シナリオ 岸岡ルート 7月28日(木曜日)・その4
若女将
真緒「ただいまー」
芽衣子「あ!」
戻るやいなや、岸岡の抱擁。
まるで新婚みたいだ──って、変な事考えちゃいけないって。
真緒「ん、留守番ご苦労様」
芽衣子「………」
真緒(んー、大分良くなってきたと思ったけど)
真緒(まだちょっと不安だな)
真緒「岸岡、大丈夫か?」
芽衣子「あ……はい」
真緒「ん、大丈夫かな」
芽衣子「……もう帰ってこないんじゃないかって」
真緒「ぼくが?」
芽衣子「……はい」
芽衣子「だから、帰ってきてくれて嬉しいのです」
真緒「心配しなくてもそんな事しないよ。約束する」
芽衣子「本当ですか?」
真緒「ああ」
芽衣子「……嬉しい」
真緒「………」
??「お客様、よろしいでしょうか?」
妙に艶のある声が聞こえた。
夕食を運びにきた仲居さんだろうか。
真緒「あ、もう夕食かな」
芽衣子「はい」
真緒「ええ、大丈夫ですよ」
仲居「失礼致します」
着物姿の仲居さんが扉を開ける。
正座したまま両手で扉をあける仕草は凛としていて、つい見とれてしまう。
それにこの仲居さんがまた若い。
ぼくよりも少し上位だろうに、どうしてこうも色気があるんだろう。
芽衣子「………」
仲居「本日はようこそ当旅館へ。
女将に代わりまして、若女将がご挨拶させていただきます」
真緒「あ、ご丁寧にどうも……」
真緒(仲居さんじゃなかったのか)
真緒(しかし若女将……ゴクリ)
芽衣子「………」
若女将「それでは、料理の方を運ばせていただきます」
真緒「は、はい!」
若女将の後ろにいた仲居さんが部屋に入り、
慣れた動きで机の上に次々と置いていく。
──あっという間に用意が終わった。
真緒「おお、これは凄い」
見るからに美味しそうな数々の料理。
刺身から豆腐から、よく分からないものまでたくさんだ。
若女将「お料理のご説明はどう致しましょうか?」
真緒「あ、説明ですか」
若女将「はい」
芽衣子「………」
早く食べたいけど、この若女将さんも見ていたい。
ま、まぁ、料理の説明くらいならそんなにかからないだろうしな。
せっかくだから……
真緒「それじゃ」
芽衣子「お断りする」
真緒「え?」
芽衣子「料理の説明はいらない。早々に出ていってもらおう」
若女将「あ、はい……申し訳ありません」
真緒「岸岡?」
若女将「それでは、ごゆっくり」
顔を曇らせたまま若女将が出て行く。
あんな断り方されたらそうなるのは当然だ。
真緒「岸岡、あんな言い方しなくても」
芽衣子「………」
真緒「料理の説明くらい聞いても良かったんじゃないか?」
芽衣子「……あの女が悪いのです」
真緒「悪いって、さっきの若女将が?」
芽衣子「真緒様にいやらしい視線をずっと送っておりました」
真緒「いや、そんな事はないと」
芽衣子「真緒様がその誘惑にかかりそうになっていましたから、
私は食い止めたのです」
真緒「う……」
芽衣子「真緒様、私以外の女性とは話さないで下さい」
真緒「な、何言ってるんだ」
芽衣子「……だめですか?」
真緒「駄目も何も、そんな事出来るわけないって」
芽衣子「……不安なのです」
真緒「不安?」
芽衣子「はい……」
真緒「ぼくが女性と話すのが?」
芽衣子「はい……真緒様が取られてしまうって、
芽衣子から離れていくんじゃないかって……」
真緒「取られるってそんな」
芽衣子「………」
何て答えればいいのか分からないけど、岸岡は別に本気で言っているわけじゃないと思う。
いくらなんでもそんな事無理だって、ちゃんと分かってるはずだ。
だからこれは、軽い嫉妬だと思う。
真緒「大丈夫だって、誰にも取られたりしないよ。
ぼくはもてないしな」
芽衣子「そんなことありません! 真緒様は魅力的な男性です!」
真緒「そう言ってくれるのは岸岡くらいだよ。
だから心配しなくても大丈夫」
芽衣子「私、だけ」
真緒「そ、それに離れもしないって。
学園も寮も一緒なのにさ、離れられる訳ないだろ」
芽衣子「は、はい」
芽衣子「そうですね……私と真緒様は前世からずっと一緒でしたから」
芽衣子「ふふ、二人は一心同体。魔王様と冥界の騎士は二人で一人、ふふ」
真緒「………」
芽衣子「これしきのことで二人の絆が消えるなどありえないと、そう仰りたいのですよね?」
真緒「あ、ああ……」
芽衣子「………」
芽衣子「真緒様ぁ……」
真緒(中二病復活、か。嬉しいやら悲しいやら……)
最終更新:2010年07月17日 00:36