シナリオ 寮長ルート 7月25日(水曜日)・その6
疑心暗鬼
北上が八十記に近寄ったかと思うと、
鈍い音が聞こえ、そして──[plc]
せえら「カ…カナちゃ……」[plc]
胸から血を流した八十記が崩れ落ちていく。[plc]
見開いた目でぼくを見ながら、ゆっくりと……[plc]
奏「………」[plc]
崩れ落ちた八十記を見下ろしている北上。[lr]
その右手には血のしたたる包丁が握られていた。[plc]
あれで八十記を刺したのか?[lr]
嘘だろ? 冗談なんだろ?[plc]
あまりの出来事に口も体も動かせない。[lr]
ぼくは、ぼくは夢でも見ているんじゃないだろうか……[plc]
奏「センセ、これで二人っきりだね?
アタシをいっぱい愛してね」[plc]
その笑顔が……[lr]
笑う北上が……恐ろしい……[plc]
倒れた八十記が……[lr]
まだ握られた包丁が……[plc]
奏「どうしたのセンセ? なんで黙ってるの?」[plc]
奏「せえらちゃんならちゃんと死んだよ? ねぇ?」[plc]
奏「もしかしてせえらちゃんのこと? ねぇ?」[plc]
奏「アタシ許さないよ? ねぇ? なにかいいなよ!」[plc]
地面に向けられていた
包丁の先端がぼくに向けられた。[plc]
ぼくも……殺される?[plc]
真緒「うわぁあああああああああ」[plc]
奏「逃がさないし」[plc]
自分の叫び声で極度の緊張が解けたのだろう。[lr]
金縛りの様な状態から一転、ぼくは全力で走った。[plc]
ただ恐怖から、北上から遠ざかるために──[plc]
奏「許さない許さない」[plc]
背後から聞こえる声。[lr]
追ってきているのは間違いなかった。[plc]
……逃げ切らないと、殺される。[plc]
見渡しの良い運動場から校舎方面へ。[lr]
角をいくつも曲がり、北上を振り切る。[plc]
どれくらい走っただろう。[lr]
背後からの気配と声が聞こえなくなった。[plc]
走り疲れたぼくは立ち止まり、後ろを振り向く。[plc]
北上は──[plc]
はるか前方に北上はいた。[plc]
ぼくに気づいているのか分からないけど、視線はこっちを向いている。[plc]
ゆっくりと歩きながらぼくの方へと少しづつ……[plc]
真緒「!?」[plc]
左手を誰かに掴まれる。[lr]
まさか? 北上はあそこなのに![plc]
そんな馬鹿な![plc]
和「キミ! こっちだ」[plc]
真緒「阿部高?」[plc]
問いに答えず、阿部高はぼくを引っぱってどこかへ行こうとしている。[plc]
北上じゃなかった事に安心はしたが、ぼくは同じように阿部高も警戒していた。[plc]
できるならこの手を振り解きたいとさえ……[plc]
和「大丈夫かい?」[plc]
真緒「……もう大丈夫だから手を離してくれ」[plc]
和「ふ、冷たいな。ま、ここならしばらくは大丈夫だぜ」[plc]
真緒「阿部高……どうしてお前はここにいるんだ?」[plc]
和「キミの後をつけてきたんだよ」[plc]
真緒「ぼくの後を?」[plc]
和「ああ、キミが出て行く所をみんな見ていたんだ」[plc]
真緒「皆で……じゃあ全員でここへ来たんだな?」[plc]
和「ああ、そうだぜ」[plc]
とすると、北上の言葉は嘘になる。[lr]
薄々分かっていたが、これでハッキリした。[plc]
阿部高を完全に信用はできないが、北上よりは信用できる。[plc]
それにしても北上……[lr]
狂ってしまったんだろうか……[lr]
そうでもなけりゃあんな事……[plc]
和「どうした?」[plc]
真緒「阿部高……八十記が」[plc]
それ以上言えなかった。[lr]
はっきりと生死を確認している訳じゃない。[plc]
けれどあの様子ではもうすでに……[plc]
和「北上さんか」[plc]
真緒「どうして? 知ってるのか?」[plc]
和「なんとなく……じゃない。北上さんしかいないからだ」[plc]
真緒「どういう事だ」[plc]
和「オレたちはキミを追ってここまで来たんだ。
そこまでは良い」[plc]
和「だが、ここに来てから北上がおかしくなった」[plc]
真緒「おかしく?」[plc]
和「ああ、突然暴れだしたんだ。
寮から持ってきたのか知らないが包丁を振り回してな……」[plc]
真緒「……包丁」[plc]
脳裏に浮かぶ、八十記のあの姿……[plc]
和「岸岡さんが刺されてそれで……オレたちはバラバラに逃げちまったわけなんだ」[plc]
和「いざという時にオレは……」[plc]
真緒「……岸岡が刺された? だ、大丈夫なのか?」[plc]
和「……なんだ? そんなに岸岡のことが心配なのか?」[plc]
真緒「当たり前だろ!」[plc]
和「なぁに、大丈夫だ。
腕を切られただけだと思うぜ」[plc]
真緒「そうか……生きてるんだな、安心した」[plc]
和「………」[plc]
真緒「莉緒は、莉緒はどうした?」[plc]
和「知らん」[plc]
真緒「知らんって……」[plc]
真緒(………)[plc]
言葉の節々から感じる冷たさ。[lr]
ぼくの思い過ごしであって欲しい。[plc]
真緒「そうだ! 寮長は! 寮長を見なかったか!」[plc]
和「……ふ、ずいぶんと熱をあげてるようだな」[plc]
真緒「熱? 何を言って?」[plc]
和「言葉通りだ。寮長が心配なんだろ?」[plc]
真緒「ああ、心配だ」[plc]
和「オレが家出しても、キミは同じように心配してくれるのか?」[plc]
真緒「当たり前だ」[plc]
和「嘘だね! キミは寮長が好きなんだ、だからそんなに心配してるんだ」[plc]
思い過ごしじゃない。[lr]
違う、阿部高だけど……阿部高じゃない。[plc]
真緒「お前……」[plc]
和「好きなんだろ? 愛してるんだろ? 寮長をさ?」[plc]
真緒「どうしたんだよ……」[plc]
和「好きなのか? 好きなのか? なぁキミ答えろよ」[plc]
和「好きなんだろ? はは、アハハハハ」[plc]
北上と同じだ……[lr]
目が完全にイッてる……[plc]
──逃げよう、このままじゃやばい。[plc]
和「おっと……逃がさないぜ」[plc]
逃げようと思った直後だった。[lr]
阿部高に捕まって、そして首を思い切り絞められる。[plc]
真緒(なんて力だ……)[plc]
和「答えてくれよ、なぁ…やらないかぁ……」[plc]
真緒「う…あ……」[plc]
首が……絞まる。[lr]
引き離……せない。[plc]
目が…意識が……[plc]
最終更新:2010年07月15日 23:46