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シナリオ 阿部高ルート 8月2日(月曜日)・その3

 手紙



寮長「阿部高さん、あの」

寮長が阿部高に何かを手渡した。

和「ん? 手紙かい?」

寮長「はい」

和「寮長が手紙なんて珍しいじゃないか」

寮長「いえ、私ではないんです」

和「ん?」

寮長「昨日なんですけど、男の方が阿部高さんに渡してくれと」

和「男だと?」

寮長「は、はい」

和「ふ、良い男だったかい?」

寮長「え、えぇ」

和「ファンからの恋文ってやつか。ふふ、どうだいキミぃ?」

真緒「本当にそうなのか?」

和「それは開けてみないとな。まったくもてる男はつらいぜ」

そう言って手紙を開き始めた。

あの手紙、本当にラブレターなんだろうか。
阿部高をどこかで見た人が一目ぼれ?
メールや携帯じゃなく手紙ってのがどうも古風というか。
……気になるな。

和「お? たしかに男の字だな。どれどれ……」

真緒「何が書いてるんだ?」

和「………」

寮長「阿部高さん?」

笑いながら開いた阿部高だったが、
すぐにその笑みは消え、今は食い入るように手紙を見つめている。

おそらくラブレターではなかったんだろう。

真緒「阿部高、どうした? 何が書いてるんだ?」

和「父さん……」

真緒「え?」

寮長「お父さん?」

和「と、父さんから? どうして??」

真緒「お父さんからなのか?」

コクリと阿部高はうなずいた。
そして、手紙を読んで欲しいとぼくに言った。

和「よ、読むのが、怖いんだ……頼む」

阿部高からすれば、死んでいるはずの父から送られた手紙。
怖いと思うのは自然だ。

真緒「分かった、読む。でもその前に、一つ言っておく事がある」

和「なんだ?」

本当にお父さんからの手紙なら、きっと真実を知る事になる。
でも、もしこれがそうじゃなかったら、きっと阿部高は傷つく。

まだ手紙の内容を見ていない。
だから、そうなのかそうじゃないのか分からないけど、
ぼくが真実を話せる機会はここしかない気がする──

真緒「おまえのお父さんは死んでなんかいないんだ」

和「え……」

寮長「………」

真緒「……読むぞ」





和、父さんだ。
もう何年逢ってないか分からんな。二年?いや、三年か?
思えば小学校の卒業式が最後だったな。

まぁ、久しぶりに顔を出そうと帰って来たんだが、
いざとなると照れくさくてな、ハハ。
それでどうするかって、街をウロウロしてたんだわ。

そん時、ちょうど日本人の少女たちが目に入ってな、
ああ、和もこの子たち位になったんだろうな~つって眺めてたんだわ。

そしたらお前、その子たちが和とか阿部高とか叫んでるわけよ。
まさかと思って話をしたら、やっぱり和の友達でこれから家に行くって聞いてな。
で、ちょうど良いやって手紙を渡したわけだ。
しかしこういう事もあるんだな、ハハ。

まぁ、お前の近況は母さんから電話で事細かく聞いてるからな。
いつでも会ってる気分だけどな。

それと和、家に帰らなくて悪いな。
最初は無我夢中で連絡もしなかったのはほんと悪かった。
今はちょくちょくは電話も手紙も出してるから許してくれ。
そうそう、たまには和も出てくれよ? 父さんのタイミングが悪いだけなのか?

なぁ和、父さんは家に帰らない駄目な父親かもしれんが、
和と母さんを世界一愛してるぞ!
一日も忘れた事なんてない。
この溢れそうな気持ちをだな、登山にぶつけてるんだ!
次はエベレストだ、ははは!


まぁそれはさておいて、真面目に書こう。
和、そろそろ恋をしてる頃か?
良い男を見つけるんだぞ。
母さんに似て美人なお前なら選び放題だ。父さんが保証するさ。
和に振り向かない男がいたら、父さんぶっとばしてやるからな!

……おっと、また癖が出たな。すまない。
とにかく、父さんは元気でやってるから、
お前はお前で悔いのない青春を送りなさい。
素敵な恋をして、素敵な女性になりなさい。

和、お前の幸せを心から祈ってるよ。


父より

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最終更新:2010年07月15日 19:47
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