放課後での話だ。
【怜梧】「で、ギター持ってきたんだっけ?」
【かなか】「うん、お兄ちゃんから借りたんだ」
【怜梧】「へぇ……」
じぃぃっ。
東海から手渡されたギターケースを開ける。
はてさて、どんなギターなんだろうか……。
【怜梧】「…………」
【かなか】「ど、どう?」
【怜梧】「これは……」
中から出てきたのは、レスポールタイプのギターだった。
ペグが左右3つずつ対称に配置されたヘッドに、曲線を描くそのフォルム。
ヘッド部分のブランドロゴを見てみると……。
【怜梧】「んーと、フェルナンデスか」
【かなか】「ふぇるなんです?」
【怜梧】「メーカーの名前だよ。ほら、ここに書いてあるだろ?」
【かなか】「あ、ホントだ」
フェルナンデスのレスポールタイプのギターだから……確かバーニーっていうんだっけか。
とりあえず、見た感じ不備もないし練習には充分使えそうだな。
【怜梧】「……あれ?」
【かなか】「どうしたの?」
【怜梧】「いや……」
持ち上げてみると、すぐその違和感に気づいた。
【怜梧】「結構……軽いな」
【かなか】「うん。この前高峰君に渡されたやつよりずっと軽くてびっくりしちゃったよ」
【かなか】「案外ギターって、重そうに見えて軽いんだね」
いや……そうじゃない。
むしろレスポールなんて少し重い方だ。
女の子が持つにはちょっと大変なんじゃないかと思うのが普通だろう。
けど、これは違う。
持ち上げて初めてわかるが、随分軽量化されてる。
加えてカラーリングだって、映えるようなオレンジ色だ。
ここまで意識された作りだと、まるでこのギターが元々女の子用に作られたやつじゃないかと思える。
【怜梧】「これ、東海のお兄さんが持ってたの?」
【かなか】「うん、そうだよ。家にホコリ被って置いてあったってさ」
【怜梧】「そか……」
男の人がこれを持ってるって事がどうも気になるが、東海が扱いやすいと予想したのを選んでくれたことには変わりないか。
悪い意味もないだろうし、ありがたく使わせてもらうとしよう。
そうして、東海の練習は始まった……。
とまぁ、特訓が始まったわけだけども。
【かなか】「むむむ……」
【怜梧】「…………」
悶々と唸る東海に対して、俺はただぼーっと見ていることしかしない。
いや、正確に言えば”それしかすることがない”んだな。
そりゃなぜかって、この娘、恐ろしく飲み込みが早いのである。
ギターを始めるに当たって、最初にすべき練習はこれといって決まっていない。
言うなれば、あれこれ言われてやるより、ギターに触れていることが何よりも大事ってことなわけで。
つまり、コード譜を覚えるも良し、いきなりTAB譜を読みながら一曲弾けるまで練習するも良しというわけだ。
で、俺も最初の時点で東海に何から始めたいかと聞いてみたところ。
【かなか】『家でお兄ちゃんにコード譜なんて弾き語りするんじゃねえんだから、弾きたい楽譜探してそれ見て手豆作ってこいって言われたんだけど……』
と、返される始末だ。
なんつーか……それは東海の今の実力をわかって言ったんだろうか。
いや、自分の妹のことくらい、兄が知っててもおかしくないか。
確かに文化祭に間に合わせなきゃいけないのは必然だし、それまでパワーコードくらいが弾けるようになればそれなりに形にはなる。
そう考えると、コードを覚えるという過程を初めからすっ飛ばした方がいいのかもしれない。
そうして、東海は後日楽譜を持ってきた。
【かなか】『えっと、外国のバンドの曲みたい』
【怜梧】『なんてバンド?』
【かなか】『んーと、羅門さん達?』
【怜梧】『……オーケーわかった』
確かにこのバンドの曲は比較的簡単な方だし、いいチョイスだな。
というか、これパンクだし。
東海本人はこのバンドのことはよく知らないみたいだけど、まぁいいか。
……。
俺と東海しかいない教室に、ぎこちない旋律が流れている。
お互い体中にねっとりと汗をかいていた俺たちは、いつしか午後の晴れやかな時間が過ぎるのも忘れかけていた。
【かなか】「―――ねぇ」
【怜梧】「……ん?」
ふと、東海がギターを弾く手を止めて、問いかけてきた。
【かなか】「この前のこと、なんだけど……」
【怜梧】「…………?」
この前のこと……?
