シナリオ 北上ルート 8月14日(火曜日)・その2
お疲れの真緒
寮長「お疲れ様です」
朝の練習を終え寮に戻ると、寮長が迎えてくれる。
そして冷たいお茶をぼく等に渡してくれるのが、最近の日課になりつつあった。
寮長「はい、どうぞ」
真緒「いつもありがとう、助かるよ」
奏「サンキュ」
寮長「いえ」
寮長からコップを受け取ると、飲むというよりお茶を喉に流し込んだ。
練習中水分を取っているとはいえ、炎天下の外ではいくら飲んでも喉が渇く。
真緒「ぷはー生き返るな!」
奏「……ロックじゃないから止めてよセンセ」
真緒「そうか、豪快でロックだろ?」
奏「なんか親父臭いし」
真緒「な!?」
奏「止めて欲しいし」
寮長「ふふ」
真緒「でも一気飲みはロックっぽいけどな」
奏「そっかな?」
真緒「ああ、奏も一度やってみたらどうだ?」
奏「あ!」
真緒「え?」
寮長「………」
真緒「え? どしたの?」
奏「セ、センセ、名前言っちゃったし」
真緒「あ……」
ついうっかり口に出していたようだ。
この距離だ、当然……
寮長「ふふ、ずいぶん仲良くなったんですね。
ちょっとビックリしちゃいました」
真緒(ばれた……)
奏「……べ、別に仲良くはなってないし」
真緒(な……)
寮長「ふふ」
真緒(ま、まぁ照れてるだけだろう。問題は──)
真緒「寮長、これはその、莉緒たちには内密に」
寮長「ええ、もちろんですよ」
奏「もう、センセのドジ」
真緒「ご、ごめんつい」
奏「んーでもさ、コソコソ呼び合うのも嫌だしもう隠すの止めようよ」
真緒「い、いや、それは」
奏「寮長にばれちゃったしもういいじゃん」
真緒「い、いや、莉緒たちは寮長みたいにはいかないからさ、今はまだ駄目だって」
奏「じゃあ、いつなの?」
いつって言われても……
そんなの正直考えた事もない。
ここにいる限りずっと秘密で通すつもりだったわけで……
真緒「……卒業するまで、かな」
奏「なに言ってるのセンセ! そんなの許さないし!」
真緒「いや、そう言われても……」
奏「じゃあアタシが決めるから」
真緒「いつにする気だ?」
奏「今からね」
真緒「ちょ」
寮長「ふふ」
奏「卒業までとかふざけてるし」
真緒「い、いや別にふざけてなんか……」
奏「………」
う……久々に怒ってるな。
仕方ない、いずれはばれる事だ。
いきなり名前で呼び出すのは色々とまずいと思うけど、
この寮にいる事やライブに一緒に出るから仲良くなったと学園の子には押し通すか。
生徒を名前で呼ぶ先生もいる事だしな。
そんなに心配する必要もないか。
問題は莉緒たちぐらいで……
真緒「分かった……じゃあライブが終わったら」
奏「ほんと?」
真緒「あ、ああ」
奏「嘘ついたらアタシ怒るし」
真緒「嘘じゃないって、ライブ終わったらそうするからさ」
奏「えへへ、楽しみ」
真緒「………」
寮長「良かったですね北上さん」
奏「うん。でも遅いよね、リオはリオって呼んでるんだよ寮長?」
寮長「それは、寺井さんは知り合いだったからですよね」
奏「そんなの関係ないし」
真緒「はは……」
奏「でさ、寮長にバレちゃったから、せえらちゃんにもバラしていいよね?」
真緒「ええ!?」
奏「アタシ言ってくる!!」
真緒「ちょ、ちょっと」
止める間もなく走っていった……
八十記にばれたら莉緒や岸岡や阿部高にも……
……時間の問題だな。
今から言い訳を考えておくか……
寮長「先生」
真緒「ん」
寮長「大丈夫ですか?」
真緒「え?」
寮長「最近お疲れの様子ですから……」
真緒「あ、ああ、それか」
寮長「あまり無理しない方が」
真緒「ありがとう、でもライブも迫ってるから多少の無理はしないと駄目なんだ」
寮長「………」
真緒「それにあいつの方が疲れてるだろうし、男のぼくがそんな事言ってられないよ」
寮長「でも顔色が悪いですし、それにご飯もほとんど食べられてないですよね」
真緒「……うん、暑いせいか食欲無くてさ」
寮長「食べやすいものがあれば言って下さい。私作りますから」
真緒「ありがとう寮長、心配かけて悪いね」
寮長「いえ……」
真緒(疲れが顔に出てるのかな……)
真緒(………)
寮長「……先生、どうか少しでも休んで下さい」
真緒「いや、でも」
寮長「北上さんには私から言っておきますし、練習も私が付き合いますから」
真緒「………」
無理をしすぎて体はずっと悲鳴をあげてる。
ここは寮長の言葉に甘えて休んだ方がいいだろうか……
真緒「そうだな……」
長々と休む事は出来ないけれど、また集中して練習するためにも
少しの休みは必要かもしれない。
真緒「それじゃ寮長、部屋に戻ってちょっとだけ休んでくるよ」
寮長「はい」
真緒「すぐにここへ来るからって伝えておいて」
寮長「はい、ですけど無理はせずに」
真緒「ありがとう、それじゃ」
部屋に戻るとすぐにベッドに倒れこんだ。
ぼくの上に莉緒か誰かが乗ってるんじゃないかと思うほど、
体がベッドへ沈んでいくのが分かる。
もう体どころか指先一つ動かすのもおっくうになってきた。
このまま少しだけ、ほんの少しだけ眠りにつこう。
ぼくは目を閉じた……
最終更新:2010年07月13日 23:37