シナリオ 北上ルート 8月11日(土曜日)・その3
繋いだ手は
心配していた脱線もなく、昼の練習も無事終えた。
そして今──
真緒(つ、疲れた……)
二人きりで夜の練習中。
……まさかここまでやるとは思っていなかった。
朝昼で十分にやったから、夜も練習なんて思いもしなかった。
奏「■☆★○△$%♪」[pcm]
必死に歌っている彼女とは反対に、ぼくは疲れきっていた。
朝からずっと練習、練習、練習で……
今日一日、基本的な生活以外は全部練習だったんじゃないだろうか。
だけど、ぼく以上に疲れているはずの奏は微塵もそんな様子は見せない。
だから頑張って練習をしないといけないけど……
真緒(駄目だ……どうしてか疲れが酷い)
真緒(夏バテなんだろうか……体が重い)
真緒(しかし……ぼくがへばってどうする)
奏「センセ! どう?」
真緒「……え?」
奏「んもーちゃんと聞いてて! もう一回歌うからね!」
真緒「あ、ああ、ごめん」
そしてまた奏は歌い始めた。
本気になった彼女の頑張りはただ、凄いとしか言えない。
だいぶリズムも良くなってきているし、このままこれを維持できたら
あながちあの中二病も実現できるんじゃないかって
そんな事さえ思ってしまう。
だけど、ずっとこんな練習じゃ体が持たないよな……
夕食が終わってからもう結構経つはずだしさ。
ふと携帯を取り出し時刻を見る。
真緒(もう二十三時を過ぎてるのか……)
夕食が終わったのが七時過ぎ。
それからここへきたわけだから、
かれこれ四時間は練習してる事になる。
さすがに今日はもうこの辺りで……
真緒「奏」
奏「ん?」
真緒「今日はもうお終いにして、明日に備えよう」
奏「え? でも、もうちょっと練習したいし」
真緒「もうすぐ日付も変わるしさ、それに無理はよくないよ」
奏「無理なんてしてないし」
真緒「でも、疲れただろ?」
奏「疲れたけど、そんなこと言ってられないし」
ぼくも昔はこうだった気がする。
ライブの日が迫ると、皆遅くまで練習に明け暮れてた。
無理をしていると分かっていても、ジッとしてられないんだよな。
真緒「気持ちはよく分かるよ。でもこれじゃライブ前に体壊すからさ」
奏「………」
真緒「体力配分も大事な事だよ」
奏「……でも、不安だし」
真緒「大丈夫だって、練習でも本番でもぼくが側にいるからさ。
何かあってもすぐ助けるよ」
奏「……ん」
真緒「今日は終わりにして、また明日頑張ろ」
奏「……うん。だってセンセがいてくれるんだもんね」
真緒「ああ」
奏「じゃあ今日はお終い」
真緒「ああ、今日はお疲れ」
奏「センセこそお疲れさまだし」
真緒「……ああ」
奏「………」
真緒「じゃあ帰ろうか」
奏「……ん」
真緒「どうした?」
奏「全然ロックじゃないけどさ」
真緒「何だ?」
奏「たまには良いよね」
真緒「何が?」
奏「えへへ」
奏がぼくの手を握ってくる。
長時間の練習にもかかわらず、とても冷たい手だった。
奏「夜は寒いし」
真緒「ああ、そうだな」
奏「センセの手冷たいし」
真緒「ん、そうか」
奏「アタシは温かいでしょ。だって中身はクールだし」
真緒「なにそれ?」
奏「クールでロックだとさ、逆に手は熱いって言ってた」
真緒「誰が?」
奏「せえらちゃん」
真緒「まぁでも、たしかにそんな話聞いた事あるなぁ」
奏「センセの手がそうじゃないのは残念だけど」
真緒「ま、どっちでも良いんじゃないか」
奏「へへ、そだね」
長い一日がもうすぐ終わる。
このまま帰ってすぐに寝れば疲れもそれなりにとれるだろう。
今日の疲れ、明日に引きずらないようにしないとな……
最終更新:2010年07月13日 23:32