Ｅ-７／３１-6

シナリオ　阿部高ルート　７月３１日（土曜日）・その６

　母と子

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和の母「あの子があんな風になった理由を知りたい、ですよね」

真緒「はい、よろしければ聞かせて貰えませんか」

和の母「ええ……」

少しの間があって、そしてお母さんは口を開いた。

和の母「あの子があんな風になってしまったのは、
私とあの子の父親が原因なの」

真緒「お母さんと、お父さんの？」

和の母「どこから話せばいいかしらね……」

和の母「そうね……あの子の父親はとても奔放な人なの」

和の母「良い男になるんだーなんて、いつも言ってたわ。
だから和にうつっちゃったのね」

真緒「………」

和の母「そんな人だったから、突然何かをするって事が多くて、
あの時もそうだったの」

和の母「和がまだ小学校に入ったばかりの頃なんだけど、
あの人突然、山に行くなんて言ったきり家を出て行ったの」

真緒「山に……」

和の母「ええ、いつもみたいにすぐに帰ってくると思ったんだけどね。
待っても待っても全然帰ってこなくて」

和の母「結局、一年近く何の連絡も無かったわ」

和の母「そしてその一年の間にね、和は今みたいになったの」

真緒「お父さんがいなくなったからなんですか？」

和の母「……先生は、恋人や奥さんが旅行に行くと言って、
一年も連絡が無かったらどう思います？」

真緒「それは……心配すると思います」

和の母「そうね、心配するわね。そして、とても悪い事を考えるようになるわ」

真緒「………」

和の母「連絡が無いのは、もう死んでるからなんじゃないかって。
そうじゃ無かったら、違う女の人が出来たんだって……」

和の母「毎日毎日そんな事ばかり考えていたわ……」

真緒「………」

和の母「精神的に参ってたのね。何もかもがぼやけて、私自身生きてるのか死んでるのか分からなかった」

和の母「だから、和が遊ぼうとせがんできても話しかけてきても、それに答える事が出来なかった」

真緒「………」

和の母「ちょうど甘えたい時期なのに、私は何一つ和の想いに応えられなかった……寂しい思いを長い間させて……」

和の母「そんなある日、あの子が突然男言葉を喋り始めたの」

真緒「………」

和の母「クラスの男の子の真似をしてるだけって最初は思ったわ。
でもね、何日立っても治らなくて」

和の母「俺は良い男になるんだって何回も何回も私に言ってきたの。
ううん、言葉だけじゃなくて振る舞いも段々と」

和の母「ぼんやりしてた私もきっと、それで目が覚めたのね。
そして和に言ったわ、どうしてそんな言葉を話すのって」

真緒「………」

和の母「……和は何も言わなかった。でも私には分かったわ」

和の母「あの人がいなくなって駄目になった私を、私を励まそうとしてくれてるって」

和の母「それと、振り向いて欲しいっていうのもあったでしょうね」

真緒「阿部高……」

和の母「先生はあの子の事、どんな風に見ていますか？」

真緒「どんな風……」

和の母「ええ」

真緒「元気で奔放で……可愛らしいと」

和の母「ふふ、最後のは当たってます。
でも、あの子は元々私にソックリで、とても大人しい子なんですよ」

和の母「最近はあれが慣れちゃったのか、大胆にはなってますけど」

真緒「あの、その事以来ずっと阿部高はあんな感じなんですか？」

和の母「……ええ」

真緒「阿部高のお父さんは？」

和の母「あの人は……生きてます。和があんな風になってからしばらくして、電話があったんです」

真緒「そうですか……良かった」

和の母「でも、和は死んだと思ってるかもしれません」

真緒「え？　どうしてです？　電話があったんじゃ……」

和の母「………」

真緒「家には、家に帰って来なかったんですか？」

和の母「……あの人は家に帰ってきてませんし、電話の事は和に言っていませんから」

真緒「なぜです？　それじゃ阿部高は」

和の母「和に言おうと何度もしました。でも……言えなかった」

和の母「あの子の気持ちを壊したくなかったんです……
それに、それに……」

それ以上は言葉にならず、阿部高の母は泣いていた。
父が生きている事を言えば良いだけだろうと思ってしまうけど、
きっとそう簡単には出来ない思いがあるんだろう。

やり切れない気持ちと、阿部高への気持ちが募る。
あいつの中二病は、こんなにも深い理由があったんだ……

必死に自分を保とうとしてたのは……母を悲しませたくないからだったからだ。
理由を知らなかったとはいえ、酷い事を言ってしまった時もあったんじゃないだろうか。

──そう思うといても立ってもいられない。
今すぐ阿部高の部屋に行って、謝りたい。
そして思い切り抱きしめてやりたいと、そう思わずにはいられなかった……

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