抽象的に言われた俺は、それがどのことを指しているのかがすぐにはわからなかった。
【かなか】「……山波さんのこと」
【怜梧】「……。あぁ……」
【かなか】「怒らせた、ままなんだよね?」
【怜梧】「……あぁ」
【かなか】「……どうするの?」
【怜梧】「どうするのって……」
あの子がベーシストである以上、このまま怒らせたままにしておくわけにはいかない。
なんとか誤解を解いてバンドに誘わないと……。
【怜梧】「…………」
【かなか】「……高峰君?」
でも……待てよ。
じゃああの子がもしベーシストじゃなかったら。
俺は……このまま事態を放っておいたんだろうか。
いや、違う。
仮にあの子がそうでなくても、俺に対しての怒りが誤解ってことに変わりはないはずだ。
このまま誤解されっぱなし、っていうのも、なんだか気分が悪い。
それに……納得がいかない。
だから……。
【怜梧】「そりゃ……謝る」
【かなか】「もう一度会いに行くの?」
【怜梧】「ああ。なんとかして、頼み込んでみる」
【かなか】「そっか……」
【怜梧】「……? どうかしたのか?」
【かなか】「えっ!?い、いいいや、その……」
【かなか】「もしこのままだったら……あたしが、謝りに行こうかなって思ってたんだ」
【怜梧】「え、どうして?」
【かなか】「だっ、だって、あたしがあの時ギターなんて持ってかなかったら、こんなことにならなかったでしょ?」
【怜梧】「…………」
【かなか】「オトシマエ、っていうのかな? うん、まぁ、それをしようかなーって……」
【怜梧】「こら」
びしっ!!
【かなか】「あいたぁ!?」
東海の頭に、軽くチョップを落とす。
ちょっと小突いたつもりだったんだが、結構痛がってるみたいだ。
【かなか】「な、な、な、なにするのぉ!?」
【怜梧】「あのなぁ、仮に東海がギター持ってこなくたって、俺がバンドの話振りゃどの道向こうは怒ってたっての」
……多分だけど。
【かなか】「う、うん……」
【怜梧】「だーかーら、今回は誰が悪いとか、そんなん気にしなくていいんだよ」
【かなか】「うん……」
【怜梧】「で、今我がバンドにいる唯一の男手である俺が、代表となって謝罪に行くんだ。それだけのこと!」
【かなか】「ん……わかった」
多少ハッタリやら誇張やらが入ったけど、これで東海も自責に囚われることもないだろ。
ともかく、色々と俺がミスったトラブルなんだ。
……俺自身で、なんとかしてやりたい。
【怜梧】「さてと! 楽譜、どこまで弾けるようになった?」
【かなか】「あ、うん、ちょっとミスりやすいとこがあって……」
【怜梧】「どれどれ、見せてみ……」
……。
ふと。
あの時怒った彼女の顔を思い出す。
あれはまるで……そう、信じていた人に裏切られたような、行き場のない怒りが混ざった顔だった。
どうしてそんな顔をしたのか、俺だってわかるさ。
けど、俺は裏切っちゃいない。そしてそれをもう一度、あの子に信じてもらいたい。
だから、もう一度会いに行く……彼女の元に。
さて、なるべく事は早い方がいいよな。
早速、明日にでも会いに行こう……。
最終更新:2007年12月30日 00:44